文学少女は見た。
時は瞬く間に経ち、放課後。
俺は件の女子に告白されお断りをするために、中庭にある木の下に向かっていた。
「それにしても、お前が誰に告白されても断ってるって話も浸透しててもおかしくない気がするんだがなぁ」
俺は一人で歩いている。誰だこのいきなり話しかけてくるバカは。
「あのな、いくらなんでも中庭までついてくる気じゃないだろうなぁ?」
「さすがにそこまではしないさ。でも、俺はワトソン。探偵の隣には常に一緒にいようと思ってるぜ」
「そもそも、俺が探偵じゃない」
一体どこのミステリーかぶれなのか、そもそも事件なんて起きていないし、俺が事件を解決する名探偵なわけがない。あゆみはまったくわけのわからないことをいう。
まぁ、でもそんなものの回答は特に推理する必要もない。
「例の告白ブームていうので、みんな舞い上がってるだけじゃないのか?」
「でも、告白ブームは告白すれば必ずといっていいほど成就するっていう話がバブル時代みたいに期待感が膨らんでるだけって話だしなぁ。断り続けるやつに対して突撃するブームではないんだ」
そもそも、その告白ブームとやらの存在自体、俺には謎めいている。もし、今の状況が実際に小説の一幕なのだとしたら一体どんな意図があって挿入され、どういう舞台装置として働くのか予想もつかない。
もはや、設定として入れてみたはいいけど、うまく使えずかつ、使うことなく一瞬だけ出てきて伏線かと思いきや何もないほんとの世間話だったという謎の展開もある。
「そもそもそんなブームはいつ生まれていつ終わるんだ? もはや、よくある恋の伝説的な何かにしか聞こえないが」
俺がそういうとあゆみはうーんとうなりはじめる。
「俺がよく知ってるやつが事の発端なんだが、具体的にいつからとは言えないなぁ」
「よく知ってるな。それで、その事の発端ってやつは有名人なのか? 発端になるってことは噂になるからってことだよな?」
「ご明察。この学校の有名人が有名人相手に告白したんだ、それは話題にならないわけないだろ?」
あゆみはもったいぶるようにそういう。ってことは俺も知ってるくらい有名なんだろうか。別に興味があるってほどでもないが、この学校にバブル経済のごとくバブル恋愛を構築させたカリスマ性を持ったやつがいるのは少し興味深いかもしれない。
「で、それは誰なんだ?」
「お前だよ、お前」
「は?」
聞き間違いか、お前だよって聞こえた。
「お前、3年の三倉先輩から去年の夏くらいに告白されただろ? モデル事務所に所属するほどの学校一の美女。あの人ですら告白して振られたんだから、勇気出して告白してみようって人々が増えたんだよな」
「あー、そんなこともあった気もしてきた……」
そんな恥ずかしいブームの火付け役を自分が担ってしまっていたなんて恥ずかしすぎる……。
「いつ終わるかはもちろんわかるわけないわな」
「だいたいそういうのって事の発端になったやつが逆に告白する立場になって成功すれば終わる的な流れになりそうだな」
「ははは、あるかもな。フラグ建てたなー? 高峰はいったい誰に告白することになるのか、傍観者として見ておくことにするぜ」
とあゆみが言うと、中庭に出るための玄関の前にたどり着いていた。俺から告白する……。現状ではそんなことが起きるんだろうかね。
そんなもやっとした気持ちを開放するかの如く、玄関の扉を開く。
少なくとも、やはり小春のことをきっちり未練なく消し去れないと俺はきっと前に進めないだろう。
中庭にある大きな木の方に歩いていくと、先ほどの子が立っているのが見えた。
確かに、これだけの雰囲気があれば告白スポットとして成立するのがよくわかる。移動教室なんかでは時たま使うことはあるが、放課後に中庭に用事があってくる奴は決して多くないし。
「すまん、待ったか?」
と俺がそこに立つ少女、名前は何だったか。古賀だかなんとかって子は少し顔を赤らめながら、少し慌てる姿が見える。
「い、いえ、今来たところです。それで話なんですが……」
俺は黙って、その先を話すのを待つ。一呼吸、二呼吸のち、少女は口を開く。
