32話 不可解な夜会
かわいらしく拗ねる妻を屋敷に残し、一人で夜会へ来てみると…… とんでもない光景が私の目に飛び込んできた。
あのパスカルが私の義妹シャルロット嬢をエスコートする姿だった。
「いったい…… 何がどうなっているんだ⁉」
(パスカルが何か良からぬことを、企んでいるのだけはわかるが。義母上は何をやっているんだ? パスカルのような男を、大切な娘に近寄らせるなんて!)
友人の貴婦人たちとにぎやかに話す義母上を見つけて、あいさつがてら注意を促すことにした。
「今夜の義母上は、とびきり生き生きとして輝いておられますね。私にはとてもまぶしく、お声をかけるのに躊躇しました」
“友人たちに娘の自慢話を夢中でする義母上に、思わず私は引いてしまい、声をかけるのに躊躇した” ……という意味を込めた。
たぶん母上には皮肉は通じないけど。
「まぁ、ユベール卿!」
内心ではわたしのことを嫌っているが。
義母上は友人たちの前で、そんな感情は綺麗に隠してニッコリと笑う。
「今夜はお一人ですか? デルフィーヌは?」
妻のことをたずねられ、私は礼儀正しく義母上の手をとりキスをしてから答えた。
「先日、我が家に来客がありまして。それ以来、妻はそのかたのお相手で忙しく…… 夜会は欠席しました」
“来客” ……とは、デルフィーヌに宿った私たちの子供のことだ。
「あら、そうでしたの」
たいして興味がなさそうに義母上は返事をした。
「それで義母上、シャルロット嬢がパスカル卿にエスコートされていましたが?」
(あんな男に娘をエスコートさせて、あなたは正気ですか?)
義母上は唇を扇で隠し、意地悪そう目を細める。
「ええ。コンブルー公爵家のかたに、私の娘のエスコートをしていただけるなんて。とても光栄なことですわ」
思わず私は聞き返した。
「……それで、本当によろしいのですか?」
(本気で言っているのか? パスカルも男色家だとウワサされる男なのに⁉)
それも単なるウワサではなく、パスカルは本物の男色家だ。私とは違う。
(まさかとは思うが、義母上はパスカルが男色家だと知らないのか? いや、虚栄心の強いこの女性にそれは無いだろう)
義母の真意をつかみかねてジッと顔を見つめていると。義母は満足そうに笑いサラリと言った。
「コンブルー公爵家と縁ができるなんて、本当に嬉しいことだと思いませんか?」
思わず私は目を剥いた。
「………ですが義母上」
(マズイことになった! この人は娘を止めるどころか、本気で娘をパスカルに嫁がせるつもりだ)
つまり義母上は私のような平凡な子爵家ではなく。
相手は由緒あるコンブルー公爵家だから、文句はないと言いたいのだ。
確かに政略的に考えれば悪くないかもしれないが。
シャルロット嬢の幸せを考えれば、パスカルは絶対に選んではいけない最悪な相手だ。
性根の腐ったパスカルに私が何をされたかを話せば、義母上を説得できるかと悩んでいると。
話題の本人たちがやってきた。
「やぁ! ユベールじゃないか。こんなところで会えるとは思わなかったよ」
「ユベールお義兄様」
嬉しそうに笑うシャルロット嬢と、ニヤニヤと嫌な笑みをうかべるパスカルの前で。
私は顔を強張らせた。
「パスカル…… それにシャルロット嬢」
「うふふっ…… ねぇお義兄様、お姉様はどちらにいらっしゃるの?」
「それがデルフィーヌはお客様のお相手でいそがしいらしいの。会えなくて残念ね」
私のかわりに義母上がシャルロット嬢に答えた。
「まぁ、今夜はお姉様に会いたかったのに! ねぇパスカル卿?」
「本当に残念だね」
チラチラと私を気にするパスカルに、鳥肌がたつほど嫌悪感を感じた。
(義母上はこんなに不誠実な男を、本気で伯爵家に招き入れるつもりなのか⁉)




