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妹にだまされ、私を無視する婚約者をすてることにした  作者: みみぢあん


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25話 新婚夫婦の晩餐


 モンパトワル子爵家の大きな収入源でもある、異国の果物の収穫時期になり。

 夫のユベールは毎日、領地の果樹園をまわっている。


 そんな忙しい夫のために。

 屋敷で執務を手伝いながら留守番をしていた私は、晩餐(ばんさん)の席で昼間来た訪問者のことを報告した。



「昼間、遊びに来たお母様に嫌味を言われてしまったわ」

「義母上に? 今度は何を言われたんだい?」


 結婚する前からずっと私は、お母様にクドクドと嫌味を言われ続けているから。めずらしいことではないけど。 


「とにかくお母様はここ最近の両親に対する、従順とはいえない私の態度が気にいらないみたいなの」


 学園の卒業を待たずに私が結婚して、お母様の自慢の種をつぶしたことや。 

 男色家のウワサがあるユベールを夫に選び、お母様は友人に陰で笑われていること。

 私に執着したセルジュが、結婚式の日に騒ぎを起こしたことなど。


 今のお母様は私に盛りだくさんの不満を持っている。


「フィーヌ……」

「でも、お母様の嫌味はいつものことだから。私は平気よユベール。本当に大丈夫」

「義母上が相手だから、訪問を断れないしなぁ……」


 ユベールの眉間にしわが寄り、綺麗なアメジスト色の瞳に私への気づかいがうかぶ。

 私はユベールに心配をかけないよう、ニッコリと笑って返す。


「今はお母様の嫌味は多めだけど。でも結婚する前もこんな感じだったし」 

「義父上から義母上に、少し注意してもらったほうが良いかもしれないね」


「そうね……」

(お父様は家庭内のゴタゴタとした面倒ごとには、知らないフリをするから。たぶん言っても無駄だと思うけど…… このことはユベールには黙っておこう)


 実の親のそんな無責任な態度が、人として恥かしいから…… 愛する人に知られたくないけど。


 ──でも、もしかすると。

 血縁者の私たちの言葉には無関心なお父様でも。

 社会的に自立しているユベールの言葉なら、少しは耳を傾けるかもしれない。



「私にはこんなふうに愚痴を聞いてくれるユベールがいる。だから悲しくもないし、傷ついてもいないわ。すごく幸せよ?」


 私が強がっているように見えたのか。ユベールは眉間に寄せたしわを深くして、腕組みをする。


「やっぱり義父上に注意してもらおう」

「ユベール、そんなに気にしないで」

「いや。新婚夫婦の幸せに水を差すような態度は、いくら義母上でも気にいらない」


 私を心配してユベールの魅力的な笑顔が消え、険しい表情にかわってしまったから。私はあわてて話題を変えた。


「そういえばユベール。私たちには直接、関係はない話だけれど……」

「んん?」


「私たちがトレザン侯爵家の謝罪を受け入れたから、セルジュの不法侵入の件はあれで終わりだと思っていたでしょう?」


「また愚か者の話か?」

「ええ。あれからまだ続きがあったの」


 ユベールがすごく嫌そうな顔をした。


「……それで、何があったんだい?」


「問題をおこしたセルジュのことを重く受けとめたトレザン侯爵様が、危機感を持ったらしくて」

「それはまぁ、当然だな」


「ええ。それでトレザン侯爵様は共同事業をとおして友好的な関係を築いている。私の実家ロンスヴォー伯爵家にセルジュを婿入りさせるのは危ないと、縁談を白紙にもどしたそうよ」


「縁談を白紙? シャルロット嬢との政略結婚の⁉」


 私はコクリとうなずいた。


「トレザン侯爵様は妥協を許さずきびしい目で見て。将来、セルジュが共同事業の中心になることに不安を感じたのだと思う」


 シャルロットと結婚すれば、将来ロンスヴォー伯爵家の当主になるのはセルジュのはずだった。


「なるほど。確かに侯爵の判断は正しい」


「私が思っていたよりも、セルジュのことが大ごとになっていて驚いたわ」

(でも、思い返してみると…… トレザン侯爵様は私の両親に比べて、誰に対しても公平な人だから。きっと息子が相手でも家門のために、厳しく対処したのね)


「祝賀パーティーの前に私とやり合った時の感触だと。セルジュはかなり危ないヤツに見えたからね」


「……」

(確かにユベールがいうとおり、あの時のセルジュは心が病んでいるように見えたわ。本当に気持ち悪かった)


 長い間、好きだった初恋の人だから。あんなセルジュは見たくなかった。


「んん! ……ちょっと待てよ。それだとシャルロット嬢は結婚相手を見つけるための、婚活が必要になるのか?」


「ええ、そうなの。それでお母様は増々機嫌が悪くなって……」

「まったく…… 義母上の君に対する態度は、理不尽(りふじん)すぎて納得できないな」


 アメジスト色の瞳をするどくして、ユベールは怒りをあらわにした。


「しかたないの。お母様は妹を溺愛しているから」

「こんなの、単なる八つ当たりじゃないか!」


 お母様の態度は理不尽(りふじん)だけど。こうして私の代わりに怒ってくれる、ユベールがそばにいてくれるから。


 だから私はお母様に八つ当たりをされても、今は悔しさを感じない。


「でもね…… 今は結婚してロンスヴォー伯爵家から離れられたから、私はそれだけでじゅうぶんよ」


 お母様の愚痴や嫌味を、傷つかずに平気で聞き流せる余裕が今の私にはある。


「フィーヌ、君はもっと欲張っても良いのに」

「ふふふっ…… あなたが私を可愛がってくれるから、じゅうぶんだと言っているのよ?」

「ああ。そういうことなら、もっと可愛がらないと……」


 ユベールは席を立ち、私のところへ来て抱きあげると。そのまま寝室へむかう。

 お母様に八つ当たりをされた私を慰めるために、今夜も夫は情熱的に可愛がってくれるらしい。


 私たちの寝室はそれぞれ一つずつあるけれど。結婚して以来ユベールは、私の寝室で眠っている。


 夫婦別々で眠ったことはない。




 その後、シャルロットとの縁談を白紙に戻されたセルジュは。

 トレザン侯爵様の命令で学園を卒業したら、厳格なことで有名な神学校(全寮制)へ送られることになった。


 そこでみっちり学んだセルジュは神官となり、女神様に仕える道へとすすむ。

 恐らく生涯独身をつらぬくことになるだろう。



 真面目で少し潔癖症の気質があるセルジュには、その方がピッタリかもしれない。





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