08話 いざ大会会場
大会のエントリーを済ませたカケルは、そこで一緒にエントリーを済ませたリョウマが新たなターコを完成させたことを知る。
カケルはそのことでコルトーXXの操作を覚えるのにも再度気合を入れ、フタバに応援されながら研究室で特訓を繰り返していた。
そして大会当日。
「カケル、忘れ物はないか?」
「えっとコルトーXXは博士のところにあるから大丈夫。うん、問題なしっ」
「ざんねん、これハンカチね」
ターコ本体は入っていないが、糸やらパーツの入ったリュックを背負って出ようとしたカケル。しかし、ミソラに引き止められてハンカチを手渡され、それをポケットに詰め込み家を出た。
大会会場は車で1時間ちょっとかかる場所にあり、3人が乗り込んだロボカーはあらかじめ登録しておいた場所を目指して走り出す。
ただしそれは大会会場ではなく、一先ずハジメ博士の家で彼らと落ち合う予定なのだった。
「はっかせー、早く行こーぜー」
「ちょっとカケル、呼び鈴は鳴らさなきゃでしょ」
いつも通り勝手に扉を開けて入るカケルを注意するミソラだったが、彼女も呼び鈴を鳴らすだけ鳴らして、返事を待つことなく中に入っていく。
親戚みたいに家族ぐるみで仲がいいのだろう。常識を持つノボルは待つべきか迷ってるみたいだったが。
そんな侵入者を出迎えるべくフタバが現れる。
彼女のお出かけ用の服装や玄関先に置かれた荷物など、もう出かける準備は整っているようだ。
「カケル、朝からうるさい。あ、おじ様おば様、おはようございます」
「おはよーフタバちゃん」
「今日はよろしくね」
いつもより入念に櫛で溶かされた髪など、人の多いところに行く準備が整っている娘に対して、彼女の後からやって来たハジメ博士はいつも通りの白衣姿。
違いがあるとすれば、無精ヒゲを剃っていることくらいだろう。それも娘からキツク言われたからで、言われなければそのままだったかもしれない。
「どうもどうも、今日はよろしくお願いします。それじゃあさっそく向かいましょうか? カケルくんはトイレ大丈夫かな?」
「家出る前に済ませたからだいじょーぶ。それよりコルトーXXは?」
「もう車に積んであるよ。触るのはあっちに着いてからだね」
受付の時間もあるので、家で一休みすることなく会場へと向かうことにした。
重い荷物はすでに車の中に積んであり、あとはフタバの手荷物くらい。それを持って戸締まりを確認しガレージに回れば、中型の角ばった長方形のようなロボカーが止まっていた。
乗り込み口も大きく高さも幅もあり、いろいろと機材を運びやすい中型車だ。
窓から車内を見つめていたカケルは、瞳を輝かせながら車を指差す。
「俺、こっちに乗りたいっ」
今は触れられなくても、今日一緒に戦う相棒と同じ車がいいのだろう。
せっかく休日の家族でのお出かけ。カケルと一緒に仲良く遊びたいミソラだったが、この場にはもう1人遊びたい相手がいる。
「ならフタバちゃんはこっちね」
「えっ、あ、はい」
後ろから両肩を抱かれ確保される。
そんな突然の勧誘に戸惑いながら、フタバは大空家の車へと連れていかれるのだった。
長く緩やかなカーブや延々と続く直線道路。自動車だけでなく、バイクや自転車などで走っても気持ちいいと思わせるような草原の中を通る道。
この地平線まで続いている大草原の中で今回の大会は開かれるのだ。
ロボカーは駐車場の空いてるスペースに自動で駐車し、カケルが車から降りて胸いっぱいに空気を吸い込めば、草原を突き抜けた風が草木の匂いを運んでくる。
「おー、いい風だ」
「今日は天気もいいし、絶好のターコイズファイト日和だね」
青い空、白い雲、緑の草原。
その中に同じ目的で集まった人々の熱気と喧騒。カケルの気持ちが昂らないはずもなかった。
「よーし博士っ、早速エントリーしに行こうっ」
