第二百九十六話 足元から竜が上がる。
2048年三月 某県某市皇邸寝室。
ガチャ
「やあこんばんは…………?
龍……?」
入ってくるなり真っ青な顔をしてベッドに座る龍が見えた。
「……パパ……
一体この話、どうなっちゃうの……?」
あ、なるほど。
そういう事か。
昨日はウソだの何だの言ってた。
けど、今日一日考えてたら怖くなってきたって所かな。
「フフフ……
ようやく龍にもこの時の僕の状況がヤバいって事を解ってくれたようだね。
昨日は僕の右脚が吹き飛んだ所からだったよね?
利き足を失くした僕。
立てた起死回生の策は簡単に崩れ、しかも絶招圏の力ももはや届かない。
絶体に絶命する状況。
まさに絶体絶命ってこういう時の事を言うんだなってつくづく思うよ」
本当にこれ。
絶体絶命。
この時の状況を言葉にするならこれ以外、思い付かない。
「……パパって多分、動けないよね……?
動けないパパにモナルカが興味を持つの……?」
……龍は鋭いなぁ。
そう、絶招圏の力も見切り、満足に動けない僕にモナルカが興味を持つ訳が無い。
……だから……
あんな事になっちゃうんだよなあ……
「そこがどうなるかは今日のお話の中でって事だね」
この時の後悔は凄まじかったなあ……
何十年経っても忘れられない。
まあ、でも龍にはどうなるかを敢えてここで言う必要は無い。
「う……
うん、解った」
「じゃあ、始めて行くよ」
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埼玉県新座市新塚 陸上自衛隊朝霞訓練所付近。
「名を弧状衝撃波面って言ってね……
これも内蔵コロナと同じで、どう発動するかよく解っていないんだよ……」
……弧状衝撃波面……?
それが……
それが僕の……
右脚を持っていったのか!?
折れた?
千切れた?
いいや、そんなものじゃない。
本当に。
文字通り。
僕の右脚が吹き飛んだんだ。
!?
「グッ……
グアアアアアアアアッッッッッ!!」
うつ伏せに倒れた僕は絶叫を上げる。
右太腿の入口辺りから身を焦がす様な激痛が全身に巡る。
痛みの乱渦が体内の痛覚神経をズタズタに引き裂く様な感覚。
……解った。
これはおそらく絶招圏の急速治癒の弊害。
あくまで僕が可能なのは急速治癒であって急速再生じゃない。
つまり切断面。
右太腿の付け根辺りの切断面だけ修復。
多分、完了しているのは止血ぐらい。
再生までは行えない。
痛覚も活きているって事だ。
ズキンズキンズキン
これは……
キツい……
ズッキュンズッキュンズッキュンズッキュン
激痛が大きな鼓動を立てながら、全身を巡る。
痛みで思考もおぼつかない。
酷く動揺している。
凪のテンションなんか何処かに吹き飛んでしまった。
そんな僕を尻目に言葉を重ねるモナルカ。
「大体、内蔵コロナが発動したら、一緒に発動するんだけど……
タイミングにバラつきがあるんだよ……
弧状衝撃波面はリュージの混合魔力と似た性質を持っていてね……
我に降りかかる、あらゆる攻撃を相手に返すんだ……」
「じゃ……
じゃあ、僕の……
右脚は……」
僕は痛みに身体を縛られている中、必死に上体を起こし、捻り出すように尋ねる。
「ん?
跡形も無く、吹き飛んだに決まってるじゃないか。
でも、別に大したことは無いだろ?
すぐに再生して、立ち上がれよ」
モナルカの言葉に激しく絶望する。
さっきの左腕の時とは訳が違う。
もう無い。
無いんだ、
僕の右脚は。
魔力で縫合治癒も不可能。
繋げる先が無いんだから。
もう、僕は……
二度と……
自分の足で立ち上がる事が出来ない。
突き付けられた残酷な事実が僕を失意の底の底へと叩き落す。
言葉も出ない。
片足を失った状態でモナルカに立ち向かう事なんて出来る訳が無い。
「…………ん?
リュージ、再生しないのか?
さっきも同じような事があったけど……
キミはもしかして身体の再生が出来ないのかい……?」
このモナルカの言葉に返答する事も出来ない。
圧倒的な姿を地に這いながら見上げる事しか出来ない。
ブラフ、ハッタリの類すら口から出て来ない。
いや、出て来ても意味が無い。
そう思えるぐらい僕の心は折れていた。
絶招圏の力を上回り、光速に近い動きで移動する。
これだけでも詰んでいるのに、そこへ来て新スキルも追加。
しかもそれが流体魔力と似た機能だと?
モナルカは降りかかる攻撃を相手に返すと言っていた。
つまり攻撃を反射する機能を持っているという事。
僕の流体魔力より攻撃的、暴力的な性能。
……何だこれ?
これのどこに付け入る隙があるって言うんだ。
完全無欠。
その言葉が相応しい。
こんなの……
適う訳が無い……
何も言わず見上げるだけの僕を見つめていたモナルカ。
不意に顔が急変。
その表情の変化は絶望していた僕の中で諦めの感情を新たに生む事となった。
「何だ……
リュージの事だからまだ何か興の湧くものを見せてくれると思ったのに……
全く興醒めも良い所だ……
本当にもう何も無いなら焼き棄てようか……」
見降ろす目にはまるで感情が乗っていない。
赤い光も無機質。
機械のランプが灯っているよう。
もう……
駄目だ。
ここまでだ。
もう……
どうしようもない。
ここまでのバケモノだとは思っていなかった。
少なくとも絶招圏で何とかなると思っていた。
頭の中に今までの記憶が高速で巡る。
ジャリ……
モナルカが倒れている僕にゆっくりと歩み寄って来る。
微かに聞こえるその足音が焼死への秒読み。
カウントダウンの様に聞こえる。
頭にありありと浮かぶ大きくネガティブなイメージ。
戦意が端からボロボロと崩壊する。
もう何も思い付かないし、思い浮かばない。
それ以前に思考の積み重ねも出来ない。
生き残る為の策を練る気も起きない。
希望は絶たれた。
まさに絶望。
黒の絶望が僕の身体に圧し掛かり、全ての動きを縛る。
真っ黒。
漆黒色の海に沈み掛けたその瞬間。
パンッッッッッッッッ!
モナルカの歩みが止まり、大きな破裂音が響く。
何か影が横切る。
一体何が?
ザシャァァァァァッッ!
暮……
葉……?
僕の眼に映るのは地面を激しく滑って行く暮葉の姿。
右腕付近が白色光に包まれている。
僕はこの光景を目の当たりにして一瞬で悟った。
暮葉が上空から攻撃を仕掛けたんだ。
……けど、弧状衝撃波面は破れず、衝撃は全て……
暮葉に跳ね返ったんだ。
右肩付近で輝いていた白色光は瞬時に駆け下り、あっという間に右腕を再生してしまう。
かなり速い。
ガァァァァァァァァンッッッ!
暮葉がモナルカへ突撃。
けど……
駄目だ……
パパァァァァァァァンッッ!
今度は両拳で攻撃を仕掛けるも、無駄。
モナルカの弧状衝撃波面は突破出来ず、暮葉の両腕を抉り飛ばす。
やめて……
暮葉……
もう、止めてくれ……
暮葉は竜だから解らないんだ……
世の中にはどうにもならない事があるって事を……
万物の霊長なんてもてはやされているけど人間には……
いや、生物には必ず限界がある。
だから人間には諦めるって言う感情が備わったんだ……
もう今のモナルカには地球上の誰も敵わない。
全部無駄。
無意味なんだ。
諦めるしかない。
ないんだよ……
パンッッッッッ!
ドンッッッッ!
パパンッッッッッ!
僕が頭の中で絶望色のネガティブな思考を巡らせている間も暮葉は諦めない。
パンッッッッッ!
ガァンッッッッッッ!
何度も。
パンッッッッッ!
ドンッッッッッッッ!
何度も何度も。
暮葉はモナルカに向かって行く。
「ウウッ……」
僕はその暮葉の姿を見て嗚咽を漏らし、涙を流していた。
その涙は感動や嬉しさから来るものでは無く真逆。
虚しさと痛ましさ。
そしてモナルカに対する恐怖が際立ち、溢れた涙。
何が恐ろしいって、暮葉が全力で横から攻撃を仕掛けているのにまるで暮葉の方を見ていない。
歩みを止めて、目線は僕から外れ、虚空を見つめている。
今のモナルカにとって暮葉の攻撃なんて虫が飛んで来ているぐらいにしか感じないんだ。
その事が恐ろしい。
あまりにも絶望過ぎて涙が止まらない。
もう駄目だ……
駄目なんだよ暮葉……
モナルカには何をやっても無駄なんだ……
僕らはもう殺されるのを待つだけしか出来ないんだ……
ダイナが未だ三つ目の欠片を伝えて来ないのが良い証拠だ。
もう既にモナルカが三つの欠片を集め終えて、世界線の進路が確定しているんだ……
ネガティブな思考は止まらない。
今、考えると暮葉の行動は正しかったと思う。
いや、生物として真っ当だったって感じかな?
