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誰のためでもないラブソング  作者: 満点花丸
第二幕:狼少女との一日
13/43

そして、告白。

 まずはどこから話したものかと俺は少し自分の中で頭を整理する。

 沙由菜が転校していったその年、俺はある異変に気付いた。いや、もともとそうだったのかもしれない。

 俺の両親の関係はすでに冷え切っていた。お互いがお互いにすれ違うことが多く、海外出張などが増えて家にいる時間もかなり少なくなった。それが原因か、俺にも少しつらく当たられることもあった。

 中学へ上がったころには両親が離婚し、形式上は母親が親権を得た。しかし、どうにも母親は自分の子供にすら愛情がわかなくなったらしい。ある意味では育児放棄のような状態が続いた。

 そして、俺もそのことを意識するようになってからは、愛されている自覚なんてまったく失ってしまったのだ。

 そんな時に俺自身も少し荒れる様になって、くだらない悪さをしてたときに出会ったのが、あの子だった。

 あまり重すぎないように言ううえではこう伝えるのが正しいだろう。

「沙由菜が転校した後、両親が離婚したんだ。で、色々あって少し荒れてた時期があった。といっても、不良になって喧嘩に明け暮れたとかではなくて、くだらない悪さをするだけのどうしようもないやつだった」

 沙由菜は俺のその言葉に少し固唾をのんで、少し張り詰めた空気が漂う。

「この辺は俺はもう、大丈夫だからそんなに肩ひじ張らずに聞いてほしいんだが……。まぁ、いいか。それで、両親の離婚がきっかけで愛されるって何なのかがまったくわからなくなって、両親に捨てられたと思うようになった。誰にも愛されてない、受け入れてくれない、そんな拗れた孤独を抱えてた」

 そう、そしてあの子に出会うのだ。

「そんな折にあるきっかけがあって、中学に上がってから真の意味で初恋の人に出会ったんだ」

 沙由菜には悪いが、沙由菜への好意はおそらく子供同士の昆虫好き、ゲーム好き、沙由菜すきみたいな感じだったのは間違いない。

「その子の名前は明石小春。たぶん、俺らとは別の小学校から上がってきてるから、沙由菜は知らんと思うが」

「うん。さすがに別の校区からくる子まではわからないかな」

 沙由菜は相槌を打つようにそういう。

 小春に出会い、そして、恋に落ちる。いや、俺にとっては誰かに愛を求めるあまり無駄なことをしていた。彼女に出会って知ったことは、探していた愛は彼女そのものであったということだ。

 少しむず痒い気もするがこれも沙由菜に言う。

「小春は、いや、小春と小春の父親だけがくだらない悪さをする俺のことを本気で怒ってくれて、俺はそこで自分の今までの過ちを反省することになった。それと同時に、俺のことを受け入れてくれる小春のことを好きだと思ったんだ」

 沙由菜の反応を見ると、少し涙が出そうになっているというか、悔しそうな顔をしているのがわかる。

 どうしてそんな感情を示すのか、本人から聞いてみないと答えはないだろう。確かに色々な事があった。

 そして、この小春との出会いが俺の人生を大きく変えることになった。

「ある日、それでもまだ完全には孤独と向き合えていなかった俺は、中学の屋上でそのときよく聞いていたラブソングを口ずさんでたんだ。そのとき、俺を探してた小春に偶然聞かれて、小春は俺の歌声を本当に心の底からほめてくれた」

 俺はあの時の言葉を思い出す。小春は俺の歌声を深い深い海に沈んでいくような悲しいけど、でも引き込まれる。それか、雨。その一粒一粒が透明できれいなのに、心にそれが降り注いでくるとなぜか切なくなる、そんな感じで心が揺さぶれるみたいだと。よくわからないがほめてくれているのはわかった。

