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I, Another ―目の前に、俺と同じ顔の男がいる―  作者: Akatsuki.S


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第2部 第17話「決戦、ツェアビルド(2)」後編

その瞬間――。


指令室のホログラム越しにその光景を見ていたバニングが、思わず椅子から身を乗り出した。


「あの動きは……!」


ヘルメットのバイザー右下に、電子文字が一瞬だけ走る。


「Programmed By Mason」


それは、かつて殉職した相棒の名だった。


プログラムの癖か、パワースーツのバグか。

理由は分からない。


(……お前か、メイソン。ありがとよ)


スタンリーは心の中で呟くと、着地の勢いを殺さず、その反動のまま前へ踏み込んだ。


右腕に装着されたナックルバスターが唸りを上げる。

火薬とピストンが同時に点火し、破壊的な打撃を叩き込む体勢に入った。


「――ナックル! バスタァッ!!」


爆音とともに、拳が叩き込まれる。


ツェアビルドの胴体が軋み、わずかにバランスを崩した。

その隙を、ヴィクターは見逃さない。


「もう1体の動きが止まった! こいつの背後から拘束する!」


雄叫びとともに、ヴィクターが跳び込んだ。

左腕のパワーアクチュエーターが点火し、渾身の一撃がツェアビルドの背中に炸裂する。


瞬間的に動きが鈍った。

ヴィクターはそのまま背後へ回り込み、両腕で胴体を締め上げる。


背骨ごと圧し折るような力で、羽交い絞めにした。


「いまだ! はやく!」


「……ECHO Drive、起動!」


アリウスの声が響き、紅い装置が共鳴を始める。


「……ECHO Drive、起動!」


カイルも続いた。

わずかな迷いを残しながらも、その目には確かな覚悟が宿っている。


「行くぞ!」


「――ああ!」


2人が同時に走り出し、それぞれのTSRを構えた。

蒼と紅の光が重なり、かつての共鳴が再び紫の輝きへと変わっていく。


「クロスレゾナンス!!」


掛け声とともに、紫の奔流が放たれた。

爆発的な光と衝撃が、拘束されたツェアビルドを包み込んだ。


***


――そして、静寂が訪れた。


紫の残光が、ゆっくりと空へ溶けていく。

作戦室のホログラムに映る映像を、全員が息を呑んで見守っていた。


やがて煙が薄れ、映像が次第に鮮明になる。


そこにあったのは、跡形もなく消滅した1体目のツェアビルドの痕跡だった。


「……やったのか?」


誰かが小さく呟く。


その一言をきっかけに、作戦室全体が安堵のため息に包まれた。


「成功……した……」


モニター越しに、カイルとアリウス、そしてスタンリーが互いに目を見交わす。


だが――。


「ヴィクター! どこだ! 無事か!」


カイルが周囲を見回し、煙の残る戦場へ視線を走らせた。

その先に、倒れた影が見える。


「ヴィクター!」


駆け寄った先にいたのは、地面に横たわるヴィクターだった。


だが、その下半身は失われている。


