018 アビゲイス side
アビゲイス side
日が昇り始めた頃に起き鍛錬をするのが日課だが、まだ日が昇る前にふと目覚め、庭に出るとアイクも出てきた。
空にはまだストロベリームーンがあり、いつもより赤みが強い色だったのと、森中央付近へ月から一筋の光が降り注いでいた。
角度的に見えにくかった為、少しコテージから離れて池のある方へ行ってみると、やはり一筋の光が森中央へ伸びている。
池のオオオニバスに花が咲いていて、月の光を浴びていて光って見え、この花の開花は限定的で滅多に見る事はないのに、今夜は沢山咲いていた。
5分もないくらいだったと思うが、月光が収まるのと同時に朝日が出てきて月も消えた。
その後の日中はなぜかソワソワして、魔導具作りに集中できなかった。
その日の夜に見た月は2つ並んで浮かんでいる、いつもの月。
数ヶ月おきに月が1つに重なり、ストロベリームーンになる。
その翌日からは月が2つに戻る。
見慣れたストロベリームーンとは違う強い光、特に森の中心地へ降りていた、あの一筋の光が気になった。
俺達の拠点の家から森中央へはAエリアといわれる、Aランクでもソロでの侵入は推奨されていないくらい危険な地域だから、通常、2週に1度入るくらいのエリアだが、気になった俺達は3日おきくらいの間隔でエリア奥へ調査を兼ねて入っていた。
特にいつもと変わらない獣達や森の雰囲気だったが、どうにも気になり4回目くらいの調査では魔素が強いポイントが多くあり、水辺も多く足場が良くないから1度も踏み込んだことのないエリアへ行ってみた。
獣の種類は多少変わるが魔獣はおらず問題なく時間は過ぎ、夕刻近くなったから拠点に戻ろうかとしていた時、獣らしき鳴き声が聞こえた。
距離もあって姿も見えないのと時間的に考えたら帰るしか選択肢は無いが、どうにも気になると2人ともに思い、慎重に声の発生地近くへ進むと水辺に大きなアナコンブラがいて、奥に女らしき姿が見えた。
通常、後々揉める事があるから助けを求める声を掛けられない限りは手出しはしないが、俺もアイクも瞬間的に馬から降り駆け寄り始めた。
アナコンブラの攻撃が始まる寸前にアイクが首を切断したと思ったら、女が倒れ始めたので慌てて駆け寄り女を支えたが、華奢で軽く重さを感じない。
冒険者には見えないが、ここは普通の女がいるような森ではない。
黒く艶やかな髪に白く光っているかのような真珠のような肌は、昔見た絵本の妖精を思い出し、このまま消えてしまうような気がして、支える手に力が入ってしまった。
アイクと2人、女を見つめていたが気がつけば日が落ちていた。
目を開け見えた綺麗な黒い瞳はずっと見ていたくなる。
星空が映った瞳は美しく煌めいていて、思わず見上げ本物の星空を見たけれど、いつもの、なんてことのない星空だった。
こんなに艷やかで深い黒の瞳の人間は見たことがないから目が離せないのか何なのか、自分でもよく分からなかった。
愛馬のウインドやアイスは俺たち以外には基本的に触らせない気性なのに、ミツキには自分から顔を寄せているのには驚いたし、見たことの無い甘えた表情をしている様に見えた。
アイクと交代で馬に乗せたが吸い付くような肌の感触にずっと触れていたくなり、ゆっくりとした歩きの馬のスピードを更に緩めてしまった。
派手さはないが美人で笑うと幼く見え可愛さが増し、目を離した隙に消えてしまいそうな儚さも感じる。
食べたことのない美味しい料理を食べ、いろいろな会話ができたが、元の世界の話をする時、亡くなった夫の話は悲しそうな苦しそうな表情をする。
こんなに魅力的な上に、美味い飯を作ってくれる女に愛されていただろうその男が羨ましく思ったのと同時に、そんな幸せの中、愛する妻を残して死んでいく時の気持ちを想像しただけで、その夫だった男に同情してしまった。
見た目やインベントリを使う様子から魔力量が多く、ルーツはエルフかと思っていたが、自ら懐くとは思えないオパールバタフライやフライングブルーダイヤから積極的に懐かれているミツキの姿は絵本で見た、森で妖精が動物達に囲まれている場面そのもので、今はいないと言われているルーツが妖精の稀人なのではと思えた。
エルフと妖精は似ているようで全然違う。
魔力量が多いエルフだが妖精は更に魔力が多い上に属性の縛りも無いと言われている。
ルーツとはいえ、妖精は女神の愛し子で幸福を運んでくる存在として物語に登場したり伝承されているのと、稀人である渡り人としても多くの人に惹かれるだろう。
頭のおかしい女冒険者達の言葉のせいで本人は明日街へ移動するというが、異世界人だからなのか妖精特有の無邪気さなのかわからないが、野営を娯楽と言うし危機感が薄く、ほうっておけない気持ちが湧き上がる。
頼ってほしいのに遠慮しがちなミツキ。
俺の知っている女達はとことん甘えてこようとするし、自分の考えや要求を強制してきて、それらを受け入れられるのが当たり前のような態度で、俺達双子を見分けられないくせに俺だけを愛してると簡単に言うから笑える。
ミツキは出会ってすぐに俺達の事を間違えないで見分けてくれたのが嬉しかった。
アイクに街へ行くミツキが心配だと話すと、ここに残るように説得するという。
俺以上に女を寄せ付けなかったアイクだったから少し驚いたが、すぐに納得できた。
俺と同じでミツキに好意を抱いているからだろう。
見た目以外は全く似ていない俺たちだと思っていたが、やっぱり双子なんだな、と初めて実感して笑ってしまった。
慣れるまでしばらく、なんて言ったらすんなり受け入れ、何か役に立つことがしたい、と純粋すぎて街なんかで暮らすなんて危ない。
いや、危ない、心配だなんて言い訳だな。
傍にいてほしいし、守りたいと思っているんだ。




