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ドラゴンフライ  作者: マサラ
最終章 最終幕 分岐決戦編③
298/298

第二百九十七話 枯木竜吟



 2048年三月 某県某市(すめらぎ)邸寝室。



 ガチャ


「フーッ……

 やあこんばんは、(たつ)


「あ、パパ。

 うす……

 ってどうしたの?」


「ん?

 いや、さっきまで今日話す内容をまとめてたんだけど……

 何か……

 我ながらデタラメな話だなぁって思ってね……

 いや、体験した事は本当なんだけどね」


「……それは僕のセリフじゃない?」


「ま……

 まぁね……

 さあ、今日は僕が願い事を思い付いた所からだね」


「確か隕石だっけ?」


「うん、そうだね」


「……じゃあ、モナルカに隕石を落として倒そうって言うの?」


「そ……

 そういう事……」


「僕、知ってるよ。

 隕石が人に落ちる確率って確か一千万分の一とかでしょ?

 TVで見た。

 そんなの起きる訳ないじゃん」


「そう、普通に考えて起きる筈が無い。

 だから、天照(アマテラス)様にお願いしたって訳だよ」


「運を操る事が出来るんだっけ?

 それで隕石が落ちるようにしたって事?」


「そ……

 そういう事かな?

 僕も実際に運を操っている所を見た訳じゃないんだよね。

 だから状況での回答になっちゃうけど」


「じゃあもう勝ったって考えていいの?」


 あっけらかんと言ってのける(たつ)

 ……そうだったらどれだけ良かったか。


「…………そうも、行かないんだよね。

 パパって体験した事が事なだけに神様の存在って信じてはいるんだけど、神様って基本人間の為に手取り足取り助けてくれるって事は決して無いんだよね……」


「ん?

 どういう事?」


「つまり、天照(アマテラス)様に運を操作してもらって隕石を落として、はい勝利って訳には行かないって事だよ」


「そ……

 そう……

 ……何かさ……?」


「ん?

 何?」


「パパってホントすんなり話が進まないよね……」


「それはね……

 カッコよくビシッと決めるのは漫画とかアニメだけって話だね」


「そもそも、何でこのタイミングだったの?

 そんなにパパと話したいならもう少し早くしたらいいのに」


「多分、それは天照(アマテラス)が来る常世の境って言う場所。

 簡単に言ったらあの世との境。

 そこに僕の意識を飛ばす為にはF-6(エフシックス)の魔力とモナルカのスキルがぶつかる必要があったんだろうね。

 ぶつかった時の爆発か衝撃を利用した的な。

 もう今となっては解らないけどね」


「……何だか良く解んなくなってきた……」


「ハハハ……

 話してる僕でもホント良く解んない体験だったからね。

 でも夢って言うには記憶がハッキリし過ぎているんだよ。

 30年以上経った今でも覚えてるぐらいだもの。

 (たつ)は僕の攻撃とモナルカの攻撃がぶつかった事で意識が何処かに飛んでしまった。

 これぐらいの理解で十分だよ」


「ふうん、そんなものなの」


「そんなものだよ。

 じゃあそろそろ始めていこうか」


「うん」



 ###

 ###



 常世の境。



「………………隕石を……

 …………堕とす事は出来ますか……?」


 僕の言葉を聞いた天照(アマテラス)様。

 顔がますます紅潮し、口元がゆるゆるに綻び始めた。


〖ほうほう……

 そちの言う隕石とは天の(いわ)の事であるな?

 それを彼奴(きゃつ)の頭上に堕とせと……

 そちはそう申しておるのだなっ!?〗


 この物々しい言い回しも神様だからだろうか。


「は……

 はい……

 どうでしょうか?」


〖聞いたか、久久能智(ククノチ)よ!

 やはりこの侏儒(しゅじゅ)は愉快じゃ!

 まっこと興が湧くっ!〗


〖…………主はん、あんま気ィ悪せんとっておくれやす。

 天はん(このヒト)、悪気があって言うとるんやないんどすえ〗


 久久能智(ククノチ)が僕の心情を察してフォローを入れる。

 けど、そんな事を今更言われてもな。


〖グッ……

 オホンオホンッ!

 ま……

 まぁ、よい。

 天の(いわ)を降らせると言う話であったな。

 可能である。

 いや、(ちん)も驚いておるのじゃ。

 何故なら、扱う(かて)(いささ)かで済む。

 軌道をそばむだけであるからのう。

 あの変怪を退ける術としては一番、理にかなっておるやも知れん〗


 何か解らない言葉がちょこちょこ混じっているな。

 多分、古語だろう。


 (いささ)か?

 前後の内容から小さいとか少量って意味かな?


 (そば)む?

 ズラすって意味合いかな?


「そうですか……

 じゃあ、そ」


〖で、どうするのである?〗


 天照(アマテラス)様が被せて口を開いた。


「え……?

 どうする……

 ……って?

 隕石を堕として欲しいんですが……」


〖たわけっ!

 そちが考えたのは天の(いわ)を堕とすと言う事だけであろうが!

 規模やどの様な(いわ)を堕とすかまでは考えておらんであろう!

 そんな面倒な事まで(ちん)に押し付けるでないわっ!〗


 あ、そういう事か。

 天照(アマテラス)様のいう事ももっともだ。


 ……規模か。


 天照(アマテラス)様の言う事には隕石を落下させる事自体にはそんなに魔力は使わないらしい。


 ならその分、隕石の大きさや質とかに割ける。


 まず、考える事は大きさ。

 大きさか……


 そんな事を言われても皆目、見当がつかないな。

 確か恐竜が絶滅した隕石……


 名前、何て言ったかな?

 あぁ、そうだ。


 チクシュルーブ。

 チクシュルーブ隕石。


 大きさは約10キロ。

 衝突エネルギーはヒロシマ型原子爆弾の10億倍。


 付近で発生した地震はマグニチュード11以上。

 発生した津波は300メートルに達したって前にネットで見たっけ。


 そりゃ恐竜も滅ぶよなって絶句したのを覚えている。


 ……って言うか簡単に隕石を堕とすとか考えたけど……

 これってもしかして大きさを見誤ると……



 地球が滅ぶ事にもなり兼ねないんじゃ……



 ここで僕は事の重大さを痛感。

 ちらりと天照(アマテラス)様の顔を見る。


 目をキラキラ輝かせて、僕をじいっと見つめている。

 この表情に僕は違和感を覚えた。


 天照様(この人)は地球がどうなっても良いって言うのか?

 神様だから、そんな事は取るに足らない事と切り捨てるのか?


 ……いや、そんな事は無い筈。


 確か日本神話だと日本て国は伊邪那美(イザナミノ)(ミコト)伊邪那岐(イザナギノ)(ミコト)が創ったんじゃなかったっけ?


 そもそも神話なんだから話自体信じられるものじゃない。

 けど、目の前に天照(アマテラス)大神(オオミカミ)がいるんだ。


 信じざるを得ない。

 で、その二人が日本を作ったとして……


 天照(アマテラス)様ってその二人の娘じゃなかったっけ?

 親が創った国をみすみす壊すような事を見過ごすだろうか?


 ……多分、違う。


 少なくとも自分の親が創ったものが壊されるなんて事になった場合、こんな表情はしない。


 ……ん?

 今……


 薄っすらと表情が変わった様な気が……


 あ、また。

 また表情が。


 今度は完全に変わった。


 図星を突かれた。

 簡単に言ったらギクッという表情に変わったぞ。


 何か汗も流し始めてる。

 あれ、冷汗か?


 神様も冷汗って流すんだな。


 ……って事は地球が壊れない。

 影響が無い?


 それは天照(アマテラス)様の力でか?


 いや、それも違う。

 さっき面倒な事を押し付けるなと言った。


 って言う事はあくまでも手助けするのは僕の指定した事だけ。

 それも僕の魔力を使って。


 なら他の要因で地球への影響を打ち消すか軽減できるって事。

 でも、隕石落下の破壊衝撃に影響を及ぼす程の存在って何だろう?


 …………あ、いた。


 ダイナか。

 もしくは八尾(ロード・エイス)か。


〖主はん、流石どす。

 いっつも細かい(こまい)事、あーじゃこーじゃ考えとるだけはありまんなぁ。

 概ね正解どす〗


 やっぱりそうか。

 でもどっちなんだろう。


 やっぱりダイナか?

 それとも両方?


〖ダイナ言うんは、主はん側に付いとるトカゲの親玉でっしゃろ?

 そっちでは無いどす〗


 え?

 じゃあ八尾(ロード・エイス)か?


 何で?


〖それはう〗


〖だーもーっ!

 久久能智(ククノチ)ばっかり侏儒(しゅじゅ)と話してズルいのであるっ!

 (ちん)侏儒(しゅじゅ)と言葉を交わしたいのであるっ!〗


 あ、天照(アマテラス)様が癇癪を起した。


〖癇癪など起こしておらんっ!

 大体、侏儒(しゅじゅ)を招いたのは(ちん)であるっ!

 何で久久能智(ククノチ)が喋るのであるっ!

 それを言うのは(ちん)の役割であろうっ!?〗


〖そないな事言わはりましても。

 だって(アマ)はんが言わはりませんもん。

 主はんの考え楽しもうとして、勿体付けよるんですから。

 時間無い言うてんのに悠長な話で敵わん(かなん)なあ思て、うちが話、進めたんどす〗


〖だって……

 だって……

 せっかく(ちん)が招いたのに……

 全然、侏儒(しゅじゅ)と語れておらん……〗

 挿絵(By みてみん)

 あぁ、今度はションボリしちゃったぞ。

 何かいたたまれない。


〖あーもー、高天原の主宰神ともあろうお方がしょげててどないするんどす。

 ホレ。

 うちでは何で、あんトカゲがそないなマネしとるかまでは解りまへんねんから。

 そこら辺、アマはんやったら解りますやろ?

