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25針目.トルソーがないのは厳しいわ

 「そんなことに・・・?!」


 戻った二人の報告を聞き、ダイアナは驚きのあまりグラスを落としかける。


 夕方、見本市の帰りにシオンから受けた報告にショックを受けたが、今聞いた内容はさらに衝撃的だった。


 メイ・リサ専属の服飾商を選ぶという勝負など無視して帰ることもできるが、シオンはそんなことはしないだろう。


 王都で、名を売ること。


 これが今回の王都訪問の最大の目的だから、このチャンスを逃す手はない。


 (・・・でも、もし・・・シオンが選ばれたら・・・)


 彼の将来と自領の農家の立場を考えたらシオンはメイ・リサと組む方がいいに決まっているが、ダイアナはそれを望めない。


 (私はまた・・・あの方に大事な人を奪われるの・・・?)


 シオンに王都で成功して欲しい。


 誰もがシオンの作る服を求めるようになって欲しい。


 その夢が叶う所まで来ているのだが、手引きするのはあのメイ・リサである。


 全身が震え始め思わずソファに座り込むと、足元にシオンが来て膝を付きダイアナの手を握った。


 「大丈夫だから。俺は選ばれない」

 「でも・・・!メイ・リサ様はあなたを望んでいるのでしょう?!」


 この話が決まれば、間違いなく次のモデルはメイ・リサである。


 この日々が終るかもしれないという恐れと、公爵家の人間として農家のために負わなければならない責任に、堪え切れず涙が一筋頬を伝った。


 慌てて拭おうとすると、その手をシオンに強く握られ、代わりにシオンの反対の手がダイアナの頬まで伸びる。


 「ちゃんと考えてるから。面倒なことになって、ごめん」


 シオンの親指が、優しく涙を拭う。


 「俺のモデルは奥様しかいないから。農家を壊滅なんてマネもさせない」


 頬に添えられた手を、ダイアナは自分の両手で包むように握った。


 「・・・分かったわ。私も取り乱してごめんなさい・・・」


 その二人の様子を黙って見ていた驚愕の表情のヘーゼルと冷めた顔のエリンは


 (あ、ら・・・まあ・・・!)

 (今度は何キャラ?)


 と、それぞれ思考を巡らせる。


 「それでシオン、ドレスの生地はどこから仕入れる?」

 「ちょうど明日会う約束している商人がいたから、そこを考えてる」

 「てか道具ありますか?!」


 冷静になった一同は現実的な問題に直面した。


 万が一を考え最低限の仕立てができる道具はヘーゼルが持って来ていたが、


 「トルソーがないのは厳しいわ」


 と、重要な問題を挙げた。


 「私はずっと立っていて大丈夫です!」


 ダイアナの申し出にヘーゼルは首を振る。


 「いえ、そういう問題ではないのです。型を決めるためにはトルソーに布を針で固定しなければいけないのです」

 「バスタオルを体に巻けば・・・」

 「ダメだ」


 シオンも即答する。


 「万一針が刺さって先端が体の中に残ったら死ぬことだってある」

 「そうです。人体をトルソー代わりにするなんて知れたら廃業必須です」

 「じゃあ借りましょうよ!王都なんですから仕立て屋はいくらでもありますよ!」


 エリンが提案するも、この件に関しては競合相手であるシオンにトルソーを貸してくれるかが不明だ。


 「シオンさんとヘーゼルさんはお顔が知れましたからね!私が明日一軒一軒回ってみます!」

 「お嬢ちゃん頼もしいな」


 ふふん!と得意げにエリンは胸を張る。


 それからダイアナは急いで支配人と延泊の手続きを行い、翌朝には早馬を両親とスタンの元へ出させた。


 「では私は仕立て屋さん巡りに行ってきます!」


 朝食の後、エリンは元気に飛び出していった。


 「私達も行きましょう。その商人の方はどちらに滞在しているの?」

 「外国人居留区だって」


 シオンは住所が書かれた紙切れをダイアナに手渡す。


 「大使館エリアの方面ね・・・あら?ではこの方は外国人の方?」

 「東洋人商人だって」

 「もしかしてヤンロウ帝国のご夫婦?」


 ヘーゼルの問いにシオンは頷いた。


 「そう、ウーフェイとソンヒ」

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