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09話 予選スタート




 大会会場に来て受付を済ませたカケルたちが、屋台を楽しんだあとで行われた開会式。

 そこに有名な実況者『タコさんアナ』が現れたことで、会場は最高の盛り上がりを見せながら大会は始まったのである。


 開会式が終わりそれぞれが目的地の場所へとバラけだし、カケルたちもリョウマ家と別れて第2会場へと向かった。


 会場の広さは学校のグラウンド6面ほどだろうか。かなりの広さだが先ほどまで居た決勝トーナメントの行われる中央会場と違いはそれほどなく、客席が白いラインとポールでフィールドの内外を分けている位だろう。


 フィールドの中には既に参加者が検査を受けて散っていってる。


「そうそうカケルくん、これはちゃんと着けておいてね」

「あー、レガースかー。これあると動きにくくて嫌なんだけどなー」

「安全のためだよ。無かったらレンタルすることになるんだから」


 ハジメ博士が取り出したのは、肘あてやレガースにヘルメットなどの防具用品。

 ただの横並びで動きがなければ問題ないが、事前に予選方式と用意するものに書かれてあるのだ。文句を言いながらも渋々受け取りちゃんと着けていく。


「カケル君、頑張ってね」

「応援してるわよ」

「おうっ、任せとけって」


 声援を受けたカケルはリュックを背負いなおし、親指を立てると不適に笑って駆け出した。


 その勢いのままフィールド内に入りたいところだが、中に入る前には検査所があり、そこでターコに違反がないかどうかを調べなければならない。

 つまり第2会場で戦う参加者はそこに集まるのだ。


「おっ、ダイゴじゃん」

「なんだテメェか」


 検査場へと向かうカケルが見つけたのは、ちょうど検査が終わってフィールドの中に入ったダイゴロウだった。

 相変わらず目つきの悪い三白眼でジロリと視線をぶつけ、左手にはあのとき戦ったのと同じターコを持っている。


 ダイゴロウにとってカケルは1度負けた相手だが、その表情は実に自然体。


「予選で負けたくないなら、俺とかち合わないことを祈っとくんだな」

「へんっ、会ったら戦って勝つだけだっ」

「おーおー言ってろ」


 ダイゴロウは不適に笑ってフィールドの中へ進んでいき、彼が歩み始めた瞬間にカケルも検査の列の最後尾へと向かう。

 フィールド入り口の左右に2つの長机があり、そこで男性係員が検査をしているようだ。列にはそこそこの人数が並んでいた。しかし、それほど待たされることなくカケルの番になる。


「はい、大空カケルくん。それじゃあ、試合で使うターコとコントローラーをそこの台に置いてください」


 係の人は番号確認をした後、テーブル横の地面に置かれてある平べったい正方形の白い台を指さす。

 4隅の1カ所だけアンテナのようなものがピンと伸びていて、2㎡よりもは狭いがターコとコントローラーを置いても余裕のある大きさだ。


 カケルがそこに置いたのを確認するとパソコンを操作。台を覆うように青白く箱型に光ったかと思うと、直ぐに検査は終わった。


「はい、問題ありません。リュックはこちらで預かりますので、貴重品はありませんか?」

「大丈夫です」


 パソコン操作していた係員がリュックを受け取り、番号と同じ数字を書いたシールをリュックに張り付けている間、もう1人の係員がターコとコントローラーを結ぶ糸を取り付ける。

