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エピソード17 あやの身を守る&誓い

あやが目を伏せた。

涙がこぼれ落ちた。


僕は体が震えてきた。まさか、ダメなのか?


あやは、顔を上げて、僕を見つめる。


「氷美お兄様、一度だけ、聞いてもいいですか?」


「……?」

声が出ない。失うのか?そんなはずはない。


「天才と言われ、何でも出来て、将来を自在に決める事が可能な雲の上にいらっしゃるようなお兄様が、こんな私でいいのですか?」


ほっとした。

「あや↓がいい。あや↓しかいない。あやが小学一年生になった4月1日に約束してから、揺らいだ事はない。僕は決めた事は必ず守る。あや↓以外の女とは結婚しない。答えになっているか?」


「私も同じ気持ちです。これを愛と言うなら、氷美さまを愛している私がいます。私をお嫁さんにしてくださいっ。」


あやは、僕の首に両手をまわして飛びついた。


僕は、しっかりと抱きしめた。

しばらく、して、また意を決して、口を開いた。


「あや、非常に言いにくいのだけれど、あや↓をいま、僕のものにして、入籍したい。」


「へ?」


「出来るだけ早く、あやを僕だけのものに。誰にも奪わせないために。これは、今の状況を考えた上での、冬冷家の意向だ。慈優のお義父さんにも、伝えた。」


「い、いま?」


「先に、婚姻届に署名してから。」


あやは頷いた。


僕は親父に電話した。


親父は、リビングにいると言う。


僕はあやを連れてリビングに向かった。


「お父様、お母様っ。」

リビングに慈優の両親が来ていた。


「2人が一緒に来るなんて、病院は大丈夫なのですか?」


「あや、あなたの危機と大切な日だから。」


何と、親父が、うちのドクターヘリで、こちらの医師を4人慈優総合病院に派遣し、代わりにあやの両親を連れてきたらしい。



《20年前にさかのぼる・諸事情》


あやの母の実家は、長山県の医師がいない地域にある診療所だった。曽祖父の代から東愛大出身で、信念を持って地域医療を支えていたが、あやが6歳のときに祖父が倒れて、診療所の閉鎖を余儀なくされた。