事前に聞いていたダンボールを開けると、くしゃくしゃに丸められた新聞紙に包まれたコルトーXXが現れる。もともと新しくて綺麗だったが、コーティング塗料を塗り直したのか、練習で使っていた時よりもさらに綺麗になっていた。
カケルはダンボールから取り出したコルトーXXを抱きかかえて撫でまわす。
「うおおぉぉーー、ピッカピカーーーー」
「ちょっとカケル、急がなくてもいいの? そういうことは受付が終わってからでもいいんじゃない?」
フタバから注意されてようやく自分のリュックに移し、立て看板で案内されている受付の方へと移動を開始する。
道中辺りを見回せば人出は多く、カケルのような家族連れから大人たちの集まりだったりと様々。女性陣は予想以上の規模に驚きながら、あちらこちらと目移りしているようだ。
「初めて会場に来たけど、屋台とか出ててお祭りみたい」
「本当、今まで来た中じゃ今回が一番大きな大会ねー」
そしてエントリーの受付。小学生の部の締め切りは10時30分まででまだ余裕があり、今並んでいるのは数人。それほど時間もかからずにカケルの番がやってくる。
「よろしくお願いしますっ」
「はい、えっと大空カケル君……はい、確かに。それじゃあこのシールを、数字が見やすいよう胸の辺りとかに付けてくれるかな」
「はーい」
「それとこのあと10時45分頃から、中央広場で開会式が始まります。君が出る試合は、11時から第2会場で予選が始まるんだけど、試合で使うターコを係の人に見せてほしいから早めに会場に行ってね」
受付のお姉さんはカケルに話しかけた後、後ろにいる両親に視線を向け、彼らが頷いたのを確認すると再びカケルに視線を戻す。
「はい、細かなことはこれに書かれてあるから。試合、がんばってね」
「お姉さんありがとー。俺、がんばって優勝するよっ」
受付のお姉さんと別れに告げた一行はこれからどうするか、ということを話し合う。
それというのも今は10時を回ったところ。開会式まで時間があるので、とりあえず会場の下見やトイレの場所、屋台を見て回ろうかとしたのだが、まずはどこから見たいかということだ。
しかしその矢先誰かに声をかけられ、カケルがそちらを振り向けば、そこにはレンが彼の両親と一緒にいたのである。
「おぉ、レンじゃんどうした? あっ、分かった。お前も大会に参加するんだろ」
「ううん、違うよ。カケル君が『応援しに来て』って言ってたでしょ」
「えっマジでっ。おおぉぉーー、レンお前いいヤツっ」
自分の応援に来てくれたということを聞き、カケルは感激の余り両手を掴んで上下に振っている。
ただ、子供のカケルは何も思わなかったが、朝早くから自分の子供が出ない大会に1時間も離れた場所に来ているのだ。ノボルはレンの両親に話しかけて謝っていた。
「うちの息子が何か言ったみたいですみません。せっかくのお休みだったでしょう」
「いえいえ、たまの家族サービスですよ。それに、息子がターコイズファイトに興味をもってくれただけで、僕としても嬉しい限りです」
大人たちは笑い合い、同じく子供たちも楽しそうに話しながら合流したのだった。
その後は第2会場を見てから、焼きトウモロコシやカキ氷や焼きそばなど屋台を見て回り、トイレを済ませて中央広場で開会式が始まるのを待った。
中央にある白いステージには、ライト機材や大型の映像装置などがあり、風雨を凌げる屋根や壁もある。音楽ライブとしても使われるようなステージだ。
カケルたちが今いるのは、決勝進出者が戦う中央会場。そこをちょっと離れた場所から一望できるような観客席はあるが、そこに座るとステージを見るには身体を横に向けなければ見にくいだろう。
観客席はあくまでも草原会場を見る用で、ステージで何かをする場合は会場から見る。そんな作りだった。
そこで開かれる開会式。今まで各会場を下見したり屋台を見回っていた人たちも集まりだし、肩が触れるほどのギュウギュウ詰めではないが、それでもかなりの人数が集まっている。
「あれって飛天君かな?」
