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エピソード25 問答

兄様の表情が、冷ややかな顔に変わった。


「彩、なぜ、泣かない。」


「その1、私より兄様の方が泣きたいくらい苦しいはずだから。私は泣いてはならないのです。

その2、兄様は私の涙に弱い、だから、それを狙ってはならないのです。」


「よく理解できている。」

ふっと、冷たい笑いをする。いつもの兄様みたい。


「彩の言い分はわかった。もし医師になれたとして、僕が結婚を拒否しても、僕を大切にできるのか?」


私は手を握りしめた。

「はい。」


「僕が、どこかのお嬢様と結婚しても?」


私は愕然として、兄様を見つめてしまった。泣きそうだ。


「…………私の気持ちは変わりません。高一で、医師になるか研究者になるか迷って、研究者を選んだ事は、後悔はしていません。でも、冬冷家にいても慈優の家にいても、医師の世界にいて、何も手伝えないのは、素直に辛いと思いました。

兄様に愛されなくても、兄様からいただた愛はあまりにも大きすぎますから、その気持ちを大切にして、幼い頃から医師になろうと思った夢に、もう一度向き合うつもりです。」


「では、僕が愛さなくても、正しい倫理観を持つ医師になる覚悟はできているのだな。僕の怪我を理由に医師になるのは、許さん。」


「はい。恋だの好きだので、できる仕事ではありませんから。それは、両親やこの家で育ってきて、身に染みてわかっています。」


「わかった。そこがブレてないなら、安心した。では、僕の愛を、一生をかけて、返してもらおうか。」


兄様が、冷たい冷たい顔をして、左手で私の顎に触れ、上に向かせた。ぞくっとして、腰が引ける。


「彩、僕を裏切った罪を認めたんだ、わかっていたんだね。」


こんな艶めいた男っぽい兄様を見たことがなかった。今まさに、兄様が壊れたと思うくらい、びびっている。いつもは人畜無害な品行方正なイメージだから、男性を感じる事はなかった。

頬がこけて、無精髭があるから、余計に精悍で、色気がみえる。

ドキッとして、後ろに逃げようとしたけど、体が固まって動けない。


「、はっ、はい。」


「3年に編入して、国試まで3年。もし受かったとして、冬冷家の妻の要件を満たす大学院卒業まで4年。あと7年も、この僕に待て、と?」


「兄様、、」


「兄様ではないだろう?嫁になりたいのだろう?」


「は、ひい、ひい、つ、さん、」


「良い子だ。で、7年待てと?僕は40歳のおじさんだよ。一体何年待たせるっ、馬鹿かっ!」


「ご、ごめんなさい。そ、その、ひ、ひ、氷逸、さん、私、待たせるつもりなんて。。でも、国試に受からないと、医師免許を、、」


「わかっている。なら、僕も責任を取らなくてはならないね。君の素っ裸を見たからね。」


「へっ?あっ?」

急に言われて、恥ずかしさが込み上げ、真っ赤になるのがわかる。


「氷美が見たことないのも知ってる。氷美がキスもさせてくれないと言ってたのも知ってる。だから、凄水に引っかかったのもあるんだろう。で

一糸纏わぬ彩を、僕はこの手で抱き上げ、上着に包み込んで、救急車にのせた。」


そうだ、私は乱暴される寸前、兄様に助けられた。


「彩を奪われるくらいなら、手を失っても良かった、後悔はしていない。だが、同時に彩を失ったと思った。あの時は、医師である前に、1人の男だったから、外科医と言う事は忘れていた。」


「氷逸兄、、いえ、氷逸さん。だから、、」

自分の顔が上気しているのがわかる。


「彩、飛んで火に入る夏の虫、とはこう言う事を言うのかな?」


「えっ? 」


「僕は、自分を見失うほど彩が大切で、その愛情を抑えに抑え続けて苦痛にもがいている業火のようなところに、君は、お嫁さんにしてほしいと、決死の覚悟をし、更に条件を付加し、白百合を抱えた天使のままで、飛び込んできたんだよ。全く、6歳の頃から何も変わっていないっ。」


