表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
I,another  作者: Akatsuki.S
7/23

第1部 第4話「彼の中にいたのは誰か(2)」前編

CH1

-ゴースト本部2階ブリーフィングルーム-


その夜。


ホログラムに投影された事件資料を前に、ブリーフィングルームは冷えた空気に包まれていた。

最初に立ち上がったのはカイルだ。表情を崩さぬまま、淡々と報告を始める。


「被害者はリチャード・ローウェル。死因は絞殺による窒息死。ただし、この事実は公表されていません」


続いてスタンリーが端末を操作し、静かな声で補足する。


「CIARの解析結果です。被害者の虹彩にリングを確認。ただし、移植ログは一切残っていない。非公式の人格移植が行われたことは、ほぼ確実です」


カイルは視線を落とし、資料を一枚めくった。


「妻のクララは第一発見者ですが、供述に違和感がありました。悲しんではいるが、どこか演技めいている。加えて、生命保険の申請を代理で行っており、手続きは異様なほど整っていた」


スタンリーが頷き、言葉を継ぐ。


「保険担当者はイーサン・ブレイク。事件直後にクララ宅を訪れ、支払い手続きを即座に進めています。契約額は1,000万ドル。さらに、被害者には難病を患う弟ダニエルがいた。高額な治療費が必要だったとのことです。……偶然にしては、出来すぎています」


報告がひと段落し、沈黙を破ったのはヴィクターだった。


「つまり、動機は金。クララとイーサンは、その流れを最初から把握していた可能性が高い、ということだな」


ニーナが腕を組み、視線を鋭くする。


「でも、まだ足りないわ。リチャードに移植された“誰か”は誰? その正体が分からない限り、この事件は半分しか見えていない」


カイルはわずかに目を細めた。


「……ああ。そこが最大の焦点だ。リチャードは殺される直前まで、確かに“別の人格”を宿していた。その人物が誰だったのかを突き止めなければならない」


重苦しい沈黙が落ちる。

やがて、バニングが深く息を吐き、椅子から立ち上がった。


「クララ・ローウェル。そしてイーサン・ブレイク。この2人を徹底的に洗え。背後に必ず答えがある」


一拍置き、さらに続ける。


「それと――同地区では最近、高級マンションを狙った空き巣が散発している。荒らされた室内は、その線を装った可能性もある。だが、万一実際に空き巣が関与しているなら、見過ごすわけにはいかん。両方の筋を同時に追え」