 文学的表現過ぎて俺にはそのときはちっとも理解できなかったが、そこからあいつらと引き合わされることになったのだ。

「なるほど、その小春ちゃんがあんたの才能を掘り当てたってわけね」

「まぁ。そのとき、小春の幼馴染の大五郎を紹介してもらって、そこから俺はバンドをやることになった。そのあとの話は大体お前もなんとなくは知ってると思う」

「ダイゴの本名って大五郎っていうんだね」

 突っ込むところはそこなのか。まぁ、いいだろう。

「うん、それで? バンドを組んだ経緯はわかったけど。なんで、やめちゃったの? かなり突然だったじゃん」

 普通の人にとってはそうだったのかもしれない。でも、俺にとっては違ったんだ。

 俺がそのバンドをやめた経緯は簡単だ。

「小春と小春の父親は母親に相手をされていないのを知って、家にほぼ居候の状態でおいてくれたんだ。一緒に生活していく中で、お互いがお互いを好きでいたんだ。両想いだった、そこに何も疑いようはなかった。次の大きなライブが成功したら、小春に付き合おうって言うことにしてた。そして、誰もが成功だと言ってくれたからこそ、俺は。僕は小春に付き合ってほしいっていった」

「それで?」

「付き合えないって。私じゃ俺を幸せに出来ないって言われて、俺はまた暗闇と孤独を感じた。なんでって。俺が小春を思う気持ちも、小春が俺を受け入れてくれたことも間違いないのに、なんでそんな結論がでるんだ。って、俺にはまったく理解できなかった。それから、そのときに書いてた曲を彼女にささげようと思っていたのに。途方に暮れた俺は完全にその曲を書き直して、レコーディングして、それを発売する記念にライブをやって、解散宣言をした」

 沙由菜はなんともなんだこいつ、みたいな顔をしてる。

「え、じゃあなに、確かにあんたにとってはめちゃくちゃ大切でもはや恩人みたいな人に捨てられたからってやめちゃったの?! 馬鹿なの?!」

「え……」

 沙由菜の最終的な反応にあっけに取られる。確かに、何度か涙をぬぐう場面を俺は見逃していなかったのだが。最後の言葉を言った途端に沙由菜はとてつもない勢いで立ち上がり、食い気味に俺を否定する。

 いや、今となっては過去の忘れられない思い出だから、そこまで気にならないけど、当時の俺に聞かせたらたぶんもう永遠に口きかないとか言ってたレベルだぞ。

「はぁ、いや。あんたがこっちの学校に来たって聞いて会いに行ったとき、あんたが死にもっとも近いですーって顔してたから絶対に聞いちゃダメなんだなって思ってたけど、失恋でそんなになってたの?!」

「な、なんだよ、悪いかよ……」

「いや、もちろん悪かないわよ。失恋だってすごくつらいよ。でも、それとこれとは別。せっかく、小春ちゃんが作ってくれたあんたの居場所とか、あんたたちを好きでファンだった人たちもいたんだよ? なのに勝手に落ち込んで孤独を感じて、とかバカみたい。少なくとも、私はあんたたちの曲好きだったもん。あのそーまが心に響く歌詞を書いて、その言葉一つ一つがスーって入ってくるようなきれいな声で、本当に私勇気づけられたんだから……」

「沙由菜……。お、お前すげーこというな。それ、俺じゃない俺みたいなやつにいったら、きっとものすごい勢いで傷つくぞ……」

 それを言うと、沙由菜の目が少しずつ水気を帯び、うるんでいく。結果的に、沙由菜は耐え切れず、涙を落とし始める。

「うっさいばかぁ。だって、本当に心配してたんだから……」

 と沙由菜は堪えきれなかった涙をぬぐい、一度深呼吸する。

「で、なに? あんたがカラオケで歌わないのって、もしかしてその子のことがまだ忘れられないの?」

 沙由菜は鼻をすすりながら俺が最後に言おうとしていた、まだ少し残っている彼女への未練をずばり言い当ててしまう。

 そう、ほめてくれた俺の、自身の歌声を聴くだけで、小春との思い出がよみがえってしまって、どうにも感情に不調を覚えてしまう、だから、歌わない、それだけだ。

「はぁ……。なにそれ、私勝ち目ないじゃん。んで、私にそのことを知って欲しいから教えてくれたんだよね?」

「あぁ、そうだ。沙由菜に知っておいてほしいって思った。でも、俺はもう愛がどうとかなんて、気にしてないんだ。あいつらもいたし、沙由菜もあゆみも翠もいてくれたからな。結局、些細だった。それはわかったんだが、小春がなんで俺を幸せに出来ないといって断られたかわからない、その時の小春の感情を知りたいんだ。それが悩みの一つだ」

