12話 ユベール様の親友
少しおくれてユベール様のあとを追いかけると、暗い庭園の奥から言い争う声が聞こえて来て……
私はシリルお兄様と一緒に、バラがからまる柵の陰に身をかくした。
「まだ浅はかな希望を持っているのか? ユベール」
「いい加減にしろ、パスカル!」
「もっと早く僕のモノになっていれば借金だってすぐに返せて、君は婚約破棄もされなかったのになぁ……」
「あの頃はお前に付きまとわれて、誰かと結婚なんてできなかったさ。女性に興味が無く家を継ぐ責任も無い3男のお前には、守りたいモノが何もなくてかわいそうだな!」
ユベール様の怒鳴り声が庭園中にひびく。
だけど言い争う相手パスカル卿は、ユベール様の怒りさえ弄ぶように甘い声で流した。
「おやおや…… ユベールは本当に優しいな。僕に同情してくれるなんて」
「お前にだって失ったら困るモノや人がいるはずだ! 今の生活を大切にしろパスカル!」
パスカル卿はユベール様にまるで相手をしてもらえるのが嬉しいと言わんばかりに、怒鳴られて喜んでいるようすだ。
本当にパスカル卿と言う人は質が悪いらしい。そんな人格の人間に好かれたユベール様が気の毒だった。
「ふふふっ…… お前の婚約者たちはずいぶん薄情だったからな。僕が少し揺さぶってやったら、尻尾を巻いて逃げ出して……」
「お前は私の婚約者を2人も傷つけた。いい加減それで満足して付きまとうのはやめろ!」
「嫌だね!」
「私は今も昔もお前が嫌いだ。お前なんかを少しの間でも、友人だと思っていた自分が恨めしい」
「無駄な努力はやめておけ、ユベール。あんな小娘を相手にするなんて…… 情けないことだ」
「少なくとも彼女はお前のように私が恋人だとウソの醜聞を流して、陥れるような卑怯なことはしないさ」
「ウソの醜聞とは…… ずいぶん酷いことを言う。僕はただ友人たちに、ユベールと僕は“お互いに特別な感情を持っている”と話しただけさ」
「お前の愛情は受け取れないとお前を憐れみ、悩んでいた私は未熟な子供だった。自分の身近にこんな悪意が存在するとは、想像もしていなかった」
話を盗み聞きして、ユベール様自身は男色家ではないとわかった。
学園に在学中。
男色家のパスカル卿の愛に答えられなくて、ユベール様は同情した。
その優しさに付け込まれて罠にはまり、ユベール様は裏切られたのがウワサの真相だ。
私の肩に置いていたシリルお兄様の手に、ギュッ…… と力が入る。私と同じく怒りを感じているのだろう。
「卑怯な人……」
「そうだな」
ポツリとつぶやいた私の言葉に、シリルお兄様も同意して囁き返してきた。
自分の欲望のためにユベール様の幸せを壊すなんて……
パスカル卿は妹のシャルロットにそっくりだった。




