一章24話 レベル上げ「経験値はプールしてるんだけどな」
『竜騎士団、翠のドラゴンを撃退する』王都フォルリオに戻った数日後、そんな話が耳に入って来た。
リエルたちには俺たちがミネラルレでやってきたことを話してあるが、俺たちの姿を見ていない者たちからすれば、最後に駆けつけた竜騎士団が一斉に魔法を放ちドラゴンを撃退したように見えたようだ。
めっちゃ戦ってたのにな……。
まぁ、功績を主張する気は無いし、使ってしまった依頼の装備の分は見逃してもらったので構わないんだが、話を聞いた見習い竜騎士のフォスが不機嫌になっていた。
適当に訓練量を増やして発散させたのでもう問題は無い。
「マインちゃん!」
ミリルが大剣槍のように柄の長い槌を振り抜き、パピポポルと言う名のカバのような魔物をマインの方へとぶっ飛ばす。
「ま~かせて~えい! フォス~行ったよ~」
適当に実践訓練をするためにフォルリオ近くの森で魔物狩りをしている。
メンバーは、ほぼ見学の俺とソウマ、マイン、ミリル、フォスの弟子もどき共だ。
リエルとクラッドはミネラルレの復興支援のために色々やっているらしいが詳しくは知らない。
俺は弟子共を鍛える事が仕事になったので数日間模擬戦やらなんやらで新入り二人の実力を見た後、とりあえずレベルを上げるためにこうして魔物狩りに来ているわけだ。
「それぐらい、僕にもできる!」
戦闘マップで名前やレベルは確認できるが、俺のゲーム知識に無い知らない魔物だから試しに一匹戦ってみた。
パピポポルは身体が紫の鱗に覆われていて防御力が高く、丸まって転がり突撃して来る。
普通に避けて木とかにぶつかって止まった所を攻撃すればいい訳だが……。
転がって来たパピポポルを槌でそのままぶっ叩いてマインの方に飛ばしたミリルを筆頭に、マインが大剣槍でフォスの方に打ち出し、フォスもそれに続き大剣でパピポポルをソウマの方へと弾き飛ばす。
「魔法使いに脳筋共と同じことを求めないでよ……氷柱壁」
ソウマは三人には続かないで、向かって来るパピポポルを氷柱壁で受け止める。
三人によって加速されていたパピポポルを氷柱壁の氷壁が受け止め、カウンターで飛び出した氷柱がその身体を貫く。
うん、防御が高いといってもミリルが叩けば吹っ飛ぶし、鱗にはマインやフォスでも貫ける程度の装甲しかないからソウマまで飛ばす必要はないんだよなぁ。
「お前ら……指示通りに戦っているとはいえ遊び過ぎだ」
訓練時に分かってはいたが、新入り二人も十分以上に戦えている。
ソウマとマインが特殊と言う訳ではないんだろうか?
フォスは元々竜騎士見習として訓練を受けているので適性のある魔法と剣や槍での戦い方を問題無い程度に学んでいる、俺でも強いと思うマインと普通に模擬戦で斬り合っている時点で分かってはいたけどな。
そして新入りのもう一人の方、戦闘訓練をすると言った時に泣きそうになっていたミリルが戦えたことが意外だった。
ミリルの武器の槌は柄が長く、鍛冶に使うハンマーの柄だけ伸ばしたような感じの物だ。ゲームとかでイメージするようなでかい物じゃない。
槌がミリルが錬鍛したもので性能が良いのか、それともミリル自身が強いのか、レベルはソウマたちの少し下なんだけどな……。
人の事は言えない能力を持ってはいるが……なんだこいつ等、俺が育てる必要なくないか?
まぁ、適当に戦闘訓練してレベル上げていれば給料貰えるんだし文句は無いが、俺と同じ成長方式だったら楽なのにな……。
俺のレベルアップは敵を倒して得た経験値が一度システムに溜められて、メニューのレベルアップ項目で各ユニットに自由に振り分けてレベルを上げるってものだ。
メニューに俺のステータスしか表示されないから自分以外に振り分けた事は無いが、この経験値がソウマたちにも振り分けられるなら、俺のレベルが上限に達した後に得た経験値がアホみたいに溜まっているからそれを使って楽にレベルが上げられるんだけどな、メニューに表示されないから仕方が無いが……残念だ。
「師匠~、もっと強い魔物倒しに行こうよ~」
一応、この辺りに出て来る魔物の方がお前等よりもレベルが高い事が殆どなんだけどな。
俺の場合はパーティ何人で戦闘しようと倒した魔物分の経験値がシステムにプールされるが、ソウマたちが仲間としてメニューに表示されていない以上その経験値を振り分ける事は出来ない。
そして、俺が攻撃を加えずにソウマたちだけで倒した魔物の経験値は俺のシステムに入って来ない。
俺以外のこの世界の奴らのレベルアップは、魔物を攻撃した者に経験値が入り、その値が必要な分に達するとレベルが上がるってことが今回の訓練で検証できている。
その検証をもとに、出て来た魔物に各々一度は攻撃をしてから倒すように指示した結果がさっきのラリーだ。
魔物の経験値が攻撃した者に分配される仕組みなら、ソウマたちのひとつ前のレベルが上がったタイミングから計算すると、そろそろソウマとミリルのレベルが上がる筈だ。
俺の知っているレベルアップに必要な経験値とソウマたちのレベルアップに必要な経験値が一緒ならの話だが……。
「あー、それじゃ、後十体ほどこの辺りの魔物を倒して昼食を食べたらもう少し奥に行ってみるか」
「やった! ほら皆! さっさと十体倒しちゃうよ~」
張り切ったミリルに引っ張られ指示した数の魔物はあっさりと倒された。
平均レベルは魔物の方が高いが戦闘マップで確認して単独の魔物を狙っているから、数の有利で対処できるから当然なんだが……過保護すぎるか?