 で、主はんもそこ知りたい所やろ?〗


「う……

 うん、知りたい」


〖そ……

 そうかっ!?

 フフン、ならば教えて進ぜよう。

 まず侏儒(しゅじゅ)と変怪がおった辺りは妙な領域に覆われておる〗


「領域?

 結界みたいなものですか?」


〖結界……

 まぁ(ちん)達の扱う結界に近しい代物ではあるな〗


 オタ知識からの引用だったけど、本当に結界ってあるんだ。

 前の僕ならテンションが上がって色々聞いてたんだろうな。


 けど、今の僕にとってはどうでもいい。

 それに時間も無いんだ。


「で、その領域を展開したのは八尾(ロード・エイス)で間違いないんですか?」


(ちん)天照(アマテラス)大神(オオミカミ)ぞ?

 違える訳がなかろう。

 八俣遠呂智(ヤマタノヲロチ)に似た大ヲロチ。

 彼奴(きゃつ)が張った領域である〗


 ヤマタノオロチ。

 スサノオが対峙した八つの頭を持つ大蛇。


 本当に僕は天照(アマテラス)大神(オオミカミ)と話してるんだな。

 色々と神話とかで見知った名前が出て来る。


「何でそんなマネをしたんです?

 僕が見た時は力が全てみたいな性格で、地球がどうなろうと構わないと思ったんですけど」


〖ん?

 侏儒(しゅじゅ)よ。

 それは見識が浅はかであるぞ。

 確かに彼奴(きゃつ)の気性は須佐之男(スサノオ)の阿呆とよく似ておる。

 が、別に大地を(こほ)したい訳ではないのである。

 侏儒(しゅじゅ)よ、覚えておくがよい。

 力と破壊は必ずしも同義と言う訳では無いのであるっ!〗


 フフンと得意気にドヤ顔の天照(アマテラス)様。


 じゃあ、八尾(ロード・エイス)は地球を護る為にその領域を張ったって言う事か?

 つまりそれだけ太陽風(ヴェントソラーレ)の威力が強かったという事か?


〖左様。

 まあ領域を張った理由はそうなのではあるが……

 ……侏儒(しゅじゅ)よ。

 自分の力の事をまるで考えておらん様であるが、そちの一撃も勝るとも劣らん威力を持っておったのであるぞ?〗


 ……ん?

 あれ?


 これって……

 天照(アマテラス)様、フォロー入れてくれてるのかな?


 あ、ほんのり頬が赤い。

 多分そうなんだろう。


「あ……

 ありがとうございます……」


〖フ……

 フン、そちがあまりにも身を果つる思考をしておったからである。

 陰の気を纏うたままの考えを見ておるとこちらも滅入ってしまうからじゃっ!

 (ちん)は神域、高天原を統べる太陽神、天照(アマテラス)大神(オオミカミ)なるぞっ!

 その(ちん)がたかが人間風情に気を使うとでも思うたかっ!〗


 何だろう?

 ツンデレって神様でも適用される概念なんだな。


〖あんさんら、時間無い言うとるやろ。

 わちゃわちゃいつまでもやってんと話を進めなはれや〗


 ここで久久能智(ククノチ)からぼやきが飛ぶ。


 そうだ、いかんいかん。

 話を進めよう。


天照(アマテラス)様、その領域と言うのは具体的にどういうものなのでしょうか?」


〖グッ……

 久久能智(ククノチ)めぇ……

 あやつの言ってる事ももっともであるが……

 あの敬いの欠片も感じられん言い回しは何とかならんのか……

 はっ?

 すまんすまん、ヲロチの張った領域についてであるな。

 彼奴(きゃつ)の領域はあらゆる力場を遮断する〗


 力場?

 エネルギーの事か?


 エネルギーを遮断。

 だから隕石の衝撃も遮れるって事か。


〖左様〗


 ……待てよ?

 じゃあ隕石も入り込む事が出来ないんじゃないのか?


 あんなもの、エネルギーの塊じゃないか。


〖安心せい、彼奴(きゃつ)の領域はどう言う訳か物の動きには働かんのである〗


 物の動き?

 つまり運動エネルギーだけは例外って事か。


 なるほど。


「そういう部分も見越した上で隕石を堕とす事を理にかなっているって仰ったのですね。

 天照(アマテラス)様、流石です」


〖ふふん、そうであろそうであろぉ?

 (ちん)は凄いのであるっ!

 久久能智(ククノチ)と違って侏儒(しゅじゅ)の態度には敬いを感じるのであるっ!

 気分が良いのであるっ!〗


 だったら、地球への影響は気にせず、魔力を使えるという事だ。

 なら、まずは大きさから考える。


 恐竜が絶滅するサイズで10キロメートル……

 いくら何でもこれはやり過ぎか。


 種族を根絶させて惑星環境を激変する程のエネルギー。


 そんな代物を単体に堕とす。

 多分、着弾点付近で形は残っていない。


 生物も。

 ビルも。


 木々も。

 地面も。


 大気も。

 他のエネルギーすら。


 全て呑み込んで消し飛ばす。

 もうこれは堕とす堕とさないとかの話じゃない。


 10キロで大き過ぎる……

 となると半分?


 5キロか?


〖おい、侏儒(しゅじゅ)

 色々思案しておる所、悪いのであるが……

 2里半(10キロ)や一里余(5キロ)もの巨大な天の(いわ)()()()()無理であるぞ〗


 え?

 何で?


 さっき軌道をズラすだけなら(かて)(魔力)は少なくて済むって言ってたのに。


(かて)の問題ではない。

 一言にて言えば、遠過ぎるのである。

 (ちん)が力を使うのは侏儒(しゅじゅ)が現世に舞い戻ってからである。

 つまりあの変怪の放つ焦熱の海に舞い戻ってからと言う事である。

 侏儒(しゅじゅ)よ、この意味が解るか?】


 ……なるほど、そういう事か。


 まず10キロや5キロもの巨大な彗星が浮遊している地点が地球から離れている。

 従って、いくら隕石を堕とせると言ってもタイムラグが発生する。


 何故それが無理って結論になるのか?

 それはつまり……



 僕の身体がもたないって事だろう。



〖正解じゃ。

 彼奴(きゃつ)の放つ熱は赫奕(かくやく)たる焔の極と言えるほどのものである。

 いくら身体が(かて)の塊に成っておると言っても侏儒(しゅじゅ)の存在ごと焼き尽くす〗


 この話を聞いて、今までの僕なら恐怖に竦み上がっていた。

 けど……


 今の僕は全く心が揺り動かなった。


 僕の存在が消える?

 ()()()()()()()()あのモナルカ(バケモノ)を倒せるなら安いものだ。


 天照(アマテラス)様の力を借りても結局の所、やる事は変わらない。

 僕とモナルカの消耗戦。


 だったら根本的に考え方を変えるか。


「……天照(アマテラス)様。

 天の(いわ)が落下するまで3分の距離で一番大きなものはどれぐらいですか?」


侏儒(しゅじゅ)よ、神に人間風情の時の刻み方など解る訳がなかろうが。

 サンプンとか一体どれぐらいなのである?〗


 それもそうか。

 えっと……


 何か適当な言葉があったかな?


「えっと……

 あぁ片時ですよ片時。

 片時で落下する距離にある天の(いわ)で一番大きいのはどれぐらいでしょうか?」


〖何じゃ、サンプンとは片時の事か。

 それならそうと最初から申せばよいのに。

 ……フム。

 そちの言い分に当てはまる天のいわ

 大きさはおおよそ一里と言った所である〗


 一里……

 ってどれぐらいだっけ?


 確か4キロぐらい。

 おおよそ、チクシュルーブ隕石の半分弱。


 単純な計算で原子爆弾の五億倍のエネルギー。

 よし、それぐらいあれば十分だろう。


「じゃあ、それをモナルカの頭上に堕として下さい……」


〖それで良いのであるか?〗


「はい……

 お願いします……」


〖……侏儒(しゅじゅ)よ、そちは勘違いしておらぬか?

 天の(いわ)が墜ちなば、侏儒(しゅじゅ)の身など芥も残らん。

 それは身体が糧と化したとて同じ事であるぞ?

 確かに天の(いわ)を堕とす事は理に適うとるやも知れん。

 が、それは元より侏儒(しゅじゅ)の身を顧みぬ話。

 やろうとしている事は道連れに他ならん。

 それは解っておるのか?〗


「え?

 あ、はい。

 それは()()()()()()()()()


 そんな事、とうに理解している。

 隕石を堕とそうとしているんだ。


 落下点にいる僕が無事でいる訳が無い。

 最初から僕もろとも、モナルカを地獄に引きずり込むつもりだ。


 今更、命が惜しいだなんて微塵とも思わない。

 暮葉を死なせてしまった僕の命に価値は無い。


 心残りだった地球への影響が無いと解った今。

 躊躇する理由が見当たらない。


〖……フム、失意の底に落ち、気色を失のうたヒトとはこうなるのか……

 興が湧く。

 あい、解った。

 望み通り降らせてやる……

 が、侏儒(しゅじゅ)は知らん。

 存在が消えてゆく恐怖は痛みなどとは次元が違うぞ……?

 果たして身を捧げたその振る舞い……

 似非(えせ)か真か。

 しかとこの眼で見させてもらうとしよう〗


「は……

 はぁ……

 どうぞ……」


〖……怖がらんのか。

 そちは既に人の身では無く、ほぼ糧の塊と化しておる。

 まともに黄泉比良坂ヨモツヒラサカも歩めん。

 待っているのは完全なる無であるぞ?

