エピソード15 異世界でまさかの告白
氷逸兄様は、タンザニアでの思い出を話しているくれる。
「あやちゃんが、必死で勉強している姿も見ていたから、東愛大学に合格した時は嬉しかった。
この時、僕は父さんに聞いたんだ。
小さい頃から、冬冷の長男の結婚相手は、東愛大学大学院卒の医者にしろと言われていたから、彩ちゃんはダメなのかって。
そしたら、彩ちゃんなら、許すと言われた。
だから、僕は彩ちゃんを妻にしたいって目標ができた。
ただ、父さんに、氷美と言う強敵をどうするんだと言われて、ぼくはすぐに凹んでしまった。
氷美は、医学研究科の大学院中に、科学部生命研究科の学位まで取ってしまうし、
あやちゃんの夫の座を誰にも譲る気はないと、無言で宣言していたのと同じだからね。」
何?私が知らないうちに、冬冷家で、色々とあったの?
「でも、石油王の彼、ハッサンっていうんだけど、ハッサンと話して、僕の気持ちは決まっていた。
彼は、婚約者が結婚式のときに身につける宝飾品を買いに来ていた。
次男だった彼は、ハイスクールからアメリカに行き、アメリカの大学で勉強して医師になって、そのままアメリカで住むつもりだったらしい。
だけど石油王の後継ぎの長男が事故死して、次男の彼に白羽の矢がたって、帰国せざる追えなくなり、アメリカ人の婚約者を同行して、帰国したら、一族から猛反対。
亡くなった長男には、30年前に親同士が決めた婚約者がいたらしい。」
なんか、ロマンス小説みたいな話だ。
兄様は続ける。
「もちろん、兄の婚約者は、彼の家の婚約者として、自動的に彼の婚約者になるらしい。
彼の親同士が友人で、石油王の娘で、生まれた時から、家同士で許嫁にしていたから、話が揺らぐ事はなかった。
彼が兄の婚約者に会ったのは、彼が17歳、彼女が5歳の時が最後だったらしい。先方も大切な娘だから、隠されたように育てられていて、亡くなったお兄さんも、結婚式まで会えない事になっていたらしい。アメリカ人の婚約者は、心臓外科の医者だった。」
「もしかして、ドクターの彼女と一緒になれなかったの?」
想像がついた。
「うん、彼女は、彼の亡き兄の婚約者に会って、話をして、彼女が身を引いた。
《私には心臓が悪い子供達を救う目標がある。それを共に生きてくれる人をパートナーにしたい。でも、あなたの兄の元婚約者は、あなたの一族に嫁ぐために育てられ教育を受けてきた女性。
あなたが捨てたら、彼女は生きる目標全てを否定された事になる。国が違えば、生き方も生きる目標も違う。あなたが石油王の後継ぎになるなら、私とは道が違ってしまったの。》と、言われたらしい。」
「その方、きっと彼を愛していたのね。」
あまりにも異なる境遇と生き方が違う二人の女性。
「僕も同じ事を、彼に言ったら、レストランで、泣き出したんだ。初めて出会った僕に、失恋話しをして、男泣きに泣いていた。一族を継ぐ男の気持ちって、同じ境遇の者にしかわからないからね。」
兄様、無意識に心の声が、漏れている気が。
長男である、氷逸兄様の重荷って、きっとすごいんだろうな。
「で、僕には、プロポーズしてないのかと聞くんだ。うちの三男坊が、執心してるから、言い出せないと。
生涯を共にしたい女性を諦めるのか、と言われたけれど、無理強いはできないし、あやちゃんの気持ちを尊重したかったしね。氷美で5歳年上、僕は8歳も上だ、こんな中年おやじは、嫌だろう?」
そうか、氷逸兄様、8歳も上だっけ?見た目が麗しいから、おじさんに見えないんだ。世間話しをしている感じで、思ったまま、口を滑らせてしまった。
「そんな、お兄様は、おじさんには、見えないですけど。白衣姿は隙がないくらい凛々しいし、私服は、良いとこのぼんぼんらしく、性格は穏やか、争いはしない、優しいお兄様だし。出会ってこのかた、イケメンイメージが、崩れたところを見た事がないですけど。ある意味では、ポーカーフェイスすぎますけどね。」
氷逸兄様が、目を見開いて、驚いた顔をした。
「あ、ありがとう。おじさんじゃなくて、助かった。彼が言うには、ひとまず、今の大切な人への気持ちを大切にして選べと言ってくれてね。指輪は即、婚約や結婚に繋がるから、ネックレスとブレスレットはどうかと。
でも僕も彼が、気になったんだ。
