エピソード21 誘拐
私の記憶は、薬をかがされたところで、終わっていた。
いや、違う、誘拐されて、意識がなくなり、元世界に戻れたのだ。そして、ドタバタなのか、どさくさなのか、私は、氷美お兄様と無事に結婚して、妻になり、幸せの中、眠ってしまい、、
夢うつつの中で、私を呼ぶ声が聞こえてくる。
「彩ちゃん、大丈夫か?、彩ちゃん、彩ちゃん。」
「う……ん、ひろ、み、お兄様、、えっ?」
ここどこ?
目の前には、氷、氷逸兄様がいた。
「彩ちゃん、大丈夫か?やっと、目覚めた。」
「氷逸、に、い、さま?わたし、、病院?」
もしかして、また病院の場面に戻った?
どうみても、ここは、慈厚総合病院の病室だった。
「彩ちゃん、大学で、誘拐されかけたんだ。」
たしかに、麻酔効果のある、薬品を嗅いだ記憶がある。と言う事は、異世界にまた来てしまった?
「彩ちゃんからすると、異世界だよ。氷美はまだ、凄水の家にいる。」
氷逸兄様は、私が誘拐されかけたところから、話してくれた。
護衛の人も、殴り合いになり、怪我を負い、車に乗せられて、大学から離れた廃墟のある空き地に車が停められていたところ、何とか無傷で助け出されたらしい。
冬冷のおじさまの知り合いの警察の偉い人に相談している最中に、私が大学で誘拐されたこともあり、警察が動いたのも早く、大学の監視カメラにも、乗せられた車が映っていたことも、犯罪の決め手になったらしい。
「とにかく無事で、よかった。彩ちゃんに何かあったら、、、。」
氷逸兄様が、私の手を握ってくれている。
??兄様の手を見て、驚いた。右手に包帯が。
顔にも絆創膏を貼っている。
「氷逸兄様、手を怪我をしたですか?」
「…ドアにぶつけただけだ。彩ちゃんが、気づいたと、父さんに報告してくる。」
氷逸兄様は、慌てて病室を出て行った。
氷逸兄様は、脳神経外科医だ。手先の繊細さが求められる。基本的に、医師は、日頃から、極力、手を怪我しないようにしている。と言うか、本気で怪我をしない。絆創膏程度済むかすり傷でも、ありえない。それが包帯って、まさか、私を助けるために。
でも、警察が助け出してくれたと。
私は、元世界で、氷美お兄様と結婚して、冬冷の家で守られている。元世界では、今のところ、誰にも被害はない。
でも、こちらでは、まだ氷美お兄様が凄水の屋敷から戻れず、私が誘拐され、氷逸兄様が怪我を。
もやもやした気持ちで考えていると、病室の扉がノックされて、慈優の両親が入ってきた。
元世界で会ったところだけど、こちらでは、半年ぶりかな。
「彩、無事でよかった。」
お母様が、抱きしめてくれる。
「お父様、お母様、、ありがとう。」
なんだか、急に涙が出てきた。
お母様に抱きしめられたまま、お父様が、手を握ってくれた。
「とにかく無事で良かった。冬冷と相談しながら、対処を進めていたところに、誘拐の連絡を受けてな。うちのドクターヘリで、急患を搬送したところで、我々の仕事も一段落ついた。
民間のヘリを頼んで、駆けつけた時には、彩は、保護されて、検査が終わったところだった。今わかる範囲で、警察の話も聞いてきた。」
「あの、、お父様、氷逸兄様が、怪我を、私のせいですね?」
一瞬、沈黙が流れた。
「お父様、ちゃんと話してください。今聞いても、大丈夫ですから。」
お父様とお母様が、顔を見合わせて、頷いた。
お父様が部屋を出て、お母様が、話し始めた。
「彩、あなたは、乱暴されそうになっていたの。助け出された時は、意識はなく、すでに、何も身に纏っていなかった。氷逸さんが、助けてくれたのよ。」
意識を失った私は、階段から、外に運ばれて、車に乗せられた。警護の人は、乱闘になり、皆んな怪我を負ったけれど、一人が無事で、敏早弁護士に連絡しつつ、犯人の車を追ってくれた。
氷逸兄様は、階段を追いかけて、その警護の人の車を自分の車で追いかけてくれたそうだ。
犯人の目的は、身代金目当てではなく、私を辱めて、証拠写真を残し、冬冷家の嫁となる事をやめさせる事だったらしい。
だって、氷美兄様とは、婚約解消したのに、何故?
