35話 困惑2
困惑するユベールはハァ────…… と大きなため息をつくと。
自分の膝に座る私の肩にコトンッ…… と顎をのせた。
「パスカルが素直に私の言うことを聞き、誘惑をやめないのはわかっていたけど。シャルロット嬢まですっかりその気になってしまって……」
きっとユベールは何度もシャルロットを説得したのだろう。疲れた顔でガックリと落ちこんでいる。
「ああ……」
(私が撒いたエサに喰いついて、シャルロットは放す気がないのだわ)
シャルロットをそそのかした私は、ユベールの落ち込む姿にチクチクと罪悪感で胸が痛む。
私としては──
シャルロットを誘惑しようとしたパスカル卿が、誰か(お母様とか)に『男色家だからやめろと』と注意されたときに。少しだけ恥ずかしい思いをすれば良いと。
それぐらいのささやかな復讐のつもりだった。
「シャルロットはパスカル卿が男色家だと、知っているのかしら?」
「本人に確認しようとしたけど。私と彼女の関係はあまり良くないから、聞く耳をもたなくて」
シャルロットと初対面の時からつらぬいてきたユベールの塩対応が。
こんなところで悪影響をおよぼしていたらしい。
「お母様は? シャルロットを止めなかったの?」
「それが、義母上にも警告しようとしたけど。パスカルの実家、コンブルー公爵家と縁ができるなら良いと言われてしまってね」
「お母様がそんなことを⁉」
「うん。確かに政略的に言えば、相手はコンブルー公爵家だから悪くはないけど」
「でも、その相手が本物の男色家のパスカル卿では……」
「それも筋金入りの放蕩者だ」
ユベールを男色家だと思い込み、お母様は私との結婚を最後まで反対していたのに。
お母様は家柄で差別して。
公爵家出身のパスカル卿には、子爵家当主のユベールとは正反対の反応をしめした。
お母様はなんて浅はかな人なのだろう。
「お母様は娘の幸せなど、まったく考えてはいない人なのね。溺愛しているシャルロットにこんなことをするなんて」
ここまでひどいとは知らなかった。落胆をとおりこして呆れてしまう。
口には出さないが私と同じように思っているユベールは、心底困ったという顔でポリポリと頭をかいた。
「あの、ユベール……? 本当にごめんなさい」
「いや、悪いのは私だよ。パスカルのような悪い虫を引き寄せたのも、私が原因だから」
「いえ、違うの。お母様のことだけではなくて…… 私、あなたに言ってないことがあるの」
「んん? 言ってないこと?」
「シャルロットにとても卑劣なことをしたの」
「何をしたんだい?」
“怒らないから話してごらん” ……と優しい笑顔をうかべるユベールに、ますます私の罪悪感は強くなる。
「実はね…… その…… シャルロットがパスカル卿の誘惑を受け入れたのは、私のせいだと思うの」
「おや……?」
オリヴェ男爵邸で開かれた音楽会で、シャルロットに侮辱され激怒した私が衝動的にそそのかしたと。
ユベールに包み隠さず告白した。