 事前に手の平ほどの長さでまとめてあり、糸の両端には位置を特定するパーツが付いてあった。

 これによって生存判定の他、何番が何番を切ったかや地面に接触した墜落判定などもわかるようになっている。


「スタート地点は会場の中ならどこでも構いませんが、スタート合図前にはターコを浮かせておいてください。糸は両端を掴んで引っ張ればほどけますから」

「はい」

「それと残った参加者が4人になるか、終了時点で糸を切ったのが多い4人を決勝トーナメント進出者とさせてもらいます」


 予選の方式が非公式のルール名『乱戦』だと事前の説明にも書いてあったので、係員から「何か質問は?」と尋ねられても問題はなかった。なのでそう答えて検査は無事終了。

 ターコとコントローラーを受け取ってフィールドの中へと足を踏み入れる。


「ふっふっふっ、待っていたぜ。大空カケルっ」


 その途端、話しかけてくる少年。グレーの髪には見覚えがあった。


「えーと、たしかダイゴと一緒にいた……」

「頭のいちの子分、湯島ゆしま アオイだ」


 カケルたちと同じ瑠々るる小学校4年、1つ下の後輩アオイだ。フィールドに入っていてターコを持っているので、大会に参加していることは一目瞭然である。

 ダイゴロウをリーダーとしている以上、彼らもターコイズファイトで遊んでいることは考えられた。


「なになに、みんなでやろうっての? まとめて相手にしてやってもいいぜっ」

「ふん、チーム戦でもないのにそんなことするか。……って頭が言ってたからしないぞ」

「そーだそーだ」


 どこからかアオイに賛同する相槌が聞こえてきて振り返れば、検問にこちらも見覚えのある子分の1人が声を上げていた。やはりダイゴロウグループは何人も参加しているのだ。


「じゃーな、首あらって待ってろー」


 ただ、自分達で言った通り共闘するつもりはないらしく、宣戦布告をするだけして、さっさと駆け出していってしまう。

 去っていくのはダイゴロウが歩いていったのと逆方向。一緒に戦わないことを示したというよりも、ダイゴロウと戦わずに済む場所に向かったというのが正しいだろう。


 その背中を見たカケルは何となく2人の間、入り口から真っ直ぐ中央を目指して歩き出す。


「やっぱりバラバラって感じだな」


 フィールドは広く、端にいる人が誰かまで認識できないほどだ。彼らは思い思いの場所で陣取っていた。

 そして空に視線を向ければ、予選開始までのカウントダウンを示すデジタル時計が投影されている。


 カケルも直ぐ側に人がいなければいいからと、中央付近で足を止めてターコの準備をする。持っていたコルトーXXを地面に下ろし、先ほど言われたとおり糸の両端を持って引っ張れば、シュルシュルと絡むことなく解けていく。

 公式の糸はターコ本体から3,4メートルくらいにガラス粉の混じった糸を切りやすい部分があり、そこは白い紙で保護されていた。糸を解き終わったあとで、自分の糸が傷つかないよう注意しながら外す。


「ちょいちょいっと……うん、動きは問題ないな」


 軽く操縦してみて動作の確認。

 それが終わると、あとは時間を待つのみ。1度ターコを下ろしたカケルは、荒ぶりそうな気持ちを落ち着けるように息を吐き出す。


 そしてカウントダウンは進み、開始3分前になってアナウンスがフィールドに響き渡る。


『みんな待たせたね、そろそろ試合開始の時間だっ。みんなのターコを空高く掲げて、僕たちにその姿を見せてくれっ』


 タコさんアナの声と共に、色彩豊かなターコの数々が空へと舞い上がる。

 ターコはカケルの青色だけでなく、黄色や青、緑に黒などなどコーティングもあって絢爛に輝いている。色も形もそれぞれ違うそれは、まさに空に散りばめられた宝石のよう。


『うん本当に壮観で綺麗だ。37番のキミのターコも、もっと高く舞う姿を見せてくれ』


 ターコイズファイトは空高く上げた状態からスタートする。地面スレスレの方が目立たないので、スタート時点では見栄えと公平になるよう、取り付けられた高度計で一定以上の高さになるよう調整させるのだ。


