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エピソード13 異世界で実験

私たちは、慈厚会総合病院の中にある、氷逸兄様のラボにいた。

「彩、何をしている?大丈夫か?」


おじさまに声をかけられた。

おじさまと氷逸兄様が、固まっている。


私は、氷美兄様のブリーフの匂いを嗅いでいた。

きっと、婚約破棄でおかしくなったと思われている。


「氷美兄様の今朝まで、兄様が、はいていたパンツです。」


「だから、大丈夫かと、、、、」


「今朝、瑠璃ばあが、着替えさせて、それぞれを別々のビニールに入れてもらったのですが、上着やシャツはかなり媚薬の匂いがするのに、このブリーフは匂いがほとんどないのです。


私は、今朝、真里からスマホに送り付けられた写真をA 3サイズにカラープリントしていた。


2人の情事を示すように、ベッド の周りに2人の服が脱ぎちらかされている写真だった。


「これを見てください。朝、馬鹿真里から、送り付けられました。氷美さんと契りました、と。」


氷逸兄様が「性悪女め。こんな写真を送りつけて来たのか?」と呟いた。


「氷逸兄様、お口が悪いですよ。

で、これをよく見てください。氷美兄様は、昨日から同じ服を着てました。着替えなんて用意してないから、当たり前です。で、ブリーフだけ、床に落ちてないのです。男女関係がある場合、女性はブラとショーツ、男性は最後にブリーフを脱ぎますよね。」


氷逸兄様は、また固まった。

「あやちゃん、ほんとに大丈夫か?」


「はいっ、起きた事は仕方がないですし、私だって25歳ですから、世の中の大人の世界は知っています。私は結婚するまでは、嫌ですけど。まあ、その話は置いといて、冷静に検討しましょう。おじさま、おかしいと思いませんか?」 


「確かに、彩の言う通りだ。二人が激情に駆られて行動していたら、服の脱ぎ方がおかしいな。」


「お兄様は、ブリーフをはいたまま眠らされていたのではないかと推測しています。それに馬鹿真里の、下着もない。まあ、元から素っ裸なら、それもありますが。元から素っ裸なら、準備して、この部屋に入ってきた。」


「二人の間には、何もなかったのか?」


「断定は難しいかも知れませんが、このパンツ、媚薬の匂いも、兄様の汗の匂いもしません。」


「え?彩は、氷美の汗の匂いがわかるのか?」

また二人が、引いている。変態扱いしないでっ。


「匂いフェチじゃないですよ。でも、実験中って、条件によっては汗だくになる事もあるし、研究室で、長年一緒にいたから、わかるんです。緊張してる時の汗の匂いもないし。だから、ブリーフをはいたまま眠ってたのでは?と。男性の視点から、みてもらえますすか?」


おじさまに、ブリーフを渡した。

おじさまなりに、色々とチェックをして、氷逸兄様と、コソコソ話している。


「氷美は、やっぱり、はめられたみたいだ。彩の言う通りだ。」


「で、この写真見てください。ほら、床に、ベッド の横、香炉です。焚かれていたんでしょう、媚薬が。で、床に落ちた服には、香炉に近いほど、たくさん匂いがつき、布団の中でじっと寝ていた兄様には、匂いがつかなかった。

だから、ほら。これ、服の繊維の臭気分析の結果です。」


「彩ちゃん、すごすぎるな。」


「氷美兄様に、鍛えられてますから。」

そう言ってしまってから、ふと寂しさがこみ上げてきた。


「あの氷美兄様が、こんな馬鹿なトリックにハマったなんて。。」


「氷美も、勉強馬鹿だからね。女を知らなさすぎた。彩がいるから、心配してなかったのだが。親の私にも責任がある。」


「私もいけないんです。真里を信用しすぎてました。全く性格やタイプが違うから、仲良しになったと思ってました。でも、冬冷の家に連れてきた事がないのに。何故、コソコソと外で会ったりしたのか。。」


