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I, Another ―目の前に、俺と同じ顔の男がいる―  作者: Akatsuki.S


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第2部 第15話「Parallel Drift(2)」後編

CH2

-現在-


「それから、アカネと俺がいる世界を探して2年くらいたったときに、

どこかの世界のゴーストで保管されていた第3世代TSRを奪った。

──そして“この世界”を探し出すまでに7年かかった。」


アリウスは淡々と語り終えた。

その声には感情を抑えた響きがあったが、どこか苦さが残っていた。


「そして……お前と戦って、自分の過ちにようやく気づいた。

 だが皮肉なものだよな。人格移植を妨害した装置が、この世界のロイクの仕込みだったとは……」


アリウスは、わずかに口元を緩めた。

笑みと呼ぶには静かすぎる。悲しみと、ほんのわずかな救いが混じった表情だった。


「ロイクに叩き込まれた八極拳の踏み込み。

 犯手の誘導。擒拿の制圧。

 その全部が――トンファーと、驚くほど噛み合った。」


量産型TSRを握り直す。

指先へ伝わる重量が、確かな現実を示していた。


「基礎はシナプス教官。

 本質はロイク。

 そして武器は……旅の途中で手に入れた。」


足元で、小さく砂が跳ねる。


「……それが、いまの俺だ。」


言葉はそこで途切れた。

だがその背中には、越えてきた世界の数だけの重みが確かに宿っていた。


沈黙が落ちる。


「……分かったよ。お前がどんな道を歩いてきたか。」


カイルが短く言った。

視線は逸らさない。


「だからこそ、俺は違う道を行く。」


アリウスは一瞬だけ目を細め、口角をわずかに上げた。


「その調子だ。」


一歩、間合いを詰める。


「じゃあ次は――

 “考えるな”。

 お前の直感を、俺が一段上に引き上げてやる。」


TSRを構え、静かに続けた。


「今のままじゃ、ツェアビルドには届かない。

 だが……伸び代は十分だ。」


アリウスの眼光が、わずかに揺れる。


「特訓を再開するぞ。

 今度は――本気で来い。」


2人の足元で、再び砂が跳ねた。

それは過去ではなく、これからの戦いの音だった。


戦いの時は迫っている。

誰もが黙々と準備を進めるその裏で――


胸の奥には、それぞれの想いと決意が静かに燃えていた。


CH3

-決戦前日-


激しい衝突音が、訓練場に響いていた。


アリウスが一歩引き、短く息を吐く。

視線はカイルから外さない。


「……よし。だいぶ、ましな動きになってきた。」


「本当か!」


カイルの声が弾んだ。

肩で息をしながらも、表情にはわずかな手応えが浮かんでいる。


アリウスは軽く頷いた。


「……あぁ。あとは明日の決戦で――勝つだけだ。」


その言葉を受け、カイルは一瞬だけ視線を落とした。

わずかに考え、静かに口を開く。


「……ベストを尽くすさ。」


その瞬間、アリウスの表情が曇った。

怪訝そうに眉を寄せる。


「……ベストを尽くす?」


低い声で、言葉を噛み砕くように続ける。


「何だ? それは。敗者の言い訳か?」


アリウスは一歩踏み出した。

足音が乾いた床に響く。


「勝者は、自分の帰る場所に――必ず生きて帰る。

それが、勝者だ。」


鋭い視線がカイルを射抜く。


「答えろ、カイル。

……お前の帰る場所は、どこだ?」


カイルは言葉を探すように口を開く。


「……この、せか――」


「違う。」


短い否定だった。


アリウスは小さく息を吐き、ため息混じりに言う。


「決戦前までに、答えを見つけろ。

……でないと――」


まっすぐに、逃げ場のない視線でカイルを見据える。


「死ぬぞ。」


その一言は、

呪いのように静かに、確かに――カイルの胸へ突き刺さった。


CH4

-決戦当日、16時-


アシュフォード研究所のロビーは、夕暮れの光に包まれていた。

西の空は燃えるような橙から、ゆっくりと群青へと移り変わっていく。

硝子越しの光が床へ差し込み、長い影を伸ばしていた。


カイルはロビー中央に立ち、腰にTSRを装着している。

本来なら蒼く光るはずの装備は、ECHO Drive搭載の調整中で無骨な金属の質感を露わにしていた。彼は視線を床へ落とし、わずかに拳を握る。


アリウスは壁際に背を預け、腕を組んだまま目を閉じていた。

呼吸は深く静かで、焦りや迷いは見えない。

ただ、その内側で燃えるものだけが隠しきれずに残っていた。


ヴィクターは左腕のパワーユニットを微調整し、短く息を吐く。

背後からロイクが最終確認を行い、何度か頷いた。


「…動きは問題ない。お前さんなら、やれる」


ニーナは少し離れた場所に立ち、まっすぐ前を見据えている。

表情は硬いが、わずかに震える唇が緊張を物語っていた。


スタンリーもまた何も言わず、静かに時を待っている。

鋭い眼差しは遠くを見据え、すでに戦場を思い描いているようだった。


アカネは両手を胸の前で握り、小さく深呼吸を繰り返している。

その視線は、ずっとカイルの背中へ向けられていた。


バニングは全員の顔を順に見回し、何も言わずに頷く。

満男はタブレットを操作し、最終観測データをマルコムへ手渡した。


マルコムはそれを受け取り、やがて全員を見渡して深く頭を下げた。


「……すまない。すべての元凶は、私だ。

 禁忌を犯し、この世界に歪みを生んだのは私の罪だ。

 多くの一般人を犠牲にし、ノアの命さえ奪わせてしまった……。

 謝って済むことではないと分かっている。……だが、それでもお願いしたい」


声は震え、視線は床へ落ちる。


「どうか――カイルのために。

あの子がこの世界で生きられるように……ツェアビルドを共に倒してほしい」


ロビーに重い沈黙が落ちた。


「……博士」


最初に口を開いたのはヴィクターだった。


「……博士。あんたがどんなに罪を背負っていようが、今さら誰も見捨てやしない。

俺たちはゴーストだ。仲間を守るために戦うだけだ」


バニングも腕を組み、低く頷く。


「……そうだ。命令する立場としてじゃなく、1人の人間として言う。俺も共に戦う」


ニーナは涙をこらえながら、強く頷いた。


「兄さんを奪ったあの化け物を、必ず倒す。……私も、力を尽くす」


スタンリーは小さく鼻を鳴らす。


「仕方ねぇな。ここまで来て引くわけにもいかねぇ」


ロイクは肩をすくめ、いつもの調子で言った。


「ま、俺はもうとっくに腹括ってるけどなぁ。

あんたの頼みだし、余計に燃えるってもんよ」


そのとき、アリウスが壁から背を離し、一歩前へ出る。


「……聞いたか、親父さん。誰1人、あんたを見捨てちゃいない。だから胸張れ。

俺たち全員で、ツェアビルドを消す」


その言葉に、自然と全員の視線がカイルへ向いた。


カイルはしばらく黙って拳を握りしめていた。

やがてゆっくり顔を上げ、仲間たちを見渡す。


「……1時間後にツェアビルドは現れる」


瞳に決意の光が宿る。


「俺たちで奴を消滅させる。……必ず」


その言葉に、誰もが無言で頷いた。

ロビーに満ちていた重い空気は、やがて鋭い緊張へと変わっていく。


決戦の刻は、すぐそこまで迫っていた。


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