 にも関わらず、微塵も恐怖せんのか。

 単なる阿呆か?

 いや、気色が無いせいか。

 ……気色を失のうてるのは解るが、何とも面白くない(あぢきない)のう……

 もうよい、ではそろそろ時間である〗


「あ、最後に一つお願いと言うか確認をしたいんですが」


〖何であるか?

 褒美の代わりか?

 侏儒(しゅじゅ)、身の程をわきまえぬか〗


「あ、いや。

 そう言う訳ではないんです。

 先程、隕石を扱うのはあまり糧を使わないと仰ってたじゃないですか。

 だったら余る糧もあるんじゃないかと思いまして。

 それは僕に返してもらえるのかなって」


〖ん?

 確かにそちの言う通りじゃ。

 余った糧は戻してやろう〗


「……ありがとうございます」


〖では、そろそろ侏儒(しゅじゅ)の意識が現世に戻る。

 これでお別れなのである。

 もう(ちん)らと語らう事もあるまい。

 久久能智(ククノチ)別れの挨拶(いとまごい)もあろう。

 早々に済ませるがよい〗


 ん?

 今、何て言った?


 いとまごい?


 (いとま)を乞う?

 (いとま)…………


 あ、もしかして。

 お別れって事か。


「ありがとうございます。

 久久能智(ククノチ)


〖はいな〗


「今まで僕について来てくれてありがとう。

 思えば横浜の頃からだからほんの数か月だけど、お前とはもっと長い付き合いのような気がするよ」


〖まぁうちらとも色々ありましたからなぁ。

 ……フフフ、最初の主はんときたら(ミソギ)もせんとうちと絡もうとしはって傑作でしたなぁ〗


「そう言えばそんな事もあったね。

 それで急いで禊をして、主従関係を結んで……

 震災とか中田の時とか奈良の時とか。

 ホントいつも力を貸してくれて感謝してるよ」


〖感謝なんかする必要おまへん。

 そもそも主はんとは主従の間柄なんやし。

 ちょこちょこガレアはんの糧も摘まませて貰いましたし、三輪の明神さんにも連れてってくれはったし。

 それなりに楽しかったどすえ〗


 三輪の明神?

 あぁ、大神神社の事か。


 もともと奈良に出向く事になったのは久久能智(ククノチ)がねだったからだっけ。

 何か懐かしい。


 参照話:第百八十八話。


「そう……

 本当なら……

 ここで涙でも流す……

 んだろうけど、ごめん。

 別に寂しいとか悲しいとか無いんだ。

 お前ともう会えなくなるって言うのに。

 真・絶招経で多分、僕の中から感情が消えてしまったせいだろうね」


〖そらまぁご丁寧にどうも。

 でも、うちからしたら訳解らん事を頭ん中でウジウジとずっとこねくり回しとるよりかはよっぽどマシやと思いますけどなぁ。

 ここでオンオン泣かれてもどないしてええか解りませんもん〗


「……相変わらず言葉キツいね。

 まあその方が久久能智(お前)らしいか」


〖何を今更言うとるんどす。

 ホレ、そろそろ戻らはるんでしょ?

 とっとと戻ってあん変怪の終いを見届けてきぃ。

 最後まで手伝えへんのはちょお、心苦しい(きづづない)トコも無くは無いけんど、あんじょう気張りやし〗


「うん、じゃあ……

 ……ね久久能智(ククノチ)

 他の精霊達(みんな)にもよろしく言っといて」


〖そない面倒な事はいやどす。

 ほなお達者で〗


 最後までブレずにクールな久久能智(ククノチ)

 そう言えば最初に聞いた久久能智(こいつ)の言葉もいやどすだったっけ。


「お前は本当に最後まで変わらないね。

 まあいいよ、好きにしてくれ。

 天照(アマテラス)様、終わ……」


 僕は言葉を途中で止めた。

 目線の先にいる天照(アマテラス)様の様子が変わっていたからだ。

 挿絵(By みてみん)

 ……何か肩をすぼめて、歯がゆそうな顔。

 悔しい?


 いや、もっと違う印象だ。


〖グヌヌ……

 (ちん)の眼の前であたかも夫婦(めおと)かのような振る舞いを見せつけおってぇぇ……〗


 え?

 嫉妬?


 いや……

 だって天照様(あなた)が別れの挨拶をしろって言うからしただけなのに。


(ちん)は妬んでなぞおらんっ!

 でも……

 でも……

 侏儒(しゅじゅ)(ちん)が招いたのであるっ!

 久久能智(ククノチ)とばかり睦まじくしてズルいのであるっ!〗


 ついには寝転がって駄々をこね始めた。

 正直どうしよう。


〖よっこいさ……

 ……っと〗


 そんな中、素早くしたから両手を差し入れ、天照(アマテラス)様を持ち上げる久久能智(ククノチ)

 両脇から抱えられている。


 何だこれ?


〖何をするのであるっ!

 降ろせっ!

 降ろすのであるっ!〗


 久久能智(ククノチ)の手の中で激しく身体を捻じる天照(アマテラス)様。

 まるで抱きかかえられるのが嫌な仔犬だ。


〖いやどす。

 これ以上、我がまにまに(我儘)しやるんでしたら……

 ……伊邪那美(イザナミ)はんを呼び付けますえ?〗


〖ナァッ!?

 クッ……

 久久能智(ククノチ)ッ!

 それはやめるのであるっ!

 ハハを呼ぶ事だけはやめるのであるっ!〗


 途端に焦り出す天照(アマテラス)様。


〖その焦り方……

 もしかして……

 何か……

 ……秘め事でもあるんどすか?〗


〖なななっ……

 何を申すかっ!

 (ちん)は太陽神なるじょっ!

 ヒュメゴトなんてある訳がなかろうっ!〗


 そう言う天照(アマテラス)様の表情は焦り顔。

 若干どもっている。


 秘め事?

 隠し事って事かな?


〖あぁ、そこら辺は主はんに関係ない事どす。

 高天原の珍事ぐらいに思ててくんなはれ。

 ホレ、(アマ)はん。

 最後ぐらいビシッと決めなはれ。

 そしたら伊邪那美(イザナミ)はん、呼んだりしまへんから〗


〖真かっ!

 真であるなっ!

 もしウソだったら(ちん)は泣くからなっ!

 久久能智(ククノチ)らが(おのの)くぐらい泣き叫んでやるからなっ!〗


 両脇を抱えられてる段階でビシッとも何もないと思うけど。


〖アホな事言うとらんとさっさとしんさい〗


〖う……

 うむ、では侏儒(しゅじゅ)よ。

 大儀であったっ!

 そちの奮闘を十万億土の果てから見守うておるぞっ!〗


 両脇を抱えられながら右手を掲げる天照(アマテラス)様。

 右手から光が溢れ、辺りを呑み込んでいく。


 鮮烈な白色光が僕の意識を呑み込んで、渦を巻く。



 プツン



 やがて意識が一瞬、途切れる。


 

 ###

 ###



 東京都〇■区。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッ!


 入れ替わる様に闇の外から聞こえて来るのは、途轍も無く巨大で広大な地鳴り。

 横浜大震災の時なんて比べ物にならない。


 世の終わりを感じさせるような音。


 戻って来た。

 意識を取り戻した僕の眼に映ったのは光。


 猛烈に激しい光。

 自分が何処に戻って来たかも解らない。


 上か下か。

 右を向ているのか左を向いているのか何も解らない。


 痛みや熱は全く感じない。

 けど、強烈な閃光の圧は感じる。


 周囲に形作るものは何も見えない。


 けど、僕の位置から少し離れた箇所。

 そこに見える影。


 ヒトの形をしたその影は両腕を大きく広げて仰いでいるように見える。


 ……モナルカだ。

 モナルカ・バルバッツァーノ。


 影を中心に放射状に広がる光の波。

 螺旋状にうねり、何度も何度も拡散。


 まるで空間へ膨大なエネルギーを行き渡らせる様に。


 ……駄目だ。

 この光の波は駄目だ。


 この波は僕を……



 ()()



 光波が身体を透過する度に僕を持って行く。

 僕の意識、感覚、記憶。


 僕を形成する全てを削り取って行く。

 少しずつ、少しずつ。


Ma dai(おいおい)……

 リュージ……

 まだ、そこにいるのかい……?

 驚いたよ……

 この太陽風(ヴェントソラーレ)の中でも存在していられるなんて…………」


 モナルカの声。

 何処から聞こえているかは解らない。


 けど、確実に聞こえる。


 聞いている間も放射状に広がる光波は何度も僕を透過。

 その度に僕を()()()()()


 削り取って行く。


 やがて言葉を理解する事も出来なくなるのだろうか?

 解らない。


 解らないだけに…………



 怖い。



 足元から強張る。

 僕の中心がギュッと掴まれる様に縮こまる。


 怖い。

 僕が削り取られていくのが怖い。


 世界が、次元が僕の存在を無かった事にしている様な感覚。

 消しゴムで消される鉛筆の線の様に…………


 僕が消えて行く。


 力が尽きていくんじゃない。

 血を流し過ぎてる訳でも無い。


 死の予感がするのでも無い。


 ただ、僕が……

 シンプルに削り取られて行く。


 怖い。

 怖い怖い怖い。


 怖い怖い怖い怖い。

 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。


 死の様な黒いイメージも湧かない。

 削られて削られて……


 最後に残るのは何も無い。


 無。

 空虚。


 死とは明確に違う。


 言葉にすると難しいけど、死ぬって死って言う事が()()気がする。

 けど、僕の結末は違う。


 何も残らない。

 消えて失う。


 どうなるのか具体的には解らない。

 けど、死とは明らかに違う結末。


 それだけは感覚で理解してしまう。

 理解できてしまう事が堪らなく恐ろしい。


「モナルカ……

 かなりキツいけど……

 僕はここにいるぞ……

 声は聞こえてる……?」


「あぁ……

 聞こえているさ……

 解っている……

 解っているぞォ……

 リュージィ……

 見なよ……

 何て魔力は素晴らしいんだ……」


 グラァ……


 !?


