24針目.商業の基本は協力
あまりにも想定外の展開に、メイ・リサの唇はワナワナと震え始める。
「・・・なんですってぇ?!」
早速シオンを責めようとするも、しかし怒れる商人達の矛先はなんと自分に向いていた。
「メイ・リサ様!コイツの言う事は本当なんですか?!」
「こんなポッと出の若造に専属のオファーを?!」
「ズルいじゃないですか、まだ自分の店も持っていないヒヨッ子ですよ!!」
「うるさいわね!」
メイ・リサは声を張り上げる。
「だったらどうしたっていうの!私はシオンがいいと思ったから話を持ち掛けただけよ!アンタ達に用はないの!!」
どうせ恨むならシオンを恨んでほしいメイ・リサだが、そうは問屋が卸さない。
「いえ、いけません!僕みたいな田舎者の若輩が王都のベテランの皆さんを押しのけて甘い汁を啜るのは仁義に反します!」
(はあ?!アンタそんな殊勝なタイプじゃないでしょ!)
開いた口が塞がらないメイ・リサの前で、純朴シオンは商人達を扇動する。
「ここはやはり!メイ・リサ様付きになりたい全員にアプローチのチャンスがあるべきではないでしょうか!!」
シオンが叫ぶと商人達も叫ぶ。
「そうだ!シオンの言う通りだ!!」
「仁義!仁義!!」
「なんて誠実なんだお前は!今度飲みに行こう!」
純朴なヒヨッ子はあっという間に王都の服飾商の懐に入り込むことに成功。
「そんなそんな、当然のことですよ!商業の基本は協力じゃないですかあ~」
と、テヘっと笑いながら絶賛を受けていた。
その様子を、少し開けた玄関ドアの隙間から一部始終見ていたエリンも開いた口が塞がらない。
(・・・小賢しいいいっ!!てかキャラ誰?!ボク?!)
「メイ・リサ様・・・これは全員に競合させないと問題になりますよ・・・」
シオンを中心に仁義コールで盛り上がる商人の群れからメイ・リサを引き剝がし、ハーモンドは小声で耳打ちする。
「どうして?!」
「御父上はギルドの代表です・・・!懇意にしている商人の立場を省みない行動は許されませんよ・・・!!」
メイ・リサは言葉を失う。
まさか、こんなことになるなんて。
(どうすればいいのよ・・・!)
メイ・リサが戸惑っていたその時、ケイレブが進み出た。
「皆さん、お話は分かりました。妻が誤解を与えたなら申し訳ない」
そう前置きし、貴族らしい振る舞いで
「我が妻専属に立候補してくださる方がこんなにもいるとは誇らしい!是非、専属服飾商を選ばせていただきましょう!」
そう発すると、バーネット公爵邸の玄関ホールは歓声に包まれた。
「一週間後、場所は見本市を開催した商工会議所メインホールにしましょう。それぞれ作った衣装をモデルの女性に着させての発表ならより盛り上がりそうですね」
再度歓声が上がり、それに満足したケイレブはメイ・リサを連れて階段を上がって行った。
それを見届け、シオンは玄関を抜け出てエリンと共に傍に停まる馬車に走って戻る。
「ちょっとシオンさん!あんな振る舞いが出来たんですか?!」
「人間怒りが頂点を超えると何でも出来るもんだな 」
したり顔で笑うシオンの目は全く笑っていない。
「シオンさんの地雷を踏むなんて・・・あの人本当に人の子じゃないのかも・・・」
「なら結構なことだ。こっちも遠慮いらないな」
エリンが青くなる隣で、反撃の姿勢を整えたシオンは吐き捨てるように言った。
「最大限利用させてもらうぞ」