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エピソード11 異世界 みんなで団結

「あやお嬢様、お話しが。」


「瑠璃ばあ、どうしたの?」


「勘違いかもしれませんが、真里様がお持ちになった茶葉と、真里様の香水が同じ匂いがします。そんな事って、あるのでしょうか。それに、氷美坊っちゃまからも、この匂いが。彩様は、気づいておられたのでは?」


瑠璃ばあは、気がついている。信じていいのだろうか。でも、瑠璃ばあは、氷美お兄様の乳母だ。お兄様を一番に考える人だ。


「瑠璃ばあ、私も、ちょっと気になっていたのですが、、、」


「坊っちゃまが、私がお育てしてきた坊っちゃまが、彩お嬢様を裏切って、婚約中に他の女性と一夜を共にするなど、あり得ません。

あの真里と言う女性は、何なのですか?

彩お嬢様に、紅茶をいれろなど。失礼千万。

彩様のご学友ですから、黙っておりましたが、あの女がお屋敷に来ると、あの甘い変な匂いが。

坊っちゃまが外から帰られた時も、あの匂いがしていた事があったのです。あの匂いをまとう時は、外で、あの女と逢っていたはずです。あの匂いが、坊っちゃまを変えてしまいました。」


「瑠璃ばあ、この茶葉を、おじさまには、、」

飲ませられない、と、目で瑠璃ばあに訴えた。

瑠璃ばあは、わかっている。


「瑠璃ばあ、お願いがあるの。氷美兄様を助けられるかも?」


「ばあに出来ることなら、何でもいたしますよ。」


「氷美兄様の、服を全てほしいの。分析するわ。」


「昨日から同じ服をお召しですから、お着替えを強制することはできますよ。」


「下着も全部、必要なのだけど。」


「お嬢様、お任せください。」


「脱いだものを、一枚ずつ、ビニール袋にいれられるかしら?」


「もちろんでございます。」


「時間がかかると、怪しまれるかも?」


「お着替えを準備してまいりますね。」

瑠璃ばあは、すぐに、氷美兄様のお部屋へ急行した。


紅茶は、カップの柄で、中身を分ければいい。

おかわりしなくていいように、大ぶりのイギリスのモーニングティー用のカップアンドソーサーを選んだ。まだ午前中だから、文句は言われないだろう。

おじさまと氷逸兄様と、偽馬鹿には、私の茶葉アールグレイにミントの葉を少し加えて、濃いめに蒸らす。

凄水と真里には、真里が持ってきた茶葉でいれ、

味を誤魔化すために、全員分に最初からミルクを入れた。


茶葉の蒸らし時間をタイマーでスタートする。タイマーを持ったまま、残りの茶葉を密封袋にいれて、2階の茶葉室へ、静かに走った。元の世界では、お兄様の部屋。キッチンで見つけた本屋の紙袋に茶葉を入れ、壁と棚の隙間に入れた。


