第三話:下剋上戦②(内通破滅)
東場終了時:百地【37】 夢幻斎【61】 一馬【60】 貞丸【42】
南場に入る前に、若干の休憩時間がとられた。
「振り出しに戻ってしまった。何も出来ずに、申し訳ない」百地が一馬に謝った。
「そんなことはありません。初めてのルールですから、誰しもが戸惑いながら戦わなければいけません」
「おぬしは、心が真っすぐよのぅ。救われるわ」
「南場は荒れそうです。敵の親を流したら、自分の親で持ちこたえましょう」
「了解した」二人の作戦はまとまった。
「ふっふっふ。まくったぞ! もう一息じゃ!」夢幻斎は鼻息が荒かった。
「南場も、この調子で戦いましょう!」貞丸が言った。
「無論じゃ。霧笛どのの手を煩わすまででもない。対局終了後に奴らを全員斬るのじゃ! 勝っても負けてもな! 伏兵は既に忍ばせてある。ぐっふっふっ」夢幻斎は下衆な笑みを浮かべた。
「御意!」
その気配を、碧竜は察していた。
「氷月さん、マズイです・・・」
「どうしたの?」
「無数の忍びが、我々を取り巻いております。対局終了後に、我々全員が襲われるでしょう・・・」
「まさか! 最初からその気だったの?」
「恐らくそうだと思います。今の夢幻斎どのは、以前我々がお会いした誇りに満ちた夢幻斎どのではありません。充分に考えられます」
「どうしよう・・・」
風魔屋敷を100人の忍びが取り囲んでいた。夢幻斎は、雅信もろとも生きて返す気はなかった。
「それでは、南場を開始します。対局者の皆さまは、速やかに席におつきください」雅信が促した。
【南一局】 ドラ:發 親:夢幻斎【61】 南:一馬【60】 西:貞丸【42】 北:百地【37】
夢幻斎がサイコロを振った。ドラ表示牌は西家の山だった。
「くっくっく。南場に入ってもツイてるのぉ」夢幻斎は、涎が出る思いだった。
夢幻斎:六七八678⑥⑦⑧東東東發
「(マズイ! 百地どの、気付いてくれ!)」一馬は、祈るような思いで④を切った。しかし、百地は反応しなかった。
百地:一二三234②③⑥⑦⑧⑧⑧
「(一手代わりで、平和・断么九・三色同順になる・・・)」
夢幻斎は、南を自摸切った。
一馬:三四六789①②③⑦南南南
一馬は、伍を自摸って、①を切った。
「・・・①・・・」静かに切った牌を宣言した。
「! ロン!」百地が意をくみ取ってくれた。
「平和だけですね。煽動や下剋上の修正はありません。武功を1つだけお支払いください」雅信が勝ちを確定した。
「・・・、ふ~」一馬から安堵のため息が漏れた。2巡後に夢幻斎が、ど高めを自模る予定だった。
「・・・? (この人、ワザと私の当たり牌を切ったのでは? まさか、見えているのでは・・・?)」百地が疑問を抱いた。一馬が百地を見て口元を緩めた。
「!」百地は、一馬の意図を理解した。
「(そうか、この人は、全て分かっているんだ! ならば、余計なことはしないでおこう!)」一馬と百地の結束が固まった。
「ちっ! 煽動を生かせなかったわ!」夢幻斎が毒づいた。
「惜しかったですねー」と貞丸が言ったが、まるで勝負手になっていなかった。
【南二局】 ドラ:東 親:一馬【59】 南:貞丸【42】 西:百地【38】 北:夢幻斎【61】
一馬がサイコロを振った。ドラ表示牌は北家の山だった。
「煽動者認定! 煽動者は夢幻斎氏です」夢幻斎はニヤケが止まらなかった。
「(この局で、トドメを指してくれるわ!)」
夢幻斎:一二三12①①北北北白白白
そこに4枚目の白を自摸ってきた。
「槓!」
夢幻斎:一二三23①①北北北 槓白白白白
ドラ表示牌は「中」だった。ドラがそっくり乗った。
「(超・下剋上の完成だ!)」
一馬は思案して1を切った。夢幻斎の感情が爆発した。
「! ロンじゃ! とうとう出しおったわ! ド高めを! ぐわっはっはっはー! 東北の田舎忍者めが! ぬしなどわしらの敵ではないわ!」下劣な笑い方だった。
