2話 失望
私がシャルロットを虐めていると、セルジュに責めらた翌日。
昼食の時間になり、いつものように食堂へ行くと。
食堂の前の廊下でシャルロットと笑いながら話すセルジュの姿を見つけた。
無邪気そうに笑うシャルロットの顔を見たら嫌な予感でいっぱいになり。
ドクンッ! ……と私の心臓が胸の中ではねた。
「セルジュ……?」
「ああ、デルフィーヌ。僕はシャルロットと昼食をとるから、君は席をはずしてくれ」
私が声をかけたとたん、シャルロットに向けていたセルジュの笑顔が消えた。
不機嫌そうに冷ややかな目で私を見る。
「どういうこと、セルジュ? なぜ私と昼食をとらないの?」
(学園に入学してから、毎日セルジュと昼食を一緒にとっていたのに)
約束していたわけでは無いけれど、婚約者同士ならみんな普通にしていることで。
逆に一緒に食事をしなければ、仲が悪いとウワサされるようになる。
セルジュもそのことを、じゅうぶん理解していたはずなのに……
「セルジュ、どうして?」
「本当にわからないのか? デルフィーヌが一緒だとシャルロットが怖がるからだよ」
「そんな理由で⁉」
(シャルロットが私を怖がるはずがないわ! むしろ私の方がシャルロットがどんな行動に出るか、予想できなくて怖いぐらいなのに)
セルジュの背中にかくれるようにシャルロットがいて、私は妹を睨みつけた。
「君がシャルロットに謝罪するまで。僕はこれ以上、君と話す気はないよ」
「セルジュ…… 私はシャルロットのわがままに付き合う気はないわ」
「……ひどいわお姉様。私がわがままを言っているだなんて!」
弱々しい小さな声で私を責めると、シャルロットはわざとらしく痣に巻いた手首の包帯にふれた。
私と同じ青い瞳とお母様譲りの金色の髪が、妹のシャルロットを気弱で儚げな美少女に見えるよう演出している。
初対面の人にキツイ印象をあたえる私とは真逆の印象を持たれるシャルロットは、そんな自分の容姿を使うのが上手なのだ。
「私はセルジュと話をしているの。あなたは口を出さないで」
「やめろよ、デルフィーヌ。シャルロットにそんな言いかたをするのは!」
カッとしたセルジュの怒鳴り声が周囲にいた学園生たちの興味をひく。廊下を歩いていた女子生徒がパッ! と振りかえった。
「あなたこそ怒鳴らないで、セルジュ」
(なぜ、こんなことになってしまったの?)
私は注目されたのが恥ずかしくて、とっさにセルジュの腕をつかんだ。
「君は勝手にすれば良いさ」
「セルジュ!」
セルジュは自分の腕をつかむ私の手を冷ややかに見下ろし。まるで汚物が触れているとでも言いたげに、乱暴に私の手を振り払う。
こんな冷たい態度を取られるのは初めてで、胸の中がヒヤリとする。
「セルジュ!」
私の手は乱暴にふり払ったのに。シャルロットの手は壊れやすい宝物を扱うように、セルジュはエスコートの腕を丁寧に差し出した。
その瞬間、シャルロットは勝ち誇った目で私を見て笑う。
「僕はシャルロットと昼食をとる約束をしているから…… もう行くよ」
「ねぇ、セルジュお兄様。デルフィーヌお姉様も誘いましょう?」
「デルフィーヌが君に謝ったらね」
セルジュは甘えるように自分の腕に抱きつくシャルロットを見おろし、優しい笑みをうかべて気づかう。
「デルフィーヌお姉様……? セルジュお兄様はこう言っているけど」
シャルロットがジッ…… と私を見つめ、視線で謝罪を要求する。
私は奥歯をギリッと嚙みしめて屈辱にたえた。
「……っ」
(今まで私は何度もこんな状況に追い込まれて、無理矢理シャルロットに謝罪することを両親に強要されたわ。いつも両親の命令に従い、私が折れて謝罪してきたけど……)
でも私と結婚するセルジュの前では、絶対にシャルロットに負けたくなかった。自分を曲げて謝りたくない。
婚約者なら妹ではなく私を信じて欲しいと…… 私は謝罪の強要を断固拒んだ。
「私は謝らなければいけないような、悪いことをしていないわ」
「君がそうやって反省しないなら、僕たちが一緒に昼食をとる日は来ないだろうね」
「……あなたは間違っているのよ、セルジュ」
(完全にだまされているのね、セルジュ)
何を言っても自分が正しいと思っているから、セルジュは私の話に聞く耳を持たない。
「行こうシャルロット。デルフィーヌの相手をしていたら、食事をとる時間がなくなってしまうよ」
「セルジュ!」
(またセルジュは、私を置き去りにしようとするのね。それも私を陥れたシャルロットとともに)
悔しくて涙が出そうだった。
「あなただけは私の味方になってくれると信じていたのに……」
「フンッ! 君が嫉妬してシャルロットを虐めるのをやめたら、いつでも味方になってやるよ」
セルジュは傷ついた私の言葉を鼻で笑った。
悪者の私をとことん傷つけて、セルジュは自分の言葉に従わせたいらしい。
「シャルロットのウソは簡単に信じたくせに……」
「だから僕はシャルロットの腕についた、痛々しい痣を見たんだ。ウソついているのは君のほうだろう?」
「なぜあなたは、本当のことを話している私の言葉を信じないの?」
「いいかげん、自分の罪を認めろよ。デルフィーヌ!」
「嫌よ!」
(なんて惨酷な人なの⁉)
──それから毎日。
私への罰だというようにセルジュはシャルロットと昼食をとるようになった。私が仲よくする2人の姿を見るたびに、傷ついていると知っていて私に見せつけている。
誤解を解こうと私がいくら話しかけても、セルジュ自身が私と話すことをこばみ。顔を合わせても無視される。
私を信じてくれないのは、それだけ私のことを見ていなかったということだ。
幼い頃から信頼関係を築いてきたと思っていたのは、私の勘違いだったとわかった。
妹のウソを簡単に信じるほど、婚約者の私にそれほど興味が無かったのだと思い知り……
何年も大切にしてきたセルジュへの恋心が、無視されるたびに冷めていった。
私は婚約者だけでなく、恋する気持ちまでシャルロットに奪われた。