「……大丈夫だ。すぐに修理できる」


ヴィクターは苦しげな笑みを浮かべ、かすかに手を上げた。


その言葉に、カイルの表情が揺れる。

安堵と不安が入り混じった、複雑な顔だった。


だが、安息の時間は長くは続かなかった。


「ぉぉぉぉあああああああッッ!!」


残る1体のツェアビルドが、咆哮を上げる。


その直後、アリウスが地を蹴った。


「スタンリー! ヴィクターを連れて撤退してくれ! あとは俺たちがやる!」


「わかった! あとは頼んだ!」


スタンリーが短く頷き、ヴィクターのもとへ駆け寄る。


戦場の空気が、再び張り詰める。

戦いはまだ終わっていない。


戦局は、新たな局面へと入りつつあった。


***


ヴィクターがスタンリーに担がれ、後方の非常扉へ運ばれていく。

彼は振り返らないまま、肩越しに一言だけ残した。


「次のECHO Drive発動までの5分……もたせろよ」


カイルは短く頷く。


「分かった」


刹那、屋上を静寂が覆った。

だがそれは、嵐の前の沈黙だった。


残された1体のツェアビルド。

その輪郭が、ぐにゃりと歪む。


次の瞬間、黒い靄が身体を覆い、装甲が膨張し始めた。

先ほどクロスレゾナンスで消滅した“もう1体”の力を取り込むかのように、ツェアビルドはうねりながらひと回りほど巨大化していく。


「……吸収している?」


アリウスが低く唸った。


ツェアビルドの装甲が黒から深紫へと変わる。

硬質な外殻が、さらに鋭く隆起していった。


「来るぞ!」


カイルが叫んだ瞬間だった。


ツェアビルドが地を蹴る。

刹那、風が裂けた。


刃のような腕が、音速に迫る速度で振り下ろされる。


カイルは咄嗟に身体を捻り、TSRで受け止めた。

火花が激しく散る。


「ぐっ……!」


横合いから、もう一撃。


アリウスがTSRでそれを防ぎ、蹴りで反撃する。

だがツェアビルドは身体を捻り、紙一重でかわした。


「……こいつ、反応が速くなっている!」


カイルが歯を食いしばる。


「なんとか、ECHO Drive発動まではもちこたえてみせる!」


アリウスが気迫を込めて返した。


攻防は激しく交錯した。

蒼と紅のTSRに、黒紫の巨体が応じる。


突き、斬撃、蹴り、フェイント。

そのすべてが高速でぶつかり合う。


だが、ツェアビルドの動きには隙がない。


それでも、2人は退かなかった。

呼吸を合わせ、打ち込み、かわし、受けながら、わずかな間合いを測っていく。


重い衝撃が何度も地を鳴らし、屋上に火花が咲き乱れた。


「まだ……だ!」


カイルが息を整え、次の一撃に備える。

アリウスの瞳にも、同じ決意の光が宿っていた。


そして、その瞬間だった。


ツェアビルドが咆哮を上げる。

その声が空間を震わせ、雲を引き裂いた。


次の瞬間、空が割れた。


高空に走る裂け目の向こうに、もう1つの世界が覗いていた。


***


モニター越しに異常を捉えた作戦室で、誰もが息を呑んだ。


「……あれは……」


マルコムが言葉を失う。


ホログラムに映る空の裂け目を見つめたまま、震える声で続けた。


「あれは……カイルがいた世界か!

