エピソード16 異世界 証拠探しから元世界へ
《異世界 大学研究室 証拠集め》
大学についた。私がまず研究室に入る。警護の人たちは、荷物運搬業者として、ワンボックスで大学に着いた。
私はセキュリティカードがあるし、氷逸兄様は、医学部の非常勤講師として、職員証と図書館登録証があるので、問題なく入れた。
研究棟は午後5時を過ぎると、人が急に減る。いつも残っていたのは、氷美兄様と私くらいだった。
セキュリティカードで解錠した。
研究室の隣室にミーティングルームと、休息場と、実験ノートの保管や論文の資料室になっている。
真里が卒業してから、私が整理したので、ノート置き場はすぐわかる。
さっと見渡したけど、抜けているものはなさそうだ。年度で研究内容がわかるので、すぐに抜き出せる。
数冊を抜き出して、パラパラとめくって、指紋と筆跡を確認した。中には、セロテープの中に髪の毛が挟まっているものもある。氷逸兄様にノートを渡すと、兄様はリュックにしっかりしまい、背中に背負っている。
あとは、個人ロッカーだ。私と真里は共用で、上が私、下段が真里だったので、真里の私物を探した。ロッカーの下段は暗くて中が見えづらいので、懐中電灯でみると、化粧ポーチ、タオル、帽子まで、奥に積み重なってあった。
わざとか?と思ったけど、見覚えのあるポーチで、染みがついていた。その染みができた理由は覚えていたから、大学にいた真里のもので間違いない。
敏早弁護士を呼び、証拠保存をお願いする。私は実験用のグローブをはめてから、写真をとり、ポーチには、ヘアブラシもあり、髪の毛もついていた。一個ずつビニール袋に入れていく。
「あとは、何が必要ですか?」
「彼女の写真はありませんか?」
「写真??もしかしたら、研究室旅行や、研究発表会の写真が、氷美兄様の講師室にあるはず?探してきます。」
私は、資料室を敏早弁護士と氷逸兄様に任せて、廊下の反対側にある氷美兄様の講師室に行った。鍵は私だけが預かっている。
講師室に入って、研究室の写真や、氷美兄様とやりとりしていた報告ノートを保管している場所で、ピックアップする。論文の証拠となる実験ノートやデータは貴重なものだから、10年は余裕で保管している。
写真があった。パソコンにも残してあるが、とりあえずプリント判と、連絡ノートを紙袋に入れる。
紙袋に封をして、机の足に立てかけて、立ち上がった時だった。
突然、口を塞がれた。薬品の匂いがする。抵抗したいが、力が入らない。
誰か、、助けて。。意識を失った。
「敏早弁護士、彩ちゃんは?」
「氷逸さんと、講師室に行かれたのでは?」
彼らは顔を見合わせて、講師室に駆け込んだ。
ドアが開いたまま、誰もいなかった。
あやのカバンが落ちている。
氷逸が、カバンを拾い上げようと、腰を屈めると、紙袋があった。さっき、あやが持っていた紙袋か、中を開けると写真とノートが入っていた。
大事な証拠だ。
「やられたか。」
「敏早君、あやちゃんが残した写真や筆跡がある。」
敏早弁護士が、警護に電話しているが、警護が出ない。
2人が、廊下から階段に出ると、警護達が頭から血を流して倒れていた。
階段に、あやの靴が片方落ちている?
氷逸が、後を追った。
「とにかく追いかけます。」
「氷逸さん、お願いします。警察に電話します。誘拐です。」
――――――――――――――
《元世界 氷美の部屋》
氷逸兄さんに分析を頼み、僕は自分の部屋で、眠っているあやのそばにいた。
目覚めたら、プロポーズしろ、と親父に言われた。あやの身を守る一つの方法かもしれないのは、わかっている。
こちらの世界で、あやが僕の妻ならば、こちらでは手が出せない。
他人の妻に手を出したら、それはもう確実な犯罪だ。
こんな事になるなら、大学院時代に結婚しておけば良かった。
研究室の研究者同士が、学生時代に結婚するのは、よくある話だ。仕事や生活パターンの理解が早いし、同じ研究に向かえる、素顔も見慣れているし、性格もたいがいわかっている。
そんな事を考えていると、
「たす、け、て、」とあやの声が聞こえた。
あやの顔を除き込むと、ノンレム睡眠に入っている。
あやの肩を掴んで揺さぶり、名を何回も呼んだ。
「あやっ、あやっ、起きるんだ!あやっ↓」
あやの目が開いて、少し泳いで、周りをみて、僕を見た。
「氷美お兄様。私、、助けて、、」
あやが抱きついてきた。
「大丈夫だ、元の世界だ。何があった?」
「誘拐されました。講師室で、真里の写真を探していて、薬を、それで完全に意識が落ちて。」
僕は、あやを抱きしめた。
このままでは、異世界で、あやの身があぶない。
僕は、喉がカラカラになって、声がでない。
「あや、こんな時に、こんな状況で、こんな風に言いたくなかったけれど、、」
声が掠れて、うまく話せない。
あやが、僕の腕の中で、僕を見上げて見つめている。
「向こうの世界で、あやの身が危険だ。凄水は何をするかわからない。せめて、こちらの世界で、誰も手が出せないように、あやの立場を固めたい。
あや↓、僕は何があろうと、君を一生、大切にすると誓う、約束する。初めて出会った時から、幼心に好きだった。君が成長するにつれ、手放したくないほど、好きになった。君の特別な能力も、寄り添って理解したいと大切にしてきたつもりだ。ずっと共に生きて欲しい大切な女性だ。結婚してほしい。」
何とか伝えられた。
あやが、黙って、僕を見上げている。
目がうるうるとしてきた。
そして目を伏せると、大粒の涙がポロっと落ちた。
目を伏せた?まさかダメなのか?