希望を捨てず、最後の一瞬まで死に抵抗して、生にしがみついている。
諦める事を知らない。
こう言うのをヒーローって言うんだろうね。
かたや僕はどうだ。
モナルカの力に恐れて、縮こまり、恐怖に縛られて何もしようとしていない。
考える事は悲観的な事ばかり。
諦めと小賢しくその理由を探す事にしか頭を使っていない。
確かにこの段階まで欠片の告知が無かったかも知れない。
けど、それは何もモナルカ側の世界線に確定した証拠にはならない。
大体、モナルカの欠片が何かも知らないのに勝手に集め終わったと断定していた。
要はこれが諦める理由。
僕は諦める理由を探していただけって事。
全く情けないったらありゃしない。
結局、指を咥えて見てるしかしなかった結果……
モナルカに最悪の発想を浮かべる猶予を与える事になってしまう。
事態は不意なモナルカの小さな動きから始まる。
ドンッッッッッッッ!
もう何度目か解らない。
暮葉がモナルカに突撃を仕掛けた。
ビュンッッ
暮葉が右拳を繰り出す。
けど……
パンッッッッッッッッ!
駄目だ……
やはり弧状衝撃波面で阻まれる。
また反動で吹き飛ぶ。
そう思っていた。
けど、違ったんだ。
ガッッッッ!
え……?
一瞬、何が起きたか解らなかった。
暮葉が吹き飛ぶより速く。
モナルカの右手が動き、そのまま暮葉の顔面を掴む。
「何だと思ったらクレハか……」
片手で暮葉の身体を高く掲げるモナルカ。
「ムーッ!
ムーッ!」
掲げられた暮葉は藻掻きながら、荒い息を吐いている。
頬の辺りを掴んでいるせいで、満足に声を出すことが出来ない。
足掻いても全く解けないモナルカの右手。
必死に藻掻く暮葉を無機質な赤い目で見つめるモナルカ。
見上げるその眼には何の感情も感じられない。
振り解こうと足掻く暮葉にただ目線を合わせているだけ。
「パワーが落ちている……
こんなものでは少しも興は湧かないな……
さっきの状態ならまだ少しは沸くかと思ったけど……
期待するだけ無駄か……」
さっきの?
あの暮葉がブチギレて竜に戻りかけた時の事か?
ここでモナルカの表情が微かに変化を見せる。
「……そう言えば……
さっきのクレハ……
あの部分だけ何か印象が違っていたな……」
「フーーッッ!
フゥーーッッ!」
「何故あんな変化があったんだろう……?」
「フゥーーッッ!
フゥーーッッ!」
ゆっくりと俯くモナルカ。
暴れる暮葉なんかまるで無視した動き。
片手で完全に抑え込んでいる。
やがて……
「…………アァ~~……
もしかして……
こう言う事かなァ~~……?」
クルゥ~~……
俯いていたモナルカの顔がゆっくり僕の方に向いた。
ゾクゥゥゥゥゥッッッ!
這いつくばる僕の身体を真横に寒気が奔る。
向いたモナルカの顔。
それは狂喜。
いや、凶喜に溢れている。
狂人が最悪の手段に気付いたような。
何だ!?
何を思い付いたって言うんだ!?
「さっきのクレハ……
タイミングから考えてリュージの腕が千切れて起きたと思うんだァ~~……
なら……
だよ……?
今、ここでクレハを壊せば…………
……リュージも同じようになるんじゃあ無いのかい……?」
!!!?
…………え?
何を……
……言っている……
モナルカは何を言っている!
僕は一瞬、何を言っているか理解出来なかった。
いや、理解したけど解りたくなかったと言うのが正しい。
発言のヤバさは即座に理解出来た。
暮葉を壊す。
例え竜だとしても、今のモナルカなら……
容易い。
ヤバい!
すぐに動いて暮葉を助けないと。
ズリィ……
……けど、動けない。
右脚が無いだけじゃない。
僕は完全に心が折られていた。
這いずってモナルカに近寄る事しか出来ない。
ズリィッ……
クソォッ!
動け!
動け僕の身体!
何で!
何で動かないんだよ!
このままだと暮葉が殺される。
心だけが焦る。
けど、満足に動かない。
今まで数々の強敵と闘って来た。
名児耶杏奈、三条辰砂、呼炎灼、中田宏。
だけど、そんな経験。
何の役にも立たない。
この規格度外視のバケモノを目の前にすると全くの無益。
竜同士の争いに巻き込まれ、四尾と闘りあった事も無意味だった。
そう思えてしまう。
僕の精神は恐怖で。
いや、恐怖よりも畏怖。
得体の知れないモナルカの圧倒的な力で溢れた畏怖が身体を縛る。
どうしても身体の隅々にまでへばり付いた怖気が拭えない。
今、動かないと取り返しのつかない事になるのは解っている。
ズリィッ……
でも、動けない。
這いずることしか出来ない。
この時ほど、自分を不甲斐ないと感じた事は無い。
この時ほど、人間である事に失望した事は無い。
この時ほど、力が欲しいと願った事は無い。
このままだと暮葉が。
暮葉が壊される。
は……
はは……
暮葉は……
竜だ……
傷を負ったとしても立ちどころに治癒できる……
じゃあ重傷を負ったとしても……
最悪、死ぬ事は無いんじゃないか……?
現実逃避。
それ以外の何物でもない。
今のモナルカに人、竜の常識が通用しない事は解っている。
例え竜だとしても楽観できないのも解っている。
自分は今、動けなくて助けられない。
だから竜の生物としての特性に……
縋ったんだ。
希望的観測による最悪の現実逃避。
自分ではどうしようも出来ないから。
「……さて……
そうと決まればさっそく試してみるか……」
ゾクゥゥゥゥゥッッッ!
モナルカが動く!
寒気が更に僕の背筋で暴れ回る。
希望的観測の現実逃避。
そんなもの、目の前の圧倒的な暴力の前では何の足しにもならない。
更に心が焦り出す。
ハッッッ!?
ここで僕の心に一筋の光が差した。
ガレアッッ!?
そうだ!
ガレアがいたじゃないか!
僕の頭の中に浮かぶのは相棒、ガレアの事。
今のガレアならモナルカに対抗出来る!
「ガレアァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッ!!!」
僕は精一杯の力を込めて叫んだ。
かなりの大声。
僕の声を聴いたモナルカも動きを止めた。
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東京都練馬区上空。
竜司たちのいる地点から南方へおよそ4.5キロ地点。
―――行くなよ。
ただ一言の念話。
送り元はダイナ。
―――……何でだよ。
声からしてめちゃくちゃヤベェんじゃねぇのか?
送り先はガレア。
竜司の必死な叫びを耳にして、身体が動こうとしていた。
そこをダイナが制止したのだ。
―――さっきも言っただろ。
これは人間同士のケンカなんだよ。
だからやたらと手ェ出したらマズいんだって。
―――でもよう……
このままほっといたら竜司の奴……
死んじまうんじゃねえのか……?
―――オイ、竜のハナシを聞いてんのか。
この線が一番、後息子が死なねぇラインなんだよ。
後息子とは竜司の事。
ちなみに前息子は兄の豪輝となる。
ダイナはもちろん事態の詳細を把握。
且つ何も竜司に指示を送らないのは今、竜司が進んでいる世界線が一番生存の可能性が高いからである。
―――さっきの話だとアルビノもやられんだろ?
ダイナは知らねぇかも知れねぇけどよ?
竜司の奴、めっちゃくちゃ弱ぇんだぞ。
アルビノとは暮葉の竜の時の名。
ダイナは直後に起きる事も知っている。
竜司にとって激しい後悔と凄まじい自虐と酷い悲痛。
そこに絶対的な孤独が入り混じり、失意と黒い感情の奈落へ突き落される出来事が起きる事を知っている。
―――あぁ、でもしょうがねえだろ?
