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エピソード22 苦しみと幸せ

《異世界の慈優家》


冬冷家と慈優家を巻き込んだ、長年にわたる凄水の犯罪から、抜け出せた私は、慈優の両親に連れられて、長山県の慈優宅に戻ってきて、一週間が過ぎた。


戻った当初は、精神的にも不安定になり、眠れずに、泣いたり、怒ったり、部屋に引きこもって、水は飲んでいたけれど、食事も拒否していた。


20年来の親友の裏切り、婚約者破棄、誘拐暴行未遂、、そして、氷逸兄様の回復できない負傷。

私は、自分がいない方がよいのかと思った。


お母様は、診療の合間に、戻ってきて、私の顔を見ては、食事量を確認して、また病院に戻っていく。

冬冷家にいても、慈優の家にいても、親も育ての親も、同じ生活だなと、苦笑してしまった。


やっと気持ちも落ち着いてきて、2日前から、一日分の量を、5回分に分けて、少しずつ、食事を取れるようになっていた。


この慈優の家に帰ってきたのは、と考えて、思い当たり、私は、今更ながらに、驚いた。


私、この慈優の家、初めて《来た》のだ。

幼い頃に来た長山のおじいちゃまの家と診療所は、もっと古かったし、テレビドラマに出てくるような、田舎の和気藹々?としたような、懐かしい建物だったし、おじいちゃまの家には、囲炉裏もあった。


今の慈優の家、と言うか建物は、冬冷家をコンパクトに少し色味を地味にしただけで、にていた。

だから、違和感なく、生活していたのだ。


でも、お母様は、来たことがない私の部屋を、準備してくれていた。

最初にこの部屋を見せてくれた時、『もし彩が、冬冷の家に馴染めなかったら、すぐに連れ帰ろうと、建て替える前から準備していたのよ。心の中では、そう願っていたかもね?』と、優しく笑って、話してくれた。部屋には、私の幼い頃の服もあったし、カブトムシのぬいぐるみもあった。

ただ、こっちのカブトムシのぬいぐるみは、20年近く経つのに、あまり傷んでなかった。

冬冷家にあるのは、多分、ヨレヨレだ。氷逸兄様の部屋にある。


そう、私は、いつだって、どこでも、愛されていたのだ。

元世界に帰りたい。。異世界に来てから、眠っていないからか、元世界に戻れない。


海が見たい、と思った。都内だと、海は近い。

長山県は、海無し県。でも、近くに湖がある。


今日、2回目の朝ごはん?を食べて、少し歩く元気が出てきた。

私は、お手伝いさんに断ると、外には出せないと言われ、GPS機能をオンにしたスマホを持つからと、2時間で戻ると言って、車で、一番近い湖に着いた。


これから、冬になる、雪を迎えるような季節の変わり目。人はほとんどいなかった。

時折、恋人たちが、手を繋いで散策している。


寒々しい湖は、氷逸兄様のような、冷静でキリッとした瞳のように感じた。


あれから、氷逸兄様に、お礼と体調を伺うメールをした。

返信は、『彩ちゃんが無事な事が、一番嬉しい。早く元気になって、新しい一歩を踏み出しなさい。僕は元気にしている。』と。


何も知らない人が読んだら、普通のメールだけど、私は、氷逸兄様が、人を突き放す時の、優しいメールだと、わかっていた。 


そのメールを何回も読み直すけど、読み直すほどに、送りたいメールを、書けなくなる。

書いても意味がない事を、私は知っている。


そして、もう一個、氷美兄様から、

『申し訳なかった。謝って許してもらえる事ではないが、彩ちゃんに助けられた。君の的確な判断がなければ、僕は精神を病んでいた。感謝しても仕切れない。僕にそんな資格はないけれど、彩ちゃんの幸せを願っている。』と。


あとから、警察の人から聞いたけど、婚約破棄した日に、私と瑠璃ばあと高見さんで準備した、氷美兄様に持たせるボストンバッグに、とにかく役に立ちそうな薬と庭のミントを入れた。

あれがなかったら、氷美兄様は、違法薬物の中毒になり、前科が付き、もちろんのこと、医師免許も剥奪になっていたらしい。

媚薬自体は、違法薬物の範疇ではなかったはずだけど、凄水の屋敷には、氷美兄様が、従わなかった時のために、違法なものが準備されていたらしい。結果的に、急いで必死に考えて突っ込んだ薬やミントは、氷美兄様を助けていた。それだけでも、良かったと思う。


私は、首にある、ネックレスをそっとおさえてみた。氷逸兄様が身を守るようにと、つけて下さった。その手首にも、ブレスレットがついている。


その時、湖に、さざめきが起きた。

渡鳥?2羽の真っ白な美しい鳥が降りてきた。


白鳥?

