27針目.メイ・リサの経済効果
一週間前に見本市で賑わった商工会議所が、再び賑わいを見せる。
ウィンチェスター商会会長、バーナライト・ウォルグドーフの一人娘でありバーネット公爵夫人であるメイ・リサの専属服飾商を選ぶという未聞のイベントに、集まったのは貴族と関係者達だけではない。
ウーフェイとソンヒ夫妻を含めた布地商、お針子、紳士服の仕立て屋、靴屋、宝石職人、宮廷衣装係。
それだけにとどまらない。
理髪師、高級娼婦、道先案内人に石鹼屋、場違いな木こり、なぜか修道女、どさくさに紛れてサンドイッチ屋が屋台まで出すお祭り騒ぎだった。
「盛り上がってますね~」
司会進行を買って出たウインチェスター商会幹部のアルフレッドは、軽薄な笑顔でバーナライトに近付く。
「ピンクの生地は三倍に値上がり。レースとリボンは王都から消失。何があったんでしょうねえ」
「それだけメイ・リサの経済効果は絶大ということだな」
バーナライトも同じく口の端に笑みを浮かべる。
「ケイレブ様には感謝すべきだな。同業潰しの買い占めが起こることは予想できなかったが」
「成り行きでも儲けたんだから良しとしましょう」
そこへ歓声が上がる。
夫と共に、王都一の美女が姿を現した。
長い黒髪に映える黄色のドレスをまとい、用意された椅子に腰掛ける。
それを待ってアルフレッドは声を張り上げた。
「ご来場の皆様!今宵はまたとない特別な機会です!ウインチェスター商会が誇るエリスニア王国最高の美女、メイ・リサ様付きの服飾商が決まる瞬間をどうぞその目でお見届けください!!」
割れんばかりの歓声が響く。
しかし当の主役は内心冷めていた。
(時間の無駄だわ、さっさと帰りたい・・・)
それもそのはず、メイ・リサは選ぶ人間をもう決めているのだ。
(まあでも、みんなうるさいし・・・。これも仕事のうちね)
小さくため息を吐きながら会場の人間を眺めていると、脇に控える服飾商達の中にシオンの姿を見つけ目が合う。
メイ・リサはにこやかに、愛想良く手を振った。
「それではさっそく参りましょう!まずはこの王都で開業百五十年の歴史を持つ老舗、『ローズ・ラファエル』ガブリエラ夫人のドレスです!」
入口が開かれ、薄桃色のドレスを着た女性が歩いてくると、三度目の歓声が上がる。
「素敵!メイ・リサ様にぴったりじゃない!」
「『ローズ・ラファエル』らしいデザインだわ・・・!」
女性達から感嘆の声が漏れる。
「これは実に愛らしいドレスですね!ガブリエラ夫人、ご説明をどうぞ!」
ギャラリーの反応を見ながら、アルフレッドは次々とドレスを紹介する。
「アーニャレリア王妃様にもドレスを献上した『イル・ド・エトワール』、ヘリオスのドレスです!」
「王都の人気店『シュテファン・ノリス』、ラン・ジャネット夫人のドレスです!」
「お次は宮廷衣装係のお針子、カレン嬢の・・・」
次々と、ドレス姿の女性たちがホールに入って行く。
歓声が高めた緊張を鎮めるため、ダイアナは深呼吸を繰り返した。
(・・・大丈夫、彼の仕事はいつだって完璧よ)
今着ているドレスが完成した時、心の底から願った。
シオンの夢を実現する人間が、自分でなくては嫌だ、と。
(ごめんなさい、メイ・リサ様・・・)
「さあ最後です!ブラン公爵家御息女ダイアナ様御用達!シオンのドレスです!」
ダイアナは顔を上げ、足を踏み出した。
「・・・今度は渡さないわよ」




