君の名は
レンの足音が遠ざかってから、テンはすぐにお腹に手を当てた。
息を浅く吐いて、痛みの波が一度引くのを待ってから、ゆっくりと手を動かしていく。
胃のあたりは……多分大丈夫。
少し上も痛くない。
左もふつう。
呼吸を整えて、さらに下へと進む。
――右側。みぞおちの少し下のあたりに、引っかかるような違和感。
テンは指先に意識を集中させて、ゆっくりと指の腹を押し込む。その瞬間、息が止まった。さっきまでとは比べものにならない鋭い痛みが突き刺さる。反射的に体が跳ねて、目から涙がこぼれた。
そこは、ぐっと押したときに強く痛んで、指を離したあとも、ドクン、ドクンと心臓に合わせて痛みが残っている。
……これ。
「虫垂、炎?」
言葉が、自然と浮かぶ。
吐き気。発汗。局所的な圧痛。じわじわと強くなる痛み。
整合するたびに周りの音が遠くなっていく。そんなの、ありえない。だってこれは――。
「……手術が必要な」
テンの喉がひゅっと鳴る。手術なんて、この村にあるのか? それ以前に、このまま悪化したら。
テンは汗を吸って重くなった布団を強く握りしめた。無意識に腹に当てていた手を、はっとして離す。
温めるのは、逆効果。
鼻から息を吸って、それでも足りなくて口を開けて息を大きく吸い込んで、そしてまた大きく吐き出した。
父さんか母さんを呼ぼうか。
……だめだ、戻るのは明日。それに延びることもある。それなら。
「……バル婆」
テンは唇を噛む。祖母に“虫垂炎”なんて言葉が伝わるのか。そもそも、病気に名前があるって発想自体が、この村にあるのかどうか。
痛みがまた波みたいに押し寄せる。目を開く。天井が揺れる。それでも、痛みは消えない。
テンは天井の藁をじっと見ていた。




