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決定

 


 痛む手で布団をめくり上げた。……肩、お腹、太もも、それと足。


 動かない理由が、縛られているからだとは思いもしなかった。


「――薬師様がやったの。みんなで止めたんだけど、そうしなくちゃならないんだって」


「なんで縛られなくちゃいけないの?」


 レンはそっと寝室の戸を閉めて布団に近づく。


「分からない。そうしないとならないんだって、薬師様が言ってた」


 どういうこと、と言いかけてはたと思い出す。


「もしかして、腹痛のせい?」


「……そうは言ってなかったと思う」


「レン……みんなの話を聞きたい」


 なんで父さんがいるのかも聞かなければ。レンがみんなを呼びにすぐに居間に向かった。






「うそ」


「本当さ。お前は3日間眠ってたんだ」


 バル婆がわたしの口元に山菜がゆを運ぶ手を見ていた。母さんがろうそくを持ってきて寝室を明るくする。


「レンが寝込んだときだって3日も目を覚まさないことなんてなかったから、本当に心配したわ」


「でも目を覚ました」


 父さんがレンの頭に手を置いて言った。


「父さん、仕事は?」


「休みをもらった」


「そっか……わたしの、両手の包帯と体の縄は何があったの?……レンが薬師様がやったって言ってたけど」


 バル婆が母さんと父さんをちらりと見た。母さんは少し――怒っている?


「テン、しばらく前の腹痛、治ってなかったのね」


 今にも泣きそうな、それでいて怒ったような声で言ってきた。


「全然、気が付かなかったわ」


 ――霊門のことが、一番最悪な形で、ばれてしまったんだと気づいた。レンが母さんの着物を掴んで言った。


「母さん!言ったでしょ?テンは最近はなんともなかったんだよ、だから――」


「――ごめん」


 わたしは喉が詰まった。レンにもバル婆にも母さんや父さんにも、全員に申し訳なくて、それしか言えない。


「……おまえの手は、火傷がすごかったから包帯を巻いたんだよ」


 火傷?した覚えがない。


「……体の縄は?」


 バル婆がわたしの口に運ぶ匙の動きが止まる。母さんが急にレンを居間に連れて行こうとした。


「レン、おかゆが冷めるから早くたべちゃいなさい」


 レンは動かない。


「なんで、レンは聞いちゃいけないの?」


 わたしは母さんに向かって聞いた。母さんはわたしから顔をそらしてバル婆とレンの両方を見た。


「ナイア……すぐにわかることだろ?レンは頭のいい子だから、隠してはおけないよ」


 がんとして動かないレンと、無表情の父さんを見て、諦めたように母さんが言う。


「分かりました」


「……なんなの?」


 バル婆は山菜がゆを口に運びながら言った。


「お前は、裁かれるそうだ」


 裁かれる?どういうことかすぐに分からずバル婆の顔をまじまじと見つめてしまった。


「お前は、シウに何をしたか、覚えてるかい?」


 シウ。

 

 わたしは自分がしたことを思い出す。心肺蘇生法。胸を押すたびどんどん冷たくなっていったシウ。思い出して唇が震えた。わたしはシウを助けたかっただけだ。それと裁かれることが関係するのだろうか。


「わたしは、シウに目を開けて欲しかっただけ」


 母さんが息をのんで、父さんは息を吐いた。母さんは険しい顔で聞いた。


「それで――魔法を使ったの?」


「魔法?」


 わたしは話がつかめなくなった。母さんに険しい表情で問われる意味が、分からない。バル婆も同じように聞いてくる。


「シウを、蘇らせようとしたのかい?……死んだものを生き返らせようと」


 わたしは目を見開いた。呼吸が速くなる。助けたかっただけだ。魔法を使った覚えもなければ、習った覚えもない。


 それなのに——包帯の下の手が、思い出したように熱を持つ。わたしは目を閉じて聞いた。


「わたしは、どんな魔法を使ったの?」


「分からない。薬師様はお前が倒れたあと、連絡が来るまで絶対に動かすな、と言って、縄で縛ったんだ」


いくつも疑問が浮かんでくる。心肺蘇生法をしたことで裁かれることになるなんて知らなかった。それに、


「魔法なんて使えないのに……わたしはどうなるの」


「分からない、ただ……」


 なんなのだろうと思って答えを待ったけど、バル婆は首を振って黙ってしまった。こんなバル婆をはじめて見た気がした。






 縛られたまま、二日が過ぎる。


 考える時間だけはたっぷりあった。薬師様に聞く必要があることが多すぎて、わたしはレンに質問を書いた紙を作らせた。質問を考える間はそれ以外を考えずに済むから。


 心肺蘇生法をしたこと自体に後悔はなくなっていた。わたしは相手が誰でも、あれをした。それで裁かれるなら仕方ない。そう思うことにした。


 その日の昼過ぎ、薬師様はやっと来た。


「薬師様がいらしたよ」


 バル婆が寝室に通す。わたしは目線だけで老人を見上げた。


 母さんは部屋の端に下がって、レンはわたしの足元に座る。父さんも入ってきて、奥の壁に立ったのが見えた。薬師様の口が動く。


「裁きは、なくなった」


 母さんが顔を覆って泣き出した。薬師様は続ける。


「魔力に行使の意思はなかった、と認定された」


「ああ……ありがとうございます!」


 レンと目が合った。父さんはただ、深く息を吐いた。薬師様はわたしに視線を落とす。


「ただし、娘は今後“監視下”に置かれる」


「かんし?」


 レンがわたしの足を握る手に力がこもった。


「そうだ」


「ま、待ってください……裁きはなくなったのに、監視下に置かれるというのはどういうことですか」


 母さんが薬師様に突っかかる。


「決定事項だ」


 薬師様は感情のない顔で言った。裁き自体は免れたけど、今後わたしがまた何かをしないように監視される、ということ?


 わたしが何か聞く前に、薬師様が口を開いた。


「この娘は、この家を離れ今後は中央が管理することとなる」


「は?」


 母さんが言った。


「娘は今後、中央で管理される。もし拒むなら、裁きはやり直される、だが次は……恐らく法に背いたと見なされるだろう」


 レンが顔をあげて、薬師様を見た。それから母さんを見る。母さんは口を開けたまま、薬師様を見ている。父さんは壁から離れて一歩前に出かけて、止まった。


「明日の昼にまた来る。それまでに答えを用意しておけ」


 薬師様がそれだけ言って、わたしたちに背を向け、寝室を出ていく。


 足音が聞こえなくなった。



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