 声が聞こえたと思うと、モナルカの影が体勢を崩す。

 これはもしや……


「余裕ぶっているけど……

 モナルカ(お前)もこのパワーに耐えられないんじゃないのか……?」


 太陽風(ヴェントソラーレ)も真・絶招経と同じ。

 死なば諸共の特攻スキルか?


「それは……

 どうかな……

 正直な所……

 我にも解らないよ……

 なぁリュージ……

 まだそこに居るんだろ……?

 声を聞かせてくれよ……」


「あぁ……

 僕はまだここにいる……

 ここにいるぞぉっ!」


 僕とモナルカ。

 奇妙な会話。


 僕らは敵同士。

 殺し合う関係の筈なのに。


 今している事は互いの存在確認。

 まるで猛吹雪の中、クルーが起きているかを確認するように。


 おかしなやり取りを続けてる間も光波は絶えず、放射状に拡散。

 僕の身体を透過する度、存在を削っていく。


 少しずつ、少しずつ。


 身体が縮んで行くのが解る。

 感覚も、じわりじわりと端からぼやけて来ている。


 怖い。


 端から無に溶け込んで行くイメージとでも言うのだろうか。

 無に溶けた僕の欠片は戻って来ない。


 絶対に。

 感覚で解る。


 怖い。


 痛みや苦しみは全く無い。

 ただ自分が削れるだけ。


 削れて無くなるだけ。


 真・絶招経を発動した段階で僕の死は確定している。

 それは良い。


 元より覚悟していた。


 前に臨死体験をした人の印象や感想をネットで見た事がある。

 割とポジティブなものが多かった事に驚いた事を覚えている。


 感覚が超鋭敏になったり、安らかな草原や光の中に意識が飛ばされたり、人生の再体験をしたり。


 総じて安心、至福に包まれたり、死への恐怖が無くなったという感想が多かった。

 平和的な印象。


 だけど……

 今、僕が体験しているのは違う。


 もう臨死と呼べるかどうかも怪しい。


 先にあるものは虚無。

 何も無い。


 安心?

 至福?


 そんなもの感じれる訳が無い。


 もちろん、臨死体験の中にはネガティブなものもあった。

 孤独感や絶望感が強い体験。


 けど、それすらも及ばない。

 何故なら、それらは孤独や絶望を()()()()()()()()


 感覚や意識が明瞭になることも無い。

 そもそも感覚が朧気になり始めているんだ。


 見る事も聞く事も発する事も。

 嗅ぐことも感じる事も考える事すら。


 無に溶けていく。

 絶望や孤独感も全て。


 

 虚無に融解していく。

 その事が恐ろしい。



 だから……

 怖い。



 ■△秒後。



 ヤバい。

 もう身体がどうなっているかわからない。


 感覚も朧気になって来た。


 僕が戻ってどれぐらい経った?

 時間の感覚なんかとうに失っている。


 太陽風(ヴェントソラーレ)に晒されてから、数秒のような気もするし、数時間経っている気がする。


 僕を削り取る光波は未だ拡散を続けている。

 …………


 思考も…………

 途切れ…………


 途切れに…………

 なって……


 …………来た……


Ma dai(おいおい)っ!

 リュージィッ!

 どうしたんだァッ!?

 声が聞こえなくなったゾォッ!

 もう終わりッッ…………

 ……ッッかァッ!?」


 モナルカの声が響く。

 ここで僕の意識が再び持ち直し始めた。


「…………ッッまだまだァッ!

 モナルカァッ!

 お前こそっ……

 声に余裕がァッ……

 無くなって来てるぞォッ!

 人の心配してる場合かァッ!」


 モナルカの声はかなり辛そうだ。

 言葉に言葉を返し、互いの存在を確認する。


 この時の僕らの関係は単なる敵味方を超えていたのかも知れない。


「……フッ……

 そう言えばっ……

 こんな時だけどっっ……

 一つ質問っ……

 していいかいっ……?」


 この局面でモナルカからの質問。


「何……

 ……っだよっ!?」


 感覚が朧気になり、眠たくないのに眠気に襲われている様な。

 奇妙な感覚が僕を包んでいる。


 意識を保つために僕は会話を続行。

 眠気を振り切るように返事を言い放つ。


「最後っ……

 我が太陽風(ヴェントソラーレ)を仕掛けた時、リュージもっ……

 何か攻撃して来ただろっっ……!?

 あの時……

 今まで見た事が無いぐらいにっ……

 濃密で澄んだ大量の魔力を感じたんだっ……

 けどッ……

 その魔力は一瞬で消えたッッ……

 我は何にも感じなかったッ……

 ナァ……

 あの魔力は何処に行ったんだい……?」


「それはっ……

 ()()()に使った……

 何に使ったかはっ……

 上手く説明できないっ……

 けどっ……

 僕のっ……

 正真正銘、最後の攻撃をっ……

 する為の呼び水として使ったっ……

 ……とだけ言っておくよっ……」


 会話を続けた事で意識が僅かに形を取り戻す。

 まだ……


 まだ行ける!


「ヨビミズ……

 ってのはよくっ……

 解らないけどっ……

 何か攻撃を仕掛ける為にっ……

 使ったって事でっ……

 良いのかいっ……?」


「あぁっ……

 そういう事でっ……

 ……ッッ構わないっ!」


「……Curioso(面白い)ォッ……

 太陽風(ヴェントソラーレ)の中でっ……

 まだ何かを仕掛ける気なのかいィッ……?

 それはもちろんGasat()issimo()な一撃なんだろう……

 そりゃあ、熱に焦がされてる場合じゃっ……

 無いようだネェッッッ!」


 !?


 モナルカの様子が変わった……

 気がした。


「……グゥッッ!

 ちょっとまだ無理だったかな……?

 ハァッ……

 ハァッ……

 でもリュージ……

 我は持ち直したぞ……

 ウゥッ……

 さぁ来い……

 どんな攻撃でも受け止めてやろう……

 アァッ……」


 時折、苦しむような呻き声が入るも、言葉は途切れ途切れじゃない。

 また饒舌に戻っている。


 ……解った。

 モナルカ(こいつ)……



 魔力の供給速度を上げたんだ。



 単純に循環する魔力の量が増えたから持ち直した。

 太陽風(ヴェントソラーレ)の高エネルギーに晒されても耐える肉体に再構成したのか。


 でもその量は今のモナルカにとっても許容量ギリギリなんだ。


 太陽風(ヴェントソラーレ)の極大熱に何とか耐える事が出来たけど、代わりに中で駆け巡る魔力の負担に苦しんでるって事だろう。



 ###

 ###



 日本で太陽風(ヴェントソラーレ)の超々極熱の海に晒されている竜司はただひたすら待っていた。


 天照(アマテラス)大神(オオミカミ)との約束。

 隕石の飛来を。


 遥か遠く宇宙では既にその約束は果たされ、直径四キロの超巨大隕石は真っ直ぐ地球に向かっている最中。


 その動きにいち早く気付いていたのは世界。

 物理法則を完全に無視した動きに、主要局にいる人々は騒然となりつつあった。


 いや、騒然となっていたのは束の間。

 既に諦観の域に達し、その場から動けずにいた。


 ハワイのPAN-STARSも。

 ワシントンDCの惑星防衛調整局も。


 カリフォルニアの近地球天体研究センターも。

 緊急連絡を受けたホワイトハウスですら。


 直径4キロもの超巨大隕石が残り1分弱で落下する。


 この唐突で絶望的な事実に為す術無く、固唾を吞んで見つめるしか出来なかった。

 モニターを見つめる職員の内、誰かが呟いた。


 衝突の冬が来ると。


 そう、直径4キロもの巨大隕石が落下すれば巻き上がる粉塵や蒸発した岩石等が成層圏まで達し、太陽光を遮ってしまう。


 数年に渡り、太陽の光を浴びなくなった地球は気温が10℃以上低下、衝突の衝撃で酸素と窒素が反応を起こし、強力な酸性雨を降らせる。


 これが俗に言う衝突の冬である。

 地球規模の環境激変。


 4キロもの巨大な隕石が落下すると言う事はこういう事である。


 NASAの自動監視システムSentryにより、軌道ルートは既に判明。

 場所は日本の東京。


 しかも直上から真っ直ぐ落下すると言う計算結果。


 これは地球の自転、公転と落下が完全に一致しないと有り得ない、限りなくゼロに近い確率。


 数千億分の一というもはや超自然現象と称せる事象。


 言い替えれば神の罰。

 天罰、神罰に近い。


 主要局にいる職員の中で神に祈りを捧げる者もいた。

 それぐらい在り得ない絶望的な状況と言う事。


 職員の中で誰かが呟いた。


 日本は幸運だ。

 この先の地獄を味わわなくて済むのだからと。


 落下すれば直径70~90キロのクレーターを形成し、関東平野全域の可燃物は一瞬で発火し灰と化す。


 東京、埼玉、神奈川、千葉は巨大な穴と変貌。


 東京湾の海水は蒸発。

 太平洋の水が深さ数キロに及ぶ穴に雪崩れ込む事となる。


 被害はこれしきで留まる訳も無く、日本列島はマグニチュード10~11と言う未曾有の大地震に見舞われ、家屋倒壊、大規模な地滑りが各所で発生。


 更に熱圏近くまで舞い上がった岩石や土砂が炎を纏い、天空から降り注ぐ。

 要は日本が壊滅するという事。


 その事を察していた職員はやがて来る衝突の冬を体験しなくて済む為、却って幸運では無いかと考えたのだ。


 だが、この職員は知らない。

 現在、日本が置かれている状況を。


 B.G(ベーゼゲワルト)、モナルカ来日による国民総退避と言う大胆な措置を行っている事を。

 国民のほとんどは船で国外に退去している。


 仮に今、隕石により日本が壊滅すれば一億近い国民は全て難民と化す。

 

 つまり、幸運どころか極めて不運。

 より悲惨な状態で衝突の冬を体験する事である。


 あと十数秒で日本と言う国が消え、地球環境が書き換わると言う絶望的な状況。


 それを知る誰しもが短いカウントダウンが刻まれる中、茫然としているしか出来なかった。


 そして無機質に無情に。

 その時は訪れる。


 東京直上から直径4キロの超巨大隕石落下。

 後にこの隕石はカプリース飛来体と呼称される。


 カプリース。

 意味は気まぐれ。


 正体不明、原因不明のこの現象は神々の気まぐれで起きたものだと晩年まで語り継がれる事となる。


 飛来体となっているのは隕石かどうか不明だから。

 何故なら…………


 破片や痕跡などが一切発見されなかったからである。



 ###

 ###



 数秒前 東京都〇■区



 まだ……

 か……?


