一章14話 護衛「魔物の相手をするだけの筈なんだが……」
「おめぇら! 対応がいつになるか分からねぇから今日出来るだけ多く確保して来い! 抜かるんじゃねぇぞ!」
少女に案内された宿で一晩ゆっくりと休んだ翌日、いざ鉱山に出発と言う所だ。
行くのはダオンの集めた採掘員共と俺とソウマとマインで一応メイドのリュインは留守番になる。
ダオンが集めた採掘員、主にダオンの工房の鍛冶師だが、他の工房の連中も便乗してきているようだな。
彼らはダオンの号令に応えてボルテージを上げる。皆素材が無くて仕事が少なくなっているんだろう、空回りしない程度に頑張ってくれ。
「そんじゃ、よろしく頼まぁ!」
「まぁ、仕事だしな……でも無茶はしないでくれ、馬鹿は見捨てるぞ」
その辺りの人選は問題ないらしいが……採掘員の数が多いのでソウマとマインが居ても魔物の数によっては手が足りなくなる可能性がある。そう言った時に輪を乱すような奴が優先的に見捨てられるのは仕方ないよな。
「マインちゃん、これ昨日言ってた……」
むさ苦しい彼らから離れた所で、昨日宿に案内してくれた少女ミリルがマインにこっそりと昨日言っていた武器を手渡していた。
マインが持っている大剣よりも少し刃のサイズが大きく柄が妙に長い槍ぐらいあるんじゃないかって剣だ。
「大剣並みの刃を持つ槍、大剣槍を風の魔法石を含む鋼で打ってみました。刀身が僅かに風を纏っているから多分普通の大剣槍より切れ味が増していると思うんだ。ミネラルタートルで切れ味を試してみて、普通の鋼だと余程の馬鹿力で攻撃しないと傷もつけられない筈だから」
風を纏ってるって、特殊な効果付きの武器か? 攻撃力プラスとか攻撃属性追加とかになるんだろうか?
そう言った武器はゲームでは有ったけど、全部魔物のドロップアイテムか宝箱のアイテムなんだよな。
だから、特殊効果が付いている武器ってのは、俺がこの世界に来てからは一度も見かけていない類の武器だな。
てか、人の手でも作れるんだな。
「師匠!」
マインが受け取った大剣槍を腰に佩くと、背負っていた大剣を俺の方へ突き出して来た。
アイテムボックスに入れておけと? まぁ、良いが……。
剣をアイテムボックスに入れると出発することにした。
「お前も来るのか?」
道案内と言ってミリルが俺たちの前を歩きだした。
「素材が無いと何も作れませんからね! まだ鍛冶師見習い扱いですけど、教わる段階は終わっているので採掘技能も身に付けているから大丈夫です。親方にも案内を任せられましたからね!」
見習い訓練の一環か? まぁ、ここに居る採掘要員なら誰でも道案内は出来るだろうから、あえてミリルが案内するのはそういう事なんだろうな。兎に角出発だ。
今日のミリルは店員をしていた時は降ろしていた髪を頭の後ろの上方で纏めたポニーテールと言うやつだ。動きやすいようにだろうが、思わず引っ張りたくなる。少し前にマインにやってめっちゃキレられたのでやらないが、キレて当然ちゃ当然だな。
適当に案内に従って暫く行くと、何事も無く鉱山の坑道入り口までたどり着いた。
マインがなんか不満そうにしているがこの中に魔物が居るんだから道中ぐらい平和でも良いだろうが。
それと、途中でソウマがマインと共にミリルと話して仲良くなっているように見えたが……多分ソウマは主人公だし周りと仲良くなる能力が高いんだろう。交友関係は自由にしたらいい物だから放置で。
「魔物が増えているんで中から溢れ出して来ないか一応の見張りが居る筈なんですが、見当たりませんね」
なんだ? さぼりか? とりあえず入り口の近くに立っている小屋の中を見た方が良いんじゃないか?
と、思っていたら、小屋の中から眠そうなおっさんが出て来た。
「ここに居る、普段ならミネラルタートルは中から出て来る事は無いから常に見ている訳ではないだけだ」
と、大きくあくびをする。ちらっと見えた小屋の中には酒瓶が大量に転がっているように見えたんだが……。
たるんでるな~、こんなのが見張りで大丈夫か?