兄様の左手に力がかかる。

「ひぇっ。」


「だから、部屋から出ろ、と言ったんだ。君は馬鹿かと。にも関わらず、僕らの腕をわざわざ縛って、もう逃げられないぞ。」


「にっ、逃げません、氷逸兄様。」


兄様の表情が変わった。

「兄様?」


「ち、ちが、、ひ、ひい、、、」

氷逸兄様の、真剣な眼差しに射抜かれたみたいに、そしてダダ漏れの色気には抗えなかった。

私は引き寄せられて、とっても甘く終わらないキスに、意識が飛びそうになっていた。


たくさんキスをされて、私は呆然としていた。


「彩、彩?」


「氷逸、にい、、ちが、氷逸さん。 」


「名前は、ちゃんと覚えたな。彩、僕は、今、本気で右手がだめだ。この縛った紐を解いてくれ。」


「えっ。」

兄様が、標準モードになった。


「彩が僕と一緒にいたのはわかるけど、とにかく一回、解かないと、身動できない、彩、顔が赤い。。」


「うっ、、あ、当たり前です。あ、あんな、事。」


「生まれて初めてか。だろうな。」


氷美兄様が、笑っている。完全に、意地悪されたと、わかった。兄様は確信犯だ。


私は、赤い顔をして、2人の腕を縛っていた紐をほどくと、氷逸兄様は、黙って抱きしめてくれた。


「ありがとう、彩。もう大丈夫だ。」


「今まで、ごめんなさい。」


「彩、もう一度だけ聞く。これが最後だ。本当に僕で構わないのか?」


「氷逸兄様、、氷逸さんじゃないと、いやです。わたし、私を押し付けてますか?」


「いや、僕が彩を誘拐したかったくらいだ。彩の覚悟ができているなら、結婚してくれ。もう待てないし、7年待たされるくらいなら、媚薬を盛ってでも、自分のものにする。」


また真顔で、恐ろしいことを言っている。意地悪なんだろうけど。


「いっ、医師になる前で、いいのですか?」


「彩の事だ、3年で受かってくれるだろうし、側にいたら、色々と教えてやれる。一緒にいたいなら、だけどな。」


「離れたくありません。ひい、つ、さん、リハビリもあるでしょう。」


「もう手術をする仕事は無理だろうが、医師はそれだけではないからな。少しでも手が動く事については、困る事はないから、リハビリもしたい。それに、彩を愛したいし。」


今度は、右手で顎を掴まれた。

恥ずかしくて下を向こうとしたけど、結構な力だった。

「僕の右手に力を入れさせないでくれ、痛い。だから、下を向くな。」


無理してたんだ。黙って、顎を上げて、キスを受け入れた。顔が離れた。ニヤリとしている。男っぽいから、ドキドキしてしまう。


「彩は、素直だな。飛んで火に入る夏の虫だからな。さて、夏の虫、腹が減った。風呂も入りたい。体が臭い気がする。」


私は吹き出した。もうめちゃくちゃだ。氷逸兄様のあのポーカーフェイスは、どこに行ったんだろう。


「先に少し食べないと、お風呂に入ったら、倒れます。お食事、温め直してきましょうか。」


「夏の虫と離れたくないから、そのままでいい。彩は食べたのか?少し痩せただろう。」


兄様が、また左手で、私の頬を撫でる。


「慈優の家で、氷逸さんのこと考え続けて、食べられませんでした。でも氷逸さんに向き合う事を決めて、少し食べられるように。兄様の脳に向き合うなんて、一筋縄ではいかないですからね。」