おじさまの院内PHSがなった。

「弁護士がきた。院長室に戻るから、二人は分析を続けて。この写真と分析結果を借りる。」



おじさまが、院長室に行き、氷逸兄様と二人になった。

「お兄様、大丈夫だから、気を遣わないでください。あの、私の採血してください。うちに来ていた時も、少し匂っていたでしょう?多少は吸い込んでいるかも?媚薬の血中濃度を知りたいのです。」


「比較するものが無いのに?」


「氷美兄様が、先程、私の部屋まで追いかけて来た時に、私が、扉をパン!と開けたから、顔を打って鼻血が出て、拭いたティッシュがあります。血液だから、いつもの癖でビニールに入れて口は縛ってあるから、乾燥はしてないです。これ、、1時間くらい、時間経過してますが、媚薬の濃度くらい測れないでしょうか?」


「やってみるか。」


氷逸兄様の血液も、廊下を歩いていた医師に採取してもらって、慎重に、3人の血液を同じ条件に近づけて、成分分析機にかけた。

色々な分析器を5台フル稼働している。あとは結果待ちだ。6時間ほどかかるものもあるから、待つしかない。


出てきた分析結果を、おじさまのスマホに送る。今、慈厚会医療グループの顧問弁護士二人と面会中だ。


「あとは、大学の研究室の氷美兄様の、講師室に何かないか、探したいんですけど。私が知らない間に真里が来ていたら、何か残しているはずです。凄水は、いま気を抜いてるはずだから、証拠を消される前に調べた方がいいかと。」


「こんな状況で、彩ちゃんを一人では行かせられない。父さんと弁護士の話が終わるまで、待ってほしい。あやちゃん、焦っちゃダメだ。それより、転移関連の本、大学の総合図書館の蔵書を検索できないか?医学図書館よりもあるかもしれないよ。」


「そうですね。総合図書館、忘れてました。」


私は、文献検索に集中する事にした。



――――――――――――――


《元世界でも分析準備中!》


あやは、本館の僕の部屋で、まだ眠っている。

僕は、急いで、本館からつながっている子供部屋がある東館に来ていた。

子供の頃に使っていた自分の子供部屋に入ってみた。懐かしい。高校卒業と同時に、僕の部屋は本館に移動した。

年頃のあやの部屋と隣り合わせはダメだと、親父に引き離された。中学生になったばかりのあやは怒っていたけど。


懐かしい。


英語版のファーブル昆虫記を手に取った。

401ページを開くと、あやのメッセージがあった。

異世界とマジで繋がっている。スマホで写真を撮っておく。


茶葉を隠したのか?異世界では茶葉室、こちらでは、僕の部屋。

茶葉、という物質が移動するのか?

普通はありえない。


確認しに自室に急いで戻った。


ドアを入ってすぐの本棚と壁の隙間。

嘘だろう?

