20話 デルフィーヌの結婚3
モンパトワル子爵領の神殿で婚姻の儀を終えると。
子爵邸の舞踏室で夕方から朝まで夜通しパーティーが開かれる。
私は子爵夫人の部屋で軽食をとり、パーティー用のドレスに着替えた。
「ありがとう、少しだけ休みたいわ。一人にしてもらえるかしら?」
「はい、奥様」
モンパトワル子爵家の使用人たちが、手早く部屋をかたずけて出て行く姿を見送り。
誰もいなくなると、私はハァ──…… とため息をついた。
「あともう少しだけよ。もう少しだけがんばれば解放されるわ」
私たちが主役の結婚を祝うパーティーだけど、私たちは夜通し参加するつもりはない。
今夜はもう一つ、本当の夫婦になるための初夜の儀式が待っているから。
だから私たちは適当なところで、パーティーを抜け出す予定だ。
「ふふふっ……」
(ドキドキするけど、初夜に不安は無いわ)
昨夜、閨の作法についてお母様から説明された。その時、お母様に憐みの表情で見つめられた。
「ユベール様が男色家ではないと、私は知っているけど。お母様たちは知らないから」
お母様はユベール様の妻となった私は、大切な初夜なのに夫にに触れられることは無いと考えているのだ。
……でもお母様が考えているような、私にとって惨めな初夜にはならないと思う。
思わずクスクスと笑ってしまう。
妹のシャルロットに結婚するまで邪魔をされたくなくて。
ユベール様と話し合い、しばらく誤解を解かずあえて黙っていた。
だから両親もシャルロットもユベール様は男色家だから。いまだに私たちは白い結婚になると思っているのだ。
「それも今日で終わりだわ。ふふっ…… ユベール様が男色家ではないと知ったら、みんなはどんな反応をするかしら?」
そんなことを考えていたら、ふあぁ~… と大きなあくびが出た。
「もう…… くたくただわ」
早朝からずっと準備に追われて忙しかったから。
さすがに疲れていて目を閉じると、私はそのままうつらうつらと居眠りをしてしまう。
カチャッ! と部屋の扉が開く音が聞こえた。その音が妙に大きく響いて、私は目覚めた。
「……っ⁉」
私が目を開くと驚いたことに、扉の前にはセルジュが暗い表情で立っていた。
「やぁ、久しぶりだね。デルフィーヌ」
「……っ」
「まさか結婚までするとは思わなかったよ」
セルジュは暗い顔で、ピクッ…… ピクッ…… と頬を痙攣させながら笑う。気持ちの悪い笑顔だ。
ギラギラと瞳を光らせて、セルジュのまわりに不穏な空気がただよっている。
「あなた…… ここに何をしに来たの?」
(嫌な予感がするわ……)
「デルフィーヌ…… いいかげん、意地を張るのはやめてくれよ!」
「意地?」
「こんな結婚をして、君の評判が落ちるばかりじゃないか」
「今さら、何を言っているの? あなたには関係ないでしょう?」
(もしかして…… この人はわざわざ、私に嫌味を言いにきたの?)
「何って、こんな結婚までして。少しやり過ぎだよ君は!」
セルジュは私をバカにするように、やれやれと首を振る。
疲れていた私はセルジュのそんなしぐさが癇にさわり、ムカムカした。
「出て行って! 私は疲れているの。貴重な休憩時間の邪魔をしないで」
「おいおい! 君が意地を張ってこんなことをするから悪いんだぞ」
「意地なんて張っていない」
「だから…… 僕は譲歩して君の話を聞いてやろうとしているのにか?」
「本気で言っているの? 私はあなたと話なんてしたくないわ」
「デルフィーヌ、君のその態度にはいいかげんうんざりしたよ」
顔に貼り付けた不自然な笑顔を、セルジュはようやく引っ込めた。
「出て行って!」
「素直に謝れば良いだけだったのに。君にはがっかりしたよ」
「あなたはまだ、そんなことを言っているの?」
「僕の気を引くために、こんなバカなかけ引きまでして。君はもっと賢い人だと思っていたのに」
「私がなぜアナタの気を引かなければいけないの?」
(さっきから少しも話がかみ合わない。セルジュが何を考えているか、さっぱりだわ!)
「だからそれは、僕ともう一度やり直したくてだろ?」
「……あなた、本当に何を言っているの? 変なことを言わないで」
婚約解消どころか、私は他の男性とさっき結婚したというのに。
「いいかげんにしろ、デルフィーヌ────!!!」
突然、セルジュが大声で怒鳴った。私は驚きビクッ! と身体を強張らせた。
私が自分の思いどおりにならないから、セルジュは癇癪を爆発させたのだ。
「……っ?!」
(こ…… この人はいったい、何なの⁉)
私はセルジュが理解できず困惑した。