バニングの声は、鋼のように冷たく響いた。


それが、この会議の結論だった。


CH2

-高級マンションのローウェル邸-


次の日。


再びローウェル邸を訪れたカイルとスタンリーは、クララと向き合った。


「事件当日の午前中、どこにいらっしゃいましたか?」


クララは落ち着いた声で答える。


「買い物に出ていました。すぐ近くの商業施設です。……防犯カメラにも映っているはずです」


実際、商業施設の監視映像にはクララの姿が残っていた。

さらに、マンションの出入り口カメラにも、午前中に外出し、事件後に戻ってくる様子が確認されている。


スタンリーが端末を操作しながら、低く呟いた。


「……クララのアリバイは揺るぎないな」


だが、同じ映像には別の人物も映っていた。

リチャード・ローウェル本人が、午前中に1人でマンションへ入っていく姿だ。


2人は続けて、隣室の住民にも話を聞いた。

年配の女性は、不安を滲ませた表情で口を開く。


「事件のことは聞きました……。こんな高級マンションで起きるなんて、正直怖いです」


「防犯体制は万全ではないんですか?」


カイルの問いに、女性は小さく首を振った。


「ええ。カメラは玄関と駐車場だけなんです。見た目は豪華でも、プライバシーを重視しすぎていて……。それに、実はカメラにも死角があります」


少し言葉を選びながら、続ける。


「裏手の搬入口や植え込みの影を使えば、知っている人なら1人でも気づかれずに入れるでしょう。住民の間では、前から不安だって話は出ていました」


一拍置いて、さらに付け加えた。


「……それに最近、この辺りで高級マンションを狙った空き巣も出ていますし」


話を聞き終え、スタンリーはカイルと視線を交わして低く呟く。


「……なるほど。なら、防犯カメラに映らずに、別の誰かが忍び込むことも可能だな」


その言葉が、事件の可能性を静かに広げていった。


CH3

-ステラ・セキュア社-


次に2人は、イーサンが勤務する保険会社を訪れた。

受付を通され、応接スペースに現れたイーサンは、前回とは違い、露骨に面倒そうな表情を浮かべていた。


「……またですか。事件の件なら、すでに警察にも協力していますが」


カイルは感情を挟まず、淡々と問いかける。


「念のため確認させてください。事件当日の午前中、どちらにいましたか?」


「客先です」

即答だったが、言葉の勢いは続かなかった。

「……正確な時間までは覚えていませんが」


視線がわずかに泳ぎ、手元ではボールペンが無意識に転がされる。


後日、その客先にも確認を取った。

だが返答は曖昧で、訪問時間を裏づける確かな記録は得られなかった。


建物を出て廊下に出たところで、スタンリーが小さく息を吐く。


「……つまり、イーサンにはアリバイがない」


カイルは黙って頷き、ガラス越しの街並みに視線を向けた。


「クララは白だ。

だが、イーサンは……まだ灰色のままだな」


その言葉だけが、静かに残った。


CH4

-ローウェル・エナジー本社ビル応接フロア-


リチャードが勤めていた会社の応接室。

窓際の席に座ったジェイソン・ミラーは、眼鏡の奥に疲労の色を滲ませながらも、終始真面目に応対していた。

正面にはカイルとスタンリーが腰を下ろし、淡々と聞き取りを進める。


「リチャード・ローウェルについて、普段の行動を教えてください」


「几帳面で、律儀な人でした。仕事が終われば、ほとんど真っ直ぐ帰っていましたね。たまにコーヒーショップへ寄ることはありましたが……ブラック一択でした」


「好物は?」とスタンリーが問う。


「甘いものは苦手でした。昼は決まって質素なサンドイッチで、いつも同じ店のものを買っていました」


カイルが続ける。


「職場での習慣や、癖は?」


「そうですね……常にデスクを片づけておく人でした。整理整頓にはうるさくて、書類を山積みにしていると必ず注意されました」

一瞬言葉を切り、付け加える。

「あと、考え事をしている時や緊張している時には、ボールペンをよくカチカチ鳴らしていました。会議中なんて、正直うるさいくらいで」


その言葉に、カイルの手がわずかに止まる。

だが表情は崩さず、そのままメモを取り続けた。


「他には?」


ジェイソンは少し考え、淡々と答える。


「評判は良かったですよ。上司からの信頼も厚く、同僚からも頼られていました。ただ……友人は少なかったと思います。社内でも親しくしていたのは、限られた数人だけでしたし、プライベートを語ることはほとんどなかった」

小さく息を吐く。

「悩みといえば……やはり弟さんの治療費でしょうね」


聞き取りを終え、カイルは短く礼を述べて立ち上がった。


「ありがとうございました」


廊下に出たところで、スタンリーが小声で尋ねる。


「……気になる点でもあったか?」


カイルは視線を伏せ、短く首を振った。


「いや……今はまだいい」


淡々とした声だった。

だが胸の奥では、確かな違和感が静かに引っかかり続けていた。


CH5

-ゴースト本部1階第1チームデスク-


ホログラムに映る事件資料を前に、カイルとスタンリーはバニングのデスクの前に立っていた。


「事件当日の午前中――妻のクララには明確なアリバイがあります。外出しており、商業施設の防犯カメラにも映っていました。マンションの出入りも確認済みです」


スタンリーが端末を操作しながら補足する。


「同じ映像には、リチャード本人が1人でマンションに入る姿も記録されています。玄関と駐車場にはカメラがありますが、建物内部には死角が多い。1人であれば、映らずに出入りすることは可能です」


「なるほど……他には?」


バニングの低い問いに、カイルは資料を一枚めくり、視線を上げた。


「一方で、イーサン・ブレイクのアリバイは不透明です。事件当日の午前中は客先にいたと主張していますが、確認を取っても時刻が曖昧で、証言に食い違いがある。――実質的に、アリバイは存在しません」


わずかな間を置き、別のファイルを開く。


「さらに、リチャードの同僚ジェイソン・ミラーから話を聞きました。普段の行動や性格を洗った結果……ひとつ、気になる点があります」


その瞬間、足早に近づいてきたのはヴィクターとニーナだった。


「報告があります」

ヴィクターの声は低い。

「例の遺体ですが……やはり記録が存在しませんでした」


室内の空気が一気に張りつめる。

カイルとスタンリーは視線を交わし、話の続きを胸に留めた。


「……詳しく聞かせてくれ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