「覚悟はわかったから、僕が、彩を拒絶できないなんて、わかってるだろう。そんなに自信がなかったのか。人の感情がわかるくせに。」


「それが、好きな人は、わからないのです。氷美兄様の気持ちは、わかってましたが、昔から氷逸兄、氷逸さんの気持ちだけが、わからなくて、自信がなかったのです。」


「僕と同じだったのか?」


「へ?」


「僕も、彩の本音だけが読めなかった。だから、氷美に取られたのかもな。まあ、結論としては、彩は、取られてはなかったんだが。」


頷いたら、涙が溢れてきた。


「夏の虫、泣くより、夕飯が先だ。はやく食べさせてくれ。」


そう言いながら、左手で涙を拭ってくれた。


そこからは、兄様が王子様じゃなくて、王様状態だった。


ごはんを、あ〜んしながら、たべさせろと言うし、そのあとは、別館にあるお風呂に入るのを手伝った。

兄様は、もう結婚するから気にするなと、意外と冷静だったが、こっちが恥ずかしかった。

右手をビニール袋で濡れないようにして、私は服を着たまま、背中を流したり、髭を剃ったり、髪を洗ったり、とにかく兄様は上機嫌だった。

お風呂から上がって、髪を乾かして、パジャマを着るのも手伝って、本人も、やっと、ホッとしたらしい。


私は服のまま兄様の手伝いをしていたので、ずぶ濡れになってしまった。

「彩、先に包帯を替えてもらってくるから、彩も風呂に入れ。長山から運転してきて、大学に寄ってきたんだろう。疲れを流しておきなさい。」


いつもの兄様っぽいけど、命令系が増えたような気がする。誰に似てるのか、そっか、おじさまと似てるんだ。

ゆっくりお風呂に入った。なんか、ほっとした。


兄様の子供部屋の隣りの隣りの私の部屋に戻って、パジャマに着がえて、氷美兄様の部屋に行くと、包帯が真っ白になっていたから、消毒が終わったんだと、ほっとした。

一緒におじさまに話に行こうと言う。


「その前に彩、このタンザナイトは、ずっとしていてほしい。」と、中学の時にもらった、華奢なネックレスをつけてくれようとした。

右手が使えないから、全てがスムーズにいかない。兄様は、左手も器用だけど、片方が使えないのは、苛々とするみたいだ。

私は思わず、氷逸兄様の右手にキスをした。


兄様が目をみはった。

「この手は、夏の虫への愛の証だから、大事にしないと。」


私は、ネックレスの片方の端を持って、片方を兄様に渡すと、すぐにつけられた。

私は、兄様のクビに手を回して、抱きついてみた。

「嬉しい。愛をありがとうございます。」


「あとのものは、結婚式の時につけてあげるから、それまで待て、いいね。」


「はい。」


氷逸兄様と私はサロンで、おじさまとおばさまの前に並んで座っていた。


「父さん、ご心配をおかけしましたが、彩を妻にしたいと思います。これ以上は先延ばしにしたくないので。」


「2人とも納得できているか?氷逸、お前は冬冷の長男だ。離婚は許さんぞ。」


「はい。絶対に離婚はしません。」


「彩は、こいつの性格は裏表がある、捕まったら逃げられないが、大丈夫なのか。」


「はいっ、捕まえてもらえるなら、嬉しいです。」


氷逸兄様が、私の顔をみて、ちょっとニヤっとした気がしたけど、、、さっきの色気をみたら、もう降参するしかないとわかった気がした。ポーカーフェイスの方が怖い。


向こうの世界でも見たデジャブだけど、おじさまが婚姻届を出してきた。笑ってしまった。

すでに、おじさまとお父様のサインがあった。


氷逸兄様がペンを持ちにくそうだ。

私が、黙って、紙を押さえた。

氷逸兄様が左手で、器用にサインし、私もサインをした。


そして、氷逸兄様は、小さな古びた箱を出してきた。


「彩、これを、、」


箱を開けると、タンザナイトの婚約指輪と、結婚指輪が並んでいた。


私は息をのんだ。初めてみる、とても綺麗な指輪だった。

兄様は、包帯が痛々しい手で私の手を持ち上げて、左手の薬指に婚約指輪をはめ、続きに、結婚指輪をはめてくれた。

結婚指輪の裏側に、小さななダイヤモンドとタンザニアが、びっしりと埋め込んであった。

「表が派手だと、仕事中に外すだろうから、表は地味にした。だから、絶対に外すな、わかったか。」


「はい。」


私は、氷逸兄様の薬指に、泣きながら、指輪を差し込んだ。

兄様が黙って、優しく涙を拭ってくれる。


「私達が見届けた、慈優にも連絡した。喜んでいたぞ。勇ましく娘が突撃したから、よろしくと。

明日、貴山弁護士が提出する。彩は冬冷彩になる。彩、氷逸を頼む。」


「私の全てを氷逸さんに捧げて、大切にします。」


何故かその言葉に、兄様が反応している。私、なんか、まずい事、言ったっけ?

それを見た、おじさまが、ニヤニヤしている。


「氷逸、今後の事は、慈優とも相談するから、今は焦るな。まずは、傷を少しでも回復させること、彩が医師になるまでは、焦らなくてもいい。彩も大学院まで考えなくても、国試に受かった時点で、将来を考えよう。結婚式は、お前の希望で、できるだけ早くしよう。明日母さんが手配するそうだ。」


「よろしくお願いします。」


「氷逸、今夜は、どこで寝るの?」

おばさまが聞いてきた。


「子供部屋で。」


「狭いわよ。三階に、、、」


「母さん、あれは、氷美のために準備した部屋だ。気分が良くないから、住まないよ。彩、子供部屋で、いいか?ゆっくり相談して決めるけど、いずれこの屋敷を出るつもりをしているから、しばらくは、子供部屋で。」


「氷逸さんの側なら、どこでもいいです。」


「まあ、あなたたちは、親の前でも熱いわねっ。 」

おばさまに笑われてしまった。


「氷逸、傷も、そろそろ安定してきてるだろう。もうしばらく安静にしてから、新婚旅行に行ってこい。いずれ、行けなくなるくらい、忙しくなる。その間に、別館の氷美の部屋を無くして、お前と彩の部屋を繋げれば、もう少し広くなる。彩が医学部を卒業するまでは、ここにいてくれないと、我々も困るからな。」


氷逸兄様は、黙って頷いていた。

おじさまとおばさまに、おやすみのご挨拶をして、別館の子供部屋に戻ったら、瑠璃ばあが、部屋を綺麗にして、部屋から出てきたところだった。


「別館は、お二人の住居になりますから、誰もこちらに来ないようにしておきます。ゆっくりお休みくださいね。氷逸坊っちゃま、彩さま、お幸せになってくださいませ。」


「瑠璃ばあ、ありがとう。」


瑠璃ばあが、私を優しく抱きしめてくれた。


氷逸兄様の子供部屋に入った。白百合とピンクの薔薇が飾ってあった。お部屋が良い香りをしていた。

2人になった途端に、ドキドキしてきた。

やっと2人の気持ちが通い合いました。

読んでいただき、ありがとうございます。

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