ここでお前が加わったら、八尾も参戦するんだからよ。
それが一番、最悪だ。
もし、そうなったら戻れねぇ。
最悪の世界線で確定しちまう。
ここで疑問を持たれた読者がおられるかも知れない。
ガレアとの約束を交わした段階で八尾が介入する脅威は去ったのではないかと。
その事を告げたのはダイナだが、これはただ竜司にそう言っただけ。
つまりウソなのだ。
良い風に言えば方便。
こう言っておけば竜司がモナルカに専念できるだろうと考えての事である。
―――そんな事言われてもなあ。
別に俺は敗ける気はねーぞ?
―――そう言うハナシじゃねぇんだよ。
オメーと後息子。
んで八尾と、それを使役してるモナルカが正面からケンカおっぱじめる事になんだぞ?
地球が持つ訳ねぇだろうがよ。
ガレアが好きな人間の食いモンも全部、確実に喰えねぇようになんだぞ。
それでもいいのかよ。
―――ゲッ!
マジか!?
それは嫌だ!
なぁなぁ、何とかならねえのかよ。
―――……あのよう、オメーってホントに話を聞かねえのな……
だからそうならねえように俺がやってんだろうが。
……まあ、いいか。
それよりか、解ってんだろうな?
―――ん?
何の事だ?
―――お前……
……まぁいい、もっぺんだけ言っとくぞ。
アルビノがもうすぐやられる。
んで合図したら、全速でアルビノを回収して俺ントコ来い。
―――あー、そんな事言ってたな。
別にいいけど、何でそんな事するんだよ。
竜なんだから放っときゃ回復すんだろ?
―――そうも行かねえんだよ。
モナルカの一撃で貯まりをほとんど持ってかれちまう。
俺も知らなかったよ。
こんな竜の殺し方があるなんてな。
ダイナの言う貯まりとは、魔力貯まりの事。
竜は体内に生命活動維持に必要な魔力をプールしている箇所が存在する。
部位の欠損等の身体に重大な破損が見受けられた際はこの貯まりからの魔力で再生治癒を行う。
貯まりの場所は各竜によって様々で複数持っている竜もいる。
四尾の様に頭部に存在していれば、例え生首のみになっても存命可能。
参照話:第二百二十二話。
暮葉の場合は下腹部に貯まりが存在し、且つモナルカとの戦闘で幾回も再生を行っている為、かなり目減りしている状態。
そんな中、モナルカの一撃で貯まりを消し飛ばされると命の危機に瀕する。
竜を殺すには主に二つと言われている。
脳と胴体を切り離すか高出力の魔力光で貯まりごと消し飛ばすか。
ここに三つ目が加わる事になる。
それは疲弊した竜の貯まりを削り取る事である。
―――んでも、それなら俺が持ってっても変わんねえんじゃねえのか?
―――そこら辺は考えてあっから大丈夫だ。
お前は俺ンとこに速くアルビノを持ってくりゃあ良いんだよ。
―――わーったよ。
まあ、こうは言ってるけどなぁ……
いや、竜の俺がどうこう言える事じゃねえか……
これはダイナの心情。
念話にも載せていない竜司に向けた同情に似た思惑。
いくら今、竜司が進んでいる世界線が最も存命の確率が高いからと言っても。
その道は過酷。
いや、過酷なんて言葉で片付けられない程の道程。
狂気のラインを踏み越えて得た絶招圏の力も及ばず、右脚を失い、更に目の前で最愛の妻を破壊される。
しかも誰も助けてくれない。
今まで一緒に戦って来た相棒ですら手を貸してくれない状況。
十四歳の子供に課す試練にしてはあまりにも過酷すぎる状況。
そんな竜司に対して、人間の感情を全て理解できない竜のダイナですら同情の様な気持ちを抱かずにいられなかったのだ。
しかし、ダイナはその事に関して考えるのを止めた。
何故ならこれは人間の話。
魔力と言う分不相応な力を得てしまった人類の話。
いわゆるケジメのようなものと捉えていたのかも知れない。
魔力と言う万能エネルギーの存在を知ってしまった人間の利己と底なしで歪んだ自己実現欲求の果てに産まれた理外の化物、モナルカ。
この決着に関しては竜が介在する訳には行かない。
何故ならこれは、言わば人間が起こした問題だからだ。
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「ガレアァァァァァァァァァァァッッ!!」
僕は大声で叫ぶ。
体内に溢れた力と願いを存分に込めて。
全力で相棒の名を。
ピク
僕の声にモナルカが反応。
動きが止まった。
グンッッ!
突然、モナルカが素早く顔を上げた。
横から見えるその表情は笑い顔。
悪魔の様な笑み。
ガレアが来ると待ち構えているんだ。
けど……
じきに笑い顔は解け、また何の感情も乗っていない機械の様な表情へと変わった。
その表情の変化を見て、僕はあることに気付く。
それは激しく絶望的な事実。
ガレアが…………
来ない…………!!?
相棒が呼びかけに応じない。
それは僕を酷く動揺させる。
どうして!
どうしてガレアが来ない!?
解らない!
解らない解らない解らない!
僕の混乱は加速。
そもそもガレアはモナルカとの戦闘への介入に制限がかかっている事も頭の中から消えていた。
今、考えるとこの時ほんの少しだけ幸運だった事がある。
それはガレアが来ない事に裏切られたとか見放されたとかのネガティブな思考が思い浮かばなかった事。
けど、それは裏を返せば……
「……何だ……
てっきりガレアが来ると思ったけど……
……期待外れだったか……
……全く興を冷めさせてくれる……」
見上げていたモナルカの目線が再び降り、掴んでいる暮葉の身体に向けられる。
裏を返せば、そんな事が全く頭に浮かばない程の瀬戸際だという事。
……駄目だ……
もう……
どうしようもない。
僕は動けない。
動けたとしても弧状衝撃波面で阻まれる。
ダイナからも何も言って来ない。
ガレアもいない。
たった一人。
やめろ……
やめろ……
圧倒的な絶望と孤独の中、声も出せない。
巨大な畏怖に圧し潰されている身体は満足に動かす事も出来ない。
僕は……
僕は……
何も出来ない。
世の中って何て不条理で理不尽に出来ているんだろう。
この時の僕は目に見えない世の中に憤る事しか出来なかった。
だけど、時間の流れを止める事はちっぽけな人間の僕に出来る筈も無く。
無情にも、その決定的な瞬間は…………
ついに訪れてしまう。
!!!!!!!
瞬間、僕の耳には何も聞こえない。
だけど僕の眼には……
暮葉の腹を貫くモナルカの左腕。
反動で揺れる暮葉の身体。
激しく藻掻いていた動きがピタリと止まる。
音は聞こえないけど、その光景は知りたくも無い絶望的な情報を僕に認識させた。
「…………あぁ~~……
確か……
クレハが変わったのはリュージの腕を千切った時だったなァ……
じゃあ……
こうしようか……」
モナルカの声。
その発言の意味を理解する暇も無く、世は更なる絶望の光景を僕に見せつけた。
ブチブチブチィィィィィィィッッ!
聞こえる酷く嫌な音。
強引に引き千切られる音。
酷くリアルで艶めかしく、生々しい音。
モナルカが……
暮葉の身体を引き裂いたんだ。
ドサッッッ!
まるで物の様に吹き飛んだ暮葉の上半身は僕の近くに落下。
「…………あ…………
……りゅう……
……無…………
……良…………」
横たわりながら、消え入りそうな声で言葉にならない言葉を話す暮葉。
「あ…………
あ……
あ……
……あぁ…………」
横になる暮葉は薄く微笑んではいるけど、まるで生気が感じられない。
絶望と言う名の黒い大波に僕の心が攫われ、そのまま深く沈んでいくような感覚。
何で……
何で何で…………
何で光らないんだよ!
倒れ伏す暮葉は…………
上半身のみ。
下半身は千切れ飛んだんだ。
その無惨な姿のまま横たわる暮葉を見て、僕は更に混乱する。
今まで見て来た竜なら身体の一部を失うと内包されている魔力が作用して白色光に包まれ、再生治癒を行うはず。
なのに……
なのになのに!
何で光らないんだ!
内包魔力が尽きかけてるのか!?
再生し過ぎたから!?
解らない!
解らない…………
けど、決定的な事は感覚で解る。
このままだと暮葉は………………
死ぬ。
…………あれ……?
暮葉と最後に交わした言葉って……
何だっけ……?
