30話 贈り物
結婚して数ヶ月後。私はひどく体調をくずし、医師の診察を受けた。
「おめでとうございます。奥様は妊娠しておられます」
「……まぁ! 私が妊娠?」
手でふれると私のお腹はまだ平らだけど。
新しい命が宿っているのかと思うと、愛おしさが込みあげてきた。
私とユベールに新たな家族ができるのだ。
医師から聞いた診察結果を、執務室でやきもきと待っていたユベールに報告すると。
ユベールは跪いて私の手を取り、驚愕の表情を浮かべた。
「こんなに…… こんなに幸せて良いのかな? 怖いぐらい幸せすぎて……」
「ユベール……」
「デルフィーヌ。私はもしかして一生分の幸運を、使い果たしてしまってないか不安だよ」
自分自身の失敗ではなく、他人の犯した無責任なあやまちのせいで。
学園を卒業したばかりのユベールは、いくつもの不運と戦ってきた。
それでもユベールはモンパトワル子爵家や領民のために、歯を食いしばり苦労に苦労を重ねてここまで戦い抜いた。
自分の幸せなどは全部後まわしにして、他人のあやまちの尻拭いをして来たのだ。
そろそろユベールが幸せになっても、女神様も怒らないはず。
「まぁ…… ユベール!」
私もユベールと同じように執務室の絨毯の上に跪き、視線の高さ合わせた。
「君と出会えただけでも、私はじゅうぶん幸せなのに……」
「ねぇユベール。子供は女神様からの贈り物だと言うでしょう?」
「うん」
「だから安心して、私たちの赤ちゃんを受け取りましょう」
「フィーヌ……」
ユベールの逞しくて温かい身体を、思いっきり抱きしめた。
この大きな喜びを、ユベールが素直に受け入れられない気持ちが痛いほど理解できて。
私の目から涙があふれる。
「フィーヌ、嬉しいよ…… 本当に嬉しいよ」
「ええ、私も嬉しいわ。私たちに家族ができるのね」
「ああ、そうだよ。家族ができるんだ!」
「ふふふっ……」
「君は毎日、私に幸せを与えてくれると知っているかな?」
「毎日? 時々ではなくて?」
「うん。毎日だよ」
ユベールの広い背中をなでながら、私は揶揄うようにたずねた。
「知らなかったわ」
「君と毎朝、目覚める時…… 君と話ながら楽しい食事をとる時…… それに私の腕の中で君が嬉しそうに笑う時…… 私は君がいるだけで、ずっと幸せなんだ」
ユベールの声がかすれている。
抱き合う私にユベールの表情は見えないけれど。もしかすると、私と一緒に夫も嬉し涙を流しているのかもしれない。
「あなたが幸せで嬉しいわ。ユベール、あなたと出会えて私も幸せよ」
「ありがとう、フィーヌ…… 本当にありがとう……」




