一章15話 鉄鋼亀「ミネラルタートルのアイアン種?」
馬鹿共を街の衛士に任せ、見張りのおっさんも路頭に迷わせた後、俺たちは再び坑道内を進んでいた。
余計な時間を食ってしまったが、今回はミネラルタートルの近くを通っても敵対される事無く進むことができた。さっき吹っ飛ばした奴らも全然反応しなかったのは意外だが……そう言う魔物らしい。基本的にこちらから攻撃しなければ襲っては来ない魔物って事だ。
それが、今回は採掘を始めると襲ってくるってのが追加されているから問題なわけだが……。
馬鹿共の方に気が言ってたからあまり詳しく見ていなかったが、改めてみるとミネラルタートルの見た目は少し上背の高い亀で、この辺りに居るのはアイアンタートルって種類、甲羅が鉄っぽい色と材質をしている。動きも、亀とまではいかないが鈍いように見える。だから、あの馬鹿共でも怪我まではせずに戦えていたんだろうけど……。
「着いちゃったな……」
妨害される事も無く採掘ポイントに到着するが、そこには当然のようにミネラルタートルが居る。
「とりあえず~、近くのを倒しておけばいいのかな~?」
「一匹に手を出したら近くの奴がリンクして襲って来るだろうが。ミリル、採掘員共を採掘ポイントに集めろ。とりあえず地壁で壁作ってから採掘して様子見するぞ」
ミリルたちを採掘ポイントに集め俺とソウマで地壁を使いミネラルタートルと俺たちを分断する。先に潜入していた馬鹿共との敵対状態はこれで解除できたが、ここから採掘を始めるとどうなるか分からないんだよな。
馬鹿共のせいで余分に時間を食っていた事も有り、早速採掘を開始する採掘員共。
人数が多いからうるさい位の採掘音の鳴り響く中で、俺とソウマとマインの三人は地壁の向こう側を警戒する。
「来る……」
戦闘マップに表示されている近場のミネラルタートルのアイコンが白から赤に変わり、一斉に地壁に向かって来るのを確認してソウマたちに知らせる。
戦闘マップの確認を続けるていると、ミネラルタートル共が地壁の前まで止まった……。
モリっ
「あ?」
モリっ モリっ モリっ
採掘音とは違う妙な音が聞こえて来る。
「何の音~?」
ミネラルタートル共は壁の前から動いていないが……。
モリモリモリモリモリ!
「師匠! 地壁が!」
ソウマが叫んだ途端、ボコォと地壁の一部が崩れ、そこから敵対心をむき出しにした表情のミネラルタートルの顔が突き出て来た。そのミネラルタートルの口内には崩れた地壁の欠片が収まっているようで、ゴリゴリと欠片を咀嚼している。
「地壁を喰い破ったぁ!?」
そんな簡単に喰い破れるものなのか!?
「ミネラルタートルの主食はその辺の土や石です! 顎の力は強いんですよ!」
採掘しながらミリルが教えてくれるが、そう言う事は先に教えておいてほしかった!
地壁から顔を出したミネラルタートル共は首を振り回しながら威嚇して来るが……。
「こいつらハマってないか?」
喰い破った穴に顔を突っ込んでしまった状態で威嚇してきているが、もっと壁を広げないとこっちには来れないぞ。
「所詮は魔物~って事~?」
とか言いながら攻撃するな、せっかくハマっているのに首引っ込めちまったじゃねぇか。
「余計な事を! ああ! 穴を広げだしてる!」
「ソウマ、追加の地壁!」
「はい!」
おうおう、マインの攻撃した個体に続いて首を引っ込めて穴を広げだす奴が多発。追加の地壁が間に合って突破はされていないがモリモリと地壁を喰い破る音が続いているからまた穴開けられるぞ。
「これで何とかなりそうか? とりあえずこのまま押し返しながら地壁を維持。魔力が尽きるまでに十分な採掘が出来ればよし、足りなかったらその時に考える」
「え~、アタシの戦闘は~?」
今勝手に攻撃したじゃねぇか。そのペナルティで無しだ。それが無かったらもうちょっと時間が稼げたかもしれない。
まぁ、上手く採掘が終わったら帰りに一回戦わせてやるから暫く大人しくしていろ。
問題は魔力が最後まで持つかだが、魔創術師のくせに脳筋なマインは最初から当てにしていない。でも、俺の魔力量はレベル相応の物だし、ソウマの魔力量はちょっとおかしい位だからなんとかなるか……。
「師匠……ミネラルタートルの地壁を喰い破る速度上がって来てますよ」
ん? マジか? あ、ホントだ。地壁を再設置する間隔が最初の方より短くなってきている。
地壁に群がるミネラルタートルの数が最初より増えているだけかと思ったが、戦闘マップで確認すると、確かに赤アイコンの数は増えているが、地壁に群がれる数には限界があり、地壁に攻撃しているミネラルタートルの数自体は増えていない。
「もしかしてぇ、地壁の魔力を食べて強化してる~?」
「そう言う事ってあるのか?」
ゲームじゃそんなこと起こらないから想像もしなかったが、地壁は魔力で生み出したものだ。その魔力を喰らうとステータスが強化されるのだろうか?
