狼少女の嫉妬。
次の日、特に俺は昨日の俺の内心を吐露したことによる気まずさなどは覚えず、学校の教室で沙由菜と再会した。
「おはよー。あんたのせいでなんか一睡もできなかった」
と沙由菜は少し不機嫌そうに俺に伝えてくる。そういわれても、寝れなかったこと自体は俺のせいでもなんでもないだろうに。
「悪かったな。残念ながら俺は沙由菜が帰った瞬間爆睡してたぞ」
二人でそんな話をしてると、馬鹿面を引っ提げてあゆみと翠がこっちにやってきて、翠がおずおずと声をかけてくる。
「壮馬、聞いたよ。あゆみから……」
昨日も一応話はしたが、普段から絡みは濃い筈なのにこの佐々木翠は昨日に限っては影が薄かった。
にしても、何を聞いたんだろう。
「昨日、夜明坂さんの声が部屋から響いてきた、そしてどたんばたんしてたって。一睡もできなかったてまさか……」
「ちょ、まさかじゃないわよ!!」
と沙由菜が思いっきり突っ込みを入れる。
「昨日遊びに行った帰りに飯食いそびれそうになったから二人で俺んちで飯食ってたんだよ、それだけだ」
「おいおい、高峰。あんな夜遅くまでどたばたしてたってそりゃ、ほら。やることやっぷぎゃ」
発言の途中で沙由菜は思い切り、あゆみのみぞおちあたりに正拳突きをくらわしていた。その瞬間、あゆみはその場に身もだえながら崩れ落ちる。
「明坂さん、ぼ、暴力反対……」
「盗み聞きした上に勝手に変な妄想するなんて最低よ。正当な報いよ」
沙由菜はふんっと言いながら俺の隣の自分の席へと座った。
沙由菜は俺には甘いが、俺意外の特にあゆみのような変質者ばかには厳しい。いつもあいつは女の敵よ、とさげすんだような目で見る。
あゆみはそれはそれで一興とかいいながらその視線をおかずにごはん3杯はいけるとかいうどエムっぷりだ。
「そもそも、沙由菜の声が出かかったんじゃないか?」
と俺は沙由菜の声量の大きさが原因なのではと提案してみる。その間に翠が誰かに気付いたかのように、あゆみを放置しながら教室の出入り口の方へ向かっていく。
「仮に私の声がデカかったとしても、エッチな妄想するやつが悪いのよ」
「まぁ、それは否めない」
「高峰、もうちょっと擁護してくれても……」
とあゆみがよろよろと立ち上がってきたころに、再び翠が戻ってくる。
「壮馬、あの、あの女の子から呼び出してほしいって言われたんだけど」
と翠の声に敏感に反応する奴が二人。俺じゃない。
俺と翠以外のふたり、つまり沙由菜とあゆみだ。
「「こ、告白?!」」
と先ほどまで争っていた二人が息クール、じゃなくて、息ぴったりに声をそろえて俺の方を見る。
告白とは限らないんだが……。まぁ、そうだとしても相変わらず断るだけだ。
俺は翠に促されるがまま、訪問者の元へ向かう。
その女生徒は俺見るや、みるみる顔を赤らめていく。あぁ、これはあれだ。告白だ。
先に断ってしまおう……。
「あの、さ」
廊下に出た瞬間にそうやって声を掛けようとする。しかし、
「あの、高峰先輩、ほ、放課後。中庭の木の下で待ってます。お願いします、来てください」
と、俺が断る前に圧倒的な速さで用件だけ伝えて、その女生徒は風のように去りぬ。
「え?」
あっけにとられながら、どちらにせよ告白されるのは明白なので放課後にはその子のもとに訪れてあげようと決意する。
その様子をしり目に、さらに二人の女が俺の方を見てくる。
「今日もおモテになってうらやましい限りだねぇ」
ギャル。
特に説明はしない。
「ずずず、ほんとにね。今日もこんな冴えない顔した高峰氏にずいぶんかわいい子が告白しようとしたもんだ」
BBA。いや、なんで学校にきて湯のみでお茶を啜りながら廊下を歩いているんだ、こいつ。
おそらく、昨日は全く会話すらしていなかったが、こいつが件の努力しない完ぺき超人の小日向美里だ。
身長は俺と同じくらいで女子にしてはそこそこ高い。上に、黒髪ポニーテールというステレオタイプな運動もできる筋肉ガールだ。
だが、努力しない。
二人は俺に入り口をふさぐなと言わんばかりに、ちょいちょいと俺を押し、教室に入る。
そういえば、俺も佐藤に用があるんだ。
「そうだ、佐藤。放課後にちょっと話しないか?」
「え、高峰っちが、私に何の用? え、まさか告白? ごめんなさい、間に合ってます」
「ちゃうわい、誰がお前みたいな脳内エロエロ大魔王に告白するか!!」
「失礼しちゃうわ。別に話すのは構わないけど、彼氏に二人で話してるって知られたらまずいし、美里も一緒でいい? それと、ちゃんと告白は聞いてあげるんだよ?」
と佐藤は余計なおせっかいと小日向がハッピーセットのおまけについてくるというが、たぶん小日向がいても特に問題はないだろうし、俺はうなずく。
それを見た佐藤は、
「じゃあ、教室で待ってるから、ちゃんと告白の返事してから来るんだよー?」
といい、お茶を啜りながら金魚の糞のようについていく小日向と共に自分の席へと向かっていった。
俺も自分の席に着く。
「あの子は1年の古賀さん、軽音部だ。なんたってバストが大きい。顔も小動物系で可愛い、1年の間だけでなくかなり人気の高い優良物件だ」
俺は一限の数学の教科書をカバンから取り出す。こんな朝から田中の授業とはみんな緊張感を持っている。
そういえば、昨日の補習の復習ちゃんとできなかったな。いや、まぁ、やはり田中の授業が分かりやすかったおかげでしっかりと覚えている。ほら、あれだ三角関数だ。
サインコサインタンジェントだ。大丈夫大丈夫。
「あの初心そうな白い柔肌も捨てがたい。きっとまだ男の味も知らず、幼さの残る肢体を舐めるとミルクみたいな味がするんだr、ひでぶ?!」
「沙由菜、俺はこいつのことを無視してんだが……」
「さすがにキモくて無視できなかったわ……」
と、あゆみは本日二度目の正拳突きをくらわされ、再び撃沈する。
それとほぼ同時に朝のホームルームが始まるチャイムが鳴り響く。
「あの子可愛いじゃん、あの子で忘れてみたら?」
と沙由菜はそうボソッと、いじけたような顔で俺につぶやいてくる。
「あの子のことは何も知らないからな、さすがにいきなり付き合うとかは無理だ」
「友達からなってみればいいじゃん。そういうの大事」
正直、なんとなく沙由菜の好意的なのがどちらの意味でそうなのか俺には推し量りかねてるから、いや、昨日の一件でなんとなく恋愛的な好意を抱いてくれているのかもしれないと思ってしまったから何とも答えに困る。
「沙由菜はそれでいいと思ってるのか?」
「私は……。別に、あんたが誰と付き合っても……、ちょっと嫌だけど。それを私が止める権利はないの」
と沙由菜はそれだけ言うと、そっぽを向いてそれ以上は何も話してくれなかった。