5歳から会ってない兄の婚約者だった人に、結婚の宝石を選べるのかと。
そしたら、すごい続きがあったんだ。医者の彼女は帰国前に彼を、滞在先のホテルに呼びだした。そこには、彼の婚約者も呼び出していた。向こうの国は、女性同士で会うのは構わないからね。向こうは嫁入り前だから、侍女みたいな人も付き添っていたらしいけど、彼も知っている乳母だったんだって。それで、2人でちゃんと話し合えと。
彼女は彼と婚約者にこう言ったそうだ。
『あなたたちは、私を排除するのだから、絶対に幸せにならないといけない義務がある。あなた達は、義務慣れしているから、一つくらい義務が増えても大丈夫でしょう?』と笑って、彼からもらった婚約指輪を向こうの婚約者に渡したそうだ。『私の愛を引き継いでね。』と。
彼女は彼の婚約者を抱きしめて、頬にキスをして『幸せになるのよ』と言い、振り返らないで、帰国した。強く誇り高い女性だよね。
聞いてる僕まで、泣きそうだった。」
「兄様、私まで、泣きそうです。辛すぎる。」
「20年ぶりに再会した婚約者は、儚いほど、美しい女性になっていたらしい。医者の元カノとは正反対だったから、余計に意識してしまったらしいよ。本当に自分で良いのか、他に好きな人はいないのか、きちんと聞いて、死んだ兄を忘れられるように大事にするから、自分を夫として見てほしいと言ったら、彼女は、幼心に兄ではなく、弟の彼の事が好きだったと、告白してくれたんだって。」
「うそっ、まるで、パールクラインロマンスのお話みたい。」
涙ぐみながら聞いていたけど、思わず、素っ頓狂な声で騒いでしまった。
「彩ちゃん、パールクラインロマンスなんて、読むんだ。」
氷逸兄様が、意地悪な笑い方をする。
こんな笑い方、初めてみた。
「それは、私だって、乙女学院出身ですから、ご学友と、パールクラインロマンスなど、秘密に貸し借りして、こっそりと読みますわよ。」
うっ、なんか、学院言葉が出てしまった。
氷美兄様が笑ってる。
「あやちゃん、可愛いねっ。で、ハッサンと楽しく食事をして、宝飾店に戻ったんだ。
VIPルームに通された。
彼は僕を、日本の巨大な医療グループの後継ぎだと紹介してくれた、
彼は、儚く美しい乙女に、繊細な繊細なデザインのダイヤモンドとルビーのチョーカーとブレスレット、イヤリング、結婚指輪、そして、ティアラを特別注文していた。すごい単位の金額だったよ。
僕は怯んでしまって、でも自分で家庭教師をして働いて貯めてきたお金だから、それで準備できるものを、と頼んだんだ。大切な女性にプロポーズするための、宝石。誕生石はタンザナイト。
ハッサンは、そのためにタンザニアまで来たのか?と聞いた。たしかに、エジプトも見ておきたかったけど、旅の目的はタンザナイトだと、その時、自分でも気がついた。
冬冷家は、代々、妻には、誕生石を贈る。
ただ一粒でいいから、人の手をあまり介してないピュアな石が欲しかったんだ。」
「お兄様、、、」
私はその時、朝、おじさまの手で、壊されたペアリングが、普通の普通の、普通すぎてないような、婚約指輪を思い出していた。
今週末に、結婚指輪を見に行く話もあった。こちらの異世界で、氷美兄様から、もらったものは、もう手元には何にもない。
「それを話したら、ハッサンが、店主に通訳してくれて、タンザナイトの石、ルースっていうらしいけど、磨き上げた石をたくさん、デザイン画も色々と出してくれた。
彼は、値段は交渉するから、彼女に似合いそうなのを、とにかく選べと言うから、、迷いなくこの石を、、」
「なぜ、涙型を選んだのですか?」
私が、さっき息が止まりそうになったのは、この石の形が、元世界で氷美お兄様にもらった形と同じだったからだ。周りのデザインは違うけど、石はほとんど同じに見えた。
「ティアドロップだから。あやちゃん、うちに預けられた頃は、よく泣いていただろう?夜中にカブトムシのぬいぐるみを持って、氷美の部屋のドアの前で、うずくまって泣きじゃくっていた。氷美も爆睡して気がつかない日も多かった。だから、僕の部屋で寝かしつけて、朝方に、瑠璃ばあを呼んで、彩の部屋に連れて行ってもらっていた。
だから、彩ちゃんの涙は、タンザナイトに閉じ込めて、二度と泣かなくていいように大切にしようと、、」
そこで氷逸兄様は、黙ってしまった。
