017 アイザック side
アイザック side
いつも日が昇りだす頃に目が覚めるが、その日はいつもより早く目が覚めた。
カーテンから透けて見える月光がやけに強く感じ、庭へ出ると弟のアビゲイスがいた。
よく見える池の方へ移動してみると、見慣れたストロベリームーンとは違い、赤味が濃く、一筋の光の柱が森中央の部分を照らしていて、初めて見る現象に目が離せず、光が消えるまで見続けた。
気になった俺とアビーは数日おきに森中央付近の調査に出かけ、何度目かのある日、馬に乗りながら移動していると小動物の鳴き声が聞こえたのと胸騒ぎがしたので、声のする方へ向かった。
川辺の近くにつくと後ろ姿のアナコンブラが見え、その向こうに女らしき姿が見えた。
通常は揉め事を避けるため、助けを求められない限り手出しはしないが、女は俺達に気づいていないようだ。
アナコンブラの首が立ち上がってきたのを見て、気がつけば馬から飛び降り身体強化をかけ走り寄り、アナコンブラの頭を首から切り落としていた。
ドサリと頭が落ち、それを見たらしき女がフラッと倒れていくと、追いかけてきていたアビーが駆け寄り頭を打たないように支えた。
アビゲイス「こんな所に女一人?」
アイザック「女が一人でここまで来られると思うか?」
アビゲイス「無理だよな、強そうには見えないし。それにしても、この黒髪⋯⋯」
アイザック「ああ、見たことのない黒髪だ」
こんな森の奥地に1人でいる謎の女だから警戒をしないといけないが、寝顔は無垢な幼子のようだし、サラサラと風に揺れる美しい黒髪と、透き通るような白い綺麗な肌に触れたくなった。
日が沈みかけているのに時間を忘れ見ていると、日が落ちてしまったから思わず頬に触れて声をかけると、気を失っていた女が目を開けて俺を見た時、呼吸するのを一瞬忘れてしまった。
綺麗な黒い瞳を見ていると吸い込まれそうな感覚になり、ブラックダイヤモンドより綺麗だと思った。
ダイヤモンドは綺麗というより高く売れる石、という認識だったが。
その瞳に星空が映ると、本当の星空より輝いて見えるのも不思議だ。
「あ、あの⋯⋯ありがとうございました」
女が礼を言うが、なぜこんな森の奥に女だけでいたのか聞くと、従魔のウルフがいて、そのウルフは魔獣の方へ行ったと。
周りを警戒していると、魔獣の一角鹿を背中に乗せたシルバーウルフが近寄ってきた。
そしてドサリと一角鹿を落とし、こちらをじっと見てくる。
シルバーウルフを従えるなんて聞いたことがないし、そもそも戦闘力の強いものや、知能が高い個体は相手が高ランクのテイマーでもテイムされるのを拒否するので従属の契約は難しいと言われている。
シルバーウルフはめったにいないのと警戒心も強いから実際に見たことは2度だけ、俺の見たことのあるウルフよりだいぶデカく、ぱっと見た感じ、魔獣の一角鹿の喉元に噛み付いただけで絶命させているようなSランクだろう強い個体のウルフ。
こちらが警戒を解くとシルバーウルフも警戒を解いたのと、魔素が強いポイントだから移動しようと提案するが、クリーンを知らないので不思議に思うと異なる世界から来たと言う。
確か隣国で異世界からきた渡り人の話を聞いた事がある。
もうそれなりの年齢だと思うが。
相棒であり気高い性格の愛馬が妙に緩んだ表情で甘えている姿を初めてみて驚きつつ、馬に乗せ後ろから支え移動している時に、ほのかにする良い香りに癒された。
ハウスにしては小さめとはいえ、あれをインベントリに躊躇なく保管しているのは魔力量が相当多いと思った。
物理的戦闘力は皆無に見えるが、防御や回復系の魔法職なのかもしれない。
弁当を貰って食べたが初めて味わう味で美味かったし、ハウスの設備を見ると高度な技術がある世界から渡ってきたのがわかった。
最初は遠慮しがちで口数が少なかったが、時間が経つといろいろな話が聞けた。
異国風な美人だが、笑顔は少女のようにかわいく、街で寄ってくる香水臭く化粧の濃い、自分勝手な女達とは違い何に対しても遠慮して、夫が亡くなった話をしたときのミツキは苦しそうで抱きしめそうになり、あんな表情をさせ未だに愛されているだろう見たことのない、その亡き夫に嫉妬した。
同じ顔、同じ声だから黙っていれば俺たちを区別できるやつはいないのに、ミツキはすぐに一瞬見ただけで見分けられ、見た目は似ていても違いが分かるという。
森の中でフライングブルーダイヤを探している時、ヤシの実を採ってふとミツキを見ると、ミツキの周りに青く光るチョウが数匹飛んでいた。
オパールバタフライは滅多に見る事はないから俺も遠くから数回しか見たことがない希少な蝶で、コレクターがいるから死んでも高額で取引されていて、ミツキの頭に止まった姿は本物のオパールの髪飾りに見えた。
チョウ自ら人間に近寄るのにも驚いたのに、気がつけば探していた鳥も傍に来ていて、子供だろう鳥がミツキの手や肩に乗り、親も近くにいて懐かれているミツキの姿は森で遊ぶ妖精のようで、去り際、ミツキをフェアッリと呼んでいたから、あのチョウや鳥達もミツキが妖精だと思ったのかもしれない。
ミツキをゲストルームに送り、リビングのソファーでアビーと酒を飲む。
アビー「明日、街に行くって言ってたけど心配だ。あの見た目だし、こっちの世界の事は何も知らないだろう?」
アイク「あの女達が余計な事を言うから迷惑なんじゃないかと気にしたんだろ。ミツキが見ていなかったら殺してやりたいくらい醜い密猟女達だった。⋯⋯そうだな、しばらくはここにいるように明日言うか」
アビー「惹かれた?ふふ、アイクが珍しいな、他人を寄せ付けないのに留まらせようと言うなんて。でもわかるよ、惹かれるの。俺たちは趣味が違うと思っていたけど、やっぱり双子って事かな」
次の日、街へ行くのを辞めさせた。
慣れるまでしばらく、なんて言ってアビーが丸め込んでいたが、すぐ素直に受け入れるミツキの危うさに、やっぱり街なんかには永遠に住まわせられない。
いや、街とか場所とかが問題ではなく、手放すことはもう考えられなくなっていた。
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『モルフォチョウ』
中南米、特にブラジルに最も多くの種類が生息している。
鱗粉の構造で光を反射する「構造色」により、角度によってメタリックな輝き、変化する金属光沢は、宝石のラピスラズリやオパールのような神秘的な輝きから「生きた宝石」「空飛ぶ宝石」「森の宝石」などとよばれている。