僕は無意識の内に暮葉との思い出を記憶の中から探し始めていた。
まるで危篤状態の家族を前にしたように。
僕はもう悟っていたんだ。
暮葉が助からない事に。
そして暮葉と交わした最後の言葉を探る。
この事が更に僕を奈落の底へ沈める事になる。
解らないなら別にいい。
竜の暮葉に信じてって言った僕が間違ってたのかも知れないし。
ごめんね、今の僕は暮葉が解るような表現をする事が出来そうにない。
……だから、無理に理解しなくていいよ。
参照話:二百九十三話。
こんな時に限って一言一句思い出せる冷たい言葉。
ボタボタボタボタァァ……
黒く大きな絶望と言う大波に呑まれた僕。
そこに待っていたのは後悔と言う黒灰色の大沼。
後悔の大沼は容赦なく僕の心を底に引きずり込もうとする。
巨大な絶望と後悔に晒された僕の眼から零れるのは大粒の涙。
溢れる絶望と後悔の涙。
僕……
僕……
そんなつもりじゃなかったんだ……
僕はただ……
モナルカの事を早く片付けて……
暮葉と幸せに…………
幸せに暮らす日常に戻って欲しかっただけ…………
それだけなんだ……
頭に浮かぶのは懺悔に似た後悔の言葉。
最後に交わした言葉がこれだなんてあんまりじゃないか。
ボタボタボタボタァァッ
「アアアアアアアァアァァアアァァァッァアアアアアアアッッッッッッ…………」
この絶望と後悔に圧し潰された失意のどん底の心を吐き出すにはいくら涙を溢れさせても足りない。
とても足りない。
身を引き裂くような悲痛と失意を乗せて呻くように泣き叫ぶ。
「アアアアアアアァアァァアアァァァッァアアアアアアアッッッッッッ!」
いくら泣き呻いても誰も聞いていないし、誰も手を差し伸べない。
孤独。
圧倒的な孤独。
何で。
何でこんな事になったんだ。
僕は僕なりに必死にやったじゃないか。
その結末がこれなのか。
こんなの……
酷過ぎる。
「アアアアアアアァアァァアアァァァッァアアアアアアアッッッッッッ……」
何をどうすれば良かったんだ?
どうすれば現状を回避出来たんだ?
………………
……そんな事を考えてももう遅い。
暮葉が死ぬ現実は変わらない。
零した水は器に戻らない。
壊れた鏡が再び照らす事も無い。
時すでに遅し。
後の祭り。
後悔先に立たず。
プツン
……何かが切れた。
僕の中で残っていた何かが切れた。
身体の中で何かが立ち切れるような感覚。
覚えがある。
つい数か月前、僕がまだ怒れた時の事。
僕は割と頭に血が昇りやすい性格だった。
頭に血が昇り、ブチギレる時の感覚。
それに似ている。
けど、今の僕は怒れないからキレる訳が無い。
今回の音は何処か違う。
言うなら理性を繋ぎ留めていた糸が切れる。
そんな風に思えた。
支えていた理性の糸が途切れ、絶望と後悔の黒に落ち。
堕ち。
墜ち。
沈められた闇の奈落。
いくら絶望したって後悔したってもう遅い。
なら…………
もういい。
ズリィッ……
ズリィッ……
僕は身体を引きずって暮葉の傍まで這い寄る。
「ん……?
呻いていたと思ったらようやく動き出したか……?
さぁ、リュージ。
次は何を見せてくれるんだい……?」
モナルカが何か喋っている。
けど、今の僕には聞こえない。
構わず暮葉の傍まで向かう。
もういい。
「…………暮葉、僕の声が聞こえる……?
返事はしなくても良い……
……ただ……
……最後のお願いを聞いて欲しいんだ……」
僕はゆっくりと暮葉の手を掴んで、語りかけた。
「僕に…………
恩寵を……
……かけて……」
決断した。
僕がどんな状態かも解っている。
今、僕の身体は絶招圏が発動している。
言ったらこれは絶招経の発展型。
この状態で恩寵をかけるとどうなるかも解っている。
絶招経に恩寵をかける。
これは真・絶招経の発動トリガー。
人外の化物と成り果てた中田を消滅させた禁断の技術。
僕は僕である最後の一線を踏み越える決断をした。
暮葉の手を掴んだまま離さず、ただ身体に起きる変化を。
兆しを待つ。
やがて……
あ……
来た……
身体で起きた兆しはほんの些細なもの。
普段だったら見落とす微かな変化。
全てに絶望して真っ暗闇の底にいる僕だから。
残された最後の手段を使う決断をした僕だから気付けるほんの微かな変化。
体内で起きる変化は小さく感じた。
けど、僕は真・絶招経が発動した事を確信する。
何故なら……
「……何だ……
出来るじゃないかァ……
………………再生……」
僕は立ち上がっていたからだ。
立ち上がる様を見て、モナルカの顔が再び表情を取り戻す。
そう、僕の右脚は再生していた。
「……ありがとう……
……暮葉……」
僕は暮葉へお礼を呟くも、振り返らない。
暮葉の方に目線を送りもしない。
そう言えば……
中田にこれを使う時、躊躇して迷っていたっけ。
そんな僕を…………
暮葉が優しく慰めてくれたんだ……
参照話:第百八十五話。
そんな暮葉をあんな目に遭わせてしまったのは僕だ。
僕が暮葉を殺してしまったのも同然だ。
いつも傍にいてくれた暮葉に冷たい言葉で突き放して。
僕は……
最低だ。
この時ばかりは正直、未来へ生きていく自信が持てなかった。
それどころか未来なんてもう見据えていない。
ドラゴンエラーの事も自分なりにどうにか前向きに捉える事が出来たけど、この状況で連鎖的に溢れるネガティブな感情を止める事が出来ない。
自暴自棄。
やけくそ。
そう考えてもおかしくないテンション。
真・絶招経の代償がどうなるかも解っている。
それは…………
感情の欠損。
どう言う訳か真・絶招経を使用すると喜怒哀楽が一つずつ欠損していく。
予想だけど、僕に残されている感情は哀と楽。
二つのみ。
単純計算であと二回は使える。
けど……
もういい。
僕の中に残る感情全てを。
その溢れたネガティブな感情も全部。
力に変えてやる。
僕はモナルカの方へ一歩、右脚を踏み出す。
足音は全くしない。
足を踏み締める大地の感触も無い。
軽い……
いや、違う。
軽い重い。
そんな次元の話じゃない。
まるで僕の中から重さって概念が消えてしまったような。
不思議な。
不思議な感覚。
この感覚は今まで体験した事が無い。
中田の時の真・絶招経とも違う。
あの時は重くないのに重い。
確かそんな感覚だった。
参照話:第百八十五話。
中田の時も体験した事の無い、かなり不思議な感覚だった。
けど、今回はまた輪をかけて不思議な感覚だ。
僕はどうしてしまったんだろう。
どうなってしまったんだろう。
何かを失って、代わりに何かを得た。
そんな気がする。
僕は……
まだ、人……?
…………いや、そんなことは……
もうどうでもいいか。
僕は身体に起きてる不可解な変化を既に受け入れていた。
人間である事を捨てているかも知れないのに。
その事にすら少しも感情が揺れ動かなかった。
多分、この時の僕は既に感情を消費してたんだと思う。
哀か楽か。
それとも両方か。
今となっては解らないけどね。
でも、この時は自分の中に起きている得体の知れない変化に不安とか恐れを全く感じなかったんだ。
このテンションは覚えがある。
それは中田の時。
あの時は真・絶招経の力を感覚で理解出来たからだと思うんだ。
だけど……
この時はそんな溢れる力はこれっぽっちも感じなかった。
ただ……
頭にあるのは……
諸共。
暮葉だけを逝かせはしない。
僕もすぐ後を追う。
でも……
僕らだけ死ぬのはあまりに不条理じゃないか。
そもそも僕らがこうなったのもモナルカの理不尽過ぎる存在が原因。
だったらお前にも付き合ってもらう。
地獄の底まで。
心境としては後追い自殺。
無理心中。
同時にモナルカへの殺意も自然と湧いていた。
中田に抱いた殺意の感情があれ程、重く圧し掛かって僕の判断や決断に制限をかけていたのに。
絶望の底の底に堕ちて心が黒くなると、こうまで人間は変われる。
そんな僕を見て、モナルカの表情が変化する。
目を見開き、まるで驚いているような顔。
「……Da paura……
リュージ……
キミは一体どうなってしまったんだい……?」
「…………さあ……?
正直な所、僕にもよくは解らないし、どうでもいい……
さあモナルカ……
お前の望むようにしてやったぞ…………
……かかって来い……
かかって来いよ……」
「Curioso……」
ットゥゥンッッ
モナルカが消えた。
ブワァァッッ!
同時に右。
視界の外から焔色が横切る。
これはモナルカの焔爪。
視界いっぱいに広がる魔プラズマの炎。
あぁ…………
そういう事か…………
これはもう…………
……人間じゃないな……
視界に広がる炎。
それは横から顔面に炎の爪を喰らった事を意味する。
けど……
何とも無い。
痛みも無ければ、肉を焼き裂かれる感触も無い。
まるで幽霊の様に身体を透過している。
これが今回の真・絶招経の概要かな?
