23針目.土下座
翌夕、バーネット公爵邸ダイニングルーム。
お気に入りのドレスで夫と向き合ってディナーをするメイ・リサは、いつになく機嫌が良かった。
給仕するメイドにもにこやかに礼を言う。
「・・・何か良いことがあったのかい?」
「ええ、じきに」
サーモンの燻製に優雅にナイフを入れキャビアを包みながら、笑顔でメイ・リサは答える。
ケイレブはそれ以上聞いたりしない。
この新しい妻に関しては、適当にあしらうのが嵐を呼ばない方法だと気付いたのだ。
(ダイアナはラクだったのに・・・)
苦い思いで振り返る過去は、優しさで満ちている。
ダイアナはいつどんな時も、礼儀正しく、公正で、自分よりも他人を優先する思いやりにあふれていた。
その美点を窮屈に感じ、鬱陶しいと思った自分の愚かさの結果がこれだ。
(・・・昨日はなぜ見本市に来ていたんだ・・・?)
生まれ変わったように美しくなった元妻の姿を思い出し食事をする手も止まったままでいると、慌てふためいたハーモンドが飛び込んで来た。
「メイ・リサ様!大変です!!」
「どうしたのよ」
「玄関ホールに・・・!」
初老の執事は息を切らしながら告げる。
「・・・服飾商達が大勢詰め掛けています!!」
メイ・リサとケイレブは状況を飲む込むことができない。
「・・・は?」
「どういうことだ」
「と・・・とにかく、来てください・・・!」
三人が足早に玄関ホールに降りる階段の元へ行くと、三十人は下らない人だかりが出来てそれを馬番の男や厨房の料理係達が必死に抑え、隅でメイド達が怯えている。
「あ!メイ・リサ様!バーネット公爵!!」
階段の上にいる二人を見つけるや、商人達が一斉に叫び出した。
「あんまりじゃありませんか!我々をないがしろにするのですか!!」
「今までウインチェスター商会を贔屓にしてきたのに!!」
「ウチの店は王都の人気店ですよ!!」
怒号が飛び交う状況に困惑するメイ・リサは、商人の群れの中にシオンの姿を見つけた。
「ちょっとシオン・・・!」
階段を駆け下り、近付く商人を突き飛ばしながらシオンの下に寄る。
「何なのよこれ!知っているなら話しなさいよ!!」
シオンの胸ぐらを掴んだメイ・リサだが、その表情が目に入るや悪寒が走る。
「メイ・リサ様・・・!申し訳ありません!!」
突如純朴キャラに豹変したシオンはなんとその場で土下座をした。
「僕、昨夜のお話が嬉しくて、つい今日見本市で皆さんに話してしまって・・・!!」
続くシオンの言葉に、メイ・リサの嫌な予感が的中した。
「服飾商の皆さんが自分にもチャンスが欲しいと訴えようと仰るんです・・・!!!」