話せば話すほど、告白だ、、どうしよう。
元の世界の、氷美お兄様と似たような事を言ってる。
私は、気になっている事を聞いた。
「兄様、もしかして、お兄様のお部屋に、ファーブル昆虫記ありますか?」
「急にどうした?あるよ。正確には僕の子供部屋に、日本語版も英語版も。英語版は一時的に氷美に貸していたけど、すぐ返してくれたな。日本語版は、あやちゃんが、よく読みに来ていた。
あっ、あやちゃんが大学に入るときに、カブトムシのぬいぐるみを預かってくれと言ってきたから、本館の僕の部屋にあるよ。」
私は、異世界では、私が、とんでもない勘違いをしている事に、気がつきはじめていた。
私が好きな人は、ファーブル昆虫記の英語版を持っている人、のはず。
そしてこの期に及んで、20年前からあるカブトムシのぬいぐるみを覚えている人。
まさかの、その私にとって絶対に大切なカブトムシのぬいぐるみを、氷逸兄様に預けた《異世界の私》がいる。
異世界で、タンザナイトを私に贈る準備をしていた人は、氷逸兄様だった。
今の私は、元世界の記憶が中心になっていて、異世界の私の記憶が、わからない。
「で、この石を?」
私は話の続きを促した。
「彼は、色々とアドバイスをくれた。プロポーズして、妻になってくれた後も身につけられるように、同じデザインで、後から他の装身具をセットにして作れるように、デザイン画は、この店に冬冷デザインとして残させるように、とか。
で、彼の紹介で、僕の予算で、この石を手に入れる事ができた。特別注文だから、一から作るから、後日、日本に送ってくる事になった。彼とは
まだ友人だよ。
彼の結婚式にも行ったし、新婚旅行で、彼らが日本に来た時に、彩ちゃんも会ってるんだけど。
今の彩ちゃん、向こうにいる彩ちゃんだから、こっちの記憶が、ほとんどないだろう?」
氷逸兄様は、やっぱり、今の私を理解して、わかっている。
「氷逸兄様、その時の写真、ありませんか?」
兄様は、また鍵付きの引き出しをゴソゴソとして、ミニアルバムを出してきて、手渡してくれた。
石油王と奥様の写真はすぐにわかった。誰もが見たことがある民俗衣装だからだ。
一緒に写っているのは、げっ?なぜか振袖姿の私と、タキシード姿の氷逸兄様。
「彼が日本に来た時に、大使館でパーティがあったんだ。僕が招かれて、1人で行くわけに行かないから、父さんと母さんが、彩ちゃんを一緒に連れて行けと。父さんと母さんも招待されて、彼がうちの病院を絶賛してくれてね。
それが縁で、うちが大使館の専属の病院になったんだよ。まあ、父さんが有名すぎる脳神経外科医だから、そうなるだろうけど。
これは、あやちゃんが20歳の時だ。ドレスにしたら、このネックレスを贈る事になるから、氷美と喧嘩したくなかったし、母さんと相談して日本の未婚女性の正装、振袖にしてもらった。」
そのおじさまの、God handを凌ぐと言われる若手脳神経外科医は、氷逸兄様だ。
持ち込まれる見合いの数は尋常ではなく、顧問弁護士が、処理しているらしい。
「氷逸兄様、わざわざ私などではなくて、もっともっと、兄様に相応しい女性が、、」
「ハッサンに初めて君を紹介した時に、ため息が出るほど、白百合のような美しい乙女だ、と言われた。絶対に手に入れろ、とまで言われた。」
私は、それが、先方のお国柄、とても素晴らしい褒め言葉だとわかっていた。
兄様のスマホが鳴る、そろそろ時間ですと敏早弁護士からの連絡だ。
「こんなときに、昔話をしてしまったね。
さっ、お守りをつけて、出かけようか。」
苦笑しながら、氷逸兄様は、いつも通りの爽やかだけど、感情を閉じ込めた非常に冷静な表情になった。
ネックレスはあまりに豪華なので遠慮したが、お守りだからと言う冷静な顔の兄様には、到底有無を言わさない雰囲気があって、
ネックレスも、ブレスレットも兄様がつけて下さった。
私は、その古びたタンザナイトのケースには、TAX FREE、免税、税関、さらに見たことがない紋章みたいなシールと色々な書類が貼り付けてある。、貼りつけてあった紙に、
《engage ring 1, eternity ring 1+lady 1》
と記載されているのが目に入った。
氷逸兄様の昔話なのに告白でした。
読んでいただき、ありがとうございました。