身体全体を霞のように変えてしまう。
まるで手応えが無かったんだろう、体勢を崩したモナルカの姿も見えた。
表情も驚いている。
まさしく幽霊、霊体の様な身体になってしまった。
けど、幽霊と根本的に違う所がある。
それは…………
身体が動く事。
動かせる事。
感覚で解る。
そして、これは真・絶招経。
だったら……
使える筈。
僕は左拳を握り、腕を引き絞る。
狙いは幽体の様になった僕の身体に喰い込んでいるモナルカ。
ゼロ距離の位置。
「……F-2……」
ゴッッッッッッッッッッ!
僕は自分の身体に左拳を振り降ろす。
モナルカの顔面に炸裂。
パンッッッッッッッッ!
瞬間、僕の身体は弾け散った。
弧状衝撃波面の反動。
おそらく、さっきまでの僕なら即死していただろう。
……けど。
散った僕の身体は即座に寄り集まり、再び元に戻る。
ふわりとまるで宙に浮いているかのように地面に向かう。
着地するも何の感触も音もしない。
モナルカは……
居ない?
何処に行った?
全方位は……
まだ使えるかな?
全方位。
スキル発動。
僕を中心に広がっていく翠色のフィールド。
よし、大丈夫だ。
モナルカは……
居た。
ここからおよそ東へ1キロ……
いや、1.5キロ程離れているポイント。
吹き飛ばされたモナルカを目撃して確信する。
まず、F スケールは使える様だ。
■Fスケール。
竜巻の強さを評定する尺度。
主に建築物や樹木等の被害状況に基づいて推定される。
この場合は竜司が命名した真・絶招経時における魔力技の総称を指す。
魔力の使用量により、F-1からF-6まで存在する。
中田ごと新宿御苑を吹き飛ばしたのはF-5である。
……これが弧状衝撃波面の攻略法か。
いや、方法なんて気の利いたものじゃない。
ただF-2の衝撃が反射しきれなくて突き破っただけ。
反動も幽体みたいになったからまともに喰らっても問題ないってだけ。
単に真・絶招経の効果による雑なもの。
策もへったくれも無い。
いつもしている様な小賢しい考えが入り込む余地なんてある訳が無い。
だからといって何がどうと言う訳じゃない。
ただ……
やる事はモナルカを……
地獄に引きずり堕とすだけだ。
△秒後。
「……F-3……」
ゴッッッッッッッッッッ!
僕の振う拳がモナルカの身体を削り飛ばす。
パァンッッッッッッッッ!
同時に僕の身体も散る。
けど……
問題ない。
すぐさま元に戻る。
それはモナルカの身体も同様。
瞬時に再生。
もう時間もどれぐらい過ぎているかも解らない。
何処で争っているのかも解らない。
この辺りからどう動いたかよく覚えていない。
「リュージィッ!
これだァッ!
Fomentoォッ!
Fervereェッ!
次から次へと軽い刺激が弾けるゥッ!
もっとォッ!
もっとダァッ!」
モナルカの狂声。
ボバババババババッッッ!
同時に無数のGDF。
全てまともに喰らう。
散り散りに吹き飛ぶ僕の身体。
……だけど……
それでも……
僕の意識はハッキリしていた。
確かに吹き飛んでいる筈。
だったら僕の意識は一体何処にあるというんだろう?
……いや、そんな事を考えても意味が無い。
やる事が変わる訳でもなし。
あぁ、モナルカの言っていた事はこういう事か。
戦闘は突き詰めれば、双方のエネルギーのぶつかり合い。
どちらの火力が優れているとかどっちの速度が勝っているとかは関係ない。
ただシンプルにどちらのエネルギーが大きいか。
それだけって話。
「F-4……」
ガガガガガガガァァァァァァァァァンッッッ!
僕はモナルカに向かって無数の拳を繰り出した。
けたたましい爆音と鮮烈な白光が周囲を包む。
おそらく周囲の建造物は酷い有様だろう。
でも……
もう関東がどうなっているかなんてどうでもいい。
奈落が開いている事もどうでもいい。
何故なら僕は多分……
勝っても負けても死ぬ。
解るんだ。
身体から何かが少しずつ削り落ちていっているのが。
多分、モナルカの攻撃を喰らっている事で魔力が消費しているから。
あと僕の場合、大気にも魔力が散っているんだろう。
何もしなくても発動した段階で死ぬ事は確定している。
おそらく、この真・絶招経は特攻に近い超短期決戦仕様なんだろう。
でも、僕は何も思わなかった。
死への不安も恐れも。
何も。
暮葉が僕のせいで死んで、何で自分だけおめおめと生きていられる。
この時の僕はもう自分の命すら投げ出す覚悟を決めていた。
これで最後にする。
モナルカを道連れ。
これが皇竜司の最後でいい。
■◇分後。
「……F-5」
カッッッッッ!
広範囲を眩い白色光が包む。
僕は中田を消し飛ばしたF-5ですら躊躇いなく使った。
しかも今の真・絶招経は以前のものよりも桁違いに効果が高い。
おそらく範囲は新宿御苑どころの話ではない。
だけど、周囲の被害に全く躊躇う事は無く、拳を振るう。
全てを失い、投げ捨てた人間の特攻。
何も持たない人間の力。
それでモナルカを地獄に引きずり込む。
振ったF-5。
眩い白色の光が世界の色を瞬時に塗り替える。
ん……?
あれは……?
この時、僕が目にしたのは……
影。
影が浮かんでいる。
鮮烈な光に晒された真っ黒い影。
大きさは……
少し大きいボールぐらい……?
形は三角。
頂点を下に向けた逆三角の影が浮いている。
僕はF-5が起こす光の中、ただその逆三角の陰を見上げていた。
すると……
ギュオッッ!
大きくなる逆三角形の影。
まるで真っ白い半紙に墨汁を零したように広がる。
やがて人影へと形成。
僕は平然とその様子を眺めていた。
……あれか……
僕は影の動きを見て、気付く。
あの逆三角がモナルカの言っていた芯臓と内蔵コロナが融合したもの。
あれを破壊すれば、モナルカを…………
殺せる。
F-5でも砕けないのか。
なるほど、かなり頑丈だ。
さっき連打を浴びせても破壊出来なかったのも頷ける。
モナルカとの決着。
その形が見えて来た。
要は……
僕が消えてしまうのが先かモナルカの逆三角を破壊するのが先か。
そういう事だろう。
●□時間後。
周囲の風景は変わる事無く、眩い光の中。
僕のF-5連発により光が止むことが無い。
おそらく凄まじい轟音や爆発音が鳴り響いているんだろう。
けど、今の僕には聞こえない。
いや、どうでもいいと言うのが正しい。
F-5の威力は一撃で原子爆弾に匹敵。
それを連発で叩き込んでいる。
けど……
逆三角を破壊するまでには至らなかった。
それどころかモナルカの再生速度も跳ね上がり、反撃を仕掛けて来る。
一体どれだけ続くのか。
F-5がモナルカの身体を消し飛ばす。
が、瞬時に再生。
モナルカの反撃は全て僕の身体を透過。
焔爪とGDFの雨が僕の身体を消し散らすも、瞬く間に寄り集まる。
そして、拳を振う。
F-5でモナルカを破壊。
その繰り返し。
果ての無い消耗戦だ。
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同時刻 東京都新宿区上空7000メートル付近。
奈落の近く。
そこに浮遊する一体の巨竜。
全身は深紅の鱗に覆われ、両瞳は黒緋。
巨大な翼と八本の巨尾。
卿の衆、八尾。
……ん……?
そろそろ来るか……?
出来ればもう少し見ていたかったが……
八尾は奈落の次元口付近で二人の激闘を興味津々で眺めていた。
特に竜司の変貌ぶりにはかなり注目。
今の竜司はもはや皇竜司と言う個の人間では無い。
竜司の意思と記憶を持つ高純度の魔力の塊。
言わばエネルギー生命体に近しい存在となっている。
それは今のモナルカですらまだ到達していない。
魔力を有する生物の究極の形態。
いや……
そんな良いものでは無い。
成れの果て。
この言葉が相応しい状態となっていた。
それも致し方なしか……
太陽圏。
八尾、固有技能発動。
竜司とモナルカを中心に黒球が広がり、二人を呑み込んでいく。
■太陽圏
八尾の固有技能。
発生した黒球の内部は熱、光、電気、位置などのあらゆるエネルギーを遮断する隔離領域となる。
遠隔生成も可能。
※物質の持つ運動エネルギーだけは例外で通過可能。
二人を。
いや、モナルカを太陽圏が包む。
これが意味する事は何か?