「全帯公、自風牌、三元牌、ドラ4で、8翻です。しかも、煽動・成功で和了翻数が2倍になります。16翻です。しかも、超・下剋上達成で和了翻数が3倍になります。合計48翻のお支払いとなります」雅信が計算した(⑦⑪が適用される)。
「あ~、負けてしまったか・・・」百地は崩れ落ちた。
「いやった~!」貞丸は歓喜した。
「残念だったなぁ・・・、じつに残念だ・・・」一馬は頭を垂れて嘆息した。
「あれ? 一馬があんな振舞い方をするのは珍しくない?」遠巻きに見ていた氷月が訝しがった。
「そうですね。私も始めてみました」碧竜が答えた。
「早く払って、謝らんかい!」夢幻斎が卓を蹴飛ばしながら、まくし立てた。
「残念ながら、下剋上失敗です!」一馬が目をギラリと輝かせながら夢幻斎を睨んだ。そしてゆっくりと手牌を広げた。
一馬: 四伍六234678東東東發
「む? 親の聴牌を確認しました。『下剋上・内通破滅』を達成しました。また、親と子が同時に下剋上が成立させたので、親の下剋上が優先になります」(⑫⑬が適用される)。
「!! おぬしそこから1を切りおったのか? ワシが全帯公を狙っておるのが分かっておっただろう!」
「ド高めを和了ってもらう為です」一馬はニヤケながら言った。
「! 勝ったー!」今度は、百地が喜ぶ番だった。
「え? なに! 負けたの?」貞丸が膝から崩れ落ちた。
「な~に、まだ勝負は終わっておらんわ・・・」夢幻斎は、そう言うのがやっとだった。
親:一馬【107】 南:貞丸【42】 西:百地【38】 北:夢幻斎【13】
ワナワナワナと、夢幻斎の震えは止まらなかった。
「小僧め! おぬしの運命は分かっているだろうのぉ~?」夢幻斎が冷ややかに言った。
「我々を、お斬りになりますか?」
「あったりまえじゃ~! 麻雀での勝負などまどろっこしいわー! 者ども、であえー!」夢幻斎のひと言で、茂みや建物の陰に隠れていた忍び達が一斉に姿を現した。
「お! 始まった! 氷月さん、行きましょう!」碧竜は卓に向かって走り出した。
「ええ!」氷月も後に続いた。
一馬の行動は早かった。
「百地どの、参るぞ!」百地を促した。
「お、おう!」百地はすぐに刀を抜いた。
「勝ち逃げ御免!」一馬は、夢幻斎の刀を叩き落した。
「百地どの、参られよ!」
「おう!」百地が夢幻斎を叩き斬った。
「ぐっわー!」と苦しみながら夢幻斎は川に落ちた。百地が夢幻斎を斬ったと同時に注意を他に向けた一馬の誤算だった。川に落ちた夢幻斎は生きていた。一馬の和了が成立して一分も経っていなかった。
麻雀卓の周りでは、一馬、百地、碧竜、氷月を囲んで乱戦が始まった。
同時に鉄砲の音が鳴り響いた。
「ぱぁん!」
乱戦は一時中断された。
「!」
「!!」
「?」全員が周囲を見渡して状況を確認した。
「百地! 助太刀だ!」現れたのは、藤林長門守だった。甲賀七虹士を率いて忍び達を撃破していた。
「わしも、助太刀をいたそう!」三河の服部半蔵も50人の兵を従えて、援軍に駆け付けた。
「俺もいるよ!」石川五右衛門は、巨大ガマガエルに乗って現れた。
こうして、風魔一族は雲散霧消した。忍びの者たちの半数は逃げ去った。
「すっかり、黒脛巾組の頭領には世話になり申した」百地は頭を下げた。
「黒脛巾組は、伊賀の恩人です。助っ人が必要な時は、声をおかけください。いつでも馳せ参じます」服部半蔵が言った。
「その時は、すぐに来るさ。どうしても、戦わねばならない奴がいるだろう」藤林長門守が言った。
「その時は、助けてくれますかな?」一馬が聞いた。
「俺は、甲賀忍者の頭領だ。どうやら、朱雀派を壊滅させなければいけないらしい」
「徳川家も、織田家を警戒しております」服部半蔵が言った。
「一馬どののお陰で、風魔夢幻斎を討つことが出来申した。今度は、拙者が助太刀する番でござる」
『本能寺の変』が起こることは内通によって分かっていた。
朱雀派の包囲網は、確実に出来上がっていた。
川下に流された夢幻斎は、ずぶ濡れの身体を引きずりながら這いずり出てきた。
「これしきで、死ぬわけにはいかんのう!」
〔第四話:籠城戦①誘き寄せられし者たち〕に続く