そんな中で目敏くレンが見たのは、少し離れたところで父親と話しているリョウマの姿だ。
それを聞いて姿を確認するや否や、カケルは人込みを縫うようにして走り出す。
「リョウマっ、今日こそ俺が勝つからなっ」
「うわっ、となんだカケルか。急に近くで、しかも大声で話しかけるなよな」
「いや、だって周りに人多くて聞こえないかもじゃん」
「人が多いから余計に大声出すのはダメでしょうが」
至極真っ当な叱りをフタバにされ、今度はきちんと声を抑えて話しかける。
「俺は第2会場って言われたけど、リョウマは予選どこだった?」
「あー、それじゃあ別れたな。俺は第1会場って言われた」
小学生の部は2つの会場に別れていて、決勝トーナメントでも同じ会場が同グループになるので、2人が戦うには決勝まで勝ち上がらなければならない。
しかし、カケルは最初から優勝が目的なのだ。なので特に気にした様子もなく不適に笑う。
「負けるなよ」
「へんっ、そっちこそ」
そうこうしている間に開会式が始まり、ステージに立った女性が進行していく。
スーツ姿の男性たちが代わる代わる真面目な挨拶。大人たちは一応真面目に聞いて拍手もするが、子供たちはたこ焼きを食べたりと騒いではいないが、話しを聞くこともなく式は進む。
それが一変したのはとある人物が登場してからだ。
『やあみんなっ、今日は絶好のターコイズファイト日和っ。元気に正々堂々と、怪我なく全力で戦おうっ』
「おおおおぉぉぉぉーーーー」
肘あてやレガースなどに身を包んだ男性。ゴーグルのようなもので目の部分は覆われ、ヘッドフォンのような耳当てにそこから伸びたマイク。
素顔も分からず、黒い短髪と中肉中背の男性ということ位しか分からない。
しかしそれが誰かはみんなが知っている。
「うおおぉぉーー、タコさんアナだあああぁぁぁーーーー」
「……誰?」
「えっと、さあ?」
正確にはターコイズファイトを詳しく知っている面々に限られる。
フタバとレンは互いに小首を傾げた。フタバは父親関連で大まかなルールなどは知っていても、実際に試合を見たり情報などは集めていないのだ。
対してカケルとリョウマやハジメ博士、レンの父親は熱狂的に声を上げていた。
「なんか試合中に実況してる人だよね」
「あぁ、実況アナウンサーか」
何度かカケルと一緒に試合映像を見たことのあるミソラは、あの姿と声に覚えがあった。
そう、彼こそここらのターコイズファイト界隈で有名な実況アナウンサー『タコさんアナ』である。ただし素性は公表されておらず、どこかのテレビ局のアナウンサーとの噂もあるが、それも定かではない。
「でもなんでタコさん?」
「それはほら、タコさんの背後で何か揺れてるでしょ」
フタバの疑問に答えたのはハジメ博士。彼が大型スクリーンに映っていない実物を指させば、確かにタコさんアナの背後に筒状のものが、彼の動きに合わせて左右に揺れている。
ただ、それを遠くから見てもあまり太さもなく、長い髪の毛をいくつかに分けて縛ってるようにしかみえなかった。
しかし、当然ながらそうではない。
「あのゴーグルにはパソコンみたいにいろんな情報が映し出されるんだけど、そのためのバッテリーや容量だったり、放熱だったりネットアンテナだったりするのがあのコード。それが合計8本あってタコの足みたいに見えるから、そう名乗ってるみたいだよ」
あのゴーグルには、実況する時に選手やターコ、天気の情報などを映しているそうだ。
その解説に彼のことを知っているはずのカケルも一緒に「へぇー」と頷いている。
『それじゃあみんなっ、今日はこの大会を一緒に盛り上げていこうっ!』
「おおおぉぉぉぉーーーー」
『ターコイズファイトォォーーレディィィーーーー』
「ゴオオォォォーーーーー」
拳を上げて煽るタコさんアナにノリのいい観客も拳を掲げて雄叫びを上げ、空気の振動は身体に伝わり心に伝わる。
こうして大会の幕は切って落とされたのであった。




