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村娘は生きる為に必死です。  作者: お魚お肉お野菜協会
第一章 村での暮らし
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霊門のこと



 


 朝食をとりながら、バル婆にどう切り出すかをレンと相談していた。バル婆は朝の畑仕事に出ている。帰ってくるのは昼頃だからそれまでに、どう話すか決めておきたかった。レンがおかゆを食べながら聞いてくる。


「なんて言うの?」


「できるだけ普通のことみたいに話す」


 薬師様は処置をしなかった。少なくとも今すぐどうにかなるわけじゃない。そこは強調しておきたい。心配させたくないから。

 でも、再発の可能性があること。霊門に魔力が溜まっていること。それは伝えないといけない。


「霊門について、バル婆は知ってると思う?」


 レンが首をかしげる。食卓を挟みながら、バル婆に伝えることをふたりで一通り確認した。






 バル婆が帰ってきた。お湯を沸かして、湯呑に注ぐ。レンと目を合わせて、小さく頷く。三人で向かい合って座った。


 霊門という器官に魔力が溜まっていて、腹痛が再発する可能性があること。薬師様から言われたこと。あの後に違和感が二回あったこと。順番に話す。


 バル婆は最初お湯をゆっくりすすりながら聞いていた。でも段々と眉間にしわが寄って行って、話し終えるころには腕を組んでわたしを睨んでいた。


「おしまいかい」


 頷くと、次の瞬間、ほっぺを思いっきり引っ張られた。


「いたっ」


「黙ってたんだね」


 バル婆の声はすごく怒ってるわけじゃない、と思う。引っ張られた頬をそっとなでる。ほっぺたをさすりながら謝って、ついでに聞くことにした。


「バル婆……霊門って知ってる?」


「名前くらいはね」


「みんなあるの?」


「そうみたいだね。魔法が使えるかどうかは別として、みんなあるらしい」


「霊門の病気になる人って、聞いたことある?」


「年寄りにはたまにいるさ……助からないことが多いがね」


 バル婆はそう言って、湯呑を置いた。


「……本当に、今は痛くないのかい」


「うん。違和感は少しあるけど。だから、薬師様と、もう一度話したいと思ってる……治療法があるなら聞いてみたいの」


 バル婆はお湯をひとすすりした。しばらく黙って腕を組んで、一度頷く。


「なら……あたしも行くよ」


「ぼくは?」


「お留守番」


 レンは少しだけ唇を尖らせて、じっとわたしを見ていたけど、わたしもバル婆も首を縦に振らなかったのを見て、しぶしぶ頷いた。わたしはレンからバル婆に目をうつして聞く。


「……わたしみたいな子どもがなるのは、珍しい?」


「聞いたことがないね」






 翌朝、持っている中で比較的ましな服を着た。自家製の洗浄液で洗ったやつだ。バル婆と二人で、村を出る。


 薬師様の家は、村からしばらく歩いた森の中にある。朝の森は涼しい。


「バル婆、霊門の病気になった人で……治った人のことは聞いたことある?」


「さあね。詳しくは知らないよ。腹が痛いとかそういう話は聞いたけど、あたしたちみたいな年寄りだと……よくある話さ」


 それだけ言って、バル婆はさっさと前を向いた。わたしはそれ以上聞けなかった。


 森の奥に、小屋が見えてくる。小屋の前に立って、鼻がひくひくと動いた。


 ——臭い。


 薬草の匂いと、何か発酵したような匂いと、土の匂いが混ざっている。戸は開いていた。中を覗くと、本棚に本が、薬棚に薬草や液体の瓶が、床には書類や道具が所狭しと置かれている。そしてずいぶん掃除されていないような埃とカビの臭いがした。






 戸を何度か叩いた。開いているのに人の気配がない、声をかけても返事がなくて、しばらく繰り返し叩いていたら、奥から白い髭の老人が現れる。わたしは丁寧にお辞儀をして中に入った。


「……何しに来た」


 薬師様は、沢山積まれていた書類を脇によけた椅子に座る。振り向くと、バル婆は入り口近くに立ったまま、わたしたちを見ている。私は立ったまま正面の老人に伝えた。


「霊門のことを聞きに来たの」


 順番に話す。あの後、二回違和感があったこと。レンに記録をつけてもらっていること。治療法を知りたいこと。それを、薬師様はふんぞり返って聞いていた。わたしが話し終えると、腕を組んで言った。


「……記録だと」


「うん。いつ来たか、どのくらい続いたか、何をしていた時に起こったかを書いてもらっていて……」


 薬師様は、ほう、と言った。


「子どもが考えることじゃないな」


「必要かな、と思って」


 薬師様はしばらくわたしを見てから、口を開いた。


「治療法はある」


「……どんな方法なの?」


「霊門を割る。前に言った通りだ」


「危険じゃないの?」


「霊門を割る際に、溜まった魔力が暴走することがある。そうなれば助からない」


 ——助からない。なんでもないことのように薬師様は言う。バル婆が入り口でわずかに動く気配がした。


「どのくらいの人が助かるの」


「お前のような子どもを診たことがない。分からん」


「じゃあ老人なら」


「半分以下といったところだな」


「費用は?」


「お前の家が払えるものじゃない」


「……聞いておきたいの」


「今回と、前回の謝礼で銀片10枚。これは情報料だ」


 わたしの眉がぴくりと動く。随分とる。


「分割に、してもらえるのよね」


「仕方ないだろう……利子はいただく」


「実際の治療費は……」


「金札3枚以上だ。少ないくらいだがな」


 わたしは口をポカンと開けて薬師様を見る。薬師様はやっぱり無表情にわたしを見返した。家が一軒建つどころではない金額に、頭が一瞬白くなる。


「……でも、今すぐじゃなくていいってこと、よね」


「まあ、そうだな」


 薬師様はあごひげをなでながら言った。


「……お前が言っていた記録とやらを次に来るときに見せろ」


 ——記録に、興味をもってもらえたのだろうか。


「季節がひとつ巡る頃にまた来い。もしくは、違和感が強くなったとき」


 わたしは、うん、と頷きながら聞いた。


「……わたしみたいな子どもが、霊門の病気になるのはどうしてなの」


 薬師様は立ち上がった。そして、馬鹿にしたような表情で言った。


「それが分かれば、わしも苦労しない……もう帰ってくれ」


 わたしは立ち上がって、お辞儀をした。バル婆が先に外に出る。戸を出る直前、薬師様の声がした。


「記録は続けろ。いつ、どのくらい、何をしていたとき、食べたものも——忘れずに書け」






 森を歩きながら、バル婆が口を開く。


「銀片10枚、ね」


「うちにあるかな」


「すぐには無理だろうね」


「だよね」


 金札3枚なんていう大金を用意することはもちろんできない。銀片だってみたこともないのだ。


「今は考えても仕方ないだろ。帰って、一緒に考えよう」


 黙って頷く。来たときより日が高くなって、森の中は涼しくなくなっていた。


「バル婆」


「なんだい」


「助かると思う?」


「さてね……お前はどう思ってるんだい」


「……諦めたくない」


 バル婆はそれ以上何も言わなかったけど、隣を一緒に歩いていた。



読んでくださりありがとうございます。

今回から通貨が出てきたので、設定をお伝えします。


この世界の通貨は小さい順に、朱文しゅぶん→銀片(ぎんぺん、朱文百枚)→金札(きんさつ、銀片百枚)です。

貧しい平民のひと月の稼ぎが銀片10〜20枚(現代日本円で10〜20万円ほどのイメージ)、金札1枚が100万円くらいです。今後の展開で調整があるかもしれませんが、参考にしていただければ幸いです。

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