33話 パスカル卿の思惑
私はシャルロット嬢の隣からチラチラと視線をむけてくるパスカルを、人の気配の無いテラスにつれ出した。
「どういうつもりだ、パスカル!」
「どういうとは?」
「私の妻の妹に何をする気だ?」
「ふふっ…… “何を”と言われてもね。シャルロット嬢が先に僕を誘惑したんだ」
私よりも背が低いパスカルはニヤニヤと笑い、上目づかいで私を見つめる。こうして私に相手をしてもらうのが嬉しいと言いたげに。
「……っ」
(クソッ! 忘れていた。パスカルは私を怒らせる天才だった。挑発にのらないよう冷静でいないと)
思いっきり殴り飛ばしてしまいそうだ。
「ユベール…… 君の結婚を僕が邪魔したわけではないから、別にかまわないだろう?」
私とデルフィーヌが結婚する前。パスカルが邪魔をしてトラブルにならないよう、パスカルの実家のコンブルー公爵家に注意を促しておいた。
「パスカル、いいかげんに大人になれ。私たちはもう十代のころとは違うんだ」
「そうさ、ユベール。君のいうとおり僕たちは大人だ。君も結婚したし、僕もそろそろ結婚したいと思っただけだよ」
「女性を愛せない男色家のお前が、本気で言っているのか?」
パスカルは女性を愛せないが容姿は良く。
放蕩者でならした経験から、私よりもずっと女性のあつかいが上手い。
そんなパスカルは私とは違い、女性たちとも遊んでいる印象が強く。男色家だと忘れている人たちは多い。
「君が父上に僕の悪口を言ったせいで、こんなことになったんだ。悪いのは君自身だよ、ユベール」
「悪口だと? 昔、お前にされたことを、またされそうだとコンブルー公爵に話しただけだ」
コンブルー公爵はユベールの話を聞き。
自分の息子パスカルが問題をおこさないよう、圧力をかけた。
パスカルの顔からニヤニヤ笑いが消え、珍しく怒鳴り声をあげた。
「僕は父上に援助金を減らされ、相続する予定だった土地の権利まで取り上げられた。ぜんぶユベール、君のせいだ!」
パスカルは今まで実家からの援助で遊んで暮らしていた。
それが私の告げ口のせいで、生活ができるだけの援助金しかもらえず。遊ぶ金に困るようになったのだ。
「何もかも自業自得だろう? 私のせいにするな。お前の欲望に他人を巻き込むのはやめろ」
(お前のせいで私が今までどれだけ屈辱を味わったと思っているんだ⁉)
私も怒鳴りかえしたい気持ちをおさえて、なるべく冷静に答えた。
「僕の欲望? 違うね。シャルロット嬢は芸術家の僕と結婚したいそうだ。だから彼女の欲望を僕がかなえてあげるだけだよ」
「今まで女性と結婚することなど、考えたことも無いくせにか?」
「これでユベールと親戚になれるね。僕も君みたいに裕福な女性と結婚できて嬉しいよ」
「⁉」
(“裕福な女性” ……もしかしてそれが目的か? パスカルは遊ぶ金が欲しくて、自分に纏わりつくシャルロット嬢に目をつけたのか?)
シャルロットと結婚すれば、裕福なロンスヴォー伯爵家が手に入ると。
恐らくパスカルはそう考えたのだ。