書店の紙袋が挟まっている。

中を開けると、紅茶の茶葉が入っていた。

ビニール袋に入れられた茶葉、あやの字で、マスキングテープに《真里の茶葉》と日付と時間が記載されている。日付は、明日の昼過ぎだ。


その茶葉を持って、階下のキッチンに向かう。

瑠璃ばあに聞いて、あやが管理している茶葉棚から、同じ名称の茶葉を少し取り出して、ビニール袋にいれる。

茶葉棚は、あやらしく、綺麗に整理されていた。マスキングテープとマジックが引き出しに入っている。あやの片付け方は、パターンがあるから、わかりやすい。

《あやの茶葉》とマスキングテープに記入していると、病院と屋敷の連絡通路から、親父と氷逸兄さんの声が聞こえてきた。


キッチンから、声をかけた。

親父と氷逸兄さんが、キッチンに顔を出した。


「氷美、落ち着かないだろうが、体力勝負だ。夕食を、食べながら、相談しよう。」


親父は瑠璃ばあに、夕食を頼んでいる。


「先に、あやを診てもらってもいいですか?」


親父と氷逸兄さんを連れて、2階の僕の部屋に戻る。

二人があやを軽く診察してくれている。


「昨夜から今朝にかけて診ているが、あや自身の様子は変わらないな。今、検査は必要ないだろう。」

親父と氷逸兄さんの意見は一致している。


「あやが目覚めた時、今日の夜から明日の朝の話をしていました。こちらでは、1時間くらいしか経過してないのに、あやは17時間くらいを、向こうで過ごしたようです。」


僕の部屋に、外から鍵をかけて、3人でダイニングに移動する。


親父と兄さんに、この1時間の説明をし、明日から茶葉が転移してきた事も伝えた。


「夕食が済んだら、茶葉を分析しよう。」


「氷逸兄さんも忙しいだろうから、僕がラボに。」


「いや、氷美は、あやちゃんの側にいてやれ。僕は今夜当直だし、入院患者は、皆、落ち着いてる。氷聖も当直に入ってくれるし、何かあれば、すぐに呼ぶから。」


「兄さん、ありがとう。」


親父が口を開いた。

「氷美、さっき、ちらっと聞いたが、彩との結婚は決定でいいのか?」


「あやの意思確認はしました。」


「結婚式だけ、緊急で挙げてしまうのはどうだ?この世界で、お前と共に生きていく、と言う形を作り出す事で、凄水の邪魔は少しはマシになるのではないか?元々、彩が博士課程を終えたら、結婚する約束だったろう。」


「はい、僕はそのつもりでした。先程のあやの気持ちも、早く、と言ってくれてました。」


「慈優にも、氷美から連絡してるのだろう?私も慈優と話をしたが、お前たちの気持ちがおなじなら、式も後回しでいいから、入籍だけ先に済ませたらどうかと。」


と言って、親父は、婚姻届を出してきた。

よく見たら、親父と慈優の義父の署名がされていた。

「親父、なんで、そんなに準備がいい?」


「氷美が、半年前に、彩にタンザナイトを贈ったのを知って、慈優と先に署名しておいた。お前たちの事だ、病院を継ぐわけではないから、派手な披露宴はいらないと言って、海外の研究所にでも、2人で飛び出すかもしれないかと思ってね。」


親父に、僕の性格は読まれている。


「変則的にはなるけど、こんな状況だ。さっさと入籍したらどうだ?兄弟の結婚の順なんて気にしてないから。」


氷逸兄さんまで、とてもドライだ。


「次に目覚めたら、プロポーズしなさい。」


「お、親父、それは、、」


「今だって、自分の部屋に寝かしているだろう。結婚する気があるなら、今更、少し順番が違っても構わないだろう。」


「母さんが、聖ソフィアのチャペルか、慶青のチャペルなら、ゴリ押しで借りると言ってたし。」


「ちょ、ちょっと、、あやに聞かないと。」


「氷美、往生際が悪いぞ。ちょっと待て、母さんに聞いてみる。」


親父が、副院長室にいるだろう母さんに電話しはじめた。

僕が、あやを本館の部屋に寝かせていると、バラしてから、チャペルの話をしている。

母さんも慈優の義母も聖ソフィアの卒業生だし、冬冷家の男子は、みんな慶青学院の幼稚舎から高等部の卒業生だし、慈優の義父もそうだ。

無理を言えば、結婚式はすぐにできるだろう。


「ウェディングドレスがないよ。」


「母さんのがある。お婆さまの花嫁衣装もあるぞ。それに、婚約指輪も結婚指輪も、ネックレスと一緒に、フランスにスペシャルオーダーしていたのは、知ってるぞ。」


「うっ、そんな。」

 

「とにかく、彩が目覚めたら、プロポーズしろ。未承認の脳神経の薬を臨床試験として使うより、結婚する方が、安全だ。」


「わかりました。」

僕は、かなりドキドキしてきた。わかってはいたけど、急に何の準備もなく、結婚するなんて、あやが嫌がったら、どうすればいい。


親父も母さんも、言い出したら絶対に譲らない。


「じゃあ、僕はラボで、茶葉の分析をしてくる。」氷逸兄さんが、夕食を急いで食べ終わり、席を立った。


「氷逸兄さん、お願いします。」


兄さんはニヤニヤ笑いながら、

「頑張れ、三男坊っ。」

と言って、紅茶の茶葉を持って、病院のラボに戻って行った。


みんなで、助け合っています。どうなるんでしょう。

読んでいただき、ありがとうございます。

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