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エピソード10 異世界で婚約破棄

「笑っている場合ではないぞ。」


「こちらにいると、安心で。向こうは誰も信じられないから、つい、お兄様がいらっしゃると気が緩んでしまいます。」


「とにかく、転移して、こちらが呼び戻す方法は、なんとかなりそうだ、しかしそれも、何回もすると、脳や体への負担もゼロではない。副作用の可能性も高い。向こうから帰ってくる方法を、移動する時間や、場所、タイミングから法則を探すのが一番安心だが、初めから書き出してみよう。」


「お兄様、それは、私が。あとは、凄水の罠は、絶対に大丈夫ですね?変なハーブやお香とか、使われたら。」


「解毒薬を、父さんと氷逸兄さんが考えている。要するに脳に作用するものを解除できる薬があればいい。さっき匂いのことを言っていたな。」


「あっ、偽馬鹿が、さっき近くで、甘くて、少しだけスパイシーな匂いがしていました。お兄様の匂いではありません。」


「あや↓、偽馬鹿とは、口が悪いよ。」


「だって、偽馬鹿は偽馬鹿でしょう。お兄様の名を騙るのはゆるせません。

あの匂い、私も嗅いだ事があって。アールグレイのベルガモットに少し似ているのですが、ちょっとくどくてスパイシー過ぎる。もしかして、私、間接的に嗅がされた事があるのかも?」


「向こうで危ないな。ベルガモットやスパイス臭を消す香りはないか?中和できるものだ。」


「中和剤なら、制汗剤や消臭剤でもいいかも?」


「向こうで、手に入れやすいものを確保しなさい。あとは、あや↓の身を守る方法と、身を隠す場所だ。このうちで、あや↓が知っていて、偽馬鹿が知らない場所はないか。」


「お兄様、アールグレイはしばらく飲まないでください。たぶん、ミントかコーヒーなら飲んだ後でも、匂いを少しは消せると思います。ミントは、私のハーブ畑にもありますから。

それから、お兄様が知らない場所は、確実に偽馬鹿は知らないはず。あっ、あの、裏のカブトムシの隠し場所。」


「僕は知っている。」


「向こうの私の部屋になかったものは、タンザナイト、ファーブル昆虫記、カブトムシのぬいぐるみ。だから、偽馬鹿はカブトムシの記憶が少ないはず。裏庭のカブトムシの隠し場所。それから、お兄様の子供の頃のお部屋の入り口の隙間に隠した鍵。」


「まだ、あるのか?」


「昨日、確認しました。お兄様がボストンに行かれた時、寂しくて、お兄様の子供の時のお部屋に、こっそり一人で入ってました。ファーブル昆虫記の英語版があります。」


「そこにメッセージを残すぞ。ページは、僕の誕生日はバレる可能性がある。誓約書の4月1日。実験ノート表記で。」


「はい。」


「あや↓、子供部屋はそのままだが、私が大学に入ってからの、大人部屋には入った事がないだろう。偽馬鹿の大人部屋はどこにあるか知ってるか?もしかしたら、場所が違うかも?」


「確か、本館の北の2階奥と。向こうの瑠璃ばあが、呼びに行くのが大変だと。」


「やっぱり場所が違う。僕は、本館東の2階手前、本館では、あや↓の部屋に一番近い場所だ。本館北2階奥は、僕の本や研究資料が置いてある書庫だ。」


「どっちに隠れたら?」


「今の僕の部屋がある場所は、向こうでは何だ?」


「本館2階東手前、、あっ、私の茶葉ルームです。海外から取り寄せた茶葉の保管に、温度湿度管理の棚があり、キッチンに近い場所にと。」


「じゃあ、そこに隠れろ。鍵は、合鍵を渡すから、僕の部屋まで一緒に来い。」


「でも、大人部屋を女性が、訪ねるのは、」


「今更何を。すぐに結婚するんだろう?

離れている時に、転移されたくない。ほら」

あやの手首を掴んで、本館に戻り、あやを僕の部屋に押し込む。


「僕から離れないで。こっちに来て。それから、スマホは首からかけておく事。」

あやがキョロキョロして、僕の部屋を見回している。


「どこにいても、一緒ですね。あまりにもシンプルで、研究室も子供部屋も、ここも、並べ方と配置が変わらない。論文が倒れそうな塔になってる形まで同じ。あっ、6歳の写真。裏に誓約書が入ってるのですか?」


「さっきまではな、何かあるといけないから、あや↓の誓約書とまとめて、あやの部屋の金庫に隠した。あの金庫は、僕たちしか知らないから、僕たちにしか開けられない。偽馬鹿は知らないだろう?」


「そうです。」


「あや↓、基本的に僕たちの思考回路は、ほぼ同じだ。時々、あやが馬鹿をするが、それでも、同じ事をほぼ同時に考える。だから、信じて、行動してほしい。さっき、あやが、目覚める前に、あやを呼び戻すつもりで呼び続けた。」