「またぞろぞろと大勢でやって来たな。まぁ、話は聞いているから好きに入ってくれ」
おっさんがだるそうに小屋に戻って行ったのを見送り坑道に入る。
「ここからは俺が先頭だな」
坑道内に入ってすぐに戦闘マップを確認するが適性の赤アイコンが無い、数は多いが白のアイコンばかりだ。ミネラルタートルは採掘すると襲って来るって話だから普段は敵対してないって事か? これまでも魔物で白アイコンの奴は居たから別に不思議ではないが、採掘が始まるとこの大量の白アイコンが敵対して来るのか……面倒くせぇ。
「採掘ポイントは?」
「使用してる通路には灯りの魔法石が設置されているので、明るい通路を進んで行けば採掘場所まで行けますよ」
確かに、坑道内はそこら中に明かりが灯っていて明るいが……この魔法石の魔力ってどこから補っているんだ? まぁ、周囲から集めてるとかそんなとこだろう……。
戦闘マップを見る感じだとほぼ一本道。何カ所か分岐は有るが、どれも行き止まりになっているな。
素直に明るい道を進んでいると戦闘マップに変化が現れた。
暫く行った先の白アイコンだった物が赤アイコンに変わったのだ。
「うわ、この先の魔物に敵対されたけど誰か採掘し始めたのか?」
一旦後ろの採掘員たちにも声をかけて歩みを止める。
「この先? まだ魔物なんて見えませんけど? それにまだ目的の鉱石の採れる場所じゃないので誰も採掘はしてませんよ」
何もしていなくても敵対に変わる事も有るのか? 赤に変わったアイコンはミネラルタートルだな。レベルは15~22ぐらいか……いい装備や高ランクの魔法石が有ってもソウマたちにはきつい相手かな。まぁ、安易に倒すわけにはいかないし、足止めだけなら何とかなるだろうが……。
幾つかの赤アイコンの間に白のアイコンもちらほらと見られる、全員敵対している訳じゃないのか?
赤アイコンが固まっている場所より更に奥のアイコンはまだ白いままだな。
「さて、どうする? 目的地に着いたら壁でも作って時間稼ごうかと思ったんだが、着く前に敵対されるとはな……」
「おかしいですね、採掘を始めなければ襲っては来ない筈なんですが」
全部ひっくり返して行くか……戻る時に戻せばいいだろ。
「倒していくしかないわね!」
「俺も大丈夫です!」
マインもソウマも己の武器を手に臨戦態勢に入るな。お前等そろそろ穏便に事が済むように考える気はねぇのか。冗談でやっていると信じたいが、いざとなったら力ずくで何とかしようと思っている俺がどうこう言えた事じゃないんだよな。
「駄目だって言ってんだろ……とりあえず一回確認するか」
ミネラルタートルは初見の魔物だ。一度も見た事無いから今思いついている方法で対処できるか分からないから、どんな魔物なのか姿を確認しておきたい。
「ソウマ、交戦になったら使うのは地壁だ。やり方は分かるな?」
壁で囲って動きを封じる。俺が嘱託騎士試験の時に騎士団長にやろうとしたやつだな。坑道内だから天井まで壁を伸ばしてしまえば上から逃げられる事も無い。
「え、あ、はい!」
ソウマは一教えれば十学ぶから楽で良いな。
ミリルを含む採掘員たちをその場に残し、俺とソウマとマインで赤アイコンが固まっている奥を目指す。
「くっ! なかなか堅いじゃないか。 でも! ミネラルレの人たちを困らせる魔物を放っては置けない!」
「うおおおおおおおおおおお!!」
「そうだ! 俺たちがやらなきゃ誰がミネラルレの人たちを助けるんだ!」
なんか武装した男たちがミネラルタートルと交戦していた。
「何やってんのこいつら?」
赤アイコンに混ざってた白アイコン、詳細は確認しなかったけど……あれこいつ等か!?