因みに、計算通りにソウマとミリルのレベルは上がっているから、ソウマたちのレベルアップに必要な経験値も俺の憶えている値で大丈夫そうだ。
「ごっはん~、ごっはん~」
マインの緊張感が全く無いな……戦闘マップで常に周囲は警戒しているから安全に関しては問題無いだろうが、マイン一人の時にこの感覚だと危険だな。
相変わらず、俺も人の事は言えないが……できるだけ周囲の警戒はするようにしているからな。
まぁ、マインは後でクラッドに説教させよう。
「てか、お前ら誰も料理できないんだな……」
「師匠も作れないじゃないですか」
「俺はやろうと思えば食えない事も無い物ならできる」
「お兄さん、それはできるって言わないですよ」
ソウマは記憶喪失以降料理は習っていない、ミリルは鍛冶ばっかりしていたが家事は苦手とか寒い事言ってた。
「簡単なのならできるよ~」
「嘘だな」
「野営訓練でやった事は有ります」
「切る、焼くだけじゃねぇか、せめて味付けしろ」
マインはキャラじゃない。フォスだけは騎士としての訓練なんかで多少は習っているようだが、俺と同じで食えなくはないといったレベル。
今広げているお弁当はリエル邸のメイド共が作った物だ。普通に旨い。
多少騒ぎながら昼食を終えて森の奥に進むことにする。
「森の更に奥に進むとさっきよりも強い魔物が出る。さっきまでの魔物も能力だけならお前ら個人よりも高い、さっきの指示は無視していいから真面目にやれよ」
まぁ、怪我しそうだったら手を出すが……多分大丈夫だろう。
先ほどと同じパピポポルが複数で出現するが、マインが大剣槍の効果を発動させてさっさと斬り捨てる。
相手の方がレベルが上でもマインの武器が良過ぎる感じだ。
更に進むと骨の狼、ボーンウルフが群れでやって来た。
矢なんかは当たり難いんだが、マインの大剣槍でも効果を発動させずに斬れるし、ミリルの槌でも砕けるぐらいの防御力のようで簡単に倒せる。
ゼラチンスライムって四角いスライムはソウマが魔法で焼き飛ばした。森で炎ってやばいかと思ったがちゃんと威力を調整して余計なところは燃やしていない、優秀だ。
俺は周囲を警戒しながら弟子共の倒した魔物を解体して素材をはぎ取る。
順調だなぁ……ちょっとヤバい魔物でも出ねぇかな?
出なかった。ヤバいのは最近ドラゴンとやり合ったばかりだからしばらくは要らないか……。
夕方まで順調に魔物を倒して全員もう一つレベルが上がった所でリエルの邸に戻って来た。
「お、皆さん、お帰りなさいっす」
「リュイン、いい所に居るな」
戻った俺たちを真っ先に出迎えたのは隠密スキル持ちメイドのリュイン、隠密を使われると俺の戦闘マップでも気づけなくなるからずっと後を着けられているんじゃないかと、少し疑ってしまう。
「な、何っすか?」
「今回倒して取って来た魔物の素材を売っておいてくれ」
アイテムボックスから大量の魔物素材を取り出してリュインの前に並べる。
「ず、随分とたくさん取って来たっすね……」
「二、三個レベルが上がるぐらい狩ったからな……」
正確には狩らせただけどな。
「レベル? 何っすか?」
「何でもない……兎に角頼む。報酬は五等分して子供たちに渡してやってくれ」
この世界の奴らにレベルって言っても分からないんだよな……戦闘マップのステータスは俺以外には見えないし説明のしようがない……。
「まぁ、行って来るっす。あ、そう言えばリエル様が次の仕事が入って来たって言ってたっすよ~」
もうか? 嘱託騎士に依頼を出さなくても……あぁ、そう言えばミネラルレの復興支援に兵が割かれているんだった。
新しい依頼ねぇ……戻って来た報告ついでに聞いておくか。
「分かった聞いておく」
さてさて、どんな依頼が来ているんだろうな?