「私も、お兄様に助けてと、呼び続けました。」


私のスマホが鳴った。

「取るなっ。誰からだ。」


「偽馬鹿、、」


「私のスマホは、ここにある。取るな。」


「行きたくないっ。」スマホが鳴り続ける。


「あや、この部屋の合鍵だ。絶対に落とすな。必ずここか、子供部屋か、カブトムシだ。ファーブル昆虫記。」

彩の手を握ったまま、彩のスマホケースの隙間に合鍵を差し込む。


「お兄様、身体が動かないっ。行きたくないっ。」


「僕の嫁になるまで、絶対に死ぬな。」

僕が掴んでいても、彩の身体は崩れて、眠ったようになった。

最後に見たのは、目にいっぱい涙を浮かべた彩だった。


転移の頻度が早すぎる。


彩を僕のベッドに寝かせた。やはり、レム睡眠だ。

急いで、氷逸兄さんに電話した。

「あやが目覚めて、転移の確認をとった。」


「氷美、彩ちゃん、どうやってこっちに戻ったんだ?」


「向こうにある薬の成分を計算して、意識を落とす量を一気に飲んだと。」


「命がけで戻ってきたんだな。父さんと、すぐにそちらに戻る。で、彩ちゃんは。」


「また、向こうに引っ張られた。手を掴んでいても、意識だけ取られた。こちらにいる時間が、少なくなってる。僕の部屋で寝かせている。」


「わかった。とにかくすぐに戻る。」


――――――――――――――――


「あや↑開けてくれ。話し合いたい。」


また、偽馬鹿の世界に戻ってしまった。


「婚約指輪を返しますから、少し待ってください。いま探しています。婚約は解消で構わないですから。」


「あや↑いいのか?」


「はい、真里が幸せになるのなら。」


ポケットがたくさんついている服に着替えた。

残っている薬を、ポケットにいれ、隠しポケットになるように、ポケットの入り口を急いで、縫いとめた。

お団子にまとめた髪の毛の中に、お兄様の部屋の鍵をヘアゴムに通して、ねじ込んだ。何をされるかわからない。

スマホを取り上げられるかもしれないけど、

ミニショルダーにスマホと、昔のガラケーと、ラベンダーのサシェと、ミントの乾燥した葉をビニールに包んで、底に押し込み、ハンカチを入れ、蓋を閉じて、斜めがけにした。


あと、短い鉛筆を、ショルダーにいれ、髪の毛にも刺した。


殺されても、元の世界にもどる。

絶対に生きて帰る。


ドアのバリケードにしていた本棚をずらし、勢いよくドアを開けた。

バンっ!

「痛っ!」

「ごめんなさい、お兄様、鼻血が、、、ティッシュを。」

「あや、ありがとう。止まらないな。」

「冷やしますか?温めますか?」

「いや、大丈夫だ。」


私が勢いよくドアを開けて、氷美兄様の顔を殴ったみたいになった。

なかなか鼻血が止まらなくて、汚れたティッシュを部屋のゴミ捨て用のビニール袋に入れて、口を縛ってゴミ箱に入れた。


「もう大丈夫そうだ。ありがとう。」


「氷美お兄様、大丈夫ですか。サロンに戻りましょう。真里の前で、婚約解消する方が、信じてもらえますよ。」


「あや↑は、いいのか?」


「良いも悪いも、私はお兄様を大切にできなかったし、ずっと兄妹でしたから、男女の愛情がわからなかったのは、私の責任です。ごめんなさい。」


「あや↑は、僕が嫌いだったのか?」


ええ、偽馬鹿は大嫌い、とは言えない。

「お兄様として、大好きでした。でも、結婚と言う意味がわからなくて。でも、お兄様と真里は、愛し合っているのでしょう?」


「そうなんだ。」

つまらない会話をしているうちに、サロンについた。

入り口の手前で、瑠璃ばあが、辛そうな顔をしている。


偽馬鹿と一緒に部屋に入った。

真里が、立ち上がって泣き始めた。

「彩、ごめんなさい、あなたを裏切って。。 」


馬鹿らしい演技と、思った。

おじさまの隣に座った。

「おじさま。氷美お兄様と真里が愛し合っているのなら、2人を認めてくださいませんか?私は婚約を解消します。」

婚約指輪と、婚約誓約書をおじさまに渡した。


「彩はそれでいいのか?」


「良いも悪いも、私には、お兄様に対して、男女の愛が無いのです。兄としてしか見れない。それでいいと思っていましたが、お兄様を愛してくれるのが親友なら、私が婚約者でいる必要はないと思っています。」


「わかった。氷美、お前の誓約書はあるのか?指輪は?」


「これです。」

偽馬鹿も、婚約指輪と、婚約誓約書をおじさまに渡した。


「では、婚約を破棄する。」

誓約書は破られ、銀のトレイの上で、燃やされた。

婚約指輪は、金槌で、叩かれて、真円の形を失った。


「2人にの間には、誓いは無い。凄水さん、これでよろしいかな?」


「ありがたい。彩さんの英断に感謝する。では、氷美君と真里の婚約の誓約を。」


「では、私の役目は終わりましたので、自室に戻ってもよろしいでしょうか。」


「あや、退室してよい。ゆっくり休みなさい。」


「真里、お兄様と幸せになってね。応援しているから。」


「ありがとう。あの彩、仲直りとして、一つお願いがあるの。

氷美様のお好きな茶葉をお持ちしたの、彩の入れてくれたお紅茶を飲みたいわ。」


はあっ?と思った。わざわざ茶葉を、この屋敷に持ち込むか?と、ちょっと、いやかなりイラッとした。紅茶の事は、私が真里に教えたのに、、。


「もちろん、では、茶葉をお預かりするわね。4人分くらいはあるかしら?」


「そのくらいはあるから大丈夫よ。」


真里から茶葉を預かって、キッチンに向かう。瑠璃ばあが一緒に来てくれた。


私が、紅茶の準備を、していると、瑠璃ばあが、呟いた。

いつもと、香りが少し違いませんか?


「どうかした?瑠璃ばあ? 」


「お嬢様、この茶葉の香り、ちょっと違いますよね?」


婚約解消しても大丈夫でしょうか。

読んでいただき、ありがとうございます。

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