『よーし、それじゃあいくぞぉ。ターコイズファイトォォーー、レディーー、ゴオオオオォォォォーーーー』


 合図と共にいくつかのターコが急降下して目立たないよう高度を下げた。

 もちろん、高度が低いと撃墜を狙われる可能性が高くなるなど不都合なこともあるので、カケルはスタート地点より少し下げた程度。上下左右に逃げられる空間を作っておく。


『それじゃあ先ずは第1会場の様子を見てみよう――』

「よーし、相手はどこだっ」


 試合が始まり、真っ先に行ったのは周囲を見回すこと。

 周りが敵ばかりの中、近付いてくるのか遠ざかるのか。それらを判断し、相手のターコの動きも見て自分がどう動くかを考える……ようなことをカケルがするはずもなく、近くのターコへと向かっていくのだった。


「うおおぉぉ勝負だっ」

「えっ、えええっ」


 相手は野球帽子を被った少年。開始早々の突撃に驚いているが、それでもちゃんとターコの高度をカケルと合わせて迎え撃つ構えをみせる。

 それぞれにギミックがあり一概には言えないが、基本的にターコイズファイトは相手の下から糸を攻撃する、もしくはそれをかわして糸を切る、本体を地面に接触させるという戦い方だ。


 だからカケルも左右に動かし隙を見て一気に機体を下げる。


「もらったぁ」

「どこがっ」


 だが少年も即座に反応。急降下しながら接近するカケルから糸を守るため、同じく機体を下げて防御に回る。


「なーんてねっ」


 しかしそれはカケルの罠。

 途中で止まると今度は急上昇しながらの接近。相手のふわりと浮き上がった糸の下を潜り、ガラス粉のついた糸でプツリと絶った。


「ああぁっ」

「やった、俺のか――」


 勝負は着いた。そう思ったカケルだったが、気配を感じてその場を離れながらターコも移動させる。

 次の瞬間、回転するターコが低空から薙ぐように糸のあった場所を通り抜けたのだ。


「にんにん、せっしゃの気配に気づくとは只者ではござらんな」

「な、なにやつ」


 地面に寝っ転がった状態から起き上がったのは、迷彩柄のマスクを着けた少年。忍者っぽい口調に乗ってカケルもそれっぽく答えるのだった。

 そして、油断なく巨大な手裏剣のようなターコを見れば、こちらも目立たないようにだろう。フィールドの草原の色に似た迷彩柄に塗られている。


「いやいや、名乗るような者ではございませぬ」

「そう言わずにお名前だけでも」

「ならば、せっしゃが勝った時にでも教えてしんぜよう」

「なら無理じゃん。俺が勝つし」

「なんだとー」


 そんな風に軽口を叩きあいながらも操縦の手は休めない。さらに立ち止まらず動いて自身の立ち位置を変えることで、糸の繋がっている場所を複雑に変える。

 それは防御のためであったり、攻撃のためである。忍者少年を挟み込むようにカケルとコルトーXXが左右に開く。


「もらったっ」

「あああぁぁぁぁ~~」


 少年がカケルに視線を向けた瞬間にコルトーXXを切り返し、ブーストによる加速をかけ相手の糸を切ったのだ。

 勝負はカケルの勝ち。先ほどの帽子の少年と合わせて2連勝である。

 負けた忍者少年は、帽子の少年と一緒にフィールドを去っていく。ちなみに名前は去り際にきちんと教えてもらえたようだ。




 その後、カケルは更に2人を倒した。ただ、別の誰かが戦ってる中に乱入するつもりはないらしく、フィールドを歩きながら誰か暇そうにしている人がいれば戦うという、乱戦らしくない行動をとっていた。


