13話 ユベールの親友2
裕福な平民の友人にすすめられて始めた、珍しい異国の果物の栽培が成功した。
その成功を元に10年かけて、大きな利益が出る事業へと育てあげることが出来た。
おかげで誰もが不可能だと思っていた、父上がギャンブルで作った多額の借金をすべて返すことができた。
資金に余裕ができてそろそろ人生の伴侶が欲しいと。
必要最小限にしていた社交活動を再開することにしたら、そこで思わぬ出会いがあった。
「ロンスヴォー伯爵家のデルフィーヌ嬢?」
「うん。フランクは知っているか?」
フランクは平民出身の商人だけど学園で知り合った友人で、私に異国の果物を見せてくれた恩人でもある。
……そして妹が嫁いだ相手、義理の弟だ。
今日も異国の薬草を『栽培してみないか?』と持って来てくれた。
「その令嬢の名まえなら聞いたことがあるよ。ただ妹の方が伯爵夫妻に溺愛されているらしくて…… 長女のほうは少し影が薄い感じだったけど」
商人という職業柄からフランクは、貴族たちの間でも顔が広く情報通だった。
ロンスヴォー伯爵の右腕と呼ばれるシリル卿と知りあったのも、フランクが紹介してくれたからだ。
「そうか…… なるほど。どこの家でも1番上の子は、そうなるみたいだな」
「ユベールはその令嬢に求婚するつもりなのか?」
「ああ。わたしのが一回りも年上だから、断られる可能性のほうが大きいが……」
(そのうえ過去に醜聞さわぎをおこした傷を持つ身だから。これでデルフィーヌ嬢に求婚を受けてもらえたら奇跡だ)
思わず苦笑した。
「いや、ユベールそれよりもだな…… 少し前にデルフィーヌ嬢に関する嫌なウワサを聞いた」
「嫌なウワサ?」
「妹に嫉妬して虐待をしたというウワサだよ」
「虐待⁉」
難しい顔で考えこむフランクの顔をまじまじと見つめた。
「うん。でもその理由というのが…… 妹とデルフィーヌ嬢の婚約者が、仲良くしたからだと聞いた」
「それで嫉妬してか? つまりデルフィーヌ嬢は浮気されたのか?」
「いや、浮気されたかはわからないが。虐待騒ぎが学園中に広まり、デルフィーヌ嬢から婚約を解消したということだから」
つまりウワサはウワサでしかなく、真実はわからない。
「う~ん…… 婚約者に嫉妬されるほど、相手の男は婚約者の妹と仲良くしたのなら。男のほうが悪いとしか思えないが…… まぁ当事者にしか、そのへんの事情はわからないか」
「それでユベールは、そのデルフィーヌ嬢がそんなに気に入ったのか?」
「ああ。何というか一緒いて心が躍るような、気が合う女性だった。それに美人なんだ」
「へぇ~? お前が女性を褒めるのは珍しいな」
外見の良さで近寄って来る女性は多いけど。
仲良くなり相手の素性を調べてみると、ほとんどの女性が結婚しているか男遊びが派手な未亡人だった。
愛人が欲しくて声をかけるような。
不貞を高貴な夫人の権利だと思うような類の人種ばかりで、うんざりしていた。
「はははっ! 彼女は打てば響くように、私の話に返事を返してくれる聡明さがあった。それに長女だからか浮ついた軽薄さもないし。思慮深いところに好感を持てた」
なんとなく惚気ているような気分になり、頬が熱くなる。
「なるほどなぁ…… そういう思慮深い女性が妹を虐待したとは思えないが」
「ああ。何か複雑な理由があるはずだ」
「そうだな。学園の未熟者たちの無責任なウワサだから、疑わずに信じるのは間違いだと思うよ」
「うん」
フランクは私の“男色家”というウワサが、すべてパスカルの一方的な好意が作ったウソだと知る数少ない味方だ。
私と同じで醜聞が真実だと簡単に信じたりしない。
「また求婚が失敗して私が結婚できなかったら、お前の下の息子を養子にくれないか?」
「おいおい、そういう話は早すぎるだろう? 下の息子は先月産まれたばかりだぞ」
「はははっ…… 産まれたての甥っこが可愛すぎたな。欲が出た」
「まだ、あきらめるなユベール。下品な言いかただが相手は婚約を解消したばかりの令嬢なら、ちょうど狙い目じゃないか」
「まぁ…… オレのような醜聞持ちの相手をしてくれるぐらいだしな」
「バカ野郎、おまえみたいな美男子が卑屈になるな! いっきにデルフィーヌ嬢をタラシ込むぐらいの気概を持てよ!」
「はははっ…… わかったよフランク」
一度目の婚約解消は私にパスカルがつきまとい、婚約者が私たちの関係を疑っていたこともあり。
相手の女性のことを考えてこちらから断った。ちょうど父上が作った借金があると知ったころだ。
でも二度目の婚約解消は、相手側が借金の返済資金を援助してくれるという話でまとまっていたのに。
パスカルが醜聞をネタに婚約者に脅しをかけて、信頼を傷つけて破談となった。
あの頃はちょうど妹とフランクの結婚を間近にひかえていたから、騒ぎを大きくしたくなくて仕方なく受け入れた。
「先にパスカルを何とかしなければいけないな……」