あやの父、僕にとって義父になる方は、東愛大学の医学部附属病院脳神経外科の医師で、その分野では、父と共に世界的にも有名な人だった。

だから、あやの母は、夫を大学病院に置いて、自分一人で、長山県に戻って実父の診療所を継ぐ決心をした。


僕が親父から聞いた話しは、

慈優の両親は、大学で出会い大恋愛をして結婚したらしい。だから、あやの母が田舎の診療所を継ぐことを受け止め、大学病院を辞めて、二人で地域医療に向かう決心をした。

当時、大学病院は、引き止め続けたが、慈優の義父の気持ちは変わらず、長山県の小さな町の診療所を継いだ。

そこからが、さすがに慈優夫妻だった。

15年かけて、小さな診療所は、長山県を中心とする近県の医療をカバーする、内科から脳神経外科を主に救急総合病院にまで発展させた。

特に高齢者が多い、山間部地域には、脳神経外科の医師がいるかいないかは大切な事だ。

あやの母親は、僕の大先輩になる、東愛大学大学院出身の総合診療内科医。

ドクターヘリを都内まで飛ばせる病院だった。

もちろん、慈厚会医療グループの傘下となり、東愛大学附属病院の関連病院となっていた。


そして当時、すでに聖ソフィア学院の幼稚舎に通っていた一人娘、6歳のあやを、親友であるうちの両親に預けた。

親父も母さんも、慈優の決心を知って、二つ返事で引き受けた。

その約束が、

慈優家の娘を東愛大学大学院まで卒業させる、と言う長い話だった。

もう一つ、冬冷の息子3人のうち1人とあやを結婚させる話しも決まっていたらしい。


うちの親も親だが、慈優の両親も大物だった。


―――――――――――――――

《元世界の現在にもどる》


で、さすがに、あやと僕の結婚をすぐと言う話になって、親父が、向こうの病院に医師を4人も派遣し、代わりにあやの両親が到着し、今、ここに、両家の親が4人いるわけだ。


「では、早く署名しなさい。」


親父が、婚姻届を出してきた。


先に僕が署名した。


あやが慈優の両親を見た。

「どうした、綾、気持ちは決まっているなら、あとは書くだけだ。別に臨床実験のリスクの同意書に署名するわけではない。」


「お父様、そんな。」


「そうですよ、あなた。一生に一度のことなのですから。それにあや、今、目覚めたところなのでしょう?」


「はい。10分前に。」


「じゃあ、歯磨きと洗顔くらいなさい。」


「お母様っ。歯磨きは、しました。」


「そうだわ、彩ちゃん、ワンピースに着替えては?」


僕の母まで、何か、的外れなことを言っている。

親父が口を開く。


「今は緊急事態だ。世の中の人に言っても信じてもらえないような事が起きている。彩を守れるのは、冬冷家と慈優家だけだ。

通例的な事より、彩を守る事が最優先だ。」


「そうだ、氷美君の報告では、いつ意識を失って、異世界に連れ戻されるかわからないんだ。彩、決心できているなら、早く署名しなさい。」


「はいっ。」

可哀想にあやは、結婚する意思確認の婚姻届を、感慨深いひとときではなく、4人の親と言うより、非常に冷静な医師たちに、見守られて、署名した。

次に、親父が、これに署名をと、臨床試験の同意書だった。


「親父、ちょっとそれは、今でなくても。」


「彩が、異世界で、誘拐されたのなら、時間がない。そのために慈優を呼んだ。万一の場合は、臨床試験中の新薬を使用する。慈優も納得している。」


慈優の義父が、あやに臨床試験の内容を話している。

あやは、頷いて、十数枚の同意書に署名を済ませた。


いつの間にか、貴山弁護士がリビングに来ていた。

更に、両家のさまざま事について、前々から、父親同士で決めていた事を、顧問弁護士の貴山弁護士が書類にしていたものに、親と僕達も署名した。



「氷逸、彩、必要書類は、以上だ。結婚おめでとう。」


「せめて婚姻届は、一緒に提出したいのですが。」


「氷美、気持ちはわかるが、万一、途中で彩が意識を失ったらどうする?貴山に任せて、お前たちは、早く初夜を済ませなさい。」


「うっ、親父。」


「30にもなってなんだ。」

親父が不可解な顔をする。


「貴山、明朝一番に役所に提出を頼む。夜間より、朝一番にして、その場で受理確認を。」


「院長、おっしゃる通りです。それから、慈優先生、彩様の戸籍証明書を。」


「これだ。貴山弁護士、よろしく頼みます。」


「慈優先生、間違いなく、お預かりします。」



「チャペルは、聖ソフィアのチャペルを明日のお昼で予約してあるわ。順番は気にしなくいいのよ。全部、夫婦になるための儀式だから。」

母さんまで。


あやを見ると、真っ赤になって、下を向いている。

うちの親たちは、おかしい。


「あや、あなたも25歳なのよ。12月には26歳になるのだから、しっかりしなさい。全て、氷美さんに任せて、受け入れれば大丈夫よ。少し痛いけど、きっと悦くなるから。」


あやが自分の母親を見た、

更に真っ赤になってしまった。


「情けないわね。聖ソフィアでは、何を教えていたのかしら?」


「夫婦のことは、経験しないとわからない。彩が意識のあるうちに、早く寝室に行きなさい。氷美君、頼んだよ。可愛がってやってくれ。」


慈優の義父まで、みんな、あからさま過ぎる。

確かに、夫婦なら当たり前のことだけど、

なんか、かなり、気しんどい。


母さんが、僕に聞いた。

「氷美、あなたの部屋か、2人の部屋か、どっちがいい?一応、準備してあるのよ。」


「えっ?何が?」


「あなた達が結婚したら一緒に暮らすお部屋、内緒で準備してあるの。子供が産まれたら、あなたとあやちゃんの子供部屋が、あなた達の子供部屋になるのよ。」


だめだ、この親達といると、僕まで倒れそうだ。

早く二人になって、落ち着いた方がいい。


「母さん、ありがとうございます。では、せっかくですから、そちらに移ります。

それから、親父、これから、あや↓がいつ、倒れるかわからないので、その時は、新薬を使うと言う事で、良いのでしょうか?」


「慈優と相談する。戻ってくる頻度が高いから、彩と向こうの状況を聞きながら、検討したい。だが、今は、優先度が、初夜だ。それで変化があるのかどうかも、知りたいのだ。だから、早く、ほれ、行きなさい。」


僕たちは、母さんに連れられて、本館の3階に、屋敷の中央にある螺旋階段で上がった。

本館の3階フロア自体は、鍵がかかっていて、入れない。エレベーターもあるが、エレベーターも、3階以上は、鍵を使ってボタンを押せるようになっている。


3階の階段を上がったフロアの扉の前で、母さんが鍵を渡してくれた。

「あなた達の新居よ。鍵は、スペアもあるわ。エレベーターのボタンも同じ鍵よ。

ホテルのスイートを準備したかったのだけど、時間がかかればかかかるほど、彩ちゃんの身が危なくなるから。この件が落ち着いたら、新婚旅行にも行けるし、今は緊急事態だから。割り切って。いいわね。彩ちゃんを大切にするのよ。」