 時間は開始から30分が過ぎ、第2会場の参加者の半数は既にフィールドを去っていて、必然と見知った顔が見つけやすくなっている。


「カケルだっ」

「おー、アオイだっけ?」


 ダイゴロウの子分アオイが、先ほどのカケルと同じく急接近して勝負を挑んできたのである。

 彼の操る黄褐色のターコはダイゴロウに似せて作ったのか、同じようなフォルムだが少しばかり厚みが薄い印象を受ける。

 そして戦い方もダイゴロウに倣ったように、ターコを前後左右に軽く揺らして相手の出方を待つ戦術。


「ふふん、お前なんか頭が出るまでもないぞ」

「いーや出てもらう。そして今度こそちゃんと俺が勝つんだっ」


 カケルがコルトーXXを突っ込ませ、アオイがそれをかわして反撃。まるでダイゴロウの時と似たような展開……。


 しかし、それを操るアオイの技術がまだまだダイゴロウに遠く及んでいない。と言うよりも、本人の戦い方に合っていないと言った方が正しいだろう。

 彼の本質は、カケルに突っ込んできて勝負を始めたことから分かるように、攻めなのだ。落ち着いて冷静に相手を見て対処し、カウンターを食らわせるような守りには向いていなかった。


 両者と戦ったカケルにはそれがよく分かる。


「アオイはもっとノビノビ戦う方が合ってる気がするけど」

「いーのっ、俺は頭の戦い方がカッコよくて好きなのっ」


 自分の好きな戦い方で遊ぶか、勝てる戦い方で遊ぶか。それは人それぞれ。

 とりあえずアオイがこの大会中に戦術を変えることは無いだろう。それが分かったからこそ、カケルは勝ちに行く。アオイの弱点を突く。


 受けに回ったアオイの間合いに入らないよう少し離れ、ターコを見やすいように大きく動かし始めた。


「右からー、左からー」

「うっ、うっ、来るなら早く来いよーっ」


 アオイの弱点。それは待ちきれず、フェイントにすら反応して大きくターコを動かしてしまう点だ。


 カケルは徐々に間合いを詰めつつ仕掛けるタイミングを計る。

 1.2.3.1.2.3……同じタイミングで動かしていたターコを突然不規則な動きに変え、1つ2つとフェイントを入れながら突っ込んだ。


 防御に慣れてないと判断しての一撃。確かに先ほどの焦らしやフェイントでの慌てぶりを見れば、そう思って当然だろう。

 しかし、アオイは野性的な勘が鋭いのか、カケルの攻撃方向とタイミングをバッチリ読み当ててみせたのだ。


「こっちだっ」

「げげっ、読まれたか」

「へっへーん、いちの子分をなめるなよなっ。そしてこれでえぇぇーー」


 そして避けてからカウンター。

 そうダイゴロウは防いだあとにカウンターを放つ。だが彼は闇雲に反撃はしない。相手が何をしてくるか、相手に隙があるか、相手の虚をつけるか。それらを考えて反撃するのだ。

 しかし、アオイはカケルが体勢を立て直せる状況にも関わらず突っ込んでしまう。


「あまーいっ」

「ええぇっ」


 だからこそカウンターの一撃を避けられ、逆に背後に回られ糸を切られてしまったのだ。


 これにて勝負あり。やはりまだまだダイゴロウの域には達していないが、途中で見せた野性の勘など成長する余地は多分にあるだろう。


「くっそー。頭のかたきうちがー」


 ただ今は負けたことを悔しがることしかできない。

 アオイは地面に下ろしたターコを両手で抱え、少しばかり潤んだ瞳でカケルを睨みつける。


「いくら俺に勝っても、頭には勝てないんだからなっ」

「いーや、今度こそ俺が絶対に勝つ」

「ふんっ、頭がお前に勝つのは絶対だけど、俺に勝ったんだから予選ぐらいは突破してみせろよな」

「おっ、応援してくれるのか。ありがとー、頑張るぜっ」

「ばーかばーか、決勝トーナメントで負けた方が面白いからだぞ」


 声援としか取れない言葉にカケルはちょっとだけ驚いたが、アオイはフィールドから出るために遠ざかりながらも「ばーかばーか」と言い続けているのだった。


 試合開始から既に40分が過ぎ、終了時間まであと20分。予選を抜けるには最後の4人になるか、終了時点で倒した人数の多い上位4人。ただ、誰が何人倒したのか分からない以上、少しでも多く倒しておきたいところである。


 あともう少し、カケルはアオイの声を受けて気合を入れ直すのだった。






「カモみ~っけ。ケヒっ」






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