できるだけ音を立てずに、一階に戻ると、

カップをワゴンに乗せてサロンに向かっている瑠璃ばあに追いついた。息を整えると、瑠璃ばあがワゴンを押して、サロンに入っていく。


「お待たせしました。とても良い香りで、淹れていても、蒸らしの時から、心地よかったですわ。真里は、私よりも、お兄様のお好みを知っているのね。」


私は、真里の茶葉の方を、凄水、真里に、

偽馬鹿兄様には、私の茶葉の順にカップを置いた。

もちろん、瑠璃ばあが、おじさまと氷逸兄様に、私の茶葉のカップを供してくれた。

匂い消しに、バニラミント味のソフトクッキーを出す。

偽馬鹿は、先にミントクッキーを食べた。

このクッキーが大好きなのは、知っている。


「真里の茶葉は美味しい。」


偽馬鹿が、やらかしている。

おじさまと氷逸兄様が、苦い顔をしながら、紅茶に口をつける。

氷逸兄様が「いつもの彩の香りと少し違うね?」と、ミントの香りに気がついて言ってくれたのは、ラッキーだった。


馬鹿真里は、自分の茶葉の話と勘違いしたらしく、自慢している。

「フランスで求めて参りました、バハラジャが愛する姫のためにブレンドさせた香りと言われていますのよ。」


「バハラジャ?そんなブレンドがあるとは、知らなかった。真里さんは優秀ですね。」


「まあ、お義兄様に褒めていただけるなんて。」


「真里、あと少しだけ残っているのですが、私も少しいただいてもよろしいでしょうか。」


「もちろん、良くてよ。彩。」


「ここにいては、ご迷惑になりますから、瑠璃ばあとキッチンで、お相伴に預かりますね。」


瑠璃ばあとキッチンに戻って、私は氷逸兄様に電話した。


「なんだ?」


「お兄様、黙ってこのまま、聞いてください。病院からかかったような振りで。」


「研修医か、どうした?大事な用で屋敷に戻っているから、電話するなと言ってあるだろう。氷聖ではダメなのか?」


さすが氷逸兄様、振りをしてくださっている。

「お兄様、不自然な事があるので、キッチンの裏の病院への通路まで来ていただけませんか?」


「全く、そのくらい処理できないのか?すぐに行くから、MRIを先に撮って、患者を処置室へ移動しなさい。」

電話は切れた。

瑠璃ばあが、小分けした茶葉を渡してくれる。


氷逸兄様が、キッチンの裏にある、冬冷家の医師だけが使える、病院と行き来できる、超近道の連絡通路に入ってきた。

この連絡通路のセキュリティは指紋認証と虹彩認証だ。私も病院の研究室への出入りを許可されているので、もちろん登録されている。


「彩ちゃん、何かあるんだな?」

「氷逸兄様、緊急事態です。」


私は、かいつまんで、一昨日の事から話した。

瑠璃ばあが気がついてる事も。


「転移か?つまり3次元を超えた並行世界?実際にあるのか?」

冬冷家の頭脳は半端ない頭脳だ。見えないものを即否定せずに、哲学や神学のレベルまで含めて理解しようとしてくれる。特に氷逸兄様は、脳神経外科が専門で、学生時代から脳に関わる事、精神科的なアプローチや、巷の怪しい民間療法まで、さまざまな世界に興味を持って勉強してきていた。


「氷聖が逃げたから、氷美を狙ったのか。」


「彩ちゃんは大丈夫なのか?」


「私もターゲットなのでしょうか?転移して、両方の世界に足を突っ込んでいるのは、私だけなので。」


「そうとも言えない。ダビンコやパインシュタインの時代から、密やかに研究されてきた並行世界は、転移するには、感性能力の高さと耐性が必要と言われてきた。彩ちゃんの感性能力だけが、越えられたのではないか?こちらの世界からすれば、彩ちゃんが、救世主になる。」


「氷逸兄様、その話。」


「東愛医学図書館で、彩ちゃん、借りて読んでるだろう?あんな古い書庫のぼろぼろの書籍。」 


「お兄様も、読まれていたのですか?」


「彩ちゃんの、将来の夫を目指していたからね。氷美に取られたから諦めていたけど。僕のお嫁さんになる?」


「………」


「冗談だよ。向こうの氷美が離さないだろう?氷美は、もちろん知っているだろうな?」 


「はい、私の転移中がレム睡眠だから、日本で未承認の薬がいると。」


「そこに辿り着いたか?向こうで、この件を知っているのは?」


「氷美兄様、おじさま、慈優の父、氷聖兄様と氷逸兄様です。」


「わかった。凄水が帰ったら、父さんと相談する。で、渡したいものは。」 


私の茶葉、中和のミントの葉、真里が持ってきた茶葉。それぞれビニール袋に入れて、マスキングテープにマジックで中身を記した。


「お兄様、真里の茶葉は、気を付けてください。」


氷逸兄様は、少しだけ、袋を開けて嗅いだ。

「さっき凄水真里は、バハラジャと言ってたな。これは、たぶん、キンダの媚薬香だ。氷美はこれを盛られ続けてるわけか。」


「ご存知なのですか?」


「学生時代、キンダに旅行した時に、怪しい路地に迷い込んだ時に売りつけられた。気分が怪しくなる。」


「私はトイレの消臭剤を撒こうかと。」


「はっ、ははっ、確かに中和タイプの消臭剤は使えるかもな。全て解決したら、トイレの消臭剤を氷美に撒いてやるから、安心して。じゃあ、これは預かって、病院の僕のプライベートラボで分析してみる。」