「う~ん、クラッド先生が前にそういう魔物も居るって授業で言ってたような?」
「言ってたよ、それもつい最近だからね……」
そう呆れたようにマインを見るソウマは段々と早くなる地壁の設置間隔に疲れを見せて来ている。うん、しばらくソウマに任せていたが俺も手伝おう。
「でもこのまま続けたら最終的に突破されるんじゃないか?」
ミネラルタートルのレベル自体は上がってないが、この強化がどんどん重ね掛けされて行くなら遠からず地壁では間に合わなくなる。
地壁が簡単に喰い破られるって事がもう想定外なのに、更に強化するとかどんな冗談だ。いや、冗談じゃなく現実なんだが……。
「採掘の方、突破される前に間に合いますかね?」
チッ、フラッシュタスクを使用してから他の手を考える。
地壁は魔法で壁を生成する。地面が無い海上なんかでは何故か使えないが、地面を隆起させている様に見えるだけで、実際は込めた魔力で相応の強度の壁を生み出している、この壁は魔力の塊だから魔力を食って強化するような魔物が利用すれば今のような状況になってしまうって事だ。
魔法はイメージで調整が利く。普段は地質に強度が左右されるからやらないが、実際の地面を隆起させる事もできない事は無い。これだと喰われても地面を隆起させただけで魔力で生成した壁じゃないからミネラルタートルは強化はされないんじゃないか?
既に結構強化されているみたいだから地面を隆起させただけの壁でどれだけもつかってのが問題な上に、地面を隆起させるから何度も使えない。地中がどうなってるかとか分からないが、足場が脆くなる可能性が有るから……。
今やっている地壁をちょっといじるだけだし、やるだけやってみるか。
とりあえず試す。
やっぱり強度は魔力で生成した壁よりは弱いようで、あっさりと喰い破られる。強化はされていない様にも見えるが壁の強度が下がっているので結果は変わっていないように見える。
無理か……これが続けられるならこれ以上の強化は無いと思うんだが、地面が心配だ。
てか、喰い破られた地壁の破片や中途半端に残っている残骸で前が酷い事になって来てるな。残骸や散らばった破片は地壁を解除すれば消えるんだろうが、地面を隆起させた方は残るんだよな……帰れるのかこれ?
帰りの事は帰りに考えるか……とりあえず壁以外での足止めが要るな。
「ソウマ、何とか地壁を維持して採掘員たちの護衛を頼む。俺とマインはミネラルタートル共をひっくり返してみる」
地壁の維持をソウマに任せて、マインを近くに呼び地壁を使った発射でソウマの維持している地壁を跳び越えてミネラルタートル共の中に降り立つ。
「マイン分かってるな! 殺すなよ! ひっくり返すだけだからな!」
「それは殺れって振りだよね~?」
なんでそんな様式知ってんだよ! ネタじゃないからな! お前のこれまでの行動を考えて本気で言ってるんだからな!
「分かってるよ~、殺さない程度に殺っちゃえばいいんだよね~」
「なんか矛盾している気がするが、殺さないのが前提だからな」
サクッと殺していいなら楽なんだがな……。
敵対状態のミネラルタートルだが、採掘の妨害が目的のようで、こっち側に来た俺たちを無視してソウマの維持する地壁に向かっている。
不意打ちで先手を取れて好都合なんだが……。まぁ、遠慮なくやらせてもらおう。
「行くぞ」
「は~い!」
俺とマインは同時に別々のミネラルタートルに向かって駆け出す。
アイテムボックス内にしょぼい武器しかないのは殺しちゃいけない状態では好都合だが、それなら武器は元から出さずに素手で行けば良いだろう。
近いミネラルタートルの懐に潜り込んで搗ち上げる。
威力はミネラルタートルの防御力を貫くには至らないが、余裕でひっくり返すぐらいの事は出来るようだ。
マインの方も大剣槍の刀身の背の部分でバッティングするように吹っ飛ばしている。ひっくり返せるかどうかは半々ぐらいみたいだが……。
とりあえずどんどんひっくり返して行こう。
地壁に張り付いている奴等は置いておいてそれ以外をひっくり返して、赤アイコンになっているミネラルタートルの七割がたを行動不能にした。残り三割は地壁に張り付いている奴等だ。
「これじゃ物足りないけど~やっちゃお~」
ソウマの魔力もそろそろ限界だろうからな。
後は、地壁に張り付いている奴等を順番にひっくり返して終了……ってなればよかったんだけどな。
「こいつで~最後~!」
マインのかっ飛ばした最後のミネラルタートルをキャッチして背中から地面に降ろす。
ようやく終わったと一息つき、もう寄って来る奴は居ないかと戦闘マップを確認しようとしたら、地壁から離れた位置に居るミネラルタートル数匹の足元、今はひっくり返っているから背中の下か、とにかく地面に黄色い魔方陣が出現した。
「マイン!?」
「ええ!? アタシじゃないよ~!!」
ソウマか? でもソウマは地壁の向こう側だし、数個とは言え並列処理出来るほどの魔力は残っていない筈……。他の馬鹿共でも入って来たか?
「GAIAAAAA!!」
黄色い魔法陣の下がじめんのかたさをかんじさせない質感を見せ大きく撓みひっくり返っていたミネラルタートルを跳ね上げて元の状態に戻してしまった。
これ、魔法を使ってる奴が居るよな?
その魔法を使っている個体を探そうと周囲に目を向ける。てか、今叫び声が聞こえた方だろう。
そっちには周囲のミネラルタートルとは違う色合いの甲羅を背負い、一回り程でかいミネラルタートルが残りのひっくり返ったミネラルタートルも元に戻そうと魔法を使っていた。
「ミスリルタートル?」
周囲のアイアンタートルとは明らかに違う個体と言うのが分かる。だから戦闘マップで確認したんだが真銀亀、ミスリルタートルと表示された。普通に考えて周りの奴らよりも上位の個体だよな。
「これも倒しちゃ駄目なのか?」
どうするよ? まだ採掘の方は終わらないのか?