 沙由菜は本当に馬鹿だなぁこいつと言いたげな目をしてる。確かに、それを知ったからって別に小春のこと忘れられるわけではない気がする。しかし、それを知ることで一歩前に出られる気がするんだ。

 俺は何も言わずに、察してくれとばかりに視線を送る。

「……そんなの私に解決できるわけないじゃん。気の利いた事をいってあげたいけど、その小春ちゃんもよくわからないし。そもそも、それを知ったところでどうなるのって話だよ、それ」

「まぁ、だよなぁ。とにかく、俺はもはや未練がましくいても仕方がないし、一歩前に進みたいんだ」

 相変わらず沙由菜は馬鹿でも見ているかのような目で、ってなんか沙由菜ひどくない?!

「それなら手っ取り早い方法教えてあげるわ」

「な、なんだよ……」

 俺はひとまず長話で乾いたのどを潤すために、お茶を口に含む。

「女の未練は新しい女と付き合えば忘れられるわ」

 その言葉に俺は茶を吹きこぼす。ぎりぎり沙由菜に掛かることはなく、俺は慌てて食卓の上にあったティッシュであたりをふき取る。

「身もふたもないな」

「でも、それが一番の特効薬ってよくいうでしょ? 今すぐ誰かととは言わないよ、未練なんて簡単に断ち切れないからこうなってるわけだから。でも、もう少し周りを見てみるとか試しに付き合ってみるとかしてみたら? あんたなんていっつも告白されてるんだしさ」

 と沙由菜は少し悪態をつくようにそういう。なんだ、なんで俺がこんな責め立てられているんだろう。

「まぁ、いいわ。とりあえず、そーまの燻ってた気持ちを聞けて安心した。なんか、ちょっと腹立つけど、誰がどんな悩みを抱えててもいいしね」

「あぁ、すまん」

「今すぐはそーまのことを解決するなんてたぶんできない。けど、私はあんたがそのままだと困るから、積極的にあんたのそのお悩みを解決できるように努力はしたいわ」

 沙由菜は何か諦めた様な観念したように眉尻を下げ、目をつむる。

 そして、もう一度目を開き、時計の方に目をやる。

「あ、やば。もう12時になるじゃん。早く寝ないと!!」

「あ、あぁ! 聞いてくれてありがとな」

「うん、そーま、私はやっぱりあんたの味方だから。話してくれてありがとう。じゃあ、おやすみ」

 沙由菜はそういうと荷物などをひったくり急いで玄関の方に向かう。

 どうやら、長い長い一日はこれで終わりを告げるみたいだ。結局、俺の過去を話したからと言って何か俺自身がすっきりできたかというと微妙なところだが。

 ひとまず、これで沙由菜に心を開いて話すというポーズも取れたわけだし、沙由菜も俺に何かしら隠していることを話してくれたらいいんだけどな。

 正直、ここまで話して、確かに小春には未練もある、忘れたいという気持ちもある。告白されても恋人を作らなかったり、カラオケで歌わない理由もその通りだ。

 だが、沙由菜たちのおかげで気にならなくはなってきているのも間違いない。俺の中ではもう些細な悩みの一つでしかないのだ。

 沙由菜に心配されると思ったが、まったくそんなことはなく、馬鹿と一蹴されたのがなんだか心地よかった気もする。

 俺は、これからも沙由菜たちを大切にしなくちゃならないと思いながら、眠りについた。

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