「私も、、」


「彩ちゃんは、サロンの様子を見ていて。頃合いを見て、父さんに電話するから、凄水を追い出したら、父さんと一緒に僕のラボに来て。いいね。あと必要なものはある?」


「もし、タンザナイトがあれば。」


「ある。後で渡すから。とにかく凄水親子に近寄らない事。氷美は、すでに引っかかってるから、放置だな。じゃあ、あとで。」


氷逸兄様は、話が早かった。

私はキッチンに戻って、瑠璃ばあと、家中のマスクと消臭剤とアルコールの拭き取りシートを集めた。

瑠璃ばあが、氷美兄様に着替えさせるために、サロンに向かった。


高見から、婚約誓約書が完成して、おじさまがERから呼び出しがあり、凄水が帰るとキッチンに連結があった。

私は表に出ずに、離れの子供部屋に走った。


お兄様の子供部屋に入って、ファーブル昆虫記の英語版の401ページの空スペースに、鉛筆で、日付け時間、本館2階に真里の茶葉を隠した事、氷逸兄様のラボで分析する事を記載して、ドアに鍵をかけて、またキッチンに戻った。

瑠璃ばあが、おじさまに病院から緊急の患者の呼び出しがあり、凄水親子と氷美兄様が、一緒に帰ったと教えてくれた。


「彩お嬢様、旦那様が、通路でお待ちです。それから、これ、氷美坊ちゃまが、昨日から着てらした服です。」と、ランドリーバッグを渡してくれた。


「瑠璃ばあ、ありがとう。みんなマスクをして、全ての窓を開けて、換気、空気清浄機をフルで動かして、凄水達が触れた場所を拭き取って。トイレも廊下も、ドアノブもよ。それから、念のために、濃いめのフレッシュミントティーを飲んでほしいの。全員よ。」

「お任せください。」


私はセキュリティの認証をクリアして、通路の中にいるおじさまに合流した。

急ぎ足で、歩きながら話した。


おじさまは、滅多に怒らない方なのに、かなり怒っていた。

「氷逸から、おおよそは聞いた。大丈夫か?

氷美がまさか、凄水に引っかかるとは。あや、すまない。慈優に合わせる顔がない。」


「おじさま、向こうの氷美兄様は、ブレてませんから大丈夫です。こちらの偽馬鹿、、ご、ごめんなさい。」


「偽馬鹿? 偽馬鹿とは、面白い。はっはっ、、息子とは思えん馬鹿さに開いた口が塞がらん。偽馬鹿で結構だ。今は、あやを守って、まともな氷美に返すことが優先だ。ただ、氷美を凄水に渡すわけにもいかん。」


「でも、婚約の誓約を正式に交わして。」


「これだ。」

おじさまは、婚約誓約書を胸ポケットから出して、見せてくれた。


よく見ると、おかしい、気がついた。

「おじさま、サロンでは、ご愛用のドイツの万年筆を使ってらしたはず。でも、これは、ドイツのダークブルーブラックのインクの色ではありません。

この紙、冬冷家の公式の洋紙の透かし模様が入ってないです。冬冷との契約書と認められませんね。それにこのインク、シリコン消しゴムで消える100円水性ボールペンですか?」


「満点の解答だ。あやならわかるな。それが、冬冷家の嫁に求められる観察眼だ。凄水は何一つ見抜けなかった。

目の前で、あやが、婚約解消してくれたおかげで

、凄水の警戒心が緩んだのだろう。」


「後日、万が一の時は、裁判に持ち込むつもりだ。うちの弁護士は優秀だ。凄水には、悪どい弁護士がついているが、悪どい人間ほど、金や取り引きで解決できる。」


「でも醜聞になれば、氷美兄様が。」


「氷美の落ち度だ。あやを裏切ったからな。しかし、あやは、よく冷静に婚約解消に応じたな?」


「冬冷の家で、取り乱すことだけはしたくありませんでしたし、向こうの氷美お兄様とのお約束がありますから。」


「向こうでは、氷美と結婚してくれるのか?」


「はい。6歳からの誓いですから。向こうのお兄様と、け、結婚の意思表示はお互いに。」


「ありがとう。では、全力で凄水を潰しにかかろう。凄水に氷美を取られたら、慈厚会医療グループごと、取り込まれてしまう。」


病院の氷逸兄様のラボに着くと、氷逸兄様がすでに茶葉の分析にかかっていた。


「氷逸、すぐに貴山弁護士と、敏早弁護士を、ここに呼べ。私は慈優に電話する。」


「父さん、わかりました。あやちゃん、分析の続き、頼む。」


「わかりました。中和の特定からしますね。」


こちらも、偽馬鹿以外は、いつもの家族だった。


とうとう、婚約解消されてしまいました。

読んでいただき、ありがとうございます。頑張って書いております、よろしくお願いします。

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