082 Return to
朝市で買い物、屋台で朝食を済ませてから馬車を引き取りに行き、午後は宝石店へ。
夫人「こちらは、とても順調に進んでおります」
「それは良かったです。それで、今日は新作のネックレスを見せに来ました」
オーナー「えっ!!!!?」
オーナーが大きな声でビックリして、私もビックリした。
目の下に濃い隈があるからヒールをかけておこう。
オーナー「し、失礼しました。もう新作を、と驚きまして。あれ?頭痛がなくなってる⋯⋯」
「これはタグネックレス。プレートに名前、ギルドID、誕生日や記念日、メッセージ、好きな事を刻印します」
夫人「すごくシンプルですね」
「そうですね、若いカップルにも良いですけれど、これは特に冒険者を意識したアクセサリーです。冒険者カードは落とさないように皆インベントリへ入れておくから、1人の時やパーティー全員で何かあった時に身元の判明が遅かったり、誰なのか見つからない事もあるかもしれないですよね。そういう時にこれがあればギルドIDですぐ判明します。でも個人の判別を早くできるようにするのだけが目的ではなく、大切な人の名前も刻印しておいて大事な判断を迫られた時、無理な行動はしないで引き際を間違えないように、その人の事を心臓の近くにあるプレートで思い出してほしいのです」
夫人「プレシャスリングと似てますわね。世界で1つのアクセサリーになる。ちなみに裏の刻印の事を聞いても?」
「日付は私達が出会った日です。運命の日であり、一番大切になった日」
夫人「カップルや夫婦の多くが思いつく記念日といえば、婚約記念日、結婚記念日や付き合った記念日だと思うのですが、出会った日なのですね。忘れてしまう人達もいそうな日付ですわね。ねぇ、あなた?覚えていらっしゃる?」
オーナー「えっ!?えっと、えっと⋯⋯!アカデミーのクラス代表の集まりだったよな?」
夫人「覚えやすい日で良かったわね、あなた。平凡な何気ない日だと忘れてしまう人もいそうですね」
「祝える日や大切な記念日は、そもそも出会わなければ記念日が作られること自体が発生しなかったわけですから。同じ時、同じ場所、少しでもタイミングが合わなければ出会うことがなかったかもしれない、そんな中で出会えたのは奇跡であり、幸運な事だと思うのです」
夫人「素敵ですわね。確かに出会わなければ、その後の幸せであろう記念日は作られないですものね。あとはギルドIDとReturn to?」
「Return toは必ずどこかに彫ってほしいのです。プレゼントなら相手には無事に帰還してほしい、貰った側からは大事な人の元へ必ず戻る、帰るべき場所がある、という沢山の願いを込めています。拾ったらお店に届けて、という意味もあります。個人的な刻印をしているので、持ち主に戻せる確率が高いと思うのです」
夫人「なるほど!持ち主も店に確認に来れば届いているのか確認ができますわね。あら、このチェーンは初めて見ましたわ」
「ロープチェーンです。複数の細いワイヤーを緻密により合わせて作られていて強度と耐久性が高く、単一の鎖よりも絡まりにくく切れにくいのに中は空洞だから見た目より軽く、滑らかな肌触りで快適な装着感です」
夫人「確かに、ねじり上げていることで強度は高いのに、軽いですね。他のチェーンと比べて光を反射する表面積が多いですし、肌触りも心地よいですわ」
「私の故郷では、太い綱をロープ状にした【しめ縄】というのがありまして、神を祀る教会のような場所の入り口の門に張るのです。神が住む神聖な場所と現世を隔てる結界としての役割を持ち、厄除けの象徴ともされているので、身を守るお守りとしての意味合いも兼ね、この形状のチェーンにしました」
夫人「こんなに沢山の素晴らしい意味が込められているのですね⋯⋯あなた!!これも王家に献上いたしませんと!!」
オーナー「そうだね、もちろん」
アイク「その献上分の素材は俺たちが提供する。魔法銀だ」
ゴトン、と魔法銀のインゴットをテーブルに置く。
オーナー「ふぁぁ!?魔法銀!?こんな量を!!?」
アイク「リングとネックレスに使っても余るだろうが、余った分は自分達で使ってもいいし、売り物に使ってもいい」
夫人「最高級のプラチナで献上する予定でしたが、貴重な魔法銀をよろしいのですか?余った分はお返ししたほうが⋯⋯」
アビー「それは持っているものの一部だからかまわない」
オーナー「い、一部なのですね、こんな大きな物が」
アビー「こっちはプラチナだ。これは買い取ってもらうが。おそらく素材が足りなくなるくらい注文が来るはずだからな」
ゴトン、ゴトン、ゴトン、とプラチナのインゴットを置いていく。
アビー「銀もあるが?」
オーナー「ぎ、銀は既に沢山発注をかけているので、大丈夫です」
宿に帰って夕飯まで時間があったので、ディスプレイスタンドを作って貰う為にイラストに描いて説明する。
ビュッフェによくある料理を乗せている皿を2段や3段にディスプレイできるスタンド。
「このお皿がハマる枠の大きさにしてほしいの」
アイク「なるほど。魔法鉄なら身体強化で曲げられるからすぐ出来るぞ」
インベントリから取り出した魔法鉄をグニグニしながらデザイン通りの形にしていく。
針金ならわかるけれど、太さがある鉄を粘土のようにするので少し触らせてもらうと、私ではグニグニ出来ない硬い鉄だった。
魔法鉄は普通の鉄より柔らかいというか、加工しやすく錆びない優れものらしい。
アビー「テーブルが広くなくてもたくさん料理を乗せられて、便利そうだな」
夕飯はこれを使ってみよう。