そう、あの自身の父親をコルス島ごと吹き飛ばし、中東でモブの相棒だったジュズを中東の土地ごと灰燼と化し、パラオのジェルークウィッド諸島を世界地図から消してしまった……
モナルカの最大最凶スキル。
太陽風の発動を意味する。
■太陽風
モナルカの最大スキル。
全方角に放射される魔プラズマ波。
放射熱は初発動の段階で約百万度。
巻き込まれると地球上全ての生物はおろか、竜をも焼失させる程、強力。
超絶無比な威力だが任意発動は不可能。
八尾はモナルカの太陽風の発動を察し、先んじて太陽圏を展開したのだ。
恒星炉を有する今のモナルカが発動すれば、おそらく放射熱は1000億度近くに達する。
これは超新星爆発時に発生する温度に近い。
もはや惑星内で発生していい温度ではない。
地球上で使用する場合は太陽圏内でないと、東京はおろか地球が崩壊する。
それ程の熱量。
###
###
ん……?
モナルカの動きが……
止まった?
身体も震えている……
そろそろ限界って事か……?
「モナルカ……?
どうしたんだよ……
僕はまだまだ行けるぞ……?
あれだけ煽っといて、もう終わりか……?」
「あぁ……
Fineだ……」
「……そうか……
なら僕と一緒に……」
「そしてPovero……」
僕の言葉を遮って、モナルカが言葉を続ける。
残念?
またそれか。
ほとほとモナルカには呆れる。
自分が死ぬ間際になっても戦闘が終わる事を残念がっている。
付き合いきれるか。
この狂人め。
「またそれか……
いいかげ」
「グゥッッ!
……我には……
グゥッッ……
もう一つ……
ハァッハァッ……
グゥッッ……
スキルが……
ガァァッッ……
…………ある……」
苦しみの呻きでまた遮られる。
全く会話が成立しない。
……ん?
呻き声の間に何か……
言ったか……?
もう一つ……
スキルが……
ある……
だと?
この局面に来ての最悪な情報は僕に少なからず動揺を与えた。
ここに来て新スキル……
って事はモナルカの切り札……?
あの様子……
嫌な予感がする!
状況を整理すると、不穏な空気が猛烈に際立ち始める。
「……一体いくつスキルを隠してるんだよ……
あれだけ公平だ何だ言ってたのは何だったんだよ……」
「グゥッッ……
これは……
我にも……
ガッッハァッハァッハァッハァッ……
制御出来ないんだ……
フゥーッ……
フゥーッ……
見せれない……
ガァァァァァッッ……
スキルなんて無いも同然だろ……」
何となく呻き声が大きくなっている気がする……
それに……
周りの様子も……
いくら奈落が光を遮っていると言っても、こんなに暗かったか?
モナルカの苦しみ様と周囲の変化。
不穏な空気が強まる感覚。
けど、僕は……
「……それがモナルカの最後の攻撃って……
考えていいのか……?」
「あぁ……
ガッッ!
ガァッ!
ガァッ!
……これを喰らって存在している……
ハッ!
ハッ!
ハッ!
……生物なんて考えられない……
アァッッッッ!」
最後って僕がやられる意味合いで最後って事か。
……ふざけるな。
「そうか……
なら……
僕もありったけをぶつけてやるよ……」
僕は使う決断をする。
そこに躊躇いは無かった。
思えばこの時の僕は怒っていたのかも知れない。
感情は無くしている筈なのにね。
F-5でも破壊出来ないのなら、それを超える一撃を叩き込む。
中田の時ですら使用しなかった……
真・絶招経の最大火力、F-6を。
ニィ……
僕の言葉を聞いて、モナルカが笑った……
気がした。
周囲は暗闇。
モナルカの位置は解るけど、目で見ている訳じゃない。
僕はゆっくりと腰を落とし、右腕を引き、拳を握る。
モナルカのスキルがどう言うものかは全く解らない。
けど、詳細なんてもうどうでもいい。
僕がやる事は、ありったけをモナルカにぶつけるだけだ。
?
モナルカの呻き声が止んだ。
来るか。
「Addio、リュージ………………
……………………太陽風……」
「…………F-6」
僕らはほぼ同時。
同時に力を発動。
その刹那、世界が……
いや、次元が白に一瞬で塗り替えられた気がした。
音もせず、痛みも感じない。
そして白が魔力の青と混ざり合い、視界いっぱいに拡散。
僕の居る次元を呑み込む。
こんな経験、初めてだ。
……けど、僕の身に起きたのはそれ以上の奇妙な体験だったんだ。
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〖……ん?
あれ?
誰や思たら、もしかして……
主はんどすか?〗
何か声が聞こえた。
聞きなれた京都弁。
眩んで閉じていた目を開くと、そこに居たのは……
蔓のドレスを身に纏い、緑色の肌を持つ木の精霊。
久久能智だった。
「あ……
あれ……?
ク……
久久能智……?
何で、こんな所に……?」
〖それはこっちのセリフどす。
何で主はんがこないなトコ、おるんどす?〗
質問を質問で返す久久能智。
辺りを見渡すと、立ち込めている薄くほんのり黄色いモヤ。
僕は浮いている……
いや、違う。
両足で立ってる……?
?
僕は俯くと見える両脚。
だけど、何かおかしい。
まず……
何故か袴を履いていた。
色は明るい青緑。
いや、衣装よりも何処となく……
薄い?
身体が透けている。
「……ねぇ?
久久能智……
……何で袴?」
〖そないなコト、うちが知るかいな。
それよりも質問に答えなはれや。
だから何でこないなとこにおるんどす?
いや、おれるんどす?〗
ん?
何で言い直した?
居れる?
「ねぇ……
久久能智……
ここ……
何処……?」
〖ここはあっち側……
て言うても主はんには解らんか。
人間共の言葉で言うたら常世の境どすえ。
普通の人間がこれ……〗
〖よいよい、久久能智。
そこの侏儒は朕が招いたのである〗
……ん?
何か久久能智の後ろから聞き慣れない声がする。
〖あら?
珍し、天照はんが呼び付けたんどすか?〗
!?
今……
久久能智、何て言った?
アマテラスだって!?
え?
え?
それって天照大神の事か!?
■天照大神
日本神話におけるもっとも重要な神の一柱。
太陽そのものを神格化した存在。
八百万の神々の頂点に立ち、高天原を統治する主宰神。
天皇の始祖。
仏教では大日如来と呼ばれ宇宙の真理そのものであり、全宇宙を照らす太陽神と崇められている。
サンスクリット語でバイローチャナ。
神宮は伊勢に存在する。
〖……ふっふっふっ……
伝わるのである、伝わるのである!
見よ久久能智っ!
侏儒めがさっそく朕の尊大過ぎる神気にあてられ、畏まって縮こまっているのである!〗
〖……いや、見よて言われましても……
そないな感じとちゃいますえ?
これは天照はんの名前聞いて、単純に驚いとるだけどす。
言うても有名でっしゃろ?〗
〖なぁっ!?
では朕の神気はちっとも伝わっておらんのであるかっ!?〗
〖いや、伝わってない事も無いとは思いますけんど……
相変わらず、めんどくさいお人どすなぁ……〗
〖ムキーッッ!
面倒くさいとは何じゃ!?
朕は太陽神であるぞっ!
偉いのであるぞっ!〗
大きな久久能智の後ろからギャースカ、ギャースカと声が聞こえる。
けど僕は正直、これにツッコめるようなテンションじゃない。
〖久久能智……
良いよ、天照が呼び付けたって言うんなら何か用があっての事だろう。
どいて、僕が話す……〗
〖は……
はぁ、まあよろしおすけど……〗
スッ
久久能智が横にズレた。
……けど、誰もいない。
フヨフヨ
代わりに見えたのはフヨフヨ揺らめく黄色の……
何だこれ?
〖ようやく見える事が出来たのである。
侏……
何処を見ているのであるかっ!
こっちじゃっ!
こっちであるっ!〗
下から声。
目線を下げるとそこにいたのは……
ブッカブカの白衣に裾の全く合っていない紅い巫女袴を纏った……
……小さな女の子?
ムスッとした顔で僕を見上げている。
真っ黒いおかっぱロングストレートの髪。
顔立ちは本当に幼い。
発展途上の目鼻口。
この女の子が天照大神?
「……ベタ……」
その風体を見て思わず出た言葉。
物凄い神様が実は小さな女の子。
最初に始めた人は意外性を狙ったんだろう。
けど、今となって出涸らしとも言える。
あぁ、フヨフヨ浮いていたのは羽衣か。
額に……
冠って言うのかな?