「むぅ、アタシは戦うのを我慢させられてるのに~」
マインが目の前の光景を見て頬を膨らませる。
「でも、戦いになってないよ。魔物に攻撃が通っているようには見えない」
そうだな、戦闘マップでミネラルタートル、アイアンタートルって名前で出てるけど、こいつらのライフを確認しても全く減っていない。
確認していた赤アイコンのミネラルタートルのライフが減っていないから、交戦しているなんて気づけなかったんだが……。
「何やってんのこいつら?」
もう一度、さっきと同じ疑問を口にしてしまう。てか、こいつ等どうやって入って来た……いや、見張りがあれじゃ俺でも隠密使わないで侵入できるか。
「やっちゃってい~い? ミネラルタートルじゃないから良~いんだよね?」
マインの目がヤバいぞ、どうすんだこれ?
とりあえず誰も彼も止めないといけないだろうが……何処から手を付ければ良いんだ?
「駄目だよマイン、いくら馬鹿が相手でも殺しちゃうのは拙い」
お、マインはソウマが抑えてくれるか。なら俺は交戦中の馬鹿どもとミネラルタートルを止め……
「ここは常痛電ぐらいでどうかな?」
痛みを継続的に与える緑属性の魔法! 俺の教えたやつじゃなくクラッドから教わって作ったらしいフェヴリエ刻印の魔法だ。先日ソウマが説明しながら一個俺に作ってくれたから憶えている。
「お前ら好戦的過ぎだ!」
結局、やる気の二人を抑えつつ、俺が地壁で馬鹿共をこっちに吹っ飛ばしてミネラルタートルは反対側に吹っ飛ばす。地壁で吹っ飛ばせる魔物で良かった。
「「「うわぁああああ!!」」」
間が開いた所でそこに大きめの地壁を設置して馬鹿とミネラルタートルを分断する。
「な、お前等何をする!」
「ふざけるなよ!」
「こんなことをして、許されると思っているのか!」
馬鹿共を無視して戦闘マップを確認、ミネラルタートル共は馬鹿を見失った為か敵対の赤アイコンから白のアイコンに戻っている。あっちは一先ず安心か……。
「お前たちも手柄を狙って来たのか!」
「ふざけるなよ!」
「獲物の横取りなんて卑怯だぞ!」
この馬鹿共はどうするか……。見た目からして冒険者って所か? 言動からして国が自体解決のために送り込んできた騎士って事は無いだろう。戦っている時とは違う戦闘動機を口走っているし……。
「ここの魔物の素材と魔物を片付けた称賛は俺たちの物だ! 後から来て勝手をするな!」
「ふざけるなよ!」
「今のミネラルレなら鉱石は馬鹿みたいに笑える値段で売れるんだぞ! 邪魔をするな!」
こいつ等、ミネラルタートルを倒したら駄目なこと知らないのか? だとしたら思っている以上に馬鹿って事か……やっぱ面倒だ。
「ソウマ、やってよし」
「はい、常痛電!」
「「「うばぁあああああああああ!!」」」
「お前ら無許可だろ? こっちは正式な仕事で来ているんだ……って聞いている余裕はねぇか」
ソウマの放った魔法で状態異常の麻痺になり体を痺れさせられ、おまけに断続的に電撃の痛みが襲って来る。
馬鹿共は痺れで転がったまま、断続的に襲ってくる痛みに声を上げることしかできない。
なんて言うか、哀れだ……。
ミネラルタートルには攻撃が通じない程度の実力だし。俺たちに見つかったことでこいつ等は晴れて犯罪者に数えられるだろう。
さっきまでの態度がクソだったのと、こいつらのせいでまたミネラルレでの冒険者の信用が下がるのかと考えると助ける気は無いが……哀れだ。
「縛っておきますね風縛陣」
「げ……」
ソウマが風の枷で馬鹿共を縛る。枷から緑の光がソウマの杖に繋がっているからあれで引っ張れるんだろうか? 風の枷が馬鹿共の体を少し浮かせているようで容易に引っ張れるらしい。
普段クラッドに使われている魔法だからかマインが苦い顔をしている。
「いったん戻るか……見張りのおっさんの責も問わないといけないからな」
中から出て来る魔物には警戒していた……いや、それも御座なりだったな。あんな見張り方じゃ、こんな馬鹿が入り込んで当たり前だ。管理体制を見直すように言っとかないとな。
俺たちは捕縛した馬鹿共の悲鳴をバックミュージックにして、その音源を引きずりながら来た道を戻ることになった。