 流石に……

 意識が……


 霞んで……


「どうしたんだい……?

 グゥッ……

 ハァハァハァッ……

 リュージ……

 声が……

 アァッ!

 ハァッ……!

 聞こえなくなったぞ……?

 Ma dai(おいおい)……

 最後の攻撃とやらを仕掛ける前に……

 消し飛んでもらっちゃあ……

 ウゥッ!

 ガフッ!

 ゲホッ!

 ゲホッ!

 ゲホッ!

 ……困るぞ……」


 再びモナルカの呼びかけで意識を僅かに繋ぎ止める。

 向こうも相当キツそうだ。


 激しく咳込んで……

 咳?


 まるで人間みたいな反応だ。

 咳で一体何を外に出そうと言うのだろう?


 血を吐こうにも血は通ってないのに。


「何をっっ……

 言っているゥッ!

 僕はァ……

 まだまだァッ……

 平気だァッ……

 モナルカこそっっ……

 どうしたっっ……?

 相当ッ……

 無理してるんじゃないのかァッ……!?

 まるで人間みたいにっ……

 聞こえるぞっ……」


「何を言ってるんだいリュージは……

 ガァッ……!

 グゥッ……!

 こんな時に…………」


 呻き声が混じるモナルカの声が唐突に止む。


「モナルカ……?」


「……Ma dai(おいおい)……

 リュージ……

 まさか……

 最後の攻撃って……

 ()()の事かい……?」


 モナルカの様子が変わった。

 この変化に僕ははっきりと確信を持つ。


「あぁ……

 そうだ……

 これだけの質量……

 弧状衝撃波面(バウショック)もクソも……

 ないだろう……

 お前の言っていた通りだ……

 望み通り……

 大きなエネルギーを用意してやったぞ……

 それも圧倒的な……」


 間に合った。

 薄れゆく僕の意識の中で浮かんだ言葉。


 これで全てが終わる。

 これでモナルカを……


 殺せる。


「……Gasat()issimo(高だ)ォッ!

 リュージィッ!

 Spetta(素晴らし)colare(過ぎる)ェッ!」



 ズンッッッッッッッッッッッッッッ!



 もはや僕には視線を変える事も出来ない。

 それどころか目も視えて……


 いや、目が存在しているのかも解らない。

 だけど……


 空から来る途轍も無い圧は感じる。

 その圧は桁外れに強く、そして果てしなく広大。


 まるで世界を圧し潰さんとする勢いを感じる。


 正体が何なのか目で確認する事はもう出来ない。

 でも……


 モナルカの反応とこの破滅的な圧で解る。


 多分、どんな超人でも……

 いや、どんな生物だろうとも耐える事は出来ないだろう。

 挿絵(By みてみん)

 これが僕が望んだ事。

 巨大隕石落下。


 あぁ、良かった……

 天照(アマテラス)様はきちんと約束を守ってくれた……


 僕の感覚はほぼ無くなっている。

 辛うじて活きてるのは天空から押し寄せる強大無比な圧を感じる微かな触覚と。


「グゥッ…………!

 ノォォォッ……!

 ガァァァァッ……!

 グォォォォッ……!」


 モナルカの断末魔を聴く聴力と。


「どうだ……?

 モナルカ……?

 言ってたよな……?

 結局……

 争いってのはエネルギーの押し合いだって……

 なら、逆らってみろよ……

 抗ってみろよ!」


 モナルカに思いの丈をぶつける為の言葉だけ。

 この時、発した言葉は覚えている。


 感情をほぼ無くした僕から出たセリフは隅に残った感情のカスを寄せ集めた(あざけ)り混じりの煽り言葉。


 そして……


「……安心しろよ……

 僕だけ勝ち逃げなんてマネはしない……

 一緒に消えてやるよ……

 ……さあ、モナルカ……

 一緒に逝こう……」


 モナルカと共に消える覚悟の言葉。

 そこに恨みなんか無い。


 暮葉を殺された事で殺意を抱いていた。

 けど、そんな気持ちは既に僕の中には無かった。


 ただ、このまま一緒にこの世から去ろう。

 そんな想いで発した言葉。


「リュゥゥゥゥゥジィィィィィッッ……!

 リュゥゥゥゥゥジィィィィィッッ……!」


 聞こえるモナルカの声には悔しさも混じっている気がする。

 そんな声を聴いて微かな申し訳なさも感じていた。


 モナルカは恨みを持って挑んだ相手なのに。

 何度も酷い目に遭わされ、最愛の人を殺された筈なのに。


 お互い太陽風(ヴェントソラーレ)の中で声を掛け合っていたせいか、友情……

 とまでは行かない。


 何処か戦友みたいな気持ちも微かに抱いていたのかも知れない。


 だけど、限界を迎えているのはモナルカだけじゃない。

 僕も同様。


 あぁ……

 霞む……


 僕が霞んで行く……


 随分……

 小さくなった……


 もう何も……

 感じないし、聞こえないし、話せない……


 残り少ないバッテリーで微かに回る歯車の様に僕の意識も消えていく。


 後は……

 ダイナ達が良い様に…………


 してくれるだろう………………

 あぁ、良かった……………………


 これで…………………………


 何もかも…………………………

 終わる…………………………


 僕が…………………………………………



 終わる…………………………



 最後に一かけらの安心を感じて……

 僕の意識は完全に途絶えた。



 ###

 ###



 !?


 僕は目を開ける。

 暗い。


 あ……

 三日月……


 確か三日月の事を弓張月って言ったりするんだよな。


 何故か目を開けた僕。

 開けれた僕。


 真っ先に浮かんだのは網膜に映った映像への間の抜けた考え。


―――おい、後息子。

   目が覚めたか?


 ここでダイナの念話(テレパシー)


【お?

 竜司、目が覚めたか?】


 ここで視界の外から聞こえる聞き慣れた声。

 ガレアの声。


「……ガレ……

 ア……?」


 僕はガレアの背に乗って洋上を飛行していた。


―――良くやった。

   世界線はお前の方に進んだぞ。


 世界線が僕の方に進んだ?

 ……って言う事は最悪の世界線を回避出来たって事か?


 三つの欠片(フラグメント)を集めて。


―――まあ、そういうこった。

   悪かったな、最後の欠片(フラグメント)伝えねえままで。

   結果オーライってやつだ。


 じゃあ、モナルカは?

 モナルカはどうなったんだ?


―――モナルカ(アイツ)なら八つのが竜界に持って帰ったぞ。

   何かえらく気に入ったらしくてな。


 そうか。

 ……あの隕石落下でも死ななかったのか。


 でも、もう人間とは言えないモナルカなら竜界(あっち)に行っても問題ないだろう。


 ……これって僕が勝ったって……

 考えていいのかな?


―――当たり前だろ。

   実際良くやったと思うよ。

   いや、マジで。



「ウッ…………

 ウオオオオオオオオォオオオオオオオォォオオオオオオオオオオッッッッッッ!」



 僕は叫んだ。

 力はもう残っていないのに。


 大きな声で月明りの夜空に向かって思い切り叫んだ。


 何故、叫んだのかは具体的には良く解らない。

 けど、僕の奥底から湧き上がる何かが大声を上げさせた。


 あぁ、これが勝鬨(かちどき)って奴か。

 叫んだ理由に納得したのを最後に、僕は再び気を失う事になる。



 ###

 ###



 2018年9月初旬。



 兵庫県加古川市(すめらぎ)邸二階自室。



 僕はゆっくりと目を開ける。

 目にするのは見覚えのある天井。


 ここは……

 何処だ?


 ゆっくりと身体を起こす。

 そのまま周囲を見渡した。


 何処か見た事ある部屋。


 腰の下にはベッド。

 馴染んだ触感。


 僕は……

 このベッドで眠っていたのか……?


 ……何で……?


 頭がハッキリしない。

 全く思考が動いていないのが解る。


 コンコン


 音の方へ顔を向ける。

 目に映ったのは見覚えのある部屋の扉。


「竜司ー、起きてるー?

 ……って言っても今は返事出来ないんだっけ……

 入るよー」


 ガチャ


 ドアが開き、入って来た女性。

 その顔を見た瞬間、頭の奥底から記憶が溢れて来る。

 挿絵(By みてみん)

 大きく深い紫の瞳。

 さらりと流水の様に柔らかで綺麗な銀髪。


 エプロン姿で優しく微笑んでいる。


「暮…………

 葉…………?」


 間違いない暮葉だ。


 暮葉は死んだ。

 死んだ筈だ。


 何で生きてるんだ?