「はい、母さん、色々ありがとう。」


「彩ちゃん、氷美をよろしくお願いします。急にこんな事になって、乙女の夢も恋心も吹き飛んだとおもうけど、あなた達の愛を、私は知っているわ。20年見てきたのよ。だから、氷美を信じて、愛し合ってね。さっ、行きなさい。」


「おばさま、いえ、お義母様、ありがとうございます。私、氷美さんを大切にします。」


母さんは、あやを優しく抱きしめて、僕に向かって、あやの背中を押してくれた。


僕は初めて、自分達の新居をみた。3階フロア全てが、新居だった。


シンプルなシステムキッチンに大型冷蔵庫。冷蔵庫には、二人が好きなもの、充分なものが入っていた。


そしてダイニング、リビングはゆったりした広さがあり、廊下を進むと、僕の書斎、隣が寝室、寝室の奥に、バスルームとシャワールームと洗面所謙ドレッシングルーム、寝室の反対側には、あやの書斎もあった。


あやが、一言。

「お兄様、高級ホテルのスイートより、立派な気がします。まるで王子様のお部屋。」


「あや、例のコミックの受け売りか?」


「えへっ、あっ、二人のお母様から、お花が。」


白百合と白い薔薇の花が上品に活けられた大きな花瓶。

白百合は、聖ソフィアの校訓の「英知と純潔」の一つを表している。

あやが、白百合の香りに、うっとりしている。


「あや、先に風呂。一緒でもいいけど。」


「お兄様、さすがに、今だけは、一人でもいいですか?」

今だけ?じゃあ、後からはOKか、と、思ってしまった。


「あや、離れると心配で。」


「はい、私も不安で、だから、向こうから呼ばれたら叫びますから。」


「わかった。長湯はダメだ。寝たら溺れる。」


「はい。あの、このネックレス、シャワーの間ははずした方が、、」


「頼むから、メビウスの輪を断ち切るまで、つけておいてくれるか。ネックレスより、あやが最優先だから。」


「はい。」

あやは、急いでバスルームに消えた。


うちの親も、やっぱり親だな。

こんな新居、知らなかった。

それに、慈優の両親まで、呼んでくれて、長山の病院も救急だから、医師を減らすわけにはいかない。感謝しなくては。


ロールテーブルに、シャンパンクーラーとグラスが2個。

ズボンのポケットから、指輪のケースを出して、置いた。

はあっ、と深くため息をついた。あまりにも色々ありすぎて、時間の観念が崩れる。

それに、あやの決断も早かった。いくら普段は身を構わないとは言え、こう言う時は、ゆっくり準備したかっただろう。

昨日から、時折見せる女性らしさに、何回もドキッとさせられた。美人なんだが、今までは、全く色気を見せなかったから、焦らずに済んでいたんだろうな。


シャワーの音がしているが、やっぱり、気になる。

バスルームに乱入はしたくないが、心配だ。

立ち上がった時だった。

まだ髪が濡れたままで、髪をタオルで抑えながら、あやが、真っ白な薄い生地のナイトドレスを着て、ドレッシングルームから出てきた。


あまりの綺麗さと色香に、戸惑ってしまった。

「お母様が、用意してくださったもので、ドレッシングルームに、これを着るようにメッセージが。変?ですか?」


「いや、綺麗だ、あや↓。こっちおいで、髪を乾かそう。急いで出てきたんだな。」


「離れてると、向こうから呼ばれそうで。」


僕は、あやからタオルを受け取って、ソファに座るように言って、髪をタオルドライした。

いつも、キリッと引っ詰めて団子にしてるから、髪を下ろすと、女性らしさが更に増幅される。


あやが幼稚舎の頃に、プールから上がって、髪が濡れていて、ドライヤーが嫌いなあやは、瑠璃ばあから逃げ回って、よく乾かしてやった。


「お兄様、幼稚舎の頃、プールの後、髪が濡れていて、お兄様がいつも乾かしてくれて。。」


「僕も、今、思い出していた。あや↓の髪は細くて柔らかいから、風を入れたら、乾きやすい。今でも、ドライヤーは使ってないのか?」


「あの風が苦手。お兄様の手、大きくなっています。ふふっ。」


手のひらを髪の中に入れて、持ち上げると、髪が乾きはじめる。

僕が髪を触っても、嫌がりもしない。なんともないんだな。


「あや↓、その、お兄様と言うのは、、」


