22話 ボタンのかけちがい
僕の気を引くためにデルフィーヌが仕掛けた、かけひきだったはずなのに…… 何かが変だ。
女神を祀る祭壇前に立つ、花嫁姿のデルフィーヌがあまりにも綺麗すぎて。
参列者席にいた僕は、嫉妬で頭がおかしくなりそうだった。
「クソッ! こんなモノを見せつけられるぐらいなら…… もっと早くデルフィーヌを許してやれば良かった。そうすれば他の男と誓いのキスなんてしなくてすんだのに」
(デルフィーヌの唇は僕だけのモノだ! あんな男色家が、僕よりも先にデルフィーヌの唇を奪うなんて許せない!)
僕は指の爪をガチガチと噛みながら、激しい嫉妬と苦痛に耐えた。
「でも…… あの男は男色家だから、デルフィーヌが処女を奪われる心配がないのは幸運かも知れない」
(デルフィーヌもきっと僕以外の男に処女を奪われたくなくて、男色家を選んで結婚したに違いない)
条件だけで言うなら男色家のモンパトワル子爵は理想的だけど。
「チッ! 男色家のクセに……」
思わずイライラして舌打ちをした。
いくら条件が良くても。
僕が気に入らないのはモンパトワル子爵は背が高くて肩幅も広く、胸板は厚くて騎士のような逞しい体格をしていた。
そのうえ子爵の顔は南国の神を模した彫像のように整っていて、僕に劣等感を感じさせる。
男の目から見ても腹が立つほどの美形だ。
結婚式に参列している女性たちが、涎をタラシそうな顔で子爵を貪るように見つめている。
それはデルフィーヌも例外ではなかった。
バラ色に頬をそめ、キラキラと輝く瞳で隣に立つ子爵を見あげていた。
「クソッ! デルフィーヌ…… 他の男をそんな目で見るな!」
(君はそんなに軽い女ではないだろう?)
美しい花嫁姿のデルフィーヌを見るうちに、頭の奥で僕は選択を間違えたのではないかと。
今頃になって、そんな疑問に囚われる。
今までコレはデルフィーヌが僕の気を引くための行為だと、確信していたのに。
その確信が揺らぎ始めたのだ。
もしかすると僕は…… 最初からボタンをかけちがえていたのではないかと。
祝賀パーティーの会場で黙ってデルフィーヌを待っていられなくなり。
僕は使用人の後をつけてデルフィーヌの私室へ入った。
僕が寛大な態度でデルフィーヌが犯した罪を許してやれば、それで長く続いたこの件は決着がつくはずだと。
──そう信じて。
なのに……
気が強くて意地っ張りなデルフィーヌは、素直に僕のいうことを聞かなかった。
最悪にも子爵が部屋に入って来て、話がこじれそうな予感がする。
そのうえ子爵は、我が物顔で僕の目の前でデルフィーヌにキスをした。
「……なっ! やめろよ、デルフィーヌ! そんな奴とキスするなんて!」
怒りを抑えられなくて大声で怒鳴った。
シャルロットの件でケンカをした時でさえ、僕はもっと冷静だったのに。




