生きるために必死です。
寝室の戸が開いた。それと同時に、二つの影がテンに近づいてくる。バル婆の後ろからレンが不安そうに覗き込んでいた。バル婆はまたしゃがみ込んで、どれどれ、といいながらも迷いなく腹に手を伸ばしてくる。
「触らないで!」
テンは、思ったより強い声が出たことに自分で驚く。声と同時にバル婆の手がぴたりと止まった。
「急になんだい! 驚くじゃないか」
「えっと……押されると痛くて」
「そんな強く触るわけないだろう? でも、腹が冷えてるのかねえ。いつもみたいに温めて寝てれば――」
「――違う」
また腹を触ろうとしてきたバル婆の手をテンが止めて言った。テンの言葉に、バル婆が眉をひそめて腕を引っ込める。レンは不安そうに、テンとバル婆を交互に見ていた。
「……なんだって?」
「温めたらもっとひどくなる……と思う」
バル婆の問いには答えずに、テンは震える手で自分の腹の一点を指した。
「ここ押して。……強くじゃなくていいから、押してみて」
バル婆は黙って布団の横に腰かけて、脇腹のあたりを押す。
「……どれ」
バル婆の指が脇腹から徐々に移動する。そこに近づくにつれてテンの背中に嫌な汗が流れはじめる。
そして――分かっていたのに、息が詰まる。体が勝手に跳ねて、さっきと同じ場所に鋭い痛みが来る。バル婆は眉間にしわを寄せてテンをじっと見る。
「……そこだけかい?」
「……いまのところはね」
バル婆はお腹から手を離して、ぽつりと言った。
「……ただの腹痛じゃないのかね」
「多分だけど……放っておくとどんどん悪くなるの。……もっと痛くなるし、熱も出るはず」
伝えるたびに自然と呼吸が荒くなる。
「それから……今日か明日中に腹の中で破ける」
レンが息を呑む音がした。
「……破けたら終わり、多分助からない」
部屋が静まる。外の風の音と、三人の息づかいだけが部屋の中に聞こえた。
バル婆は、目を大きく開いて何度かまばたきした。息を吸って、ゆっくり吐く。それから唇をぎゅっと結んで、じっとテンを見る。テンもバル婆を見返した。
「……テン」
「……うん、助からないの」
バル婆は少しだけテンを睨んで、それからすぐに布団から腰を上げた。エプロン代わりの布を手早くたたみ、ベルト代わりの紐に引っかけて動きやすい格好になる。そのままテンを見て、まったく、とつぶやいた。
「……助かるには?」
――え?
「ぜんぜん時間がないじゃないか!……それで、どうするんだい、次は!」
怒鳴るみたいに言ってから、すぐに問い直してくる。
「く、薬か……腹を開くか、どっちかが必要だと思う」
テンはできるだけ噛み砕いてバル婆に伝える。バル婆は頭をかきむしった。白髪がぼさぼさになる。
「ごめんなさい」
思わず謝って目を閉じたテンの頭を、バル婆がぎゅっと抱きしめた。でもすぐに離して、レンに向き直る。
「レン」
「う、うん」
「あたしはこれから薬師様と相談役のところに行ってくる。そのあと父さんと母さんのいる田んぼにも行ってくる。薬師様はすぐに来るはずだ。……湯呑と甘いものを用意して待ってるんだよ?」
言いながら、バル婆は貯蔵庫から必要なものを手早く取り出していく。
「うん」
レンが勢いよく駆け出す。
「走らなくていい! 間に合えばいいんだ……」
バル婆は誰かに言い聞かせるようにそう言って、すぐ戻るからね、とレンの背中に声を投げた。そのまま寝室を出て行こうとして足を止める。
「……あとで全部聞くからね」
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