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エピソード9 元の世界で これからどうする

あやが、僕に抱きついてきた。

6歳以来、初めてのことだ。


「お兄様、私、私、6歳のお約束、忘れていません。お嫁さんにしてくださいっ。」

ぼろぼろ泣きながら、僕にしがみついてくる。

こんなあやは、初めてみた。緊急事態だけれど、可愛いと思ってしまう。


「お願いです。嫌いにならないでください。お願いだから。」

突然、愛の告白をされて、物凄く嬉しいけれど、現状では、喜んでいる場合ではない。

いつ、異世界に飛ばされるか、わからない。


「あや↓、落ち着いて。6歳の誓いは有効だ。

僕は、あや↓と結婚する約束は忘れていないし、破ったりしない。」


「お嫁さんになれますか?」


「約束する。」


あやがやっと落ち着いた。まだ涙が溢れているが。

「あや↓落ち着いて話がしたいが、このままの体勢でいいのか?」


僕はあやのベッドに腰掛けているし、あやは僕の首に両手をまわし、体を預けている、僕の手は、あやの背中に回し支えている。


あやは、真っ赤な顔をして、僕を見上げた。


「お兄様、非常にお恥ずかしい限りですが、いま、しばらく、このままでお願いできれば。離れてしまうと、向こうに引きずり込まれてしまいそうです。転移する条件がわからないのです。」


「理解した。賢明な判断だ。個人的には、非常に嬉しい限りだ。」


「へっ?」

僕の返答に、首まで赤くなって、一瞬手が緩むのを、僕が抱きしめたら、俯いてしまった。恥ずかしいのがわかった。


「さて、6歳の約束からすると、3月末から、すでにあや↓は、僕の婚約者で、年齢的には、いつ結婚しても問題はない。それは変わらないことだから、安心していい。それで、転移先の話を聞きたいが、大丈夫か?」


「お兄様、いつも通り、冷静さがハンパなく、それが尋常でない意地悪さで、ドキドキします。」

言い得て妙なことを。吹き出しそうだ。


「これだけ、密着していれば、心臓の鼓動は聞こえて当たり前だ。生体反応だ。気にするな。

まず、異世界転移は信じる。科学的に説明できないことは、世の中に多々あるからな。

あや↓が、残した、メモやタブレットの履歴で、状況は把握した。僕としては、異世界は、並行世界か、5次元の世界のような範疇だが。どうやって戻った。メビウスの輪の繋ぎ目をどう作った?それが一番聞きたい。」


「向こうで貯め込んでいた様々な薬を、一気にのみました。夢うつつではなく、完全に意識を落とせば戻れるかと。」


「無謀なことを。危険だが、ノンレム睡眠が必要な事に気づいたのは、さすがだ。」


「致死量は研究中に教わっていたので、成分を調べて、自体重から計算しました。ちょっと多めにしましたけど。」


「何っ?」


「もし眠り落ちなければ、私はどうなるかわからないし、それならいっそのこと、死にかけて戻れば、お兄様がきっと、助けてくれると。」


「こちらでも、呼び戻す方法を検討して準備をはじめていたが。それほど緊急だったのか?」

あやが、こくんと頷く。


「昨夜、お兄様に会いにいく準備をしようとしていたのに、向こうからかかったスマホの電話で、着信音がお兄様の設定音と違ったから出てしまい、偽物の声で引きずり込まれました。」


「着歴はみた。その時間、僕のスマホからは発信してなかった。向こうからの着信とメールが同時にあったな。」


「調べてくれたのですね。で、向こうで、かなり偽物に迫られていて、、」


「僕に迫られて逃げたのか?今は、こんな状態なのに?」

彩は、すでに僕の膝の上だ。


「もうっ、意地悪ですっ。人格が全く違うのです。見た目が同じでも、あそこまで性格が違って嫌らしいと、、拒絶しかありません。向こうには、積み上げてきた歴史が皆無です。」


「積み上げてきた歴史、とまで言ってくれるんだ。」

こくんと頷いている。


「よほど嫌だったのか。何をされた?キスでもされたか?」


「押しのけて逃げて、真里を利用して、部屋から追い出しました。」


「はっ、ははっ、よくがんばったな。見た目は僕と同じなのに、顔を見て、迷わなかったのか?」


「何回も、意地悪を言わないでください。中身が違うと、黙って立っているだけでも、匂いやオーラや、仕草や、とにかく別人なんです。」


「わかった。じゃあ、実験で確かめよう。」


「実験?」

僕の顔を見上げたあやの頬を包んで、キスをした。目を見開いて驚くあやが可愛い。逃げられないように、キスを止めなかった。彩は目を閉じて、素直になった。彩のファーストキスだ。


「実験結果は?」

頬に手をおいて見つめたまま聞いた。

あやの目が泳いでいる。


「急に、どさくさに、横暴です。」


「実験結果は?無効なのか?」


「ゆ、ゆうこう、です。」


「よろしい。向こうで、万が一、嫌いな男に初めてのキスを奪われるよりは、本物の方がいいだろ?僕だって、我慢していた。いつになれば、男としてみてくれるのか、もう30歳だぞ。向こうの偽物の気持ちがわからんでもない。」


「だ、だめです。お兄様、偽物は、ダメです。昨夜、真里と、一夜を共にして。」


「はあっ?偽物は、馬鹿か。」


「そうなんです。昨夜、私が拒絶したら、真里を家まで送って、向こうの家に泊まって、一夜を共に。で今朝、凄水会長と真里と一緒に、冬冷の家にきて、婚約破棄を迫られました。向こうの婚約破棄は願うところですが、もし、こちらで同じ事になれば、私はお兄様を失ってしまうかもしれないと、とにかく、6歳の誓いを伝えるために戻らなくてはと。」