 って言うか暮葉って誰だ?


 そうだ。


 暮葉は竜でアイドルで…………

 僕の奥さんだ。


 そもそもここは何処なんだ?

 僕は一体誰だ?


 何でこんな所で寝ているんだ?


 溢れる記憶と認識がズレを起こし、頭の中で疑問がいくつも湧き出して混乱する。


 カチャ


 暮葉は食事が乗せられたお盆をベッド傍の小さなテーブルに置く。


「今日の朝ご飯は私も手伝ったんだよ?

 これを食べて早く…………

 …………あれ?

 今、私の名前を喋った?」


 僕を見つめるその顔は不思議そうなキョトン顔。


「暮…………

 葉…………

 良かった……」


「あ、やっぱり。

 えとえと……

 確か竜司が言葉を話したら…………

 ちょっと待ってて。

 あ、お腹空いてたら食べてていいからね」


 すっくと立ちあがった暮葉はそそくさと部屋を出ていった。


 ガチャ


 再び、ドアが開く。

 次に入って来たのも女性。


 墨のような黒い長髪を後頭部で結わえている。

 スッと横に切れた目。


 唇は紅いルージュ。

 肌は白く、その白に合わせたかのように真っ白な割烹着を纏っている。


 この女性も見覚えがある。

 けど……


 誰だったか良く解らない。


「竜司さん」


 その女性が呼びかけて来た。

 顔を上げる。


「声には反応しとるな。

 暮葉さん、竜司さんの後ろォ回って声かけてもらえるやろか」


「あ、はい」


 暮葉が僕の後ろに回った。


「竜司」


 僕は暮葉の方へ振り向いた。


「はい、よろし。

 ほんじゃあ竜司さん、ベッドから立ち上がれるか?」


 僕は言われるまま、ベッドから足を出し、立ち上がろうとする。

 ……けど、起き上がれない。


 全く力が入らない。


「あぁあぁ、実際に立ち上がろうとはまだせんでええ。

 ふた月近く全く動いてへんねんから、立てる訳あらへんどす。

 ……とりあえず聴覚はよし。

 次は……」


 ピカッ


 おもむろに取り出したペンライトから眩しい光。


「眩しいやろけど、この光をじぃっと見なさい。

 で、この光を目で追ってみてくんなはれ」


 スイッスイッと滑らかに動くペンライトの光を目で追った。


「フム……

 視覚機能も問題なし……

 あんさんは誰なんか言えるか?」


 女性は微笑みながら真っ直ぐ僕を見降ろしている。

 言葉にあまり優しさは感じれないけど、声色や表情からは暖かさを感じる。


 僕……

 僕…………


 は…………



「竜……

 司……?」



 たどたどしく僕は答えた。

 それを聞いた女性はにっこりと微笑む。


「何とか反応も出来とるな。

 そや、あんさんは竜司。

 (すめらぎ)竜司どす。

 ほんじゃあ、うちが指差す方向に誰がおるか教えてくれへんやろか?」


 スッと細く上品な指が示す方向にいるのは暮葉。


「暮葉……

 僕の奥さん……

 です」


 僕は女性の指差す方向へ振り向き、答える。

 それを見た暮葉は花が咲いたような笑顔を見せた。


「うんっ!

 私、暮葉っ!

 竜司の奥さんだよっ!」


「ふう、とりあえず自我は戻ってきたようどすな。

 まだ起き抜けやから色々記憶も纏まってへんのやろ。

 とりあえずせっかく拵えたんやから朝ご飯食べてまい。

 箸、持てるか?」


「は……

 はい……」


 僕は右腕を伸ばそうとする。

 ……けど、かなり鈍い。


 わざとしている訳じゃない。

 錆付いているかの様にのろい動き。


 プルプル震えながら、箸を取った。

 右腕全体から鈍痛が纏わりつく。


 ……けど、動かせない程の痛みじゃない。

 続いて茶碗に左手を伸ばした。


 こっちも同じ。


 動きは鈍く、震えて鈍痛が奔っている。

 茶碗に盛られたご飯を箸で掬い、ゆっくりと口に運ぶ。


 モグ……


 ゆっくりと顎を動かし、中に入ったご飯を噛み締める。


「美味しい…………」


 ツウ……


 僕は静かに涙を流していた。


「フフ……

 食べんのはゆっくりでええで。

 うちらは下におるから、食べたモンはおぼんの上に置いといてか。

 ほな、暮葉さん行くで」


「えぇっ!?

 せっかく久しぶりに話せたのにっ!

 もっとお話ししたいっ!」


「ワガママ言いなさんな。

 竜司さんはまだ覚醒したばっかりなんやから無理させたらあきまへん。

 まずは一人でゆっくりご飯、食べながら考えた方がよろしおす。

 ほんじゃあ竜司さん、チョコチョコ様子は見に来るから」


 そう言って、女性と暮葉は部屋から出ていった。


 モグ……

 モグ……


 箸を動かす度。

 ご飯を噛み締める度。


 呑み込む度に身体に鈍痛が奔る。

 痛みは響くがご飯は本当に美味しかった。


 本当に。

 本当に久しぶりに食べ物を味わった。


 そんな気がする。


 焼き魚はふっくら柔らかく、みそ汁の深い味わいが身体全体に染み渡る。

 美味しい。


 本当に美味しい。

 身体が上手く動くのなら、がっついて貪りたいぐらいだ。


 身体に栄養が取り込まれると思考が巡り始める。


 ……あ、さっきの女性は母さんだ。

 母さんじゃないか。


 何で解らなかったんだ。

 まだ頭がハッキリしない。


 モグ……

 モグ……


 僕はゆっくりと食事を進める。


 ゴクンと喉を通る度に思考速度が上がる。

 連鎖的に次々と記憶が鮮明になっていく。


 ……そうだ、ここは僕の部屋。

 寝ているベッドは僕が使っているベッド。


 馴染んで当然だ。


 ……って事はここは加古川の実家?

 何で実家で?


 いや、それ以前に日本はどうなったんだ?


 ゾッ……


 ここまで思い出した段階で背筋に小さいけども確かな寒気が立ち昇り、進めていた箸の動きも止まる。


 起きてから疑問ばかり浮かぶ。

 大小、大きさも様々。


 そんな中、僕にとって一番大きく重要な疑問が頭の中に鎮座した。


 それは……



 モナルカの結末。

 そして僕の身体だ。



 モナルカは一体どうなったんだろう?

 何で僕の身体がきちんと元通りになっているんだろう?


 モグ……

 モグ……


 疑問を巡らしながら、僕は再び食事を進める。



 二時間後。



 ゆっくりと食事を進め、ようやく食事完了。

 どうやら食欲はあるらしい。


 時間はかかったけど、全て平らげてしまった。


 トントン


 ここで扉から音がする。

 誰かが上がって来たようだ。


「はい……」


 ガチャ


「竜司、朝ご飯は食べれた?」


 入って来たのは暮葉。


「うん……

 美味しかった……」


「ホントッ!?

 ねぇねぇ卵焼きはどうだったっ?

 卵焼きっ!」


 パァと笑顔を見せた暮葉はズズイと顔を近づけて来る。

 卵焼き?


 あぁ、少し焦げがあって固かったけど、優しい甘さだったな。

 一生懸命に作ったのが伝わるような。


「うん……

 とても美味しかったよ……」


 僕の言葉を聞いた暮葉の顔が更に満面の笑顔に変わる。

 まるで大輪の向日葵が咲き誇ってる様だ。


「ホントッ!?

 ンフフフ~~、卵焼きは私が作ったんだよっ!?

 お義母さんに教わったのっ!」


 本当に見れば見る程、僕が知っているいつもの暮葉だ。


「ねぇ……

 暮葉……

 身体は大丈夫なの……?」


 僕が最後に見た暮葉はモナルカに引き千切られた上半身のみ。

 (かたど)られたマネキンの表情の様な微笑み。


 竜なのに身体の治癒が始まらない。

 今考えても身の毛がよだつ絶望的な最後。


 死んだと思っていた……

 のに、こうしているという事は生きているという事。


「ん?

 私?

 どうして?

 元気だけど?」


「いや……

 だってモナルカに……

 引き千……

 やられて……

 動かなくなってたから……」


「ん?

 ん?

 …………あぁ!」


 ハテナをいくつか浮かべた後、何かを思い出したような顔を見せる暮葉。


「竜司ってばずうっとボーッとしてたもんね。

 ()()()、色んな事があったの知らないか」


 ……ん?

 どういう事だ?


 ずっとボーッとしてた?

 あの後?


 まるでもう全部、終わったかのような口ぶりじゃないか。



「……ねぇ……

 暮葉……?

 今……

 ()()……?」



「今?

 九月だよ?」


 !!!?


 僕は言葉を失った。

 確かB.G(ベーゼゲワルト)やモナルカが来日したのは三月だった。


 あれから半月も過ぎているのか!?


 じゃあ、モナルカはどうなったんだ!?

 奈落(アビッソ)は!?


 八尾(ロード・エイス)は!?


 ……でも僕がこうしているって事は日本は助かったって事で……

 良いんだよな……?


 プルルルプルルル


 ここで混乱している僕の思考を遮るように携帯の着信音が鳴る。


「あ、私だ」


 デニムの後ろポケットからスマホを取り出す暮葉。

 ディスプレイを見た瞬間、顔が曇る。


「もしもし……

 えーっ、もうそんな時期なのぉ?