長い渡りから、やっと辿り着いた越冬の湖。

2話の白鳥は、長い首をすり合わせた。


「なんて綺麗なの。」

思わず声を出した。白鳥は、白い。白いから白鳥。


10年前の光景が甦る。

幼稚舎の頃から中学生まで習っていたバレエを思い出す。バレエを習う女の子の憧れの白鳥の湖。私は、幼稚舎の最終学年で、その他大勢の白鳥に選ばれていたが、幼稚園児の白鳥は、あまりにも拙かった。まだトウシューズも履かない可愛い勝手にくるくる回ったスワンの一人。

それでも当時、おじ様とおば様と、中学生だった氷逸兄様が見に来てくれていた。 


時間に限りがあるおじ様が早く帰らなくてはならず、私は舞台衣装のまま、冬冷家の車で屋敷に帰った。

そのあとが、大変だった。バレエのメイクをしたスワンの衣装を着た私は、冬冷家の玄関を入った場所で、氷逸兄様を王子役にして、くるくると周り続けた。あれは、氷美兄様ではなく、氷逸兄様だった。

でも、元の世界では、シンデレラごっこをしたのは、間違いなく氷美兄様だったはず。


その後も、思い出した。

中学生3年で、受験勉強のために、バレエを辞める事になっていた、最後の舞台発表会だった。その他大勢の白鳥に選ばれて、嬉しかった。

それが、前日の深夜に、プリマドンナ、つまり、ホワイトスワン役の先輩が、自宅のバスルームで

転倒し捻挫した。救急車で慈厚総合病院のERに運ばれたらしい。


私が習っていたお教室は、日本で有数のバレエ団のジュニア教室であったし、この発表会が終わると前途有望な先輩は、イギリスにバレエ留学する予定だったから、連絡が行ったバレエ団は、夜中にもかかわらず大騒ぎになり、バレエの先生や留学担当の先生がかけつけてきた。

慈厚病院の整形外科にも、有名なドクターがいたのだが、相手はバレリーナのたまごだ。

急きょ、関西方面にいるバレリーナ御用達の高名なドクターに連絡が取られ、ドクターヘリで搬送となった。


その先輩は、聖ソフィアの先輩でもあり、私は、後輩として、病院に呼ばれ、氷逸兄様につれられ、パジャマにガウンと言う格好で、ERに走り、先輩に寄り添った。

泣きじゃくる先輩を、私は抱きしめて、励まし続けた。

神様がきっと守ってくださると、先輩の血の滲むような努力は、必ず未来につながるからと、共に涙し、私は首にかけていた、学院から支給されるマリア様のペンダントを先輩の首につけたのを覚えている。そしてヘリは飛び立った。


すごい騒動だったが、一段落ついて、バレエ団の先生が、冬冷のおば様と話をして、パジャマのままの私が呼ばれた。

おばさまと、バレエ音楽の恐い面々が並ぶところで、翌日の白鳥の湖のプリマドンナの代役をしなさい、と言われた。

私は、氷逸兄様の手をぎゅっと握ったのを覚えている。

無理ですと言ったはず。世界に羽ばたく先輩と、この舞台で辞める私とでは、レベルが違い過ぎた。

先生は、「プリマドンナからのご指名です。そして我がバレエ団ジュニアプレスクールの教師全員一致の意見です。あなたには、素質があったから、ずっと続けて欲しかったけれど、難があったのです。」


「難?」


「そう、競争意識がまるでない。」


「へっ?」


その時、氷逸兄様が笑い出した。そして確か、こう言ってくれた。

「先生方、それが彩の素晴らしくて、愛らしいところです。誰とも争わずに譲ってしまう。それも無意識に。自分がほしいものを、人が欲したら譲ってしまうのですから。」


そのあとは、氷逸兄様は言わなかった。《人の気持ちがわかるから、その相手の強烈な願望を知ってしまったら、怖くて譲るしかないのだと。》


だから、その場は、バレエ団からの命令として、私は受け入た。


翌日、医学生だった氷逸兄様は、午前中の授業を受けてから、駆けつけて舞台を見に来てくれた。そして開演前に、無理矢理、舞台袖に入れてもらって、大緊張する私に、小さなネックレスをプレゼントしてくれた。ホワイトスワンの衣装を邪魔しないような、タンザナイトの小さな小さな細い細い、スワンの儚さと信じる強さを表すようなネックレス。


「彩ちゃん、綺麗だよ。僕が王子様になりたかったくらいだけどね。悔いのないように、踊ってくるんだ。」


さらに氷逸兄様は、憧れ続けた先輩である王子役に言ってのけた。

「僕のプリンセスを、しばし君に託す。」と。


私は息が止まりそうになった。この先輩も、来月からイギリスにバレエ留学する先輩だ。日本を代表するジュニアに向かって、何と失礼なことを。


しかし先輩は氷逸兄様に言ったのだ。


「承知しました。彩には、バレエをやめて欲しくなかったけれど、すでに王子がいたのか。ではこの舞台を素晴らしい門出に。」と。


なんだ、この2人?。私は、尊敬し憧れ続けた先輩に支えられ、スワンを踊り切った。

舞台の幕が降りた時、先輩は、私を抱きしめて言ってくれた。「素晴らしい踊りだった。イギリス流に、ありがとうだよ。心置きなくイギリスに行ける。」と、頬にチュッとしてくれた。私は、顔が真っ赤になったのを覚えている。


10年近く前の、可愛い思い出だった。今思うと、先輩は、少しは私の事を、いやいや、あり得ない。

それよりも、私は、この異世界で、どれだけ氷逸兄様に大切にされてきたのだろうか。


あの繊細なタンザナイトのネックレス、元世界では、自分へのご褒美に、お小遣いを貯めて買ったはず。でも、異世界では、氷逸兄様からプレゼントされていた。それも、すごいシチュエーションで。

あのネックレス、あれ?ずっとしていたはずなのに。

どこにあるのだろう?

帰らなくては。。急いで、慈優の家に戻った。


彩の気持ち、が、変化しています。

読んでいただき、ありがとうございます。

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