何か金色の丸いものが貼り付いてる……
……んだけど、ディティールが酷い。
何だが円もガタガタで、ボール紙を金色の折り紙で包んだ様な質感。
まるで園児が作ったみたいな。
確か久久能智の姿は僕の記憶や知識が元になって作られてるんだっけ。
じゃあこの天照大神も僕の記憶が元って事?
ロリババアキャラなのはまだしも、もう少し冠をきちんと作れよ、僕の記憶。
〖………………平伏せんか…………〗
「へ…………?」
ズンッッッッッッ!
!?
突然。
唐突に身体が下に圧し付けられる。
まるでお爺ちゃんの枷……?
いや、違う。
上からの圧や体重が重くなった感覚は無い。
まるで僕と言う存在が意識と分離して這いつくばった。
そんな感覚。
〖不遜っ!
無礼っ!
不躾っ!
不埒っ!
口に出さぬからと言って朕に解らぬと思うたかっ!
誰がべたか!
朕は知っておるぞ!
それは在り来たりと言う意味であろっ!?
この唯一神に向かって頭も態度も高すぎるわっ!
額を地に擦り付け崇め奉らんかこの侏儒がァッ!〗
キャイキャイと頭の上で騒いでいる。
何だ、一体何なんだ天照は。
〖ちょーちょー、天はん天はん。
何しとるんどす〗
〖だって久久能智っ!
朕は悪くないのであるっ!
侏儒が悪いのであるっ!
無礼な事ばかり考えおるからっ!〗
〖そないな事言うてもしょうがないどすえ。
主はんはただの人間なんやからそら、頭ン中でワケ解らん事、考えはるやろ。
そこら辺は呑み込んどきなはれや。
天はんは最高神なんでっしゃろ?
高天原、仕切っとるような存在がこないな人間の思惑にキーキー言うとってどうするんどす。
寝転がす為にここに呼んだんとちゃいますやろ?〗
〖ハッ……
ま……
まぁそれはそちの言う通りでは……
あるか……
でも……
朕……
キーキーなんて言ってないもん……〗
何か久久能智に窘められて声が弱々しくなってないか?
〖弱々しくなどなっておらんっっ!〗
あ、そうか。
天照大神って言うぐらいだから僕の考えなんか簡単に読めるって事か。
さすが神様。
この時の僕はこの訳の分からない状況を。
意味不明な展開を既に受け入れつつあった。
と言うかもうどうでも良かったんだろうと思う。
〖ふ……
フフン、そう~であろそうであろぉ?
朕は凄いのであるっ!
偉大なのであるっ!〗
〖だからはよ、話進めなはれて。
それにしても主はん、よう天はんと縁なんか結べましたなぁ〗
「え……?
そ……
そんな事を言われても……」
〖久久能智、それは違うのである。
此度は朕から縁を結んだのである〗
〖……何してはるんどす……
よりにもよってこないな時に呼び付けたんどすか?
天はんやったら、主はんがどういう状況か解っとりますやろに。
空気読めんのも大概にしときなはれ〗
……確かに言う通りではある……
……んだけど、久久能智は相変わらず言い方がキツい。
まかりなりにも天照大神だぞ?
お前より上位の存在じゃないのか?
〖おぉ、侏儒よっ!
そちは解ってくれるかっ!?
そうなのである!
いっつも、久久能智はこうなのであるっ!
言葉がキツいのであるっ!
天の岩戸の時も威厳っちゅうもんを考えておくれやすとクドクドと言いよってのう……〗
天照大神はそんな事を言っているが僕はまだうつ伏せで倒れたまま。
〖おぉ、いかんいかん。
ホレ、これでもう起き上がれるのである〗
あ、身体の自由が効く。
ようやく上体を起こす事が出来た。
……やっぱり見下ろすって良くないよな。
言っても相手は天照大神な訳だし。
じゃあ……
僕は膝を畳み、下に両手を突く体勢。
いわゆる土下座。
目線を合わせた。
そんな僕を見てフフンとドヤ顔の天照さん。
〖ふふん、ようやくそちにも身の丈を理解できたとみえる。
よいよい、殊勝な心掛けである〗
「あの……
それで天照……
様……?
僕に用って……?」
〖おう、そうであったそうであった。
そちを呼んだのは他でも無いのである。
節の間、朕を楽しませてくれた褒美を与えようと思ったのである〗
節の間?
褒美?
〖短い間って事どす。
で、褒美言うんは方便どすな。
大方、天はんの事やから、うちらと知り合う前からずっと主はんの事、見とったんとちゃいまっか?
んで、うちらと楽しーやっとんのを見て、自分も主はんと絡みたなったんでっしゃろ?
でも、主はんと絡むには糧が全然足りん。
だから、今の主はんの持っとる糧をありったけ使うて縁を強引に結んだって所とちゃいますか?
……で、うち以外の精霊が出てこうへん所を見るとそこら辺も含めて、残らず使いはったってトコでっしゃろ?〗
つらつらと饒舌に話す久久能智。
かたや見る見るうちに顔を真っ赤にしながらプルプル震え出す天照様。
〖だーっもーっ!
何で全部話すのであるっ!
そこら辺は朕が威厳を出しながら小出しにしようと思ってたのに!
思ってたのに!〗
て事は全部正解って事か。
なるほど、人間が大神とチャンネルを開くとなると久久能智らの様には行かないんだろう。
おそらくF-6で放った高純度で大量の魔力がキッカケ。
それで、久久能智の予想だと他の精霊も使ったと言っていた。
つまり主従関係を維持していた魔力も使ったって事かな?
……という事は僕はもう久久能智以外は顕現出来ないって事か?
〖大体、そんなトコどす〗
……まぁどうでもいいか。
世話になったからお別れぐらい言いたかったけど。そんなの僕にはもう何も意味を持たない。
〖久久能智ーっ!
そちは何故、斯様にネタバレするのであるっ!
そちのそういう所大嫌いであるっ!
バーカバーカ!〗
〖天はん、知りまへんの?
アホ言うもんがアホどす〗
〖グッ……
グヌヌ……
違うのであーるっ!
朕が言ったのはアホでは無く、バカであーるっ!〗
この人たち、楽しそうだなぁ。
いや、人じゃないけど。
「あ……
あの、天照様?
それで褒美と言うのは……?
あと何故、僕に褒美を?」
〖ハッ!?
……エヘンッエヘンッ!
そうじゃそうじゃ、褒美についてであるな。
実はの侏儒……
朕はずっとそちの事を見ておったのだ〗
「あ……
はい、さっき久久能智が言ってたので知ってます……」
僕は事実を告げる。
すると再び顔を真っ赤にしてプルプル震え出した。
多分、予定ではここで僕が驚いてる所を眺めてドヤりたかったんだろうな。
「あ……
あの……
見ていたって何処からですか?」
〖ハッ……?
それはな……
侏儒が引き篭もった時からである。
岩戸の時を思い出しての。
ヲロチの知己と共に外へ出向いてからはずっと注目しておったのだ〗
「ヲロチの知己って……
ガレアの事ですか?」
〖左様。
あのヲロチはさしずめ朕で言う所の天手力男神である。
久久能智らともたのしーしおって……
朕はそれが羨しゅうて羨しゅうて……
ハッ!?
エヘンッエヘンッ!〗
羨しい?
羨ましいって事かな?
神様だからか時々、古語が混じるな。
「じゃあ僕がガレアと出会ってからずっと……?」
〖左様。
そちが数多の青人草と出会い、成長していく様や有象無象との争いごとはまっこと興が湧いたのであるっ!
特にそちが再びヲロチの巣で大立ち回りを繰り広げた時は肝を冷やしたのであるっ。
出来ればそちと膝を合わせ、色々と語らいたい所ではあるが……
……時がもう無い。
であるから、簡潔に話す故、心して聞くがよい〗
時間が無い?
一瞬、僕は何を言っているのか理解出来なかった。
「は……
はぁ……」
〖時間が無い言うんは天はんとの時間の事どす。
いくらシャレにならんぐらい仰山、糧があったとしても人間が神さんと謁見出来るんは有限って事どす〗
ここで久久能智からフォロー。
なるほど、そういう事か。
〖まぁ時間が無いんは、天はんが話進めんと元気ぃにしとったからやけどなぁ〗
〖久久能智っ!
うるさいのであるっ!
ハッ……!?
……オホンオホン……
よいか、侏儒よ。
そちに対する褒美とは雌雄を決する術である〗
雌雄を決する……
……術?
要はモナルカとの決着。
その手助けって事か?