「あっ、ごめんなさい。わかってはいるのですが、一番安心する呼び方で、、直します。先輩、でもいいですか?」


「もっとダメだ。二人の時は、しばらくは、どんな呼び方でもいいから、人がいる時は、名前か、あなた、か、で。」


「あ、な、、た、、きゃあっ、恥ずかしいっ。」


一人で言って、一人で恥ずかしがっているあやが可愛い。

「なんで、あなた、が恥ずかしいんだ?」


「なんか、妻っぽい感じしませんか?」


「妻だろ。風呂、入ってくる。」


「早く、戻って、くだ、さ、い。」


「向こうに呼ばれたら、叫べ。いいな。」


向こうの世界が怖いのはわかる。

あやに臭いと思われないように、急いで、しっかり全身をしっかり洗った。

バスローブを羽織って、ドレッシングルームを出ると、あやがアイスクリームを食べていた。


シャンパンがあるのに、アイス?

やっぱり、油断も隙もないな。


「お兄様、フリーザーに、ほら、チョコミント アイスが。」

スプーンを口に入れたまま、喋るし、スプーンを舐める。この癖が昔から直らない。研究室の休息室でも、その食べ方で、たまに、同期の男どもが、あやの食べ方を色っぽいと言うのが、聞こえて、ヤキモキした事がある。


「あや↓、その食べ方、そろそろ卒業しろ。海外で、その食べ方したら、襲われても知らないよ。聖ソフィアで注意されなかったのか?

そんな色気のある食べ方はダメだ。」


ちょっと叱り気味に言うと、あやが、わざと残りのアイスをスプーンに山盛りすくい、全部口に頬張った。

全くだ、わざとしたなら、こちらも反撃だ。

僕は、あやに近寄り、アイスクリームスプーンを口から無理矢理取り上げて、すぐに深いキスをして、アイスを半分奪った。あやの目が見開いたまま、固まっている。

僕の妻だ。遠慮はしない。


すぐに離れて、知らぬふりで、ソファに座る。

「なっ、なにを、、おにいっ、さま。」

「夫の権利だ。半分もらっただけだ。」


あやが、また真っ赤な顔をしている。


「あや↓、アイスクリームが終わったら、シャンパンを飲もう。せめてもの、二人のお祝いだ。」


あやが復旧し、こくんと頷く。


シャンパンを満たしたグラスを渡し、乾杯して、ゆっくり味わった。

これまでの思い出話が盛り上がり、久しぶりにゆっくりと話せた。

あやの頬が、少し酔いで桜色になる。

僕はソファから立ち上がって、あやの前に跪き、指輪のケースを開いて、あやの前にささげた。 

ケースには、婚約指輪と結婚指輪が入っている。

あやが、息をのんだのが、わかった。


「あや↓、僕の妻になってほしい。」


「はい、氷美さん。」


僕は、あや↓の首にあるタンザナイトとセットだとわかるデザインの、婚約指輪を箱から出して、あやの左手をとり、婚約指輪をはめた。

あやの指が震えている。


そして、続けて言った。

「チャペルでの結婚式があとになるけど、結婚指輪を。」


指輪をケースから出すと、

あや↓の顔が、嬉しさを隠せないように、更に驚いた表情になった。


結婚指輪の内側に、小さなタンザナイトの石を6個埋め込んでもらっている。


「あや↓6歳の誓い、今、叶えるよ。明日外して、チャペルで指輪の交換をすることになるけど、順番が、逆だと、ややこしいな。」


あやが、クスクス笑っている。

「実験のプロトコルより、ややこしくなってきましたね。」


僕も笑いながら、あやの左手の薬指に結婚指輪を差し込んだ。

あやが、僕の左手の薬指に、結婚指輪を差し込んでくれる。


僕の手の甲に、水が、えっ?

あやの顔をみると、あやの目から涙が溢れていた。


「どうした?あや。怖いのか?」


「氷美さん、私、幸せです。ずっと、ずっと、好きでした。」


「あや↓僕も、ずっと、大切に愛してきた。これからもずっとだ。必ず、この世界で生きよう。」


あやにキスをしたまま、抱き上げた。


そしてあやは6歳から、僕は11歳から、約20年間温めてきた誓いと思いを未来への愛と希望にして、夫婦になった。

元世界で、あやと氷美が結婚しました。

読んでいただき、ありがとうございます。

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