あやが、どんなに必死で、こちらの世界に戻りたかったのか、胸が痛くなってきた。


「あや↓、そこまで僕が大切か。」


「大切です。お兄様が、私達の道を作るために、どれだけ努力して下さったか、他の人にはできないことを。それを私は、もっと早くに気がつかなくてはならなかったのに。勉強が、苦しくて苦しくて、お兄様はどんどん先に進まれて、遠のいてしまって、ボストンに行かれた時に、手が離れてしまったと。あの頃から、何も感じなくなり、勘が消えて、誓いまで、深いところに蓋をしてしまっていました。ごめんなさい。私、一人じゃなかったのに、一人ぼっちで彷徨っていたから、わけのわからない世界に飛んでしまったのかと。」


この数年、しばらく見失っていたあやが、目の前に戻ってきているのを、僕も確信していた。


「あや↓、今は、ちゃんと理解できて、自覚もしている。戻る場所がわかっているなら、大丈夫だ。」


「戻れたのですね。」


「僕の中に。」

もう一度、抱きしめた。愛おしい。


「さて、向こうの馬鹿がやらかした事は、こちらでも起こり得た。凄水会長から、数年前から

冬冷に縁談の話があってな。氷逸兄さんの伴侶は医師が望ましいし、それは向こうもわかっていた。だから、氷聖兄さんか僕をご指名で。

だが、僕が、彩を譲らなかった。氷聖兄さんが、婿養子で冬冷を出るのも、親父が譲らなかった。それと、真里が替え玉在籍ではないかと、大学で疑惑があった。」


「替え玉在籍?替え玉受験じゃなくて?」


「替え玉受験のまま、替え玉が大学院まで、在籍して卒業したと。」


「えぇ?信じられない。」


「だから、大学に残らずに、親の秘書に収まれば、ばれずに済むだろ?」


「でも、、顔は、幼稚舎の頃から真里のまま。」


「確かに、幼稚舎の頃から一緒にいるから、彩が気がつかなければバレないだろうが、影武者が美容整形したら?凄水は、海外で高級美容整形病院を経営している。」


「あっ、、そう言えば、高等部3年の時、一年休んで、受験勉強をすると言って、2年の修了式のあと、卒業式まで会えなかった。メールはしていたけど。卒業式に会って、大学に入ってからは、ちょっと真面目になった感じはあったけど。」


「あや↓、会えない1年の間に、僕や兄さんたちの事、メールで色々話してない?」


「普通の女子高生の話すことなら、趣味や好きなものや、、でも、氷美お兄様の話をすると、よく氷聖兄様の事も話題にでていたわ。私、探られていたの?」


「友達の会話だから、意識しないで話していればな。」


「ごめんなさい。私が馬鹿でした。」


「いや、普通は、友達がスパイだとは思わないだろう。凄水は冬冷の血筋が欲しいはずだから、一番狙いやすいのは、三男なんだ。長男は後継ぎだし、慈厚会医療グループも巨大だから、次男も必要になる。馬鹿な嫁取りはしない。

だから、狙われるのは、僕とあや↓。君がいなくなれば、僕に真里を押し付けられる。偽馬鹿は、それにはまったんだろう?」


「次、向こうに転移したら、どうすれば?」


「凄水が、違法ではないが、怪しい媚薬のようなものを持っているという噂がある。そう言うものが使われると、信頼できる者も信じられなくなるからな。」


「もっと根本的な解決策って。」


「あや↓父さんと慈優のおじさんに、相談しているが、一番確実な解決策は、冬冷の息子が全員、さっさと結婚する事だ。」


「なぜ、氷逸お兄様と、氷聖お兄様も独身なんですか?」


「あやを待っていたからだ。」


「へえっ?なんで?」


「あや↓、氷逸兄さんも氷聖兄さんも、あや↓の事、嫁にしたいと思ってるの、知らなかったのか?」


「まさか?私、氷美お兄様しか見ていませんでしたから。」


「ふぅ、、、あや↓が大学院を卒業しても、まだ僕と結婚しないから、あやをよこせと、親父に詰め寄っていたらしい。僕は譲る気なんて、なかったけど。その話をそろそろしなくては、と思っていたら、こんな意味不明な事が起きたんだ。」


「わかりました。私は、今すぐに氷美お兄様と結婚しますから、氷逸お兄様と氷聖お兄様のお相手を。」


「そんなに結婚を急ぐのか?結婚の意味、わかっているか?僕はいつでも構わないけど。」

あやは、僕の顔を見て、俯いた。


「この半年の凄水の動きが胡散臭くて、兄さんたちには、親父が、凄水の事を話して、出来るだけ早く、一緒になりたい女性を連れてこいと。もう医者にはこだわらないし、相手の親も医者でなくて良いと言ったら、好きな女性はいたらしい。母さんにも会わせたらしいよ。」


「では、凄水の罠に引っかからずに、どう乗り切り、転移したら、どう戻るか?ですね?」


「レム睡眠から、ノンレム睡眠にすぐに移行できる薬は、実はあるんだけど、日本では、未承認で。研究用しかないんだ。アメリカは、承認間近らしい」


「その薬は、転移した私が、こちら側で、お兄様に飲ませてもらうと、両方の世界で、爆寝できて、戻ってこれるのですか?」


「そうだ。あや↓が、さっき実験に近い形で、戻ってきたからな。危ない事はもうするな。」


「はい。」



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