19話 デルフィーヌの結婚2
両親は私が結婚相手に選んだユベール様に不満を持っていた。
でも醜聞まみれの私がこの機会を逃したら、次の相手はあらわれないと知っているから。
一生嫁げず未婚のまま私が伯爵家のお荷物になるよりはマシだと、両親は妥協した。
だから婚約式が終わったあとも何かにつけて……
『もっと探せば良い相手がいたはずだ』 ……とか。
『デルフィーヌは焦りすぎだ』 ……とか。
私は両親にチクチクと嫌味を言われた。
そんな両親に『ユベール様が相手だから、私は幸せになれるの!』と言いたかったけど。
シャルロットの興味を引きたくなくて、口を閉じて言いたいことをグッ…… と我慢した。
婚約が決まると結婚式まで急ピッチで進められ、アッと言う間にその日が来た。
「お互いを良き友人として信頼し。良き理解者として尊敬し。良き伴侶として一生を通じて愛し続けると、女神様の前で誓いますか?」
モンパトワル子爵領にある素朴で可愛らしい神殿の祭壇広間に、若い神官の厳かな声が響き渡る。
「誓います!」
「誓います!」
2人そろって女神様に誓いを立て、婚姻の儀式の締めくくりにユベール様から唇にキスをされた。
「後悔はさせないよ。君を幸せにする、デルフィーヌ……」
ヒソヒソと耳元で囁き。ユベール様はもう1つの誓いを立てて、私の頬に2度目のキスをした。
「私もユベール様……」
私もユベール様にだけ聞こえるように誓いを立てたくて。
広い胸に手を置き思いっきり背のびをして、耳元で囁こうとしたけど…… 背の高いユベール様の耳に私の唇はとどかない。
でも……
「……ん?」
ユベール様は嬉しそうに背中をかがめて、背のびをする私の唇に自分の耳を寄せてくれる。
「ユベール様こそ…… 私が絶対に幸せにしてみせると誓いますわ。楽しみにしていてください!」
ユベール様の耳に2度目の誓いのキスをした。
私たちの結婚式だから。人前でもコレぐらいしても許されるはずだと、今日の私は大胆な気持ちになっていた。
お互いの顔を見合せニコリと笑う。
「きゃっ!」
ユベール様は私をふわりと抱き上げ、唇にもう1度キスをする。
祭壇近くの、妹のシャルロットや従姉妹たちが座る参列者席から……
「まぁ~!」
「きゃっ! ステキ~!」
……と歓声があがった。
「愛しい花嫁をたくさん歩かせて、疲れさせたくないからね」
「まぁ、ユベール様ったら!」
「ふふふっ……」
急ピッチで結婚式まで進められ、私のドレスを新しく注文して仕立てる時間が無かった。
そこでお母様が嫁いで来た時に着ていたウエディングドレスを、リメイクして私も着ることにしたけれど……
このドレス。
お母様が王都の中央神殿(すごく大きい)で結婚式を挙げた時に、見栄えを良くするために作った物だから。
すごく綺麗だけど装飾が多くて、恐ろしく裾が長かった。
リメイクで短くしたのに、それでも長い。
モンパトワル子爵家の参列者席の、一番前に座っていたユベール様の妹アリス様がサッと来て長いドレスの裾を持ち上げた。
私を抱き上げるユベール様の手に、長い裾が邪魔にならないように持たせると…… 「お幸せに!」とほほ笑みアリス様は参列者席に戻った。
ユベール様とアリス様は最初から、私には内緒で抱き上げて神殿を出る計画を立てていたのだろう。
「確かにユベール様のいうとおり。ウエディングドレスの長い裾をひきずりながら、1人で歩くのはすごく大変だったわ」
(見た目は良いけど、重いし疲れる)
そんなドレスを纏った私をユベール様は軽々と抱き上げた。参列者たちのまん中を扉へむかって優雅に歩く。
招待した女性の参列者たちから、ため息まじりの声が私の耳まで届いて来た。
「まぁ…… なんて素敵なのかしら。お似合いの2人ね」
「綺麗だわ…… デルフィーヌもモンパトワル子爵様も!」
「こんなに美男美女のお式は見たことがないわ……」
「本当にうらやましいわ。私も夫に抱き上げて連れ出されたかった」
うらやましそうな女性たちの声を聞き、私は自慢げに美しい夫の顔を見上げた。
「嬉しいわ…… ユベール様」
(一生に一度の結婚式で、お姫様のように抱き上げられて、夫に神殿から連れだされるのは女の子の夢だから)
リメイクを終えて手元に戻ってきた、裾が長くて重いドレスを見た時。そんな淡い夢はあきらめたのに。
私の言葉を聞き美しい夫は、私の心がトロトロに蕩けそうなほど甘い笑みを浮かべる。
「結婚式は花嫁のためのお祭りだから。君を喜ばせるためなら、何だってするよ」
──結婚式から何か月もたった後に、ユベール様本人に聞いた話だけど。
私を抱き上げて神殿から連れした方が良いと。友人のフランク様と結婚した妹のアリス様に、ユベール様は助言されたそうだ。
「私は幸せ者だわ、ユベール様のような素敵な男性にめぐり会えて……」
(さすがだわ、ユベール様! あなたのことがもっと、もっと… 好きになってしまうわ!)
「花嫁が君だからだよ、デルフィーヌ。私は君に夢中なんだ!」
結婚が決まり、打ち合わせで何度か会ってわかったことだけど。
ユベール様はとても気配り上手な男性なのだ。
容姿が美しくて魅力的なだけではなく。
ユベール様の内面には成熟した大人の余裕を感じさせられる。
当たり前のことだけど。私の周囲(学園)にはいなかったタイプの人だ。
私たちに羨望の眼差しをむける参列者たちの中に、どこかよそよそしく居心地が悪そうにしている人たちを見つけた。
元婚約者のセルジュとその家族、トレザン侯爵家の人たちだ。
お父様と共同で事業をすすめ、家族ぐるみの付き合いがあるから参列している。
……けして両家の関係は悪くないと、人々に印象付けるために。
「……っ」
(嫌だわ、セルジュまでいる! どうして彼がいるの? よくも私の結婚式に顔を出す気になったわね。なんて恥知らずかしら?)
トレザン侯爵夫妻はともかく、セルジュだけは欠席してほしかった。
私はセルジュに気づかないフリをして、ユベール様の顔を見上げると…… アメジスト色の瞳と視線が交わる。
不思議なことに美しい夫の顔を見たら、元婚約者のことなど一瞬で頭から消え去った。




