002 裏切り
同じ家に住んでいるはずなのに会える日が減っていって、仕事が忙しくなったと夫は言うけれど違和感があり、もしかして夫は結婚した事を後悔しているのかな?と不安になっていった時、単身赴任の話が出た。
仕事場が移転して通勤時間が2時間になるから単身赴任して週末は帰ってくる、と。
実際離れて暮らすと毎週末に帰ってくるわけではなかった。仕事が急に入ったとか、体調を崩した、とか。
そんな中、お花見弁当をテーマにした仕事が入った。初めての仕事がお花見弁当特集だったな、と思いながら今年もお花見弁当は美味しそうに出来上がった。
花見に誘ったら一緒に行ってくれるかな?と少しの不安と期待を込めて夫へ連絡すると、開花したら行こう、と返事があり、夫の住むところの近くに有名な桜並木があるとわかり、開花宣言が予定されている週末に待ち合わせの約束をした。
仕事で作ったのは洋風弁当だけれど、夫はお米が好きなので和風のお弁当を当日の朝早くから作り、電車で向かうと、満開の桜並木はとても綺麗で、楽しそうなカップルや家族連れがお花見をしている。
桜を見ながら待っても夫が来ない。1時間過ぎても連絡が取れなくて家に行ってみようとしていた時、夫が事件に巻き込まれた、と警察から連絡があったので駆けつけると、夫は既に息をしていなくて、同じ場所にいたという女性も亡くなっていた。
警察の人が言うには夫とその女性が不倫関係になっていて、女性の旦那さんが2人を刃物で襲った、と。
夫はその女性とは昔付き合っていた事があって、最近偶然再会し何度か会っていた事、女性が頻繁に夫宅へ行っていた事を知った女性の旦那さんが事件を起こした、と説明されても頭の中が真っ白で話は聞こえるけれど理解が出来なくて、どうやって家に帰ったのか記憶がない。
犯人の供述で夫は死ぬ間際、「美月⋯⋯」と言っていたと聞いた。
それは懺悔の気持ちなのか、最後に会いたいと思ったのかは分からないけれど私の苦しい気持ちが増しただけだった。
他に好きな人が出来たなら離婚を切り出してほしかった。すれ違いだけなら改善してまた一緒に生きていく事は出来るけれど、裏切られたら一緒には生きていけない。
私は幸せになろうとすると必ず不幸な事がすぐに追いかけてくる運命なのかな。
食事もあまり摂れなくなって倒れて数日入院する事になり、夫の葬儀は義両親が執り行った。
一緒に亡くなった女性の母親と夫の母は友人同士で仲が良く、結婚を望んでいたらしい。
更に私が病弱だった事を快く思っていなかったようで、孫は望めるのかで夫と言い合いになっていたようだ。
不倫した事も事件も元凶は美月さんだと思っている、顔も見たくないと拒絶され、マンションは夫の親名義だったので義両親から1ヶ月後には出ていってくれ。と言われ、私は急いで引っ越し先を見つける為、悲しむ時間も無く動き出した。
事故ではなく殺人事件、夫は被害者ではあるけれど、不倫していた側なので、妻であった私は表に出る仕事を辞めるべきだと思い、静かな環境に身を置きたくて、祖母と暮らしていた町で引っ越し先を見つけようと決めた。
電車から見える懐かしい景色に癒され、自然豊かで日本一星がキレイに見えると言われている町にたどり着いて、祖母の家までは駅から1時間以上歩くけれど、空気が澄んでいて心地良い。
「懐かしい、この辺は何も変わっていないのね⋯⋯」
ふと、小さな祠を思い出し記憶を頼りに探してみると狐の石像が昔の記憶のまま佇んでいた。
道から少し奥まっていて草に埋もれるようにあり、手入れは全くされていないようだったのでウェットティッシュで汚れをとりカラカラに乾いていたお椀にミネラルウォーターを入れ、持っていた飴を水の隣へ置き手を合わせる。
昔もよくお菓子をお供えしたけれど、次に来ると必ずお菓子は無くなっていた。
小さな頃は狐さんが食べたのだと喜んだが、誰かが食べたのか傷む前に処分してくれたのだろう。
ここに住んでいた頃は両親がいて、祖母がいて、本の世界で旅をして幸せな日々だった。
今は心も体も辛く孤独だけれど。
目を開け狐を見ると、狐が笑ったように見えた。
ぼんやりしながら道を進んでいると川辺で遊んでいる子供達が見え、私は病弱だったから元気な子供たちの姿は眩しく見える。
「あっ!たくやくん!」
「大人を呼んできて!」
子供達の叫び声が聞こえ川へ急ぐと、男の子が上流から流されてきていたので助けを呼ぼうと携帯を手に取ったけれど、頭が沈んでしまったのが見え、体が無意識に動いてしまい川へ入った。
中央付近に行くといきなり深くなり腰くらいの深さになったけれど、後ろから抱えこみ向かい側の岸の方が近かったので男の子を岸へ押し上げた。
「お姉ちゃん!!!」
泣きながら手を伸ばす少年の涙を止めてあげたくて笑いかけたけれど、もっと悲しそうな顔になってしまった。
手に力が無くなり、岩から手を離した私はどんどんと流されていく。
元々体も弱かったし、対策なしに助けに飛び込むなんて無謀な事だったかもしれないけれど、助けられてよかった。
流れが少し緩くなったかと思えば深くもなったようで全身が水の中に沈んでいったが不思議と苦しさや怖さはなく、目を開けると太陽の光で水面がキラキラと光っていて、祖母の家の近くでよく見た太陽の光でキラキラ光る棚田を思い出した。
昼間だけでなく満天の星空を映し出す夜の棚田も綺麗で大好きで、もう一度、あの景色を見たかったな、と思いながら目を閉じた。