いかん、奴を消滅させなければ、この世界そのものが崩壊する!」


そのとき、非常扉が開いた。


ヴィクターとスタンリーが、急ぎ足で作戦室へ戻ってくる。


「……どういうことですか?」


ヴィクターの問いに、マルコムは焦燥を滲ませて答えた。


「この世界は、もともとカイルが存在しない世界……いや、“存在してはいけない”世界だ」


「なに?」


「ツェアビルドがやろうとしているのは、2つの世界の存在基盤を無理に重ね合わせることだ」


マルコムはホログラムの裂け目を指差した。


「並行世界は本来、互いに干渉せず独立している。

だが同一人物――カイルを起点に融合が始まれば、存在の座標が重複する」


一拍の沈黙。


「世界の整合性は破綻する。

結果、両方の世界が自己を定義できなくなり、崩壊するしかなくなる……」


バニングが低く呻いた。


「なんだと……!」


「ECHO Drive起動までは、あと何分だ!?」


ヴィクターが叫ぶ。


ニーナが即座に答えた。


「あと3分と11秒!」


室内に沈黙が落ちる。


ヴィクターは唇を噛み、細く目を閉じた。


「……この世界は、持つのか……?」


***


カイルは、空に走る裂け目を見つめ続けていた。


表情は硬い。

何を考えているのか、外からは読み取れなかった。


アリウスが何度も声をかける。

だが、返事はない。


裂け目の向こうには、都市が広がっていた。


かつて自分がいた世界。

その光景に、カイルの意識は引き寄せられているようだった。


アリウスは唇を噛み、無線機へ手を伸ばす。


「アカネ! 聞いているか?」


静寂を破り、無線越しに声が返った。


「聞いているわ!」


アリウスは息を詰めたまま、早口で告げる。


「カイルがあの世界を見て動かない! はっきりとは分からないが、元いた世界に帰ればすべてが終わると思っているはずだ」


視線を、動かないカイルへ向ける。


「だが、さっきのマルコムの説明どおりだ。両方の世界は消滅する! カイルを正気に戻さないと……!」


声に、焦りと絶望が混じっていた。


一瞬の沈黙。


そして、アカネの声。


「どうしたらいい?」


戸惑いはある。

だが、その奥に揺るがぬ意志があった。


アリウスは即答する。


「呼びかけてくれ! 他の誰でもない。お前にしかできないことだ!」


短い沈黙。


やがて、アカネが深く息を吸う気配が伝わった。


「……わかった。やってみる」


数秒。


重い静寂。


そして――。


「……ねぇ、カイル。聞いている?」


無線越しの声が、静かに屋上へ届く。

だが、返事はない。


カイルは無言のまま、空の裂け目から視線を外さなかった。


アカネは言葉を選びながら、さらに静かに続ける。


「もしあなたが向こうに帰れば、この世界は救われるかもしれない。

でも……あなたは、本当に救われる?」


一拍置く。


「あなたはずっと苦しんできた。自分がこの世界にいていいのか、自分のせいで誰かが傷ついているんじゃないかって……」


声は迷いながらも、まっすぐだった。


アリウスは息を整え、そっとTSRを構える。

2人の間だけ、時間が止まったように静まり返っていた。


「でもね……それでもあなたは、誰かを守ろうとしてきた。

命をかけて、何度も、何度も」


アリウスは動かない。

ただ、カイルを見つめている。


「アレン……レイチェル……デイモン……あの人格強化兵士の3人だって、みんなあなたに助けられた。

あなたがいなければ、もっとひどい運命を辿っていたかもしれない」


アカネの声が、わずかに震えた。


「私はそんなあなたを見てきた。あなたの痛みも、迷いも、怒りも、全部知ってる」


戦場の空気が、かすかに揺れる。


「だから……私はあなたに逃げてほしくない」


静けさが、2人の間に広がった。


「帰れば楽になるなんて、そんな嘘じゃない。あなたを失いたくない」


その言葉が、凍りついた心へ直接触れる。


声は震えている。

だが、芯は強かった。


「私にとって大事なのは、“どこの世界にいるか”じゃない。

“どんなあなたが、ここにいるか”なのよ」


カイルの肩が、わずかに動く。


はじめて、空へ向けられていた視線が揺らいだ。

心の奥で何かが軋み、凍結していた思いが、少しずつ溶けていく。


「私は――私は、あなたにいてほしい。

この世界を否定しないで、私のそばで生きていてほしい……!」


アリウスが、そっとカイルの肩を叩いた。

その表情には、わずかな希望が宿っている。


カイルの目に、生気が戻った。


「……すまない、アリウス。もう、俺がすべきことはわかった!」


アリウスが、かすかに口元を緩める。


「……遅えよ。全く」


だが、その瞳は強い。


2人の間に、覚悟が定まる。


その瞬間、ツェアビルドが再び動いた。


先ほどよりも速い。

刃のような腕が、閃光を伴って襲いかかる。


「ECHO Drive起動までは……!?」


ヴィクターの声が無線越しに響く。


「残り、あと2分を切りました!」


オペレーターの報告が重なる。


押し返されながらも、2人の目に諦めはない。

揺らがない決意だけが、そこにあった。


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