第29話 どうか伯爵さんはいい人でありますように……。
「こういう感じで、たまに錆びた武器がドロップしますね」
「……錆びていても、武器は武器だな。使えなくはないし、ゴブリン相手ならこれでも十分だと言える」
伯爵家の騎士のひとりがボクの手にある錆びた武器を確認しながらそう言った。
あの後、執事さんから伯爵家の客間に泊るように言われて……ミカゲによると監視が目的だけど……。
そのお陰で声を我慢する可愛いミカゲをたっぷりと愛してから、翌朝はすぐダンジョンへと向かった。
ボクはある程度探索済みだからということで、ダンジョン内調査団の先頭を進んでる。
今はまだ1層で洞窟型、ゴブリン地帯だ。
グリーンウルフだけで十分なんだけど、騎士さんたちへの警戒も含めてキンタをたまに暴れさせてる。
「武器を1層目でドロップさせるとは……」
「ああ。奥へと誘いこもうという意図を感じる。本当に若いダンジョンなのか?」
「エニシ殿の話では、2層のスケルトンも武器をドロップするということらしいが?」
「3層へ誘い込もうとしているのか……?」
……ボクが考えていた以上に、こっちの意図が読まれててちょっと怖い。
でも、同じ考え方をするってことは……3層で稼がせる形も理解できるのかもしれない。
「……しかし、本当に奇跡のような魔物使いなのだな、エニシ殿は」
「まさに。このような魔物使いなど見