 うん……

 うん、それは解ってる……

 けど、せっかく竜司が受け答えしてくれる様になって、家事も色々教えてもらって面白くなってきた所なのに……

 はい、解りました……

 着いたら電話します……

 うん、竜司に伝えとく。

 それじゃ」


 ハァと溜息を吐きながらスマホをポケットにしまう暮葉。


「暮葉……

 誰だったの?」


「……マスさん……」


 マスさんは暮葉のマネージャー、マス枝さんの事だ。

 ……という事は。


「じゃあ……

 仕事かな……?」


「うん、ゴメンナサイ……

 すぐに東京へ行かないと……」


「しょうがないよ、暮葉はアイドルだもん……

 いってらっしゃい……」


「じゃあね竜司。

 すぐに終わらせてまた来るから。

 ……って言ってもちょっと時間かかるかも知れないけど……

 こんなに()()()()すぐ眠たくなるのねぇ。

 あ、マスさんが回復おめでとうだって。

 それじゃあいってきますっ!」


 食べ終わった皿が載ったおぼんを素早く持ち上げ、足早に部屋から出ていった。


 …………ん?

 今、暮葉……


 妙な事を言ってなかったか?

 すぐに眠たくなるとかなんとか……


 いや、そんな事より今は半月の間、何があったかだ。


 ここでふと僕の眼に入ったのは部屋の窓。

 何の変哲もない窓。


 だけど、僕にとっては思い出深い窓だ。

 何故ならこの窓から僕が見ているアステバンを覗いてた事で知り合って……


 僕は外に。

 旅に出たんだ。


 ここでようやく存在が頭の中で蘇る。

 そう、唯一無二の相棒であり、かけがえのない親友。



 ガレアだ。

 ガレアは何処だ?



 いつもなら僕の側にいる筈。

 だけど、今はいない。


 部屋にぽつんと一人きり。


 何せ半年だ。

 ずっと傍にいるって訳でも無いか。


 まあその内、帰って来るだろう。


 僕はそのままゆっくりと横になる。

 しっかり食事を摂ったせいか頭も普通に回る。


 僕は……

 確か真・絶招経を発動したんだ。


 暮葉が……

 殺されたと思って、自暴自棄になって。


 あっ!?


 しまったっ!

 せっかく暮葉と再会したのに謝っとくんだったっ!


 酷い事言ってゴメンってっ!


 解らないなら別にいい。

 竜の暮葉に信じてって言った僕が間違ってたのかも知れないし。


 ごめんね、今の僕は暮葉が解るような表現をする事が出来そうにない。

 だから、無理に理解しなくていいよ。


 一言一句違わず覚えてる。

 僕の超上から目線の言葉。


 拗ねた小賢しい子供の言葉。

 大体、使ってる力も暮葉がいて初めて使えるものなのに。


 感謝の欠片も感じられない、冷たく突き放した言葉。

 多分、半年過ぎても覚えてるって事は一生忘れる事は無いんだろうな。


 本当に顔から火が出るぐらい恥ずかしいし、暮葉には申し訳無くて、いくら謝っても足りないぐらいだ。


 …………ん?


 ()()()()()

 あれ?


 これって感情じゃないのか?


 恥ずかしい気持ちは僕の気持ちを言葉にしたもの。

 って事は感情が生きてるって事じゃないのか?


 どういう事だろう?


 真・絶招経の弊害は感情の欠損だった筈。

 欠損を免れて残ったという事か?


 それか、そもそも代償が感情だと言う考え自体が間違いだったのか?


 しばらく考えるもまるで答えが出ない。

 一人で考えるのは限界がある。


 とりあえず、現状はある程度感情が残っている。

 その把握だけでいい。



 ###

 ###



 コンコン


「……ん……?

 ……はい……」


 考え込んでいつの間にか眠っていた。

 ドアのノックの音で目を覚ます。


「うちや。

 はいるえ」


 母さんだ。


「うん……」


 ガチャ


「竜司さん、気分はどないどす?」


「うん……

 大分頭がスッキリして来た。

 母さんの朝ご飯のお陰だよ」


「フフ……

 ようやくうちの事も認識出来たようどすな。

 それは何よりどす」


「それで母さん?

 ……母さんは()()()()()()って考えていいの?」


「……その全部、言うんは事の顛末って事どすか?」


「うん、この半年の間に何があったのか知りたい」


 僕の言葉を聞いた母さんは黙ったまま真顔で僕を見降ろしている。

 何か物凄い事でも起きたのだろうか。


 ポン


 沈黙したまま、しばらく黙ってたと思うと、突然柏手を打つ母さん。


「ほな、お茶入れて来るわぁ。

 待っといてんか」


 あれ?

 気が付いたら微笑みながら部屋から出ていった。


 やがて湯呑みをのっけたおぼんを持って戻って来た。


「入れて来た後で言うのも何だけど……

 何で、お茶?」


 カチャ


 おぼんを側のテーブルに置き、机の椅子をベッドの傍まで寄せ、ゆっくりと腰を掛ける母さん。


「長話になるよってなぁ。

 じっくり腰据えて話さなアカン内容やし。

 さっき半年て言うたっちゅう事は今が九月言うんも知っとる言う事どすな」


「うん……

 さっき暮葉から聞いた」


「ほな……

 ぼちぼち話してこか。

 まず…………

 竜司さんにとって良い話と悪い話がある。

 どちらから話そか?」


「じゃあ……

 良い話から聞かせて」


 音も立てず、お茶を一口すする母さん。


「だったらまずは暮葉さんの事について話そか。

 竜司さん、何で暮葉さんが生きとんのかって疑問やろ?」


「う……

 うん、あんな状態で何で無事なのかって……

 母さんが何かしたの?」


「アホな事言いなさんな。

 うちは人間の医者どす。

 竜の身体の事なんか解りまへん。

 それに人間やったとしても消化器や泌尿器が噴き飛んどって、いくらうちでも設備が無いと手の施しようがあらしまへん。

 助けたんは久我(こが)はんどすえ。

 確か竜司さん、面識あるて聞いとるえ?」


 久我(こが)

 久我(こが)……


 あっっ!

 久我真緒里(こがまおり)さんか!?


 あぁっ!

 そうか!


 時空翻転(タイムアフタータイム)

 あの時間逆行スキルがあれば、どんな酷い状態でも復活できる!


 ■時空翻転(タイムアフタータイム)


 陸上自衛隊、久我真緒里(こがまおり)医官のスキル。

 物体の時間経過を逆行させる事が出来る範囲指定型スキル。

 主に傷の治療として用いる。

 あくまでも機能は物体の経過を逆行させるだけ。

 そのため、死んだ生物を生き返らせる事は出来ない。

 あと、範囲は最大でも3メートル四方の為、大きい物体には使えないなどが欠点として挙げられる。


 参照話:第九十一話。


「そうか……

 合点が行ったよ……

 でもよく、そんな緊急の場に都合よく久我(こが)さんが……

 あ、ダイナか」


 ダイナの未来視なら暮葉の惨状も予見できる。

 だから前もって久我(こが)さんを呼び寄せていたと言う事か。


「そういう事どす。

 で、暮葉さんの事に関連して一つ言わなアカン事があります」


「ん?

 何?」


「竜司さん……

 嫁が変わり果てた姿になってヤケクソになる気持ちは解らん事も無い。

 ……けどな、自分の身を顧みん振る舞いには親として黙って見過ごす訳には行きまへん」


 あ、母さん怒ってる。

 けど、いつもみたいな迫力のある怒りじゃなくて何処か悲しい怒り……


 いや、怒ってるって言うか叱ろうとしている雰囲気。

 って事は僕がした事とかも知ってるって事か?


「……母さん……

 ()()()()知ってるの?」


「そら、ほとんどどす。

 ダイナはんから隅々まで全部聞いとりますよって。

 全く…………

 許容量以上の魔力を取り込むだけでもアホの所業やのに、そっから人の身を捨てるやなんて……

 ホンマにこの子は……

 あんさんが死んでうちが何とも思わんと思うとるんか……?

 うちだけやない。

 お義父(じい)はんも滋竜(しりゅう)さんも豪輝さんも。

 蓮ちゃんや(げん)くんかて……

 竜司さんが死んで何も感じんとでも思うとるんか……?

 旅に出て……

 知り合うた人達かて哀しまんとでも思うとったんか……?」


 母さんが泣いてる。

 泣く所を見るのは初めてだ。


 ここで真・絶招経を発動した時の心境を思い出す。


 ……僕は馬鹿だ。

 確かに暮葉が死んで、悲しいのはある。


 けど、それで何もかも無くなるなんて事は無かった。


 僕にはまだまだ大切なものがあった。

 出来ていたんだ。


 あまりに絶望的な状況に目に見えるものしか理解出来ていなかった。


「……母さん……

 それに関してはゴメン……

 言う通りだよ……

 僕がどうかしてた……」


「放任しとったうちが言えた話や無いかも知れんけど……

 親不孝言う言葉を知らんのかいな……」


「本当にごめんなさい……

 それで母さん……

 僕が一体どうなっちゃったのかは解る?」


「粗方な。

 まず竜司さん、最後の状態はもう人間や無かった言う話どす。

 何や暮葉さんの力で内包しとる魔力が大きく変質してな。

 ダイナはんが言うには魔力の塊みたいな感じになっとったそうやで」


 やっぱりか。

 あのフワフワした霞みたいな感覚は物体を捨てたエネルギー体になった為か。


 母さんは言葉を続ける。


「あれ、前にお義父(じい)はんが使うな言うとった技術やろ?

 代償大き過ぎるから言うて」


 そうだ。

 この部分もハッキリさせないと。


 僕の感情。


 何で僕はまだ感じる事が出来るんだ?

 そもそも魔力の塊になった筈なのに、何でまた肉体に戻っているんだ?


「そうだ、そこが知りたい。

 僕は何で無事なの?

