24話 新婚
結婚式から数日後。
ユベールはセルジュに警告したとおり、トレザン侯爵家に抗議文を送った。
セルジュは『トレザン侯爵家の力を使えば、アンタなんてすぐにつぶすことができるんだぞ!』
……などと、ユベールを脅していたけど。
息子が起こした騒ぎに対して重く受け止めたトレザン侯爵は、丁寧な謝罪に加えて慰謝料(口止め料)を添えてモンパトワル子爵家に和解を求めてきた。
「トレザン侯爵はあんな息子の親にしては、常識的な人物のようだね」
「ええ。私もそう思うわ」
「それにしても…… トレザン侯爵は自分の息子が不法侵入するほど、フィーヌに執着していたことに気付かなかったらしいな」
モンパトワル子爵邸の執務室で、夫のユベールはあきれ顔でトレザン侯爵家から届いた手紙を読み終えると。
ポイッ! と放り出すように執務机に置く。
「私も手紙を読んで良いかしら?」
「奥様のお心のままに……」
私も手紙を手に取り読み終えると、夫に倣ってポイッ! と机にもどした。
「私との婚約解消をセルジュはあっさり受け入れたのにね」
「訳がわからないな?」
「ええ。婚約を解消する時もセルジュは、私を無視するのをやめなかったのよ?」
「いったい、アイツの頭の中はどうなっているんだろう?」
「結局、最後までセルジュはシャルロットのウソを信じていたみたいだし」
「考えれば考えるほど、セルジュという男は愚かなヤツだな」
夫のユベールはそういうと、私の髪を指先にからめてフニャフニャともてあそぶ。
──ちなみに私は、逞しい夫の膝に座っている。
「ねぇ、ユベール? そろそろあなたの膝からおりても良いかしら?」
「ダメだよ。私たちは新婚だよ?」
「でも……」
「もっと仲良くしないと、私たちは白い結婚をしていると思われてしまうだろう?」
ユベールが男色家だと思い込んでいる私の両親は、完全にそう思っている。
「また使用人に見られたら恥ずかしいわ」
(今朝も見られてすごく恥ずかしかったのに! ううっ……)
「おやおや。私たちは毎朝ベッドで抱き合って起きる姿を、使用人たちに見られているのに?」
「ユベール!」
思い出すとカァ~…… と頬が熱くなる。そんな私を見て夫は面白そうに笑う。
今朝は2人とも裸で目覚めた。その姿をばっちり使用人たちに見られている。
「フィーヌ、昨夜はもっと恥ずかしいことをしたのに。忘れたのかなぁ?」
ユベールの膝に座ったまま、私はあまりの恥ずかしさに手のひらで顔を隠した。
「やっ、やめてユベール! 昼間なのに閨のことを口に出すなんて、はしたないわ」
「ふふふっ…… 私ははしたない君も愛しているよ」
「ユベール!」
ユベールは私の焦げ茶色の髪を一房手に取り、毛先でコチョコチョと熱くなった私の頬や耳をくすぐる。
「君ははしたない私を愛してはくれないのかなぁ? それはとても寂しいなぁ?」
「うううっ~……」
「デルフィーヌ?」
「あ…… 愛しているわ!」
「すごく、私がはしたなくても?」
「愛しているわ、はしたないアナタも!」
結論から言うと、私たちの初夜の儀式はかなり情熱的だった。
この調子だとユベールの男色家疑惑が、晴れるのも時間の問題だろう。
「もう、ユベールの意地悪!」
「君が私に冷たいからいけないんだよ? 新婚なのに」
「私のどこが冷たいと言うの?!」
(あなたの望みをかなえて膝に座っているのに!)
恥かしさが爆発して私は涙目になってしまう。
「はははっ…… ごめんデルフィーヌ。君があんまりかわいいから、つい揶揄いたくなるんだ」
「もう!」
カラカラと明るい笑い声をあげながら、夫は自分の膝の上で真っ赤になった私をギュッ! と抱きしめた。
すごく優しいけど。どうやらユベールはいじめっ子らしい。