警護の人が、犯人の車に追いつき、車に乗り込もうとしたら、犯人が3人出てきて、また殴り合いになった。
少し遅れて着いた氷逸兄様は、車に飛び込んで、中に残っていた犯人の2人のうち、1人と殴り合いになった。
残りの犯人の1人が、急いで私に乱暴しようとしていて、氷逸兄様は、必死で私を守ろうとしてくれた。
結果、刃物を私に突きつけた犯人の、刃物を素手で掴み、畏れをなした犯人が車から逃げ出し、警察が到着して犯人は全員捕まった。
犯人の車から出てきた氷逸兄様は、私を自分の上着で包んで、誰にも触れさせなかったそうだ。救急隊員は、兄様と私のどちらが怪我をしているかわからないくらい、血まみれだったらしいが、兄様が、自分の手からの出血があるだけだと言って、救急車に乗ってからも、救急車にあった毛布で私を包んで、抱き止めたまま、慈厚の病院に搬送されたと。
ERで、おじさまとおばさまと、氷聖兄様が待機していたのだけど、氷逸兄様は、先におばさまに、衣服を全てはぎ取られている私を預けたそうだ。
「お母様、お兄様の右手、、、。」
「ERで、すぐに検査したけど、、、リハビリで日常生活を送るくらいは、」
「氷逸兄様は、脳外の医師なのよ。それも、おじさまやお父様を凌ぐと言われる人だったのに、こんな私のために、、氷逸兄様、なんて馬鹿なことを。」
「彩、氷逸さんは、あなたのことを、昔から、、」
「つい最近、知ったの。ずっと前から、誕生石のネックレスや指輪を準備していて、、私が氷美兄様しか見てなかったから、氷逸兄様も気を遣って、、、」
「彩、それは仕方ないことよ。誰を好きになるかなんて、、」
「お母様、違うのよ、ずっと私を大切にしてくれていたのは、氷逸兄様だったのに、私が、勘違いしていて、、だから、こんな馬鹿な私の為に」
私は、悔やんでも悔やみ切れない事を、、氷逸兄様が、告白してくれた時に、もっと、話し合えば、、、
「彩、氷美さんが、凄水から逃げられない状況では、今回の誘拐は、避けられない事だったと思うの。どんな形であっても、氷逸さんは、彩を助けたはずよ。」
「お母様、この点滴、はずしてほしい、、私、氷逸兄様のところに行かなくては。。」
「彩、少し落ち着きなさい。いま氷逸さんに、何を話すの?感謝と責任感は違うのよ。」
「わたし、、わたし、、」
氷逸兄様は、私を助けるために、今の医師生命を引き換えにした。
他の診療科なら、医師は続けられると思うけど、手術をする診療科は、無理だ。
謝ってすむ話ではない。かと言って、感謝して、終わるものでもない。
でも、氷逸兄様の、大きな愛情に気がついてしまった。
こっちの世界では、私は、氷美兄様とは、兄妹でしかない。
その後、事件の闇が深すぎるとの事で、事件は内密に捜査されて、凄水の執事、鈴木とある組織の繋がりがわかった。ただ、鈴木を凄水が動かした証拠がなく、罪を問えても鈴木まで、と言う事で、捜査が頓挫していた。
氷美兄様の衣服や血液を、氷逸兄様と私が分析した内容が、捜査に役立ち、再分析することで、新しい証拠が見つかり、製薬会社として、凄水の持ち込んだ薬草などの違法性が明確になった。
同時に、大学で見つけた真里関連の実験ノートや写真の検証が、警察と大学の共同で行われて、真里が替え玉受験し、替え玉入学して卒業まで替え玉だった事が、発覚した。
この分析は、真里が所属していた私や同僚が志願して、寝る間も惜しんで、大学で分析にあたった。
氷美兄様が不在の中、療養中の氷逸兄様が、非常勤講師の立場で、分析指導と監督者として、大学のラボに来て、氷美兄様の代わりをしてくれた。
真里が高3の時に、替え玉と一緒に渡航し、海外にある凄水の美容整形の病院で、2人同時に、同じ顔に整形したそうだ。ただ、凄水らしいのは、指紋や筆跡、歯の治療履歴や、髪の毛から、いくらでも個人の特定が出来ることまでは、抜け落ちていたらしい。
替え玉が大学で学んでいる間、真里は海外で遊び暮らしていたようで、パスポート履歴で、即バレだったそうだ。
これらの証拠から、凄水の自宅、凄水製薬の研究所が、同日一斉捜査となり、氷美兄様が、連れ去られてから、2週間後、凄水の自宅から、氷美兄様が救出され、凄水会長と真里は重要参考人となった。逮捕は時間の問題らしい。
何と、替え玉は、凄水製薬の研究所で見つかった。違法薬物の研究を、秘密裏に行なっていたらしく、逮捕。
結果的に、あまりにも、医薬界への影響が大きな事件なので、マスコミ発表は未だにされず、他にも余罪があるらしく、根こそぎ取り締まるために、戒厳令が敷かれている。
氷美兄様は、薬漬けにはならずに済んだらしく、しばらくは警察の事情聴取を受けるそうで、冬冷家には戻らず、まだ一度も会ってない。
私は、真里の替え玉事件の分析が終了したあと、休職し、長山の慈優の家に帰っていた。
読んでいただき、ありがとうございます