〖左様。
あの大変化……
いや、あれはもはや変怪と呼ぶべき存在。
その彼奴を退ける手助けをしてやろうと言うのである〗
変化。
確か妖怪の古語だったっけ。
モナルカは神様目線で見たらもう妖怪に区分されるのか。
それにしても手助けって言われても……
具体的に何をしてくれるって言うんだろう?
僕の願いを聞いてくれるって事か?
〖フム、概ね合うておる。
で、あるが……
いくつか約がある〗
ちぎり?
契約?
……いや、条件って事か。
〖左様。
ならば疾く、約を申し渡す。
まず朕の力を行使すると言ってもやはり糧を使用する。
無論そちの糧である。
で、そちの糧は朕との謁見で大半を消費しておる」
……つまり、願い事と言っても限界があるって事か。
〖その通りであるっ!
まっこと侏儒は察しがいいのう。
見ていたままじゃ。
朕はワクワクして来たのであるっ!〗
「は……
はぁ……
ありがとう……
ございます……?」
最初に条件付けをしてきたのは、例えばモナルカを殺してくれとか、消してくれと言う身も蓋も無い願い事は無理だと暗に示しているのだろう。
可能なら手助けなんて言い回しはせず、直接的に殺してやる消してやると言うはずだ。
〖あと、もう一つ。
たかが人間風情がタダで神の力を扱えると思うでないぞ。
それなりの代償は支払ってもらう〗
ちらりと天照様の顔を見る。
ニィ……
幼い子供のような顔が冷たい笑顔に変わる。
その表情から慈悲の気持ちは伝わらない。
上から下へ。
強者から弱者へ。
持つ者から持たない者へ。
圧倒的優位にいる存在が戯れに突き付ける理不尽に聞こえる。
「だ……
代償って……?」
〖それは侏儒の願いによるのである。
それに今、申し伝えては興が無かろう。
ふっふっふ……
気色を失のうたそちが、支払う代償とは如何なるものか。
それもそれで興が湧く……〗
天照大神も興か。
全くどいつもこいつも。
いい加減うんざりする。
心を読むなら好きにしたらいい。
無礼だろうと知った事か。
思うのは止められない。
気色と言うのは前後の文脈からおそらく感情って意味だろう。
どうせ僕はもう何もかも失った。
今更、何を失ってもどうという事は無い。
〖……そう身を捨てんでも良いでは無いか。
業に任せられて考えを巡らさんのも興が失せるのである。
ならば朕の力の一端を教えてやるのである。
これは出血大さぁびすと言うやつなのである〗
「……力の一端?」
〖そう、朕は天運を操る事が出来るのである。
人間共の言葉で言うと因果律と言うたかのう。
どうじゃっ!
朕は凄いであろ?
偉大であろ?〗
因果律操作。
つまり確率操作。
確かに凄い。
〖そうであろそうであろぉ~?
さぁ、諸々の前置きはここまでである。
ここから、あの変怪を退ける願いを考えて見せよっ!〗
フフンとドヤ顔の天照様。
それはさて置き確率操作か……
と言う事は外部要因。
つまり僕を瞬間的にパワーアップさせてモナルカを倒すとかそういう事ではない。
外部の強い力……
パッと思い付くのは災害。
地震?
いや、今更地面を揺らしてもしょうがない。
でも、地割れを起こすぐらいの激しい揺れなら?
……いやいや。
その割れ目にモナルカがハマったからといってどうなるものでもないだろう。
噴火?
これもピンと来ない。
火山の麓で戦ってるならまだしも、ここは東京だ。
例え富士山を噴火出来たとしても遠過ぎる。
なら津波は?
……無駄だ。
仮に大波に攫われたからと言って、それがモナルカを倒せる絵に結び付かない。
第一、今のモナルカは呼吸も必要としてない可能性が高い。
……あ、前にモナルカを吹き飛ばした水蒸気爆発。
太陽風がどう言うスキルかは知らないがおそらく考えられない程の熱を放つんだろう。
そこに膨大な海水が流れ込んだとすれば、それこそ地形が変わるぐらいの物凄い爆…………
……いや、違う。
これでもない。
モナルカを殺す。
これは地震とか爆発とかじゃ届かない気がしてならない。
ここでふと天照様の顔が目に映る。
……何かさっきと別の意味で顔が紅潮している。
何だかワクワクが止まらないと言った様子だ。
多分、僕の考えを読んで面白がっているって事だろう。
まあそんな事はどうでも良い。
そうこうしている内に時間が来てしまう。
はやく、早く考えないと…………
外的要因で災害を利用する。
このアプローチは間違っていないと思う。
あとは災害の種類…………
ここで僕の中に閃きが奔った。
今まで幾度となく僕を助けてくれた閃き。
地震や水蒸気爆発でモナルカを倒せるイメージが付かなかったのは地球上の災害だったからだ。
ならば……
その視野を。
規模を広げる。
「天照様…………」
僕は意を決して声をかけた。
モナルカがいくら化物といっても、これならひとたまりも無い筈。
見ると天照様の顔が更に紅潮し、目がキラキラしている。
早く話せと言わんばかりだ。
〖決まったのか決まったのかっ!?
はよう申してみぃっ!〗
急かす天照様。
「………………隕石を…………
……堕とす事は出来ますか……?」
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「は……
はい、今日はここまで……」
さすがに今日の話は荒唐無稽過ぎて、龍の反応が怖い。
「フー……
えっと……
パパってさ、宗教始める事出来るんじゃない?」
あれ?
ウソだの在り得ないだの難癖付けられると思っていたけど、これは意外な反応。
「し……
宗教……?」
「うん、宗教って自分で作る事が出来るんでしょ?
新興宗教って言ったっけ?
だってパパはホントに神様と逢ったんでしょ?
だったら宗教始めれるんじゃないかなって」
「いやいや、無理だよ。
大体この事自体、未だ僕自身が信じれないし。
それに話したのはこの一度きりだし。
あと、僕が遭った天照様は何か僕らを導いてくれるって感じでも無かったし」
「まあそれはね。
何か騒がしい子供って雰囲気だった」
「割と日本神話ではワガママな神様って感じで描かれてるからあながち間違ってもないんだけどね」
「でも、急に怖くもなったよね……
それで、パパ……
代償って何だったの……?」
「それはまた明日ね。
あと龍、今まで長く聞いてくれてありがとう。
この物語もあと多くても二回で終わる」
「あぁ、そっかぁ……
色々あったなぁ……
ホントにこの頃のパパって忙し過ぎたよね。
学校も行ってないのにさ」
「ハハハ、確かにね。
でもパパは思うんだ。
学校ってある種ラクだよなって。
だってとりあえず行けば一日のやる事が解るんだから。
行ってないと毎日のやる事を自分で決めないと駄目でしょ?
別に龍がラクしているとは言わないけど、パパみたいに行ってない方が逆に忙しくなる場合はあるんだよね」
「え~~……
まあそうかも知れないけどさあ、でも学校行かなくても良いって事は毎日ぐうたらしてても良いんでしょお?
だったらそっちの方が楽じゃん」
「まぁそういう人もいるだろうね。
パパも一時期、引き篭もってたし。
でもパパはそれで終わらなかったってだけ。
お爺ちゃんから逃げ出して旅に出て、ドラゴンエラーの弔いの為に横浜を目指して、途中で呼炎灼ら陸上自衛隊の事件に巻き込まれたり。
ママと出会って竜界に行ったり、横浜に着いたは良いけど、都市ぐるみで恨まれたり、それがようやく解決したと思ったら横浜大震災でしょ?
で、それが終わったと思ったら次は中田との因縁が待ってて、その後はB.Gの来日からマザードラゴンの崩御で竜界にまた行ったり。
で、帰ったら帰ったで奈落とモナルカだ。
うん、自分でも思うけど普通の十四歳じゃない忙しさだったと思うよ」
「そうだよね。
言葉にすると良く解る。
…………お話がパパの昔話で……
本人が話してるし、ママも普通にいるからいいんだけど……
この時のパパの気持ちって……
辛いね」
「……ありがとう。
この時は本当にママが死んだって思ったし、僕が殺したって思ってたからね……
それに最後の会話がアレだったから、絶望と後悔しか無かったな……」
「うん、僕だったらとても耐えれる気がしない……」
「別にあの時の気持ちは体験しないならしないに越したことはないよ」
「で、パパ。
ママが何で生きてるかは話してくれるの?」
「うん、それは明日か明後日に話してあげるよ。
さあ今日はこれでおしまい。
もう遅い。
布団に入って……」
「ハァ~イ……
ふあぁぁ……」
龍が欠伸をしながらモゾモゾと布団に潜り込んだ。
「おやすみなさい」
「おやすみなさい」
続く。




