14話 求婚
モンパトワル子爵家からロンスヴォー伯爵家に求婚状が届いた。
私は執務室に呼ばれ、お父様にユベール様からの求婚を知らされた。
「まぁ、ユベール様が?」
心の中では大喜びしたけれど。シャルロットの興味を引くことを恐れ、私はグッと興奮をおさえる。
「せっかくの求婚だが、モンパトワル子爵からの求婚は断るつもりだ」
お父様はユベール様に対して、シリルお兄様と同じ反応をした。
「お父様、私はユベール様に嫁ぎたいと思います」
「だが、デルフィーヌ。モンパトワル子爵はだな……」
「ユベール様が“男色家”だという、悪いウワサは聞きました」
「デルフィーヌ、お前は“男色家”がどういう意味か理解して言っているのか?」
「もちろんです」
「それなら、なぜそのような男に嫁ぎたいと思うのだ?」
お父様に渋い顔でたずねられ、私は切実に訴えた。
「シャルロットのせいで私は“妹を虐待した姉”だと社交界で言われています。 お金目当ての人以外に、誰も私を相手にしてくれないからです!」
「デルフィーヌ……」
「ここでユベール様を逃せば私は一生、結婚出来ません!」
「だが彼は妻を幸せに出来る男ではないのだぞ?」
「お父様…… 私は女性として愛されなくても、友情と誠実さがあればじゅうぶんですわ!」
私はユベール様が男色家ではないと知っているけど。
今はこの話を聞いた時のシャルロットの反応が怖いから、黙っておくことにした。
私が惨めそうにしていれば、シャルロットはユベール様を欲しがらないと思うから。
「デルフィーヌ、お前が焦る気持ちもわかるが。この求婚を受ければきっと、後悔することになるぞ?」
「お父様。貴族の結婚は政略結婚がほとんどで、その政略結婚で結ばれた夫婦が相思相愛になるのは稀でしょう?」
「だがデルフィーヌ……」
「外に愛しいかたがいらっしゃるお父様なら、ご理解いただけるかと思いますが?」
(お父様は私が気づいていないと思っているようだけど。こう言えばわかるかしら?)
外に愛人がいるお父様なら、私の考えが理解できるでしょう? ……と仄めかした。
「……っ!」
お父様はギョッ! と目を剥く。
「……ね? お父様?」
(使用人たちがお父様に『また新しい愛人ができたらしい』と話しているのを聞いたことがある)
「デルフィーヌ……」
結婚に愛を求める貴族のほうが少ないと、お父様もわかっているから、私の言いぶんは聞き入れられるはず。
「うううっ…… これ以上、1人ぼっちの孤独には耐えらないわ! お父様、お願いです。ユベール卿に嫁がせて下さい!」
(プライドを曲げて、シャルロットのように恥知らずな演技をしてでも、ユベール様と結婚したいの!)
私はドレスのポケットからハンカチを出して、妹の真似をして憐れに泣くフリをした。
「うううっ……」
「だ…… だが、デルフィーヌ。本当に良いのか?」
「はい。 これ以上、わがままは言いません! お願いです、お父様!」
お父様は困り顔でハァ────… と長いため息をついてから……
「わかった。モンパトワル子爵に求婚を許可しよう」
「ありがとうございます。お父様!」
(ああ、これでようやくシャルロットから解放されるわ)
私はホッ… と胸をなで下ろした。
それから3日後。
ユベール様がロンスヴォー伯爵邸をおとずれ、私に求婚した。