「あの、高峰先輩。私、ずっと、その、あこがれてました。中学生のときからずっと。だから、その好きです! 付き合ってください……」
読みどおり、少女は告白の言葉を俺にぶつけてくる。
よく頑張ったな。えらい。だけど、本当に申し訳ない。
「ありがとう。噂とかでも聞いてるかもしれないけど、俺は今誰かと付き合うとか考えられないんだ。本当に申し訳ない」
「そう、ですよね……」
俺が断りの返事をすると、少女はうっすらと涙を浮かべながら、でも満足そうな顔をしているのがわかる。
さっきは言わせないで断ろうとしたが、言うことで気持ちを言葉にすることが大事なときもあるのかもしれない。
彼女の告白からはそんな何か俺の心境すら変えてしまう可能性すら感じてしまう。
俺も一人でもやもやしていたが、沙由菜に言うことで、気持ちを言葉にして表現することで沙由菜から喝を入れられたのもそうだし、何よりも何かすっきりした気持ちになれた。
少女は漏れ出てきてしまう涙をぬぐい、
「お話しを聞いていただいてありがとうございます。もし、機会があったら、軽音部に顔出してみてください。教えてほしいことたくさんあるんです」
少女はそういう。
「はは、結構君もしたたかだな。もう、たぶん歌うことはないけど、何か俺が話せることがあったら、ぜひ協力するよ」
俺の言葉に耳を傾け、少女はお辞儀をして、部室等にも近道になる俺が来た方向と逆方向に走り、その場を後にする。
さて、一仕事というと失礼だが、終えたし佐藤と話すために教室へ戻ることにしよう。
俺は踵を返して、中庭の入り口へ向かおうとする。
と、中庭にある木のすぐ近くにあるベンチの背もたれに隠れる人影が目にはいる。
まさか、あゆみなり誰かが盗み聞きしてたのか?
「おい、盗み聞きなんて趣味悪いぞ、あゆ……。って?」
だが、俺が予想した人物とはまったく異なる人物がそこにいた。
「雪野、冬菜?」
昨日、俺が初めて認識した同学年の少女。相変わらず前髪で顔が隠れて表情が見えない。
「あ、ひゃい、すいません、盗み聞きするつもりはなかったんです……」
結構に素っ頓狂な声を上げる雪野冬菜だ。
「それはわかったけど、どうしたんだ? こんなところで」
中庭は確かに移動するには便利な時があるが、放課後に好き好んでこの道を通る理由はない。移動教室で近道のために使うくらいだ。
「あの、中庭のベンチでゆっくり本を読もうとしたら、あなたが見えたので、昨日のお礼をしようとしたんですけど……」
「なるほど、気付いたら告白の場面に遭遇しちまったってわけか」
と聞くと、雪野冬菜は結構な勢いで頷く。
「俺自身は別に聞かれても問題はないんだけど」
「は、はい。大丈夫です、見なかったことにします」
どうしたものか、何を話していいかわからない。いや、聞きたいことは山ほどあるんだ。
昨日のあれはなんだったのか、大丈夫だったか、とかいろいろ。
だが、そこまで親しい間柄でもないのにいきなりそんなことを聞くのも失礼な気がする。心配ではあるのだが。
とりあえず、いったん、佐藤から何か話を聞いてからまた後で探して話しかけてみるくらいでちょうどいいのかもしれない。
「じゃあ、俺用事あるから、ここで。体、気を付けろよ?」
と俺がそういって、校舎内に戻ろうとすると、
「あの、待ってください。さっきも言いましたけど、昨日のお礼がしたいんです」
雪野冬菜がそういい、思った以上に大きい声を上げるのに驚いて足が止まってしまう。
「今日でも明日でも、他の日でもいいんです。助けてもらったお礼がしたくて……」
なんだろう、あゆみに言わせると何かフラグを立ててしまったのかもしれない。
「えっと、この後教室に戻って話そうって言ってるやつがいるんだ。そのあとなら今日でも暇だし、明日でもそのほかの日でもいつでも空けられるぞ。部活入ってないし」
「わかりました、じゃあ、今日時間をもらってもいいですか? 私、3組なので、教室で待ってます」
ちなみに俺らは1組だ。隣の隣。体育とかでも一緒になってないから知らないわけだ。
「わかった。じゃあ、少し待っててくれ」