 しかも感情もある程度感じれている。

 モナルカとの戦いで確かに右脚を失った筈なんだ。

 けど、右脚も元に戻ってる。

 ……何でか解る?」


「そこもダイナはんに聞いとるえ。

 まず竜司さん、アンタの身体は以前の身体と違う」


 違う?


 え?

 どう言う事?


「どう言う事?」



「今のあんさんの身体はガレアはんの魔力を使って再生されたモンどす」



 …………え?

 僕は一瞬何を言ってるのか解らなかった。


 そんな僕を尻目に言葉を重ねる母さん。


「何や相手さんの竜が張った膜の中でどエラいスキルを発動している所に?

 ごっつい隕石が堕ちて来て?

 そのせいで相手さんもろとも消し飛ぶ寸前やったそうやないの。

 あぁ、そうそうダイナはんが言うとったわ。

 最後の()()()()()()……

 やったか?

 それ教えんでスマンかったって。

 で、教えんかった理由が切羽詰まり過ぎてる状況で解ったんと、その意味がよう解らんかったからやって」


 ……タイミングについては理解出来なくも無いけど、意味が解らないって。

 マザードラゴンじゃないのかよ。


 …………あ、多分最後の欠片(フラグメント)って……


「もしかして最後の欠片(フラグメント)って隕石を堕とすとかそれに類似した事柄じゃない?」


「そうどす。

 隕石言うんが何なんか良く解らんで考えとったら事が動き出して結果オーライやった言うとったわ。

 でも、ダイナはんでも何で急に隕石落ちて来たんかはよう解らん言うてはった。

 竜司さん、アンタ何かしたんどすか?」


 頭の中に浮かぶのはキャイキャイ言ってる天照(アマテラス)様の姿。


「僕が何かした訳じゃないけど……

 一応……

 誰がやったかは知ってる……」


「誰やの?

 うちが知っとる人か?」


「知ってると言えば知ってると思うけど、会った事は無いと思う……

 それにあれはヒトって言うか……」


 ゴニョゴニョと歯切れの悪い返答。

 自分自身、信じられる話じゃない。


 天照(アマテラス)大神(オオミカミ)に拝謁して隕石を堕としてもらったなんて。


「何や人や無いんか?

 ほな竜か……

 それか神さんぐらいしか思い付かんわ」


 うん、合ってる。


「その話はまたおいおいね……

 それよりもどうやってあの中から僕を救い出したの?」


「ガレアはんどす。

 ガレアはんが突っ込んで中から引っ張り出したんどす。

 言うても、もうボールぐらいしか残って無かったらしいから引っ張る言うか掴み取る言う感じやけんどなぁ」


 確かに太陽風(ヴェントソラーレ)の出す光の波みたいなのに削られて行く感覚はあったけど、そこまで小さくなってたのか。


 僕は恐る恐る両手を上げ、何度か握ってみる。


 ちゃんと……

 ある……


 よな?


 感触もある。

 これが魔力で出来てるなんて信じられない。


 いや、それよりもあの瞬間。


 多分、僕の周囲は太陽風(ヴェントソラ―レ)と隕石のパワーが合わさって、想像もつかない程の高エネルギーの渦中だった。


 いくらガレアでも中に突っ込むことなんて出来るのか?


「多分、隕石が落下した瞬間って僕の周りはシャレにならない状態だったと思うんだけど、よく僕を掴むなんて事が簡単に出来たね……」


「いや、そない簡単な話や無かったって話どすえ。

 何や身体を素粒子にまで分解して光速で飛び込んで?

 消えかかっとった竜司さんを取り込んだんやって。

 で、竜司さんごと身体を再構成して、んで身体ン中でありったけの魔力を竜司さんの欠片に叩き込んで再生した言うとったわ。

 ガレアはんも大分魔力をすり減らしたらしいてな。

 あんさんを送り届けた後は数日グースカ寝とったんどすえ」


 この話を聞いて僕は言葉を失う。

 一体どれだけの魔力を使ったのだろう。


 いや、それ以前に光速だって?

 今のガレアはそこまで凄いのか?


 四枚羽になってますますデタラメな(ヤツ)になったなぁ。

 で、僕は回収されて、ガレアの魔力を使って再生したと。



 ……じゃあ、言ったら今の僕は今までの僕じゃなくてガレアの魔力に僕の意識や記憶をコピーした紛い物?



 僕は右手の甲を(つね)ってみる。

 今は力が入らないからあまり痛くない。


 けど、感触はある。

 やはり、どこからどう見ても僕の身体だ。


 じゃあ僕は一体何なんだ?


 ……いや、やめよう。

 こんな事を考えていてもしょうがない。


 確か昔の人が言っていた。

 我、思う故に我ありって。


 つまり考えている僕が今ここにいるのが真実って事。

 だったらそれでいいじゃないか。


 ……それはそれで良いとして……


 じゃあ今の僕はガレアの身体から産まれたって感じなのかな?

 ガレアがお父さん……


 何か嫌だな。

 嫌って言うか違和感がある。


 何かお父さんってなると、前に立っている気がしてシックリ来ない。


 やっぱりガレアは僕の親友、相棒。

 隣にいるのが一番良い。


 で、その中心であるガレアが何処に行ったんだ?

 全く何処をほっつき歩いてるんだ。


「じゃあ何かガレアが僕のお父さんになったみたいな感じだね。

 で、その肝心なガレアは何処に行ったの?

 またフワフワ飛んで、ばかうけでも食べてるのかな?

 ガレア(あいつ)、お金なんて持ってないだろうから、手持ちのばかうけを食べたら帰って来るのかな?

 全くしょうがない奴だよ。

 ハハハ……」


 僕の言葉を聞いていた母さんは表情を変えず、無言で真っ直ぐ見つめるのみ。

 その反応に違和感を感じつつ、僕は言葉を重ねた。


「ねえ、母さん。

 ガレアが何処にいるか知らない?」


 僕の頭の中はまた窓からひょっこり顔を出すと思っていた。

 竜司、起きたのかよなんて言いながら窓から覗いて来ると思っていた。


 また二人で特撮を見ながら時々ケンカをして。

 ずっと一緒にいると思っていた。


 けど…………


「……ガレアはんか?

 ……知っとるえ……

 ガレアはんは…………」


 母さんは口を重く開きながら、割烹着のポケットに手を入れた。


 コトッ


 ベッド傍のテーブルに置いたのは青白色の四角い何か。

 片手で納まるぐらいの大きさ。


「これや」


 ……これ?

 この蒼い四角がガレア?


 僕は母さんが何を言っているのか理解出来なかった。



 ###

 ###



「フーッ……

 今日はここまで……

 ようやく、ここまで話す事が出来た……」


 長かった。

 僕はやっとモナルカとの決着まで話す事が出来た事を噛み締める。


 大きな仕事を一つやり遂げた様な感覚。


 さて……

 (たつ)の様子は……


 何だか良く解らない表情。


 頬がほんのり赤いから興奮している所もあるんだろうけど、眉はハの字で下瞼が持ち上がり、泣きそう?


 ……いや、怯えている?


(たつ)……?

 どうかした?」


 微妙な表情のまま、しばらく無言の(たつ)

 流れる沈黙に耐えきれず、僕は尋ねる。


「パパって…………

 …………人間?」


 やっぱり、そこか。

 ここはきちんと説明しておかないと。


(たつ)、安心して。

 僕はれっきとした人間だよ。

 確かに今の身体はガレアの魔力で再生されたものだけど、今の身体はきちんと血の通った人間の身体さ」


「でもでも……

 前のパパってボールぐらいの大きさしか残ってなかったんでしょ……?

 じゃあほとんどガレアの魔力って事じゃん……」


(たつ)、僕が何で人間の身体だって言ったかってちゃんと理由があるんだよ」


「理由?」


「うん、魔力置換って言ってね。

 魔力で物質を生成するじゃない?

 それをしばらく置いておくと本物に置き換わるって現象なんだ。

 だから僕の身体は確かにほぼガレアの魔力で構成されているんだけど、もう大分時間が経っているから完全に置換が完了して人間の身体って訳さ。

 で、パパが目覚めるのに半年かかったでしょ?

 それってようやく自我の置換が完了したからじゃないかって思うんだよ」


「う……

 う~ん……

 そもそも魔力自体、僕は見た事ないからパパがそうだって言うならそうかも知れないけど……

 あぁ、それとパパ?

 今日の最後は何?

 お祖母ちゃんが取り出した蒼いハコがガレアだって言うの?」


「…………厳密には違うんだけどね。

 でもお祖母ちゃんがそう言ったのは意味があるんだ。

 その話はまた明日ね」


「うん、解った」


「あと(たつ)

 本当に長い間、昔話を聞いてくれてありがとう。

 この僕とガレアの物語は次でラストだよ」


「えっ!?

 あっそっか……

 そうだよね。

 モナルカも倒し……

 ……あれ?

 そう言えば途中の叫ぶところでダイナが妙な事を言ってたね。

 モナルカを持って帰ったとか何とか」


「うん、多分今は竜界にいる筈だよ。

 モナルカ(あいつ)にとっては地球よりも住みやすいだろうしね」


「何か……

 最後の大ボスに言うような感じじゃないね。

 憎いとか恨んでるとかは無いの?」


「これがねぇ……

 あんまりそう言う気持ちは湧かないんだよね。

 多分太陽風(ヴェントソラーレ)の中で声を掛け合ったせいか、妙な印象になっちゃってるみたい」


「何それ、良く解んない」


「ハハ、僕も良く解んないよ。

 さあ今日も遅い。

 布団に入って」


「はぁ~い……」


 もぞりと布団に潜り込む(たつ)


「じゃあおやすみなさい」


「おやすみなさーい」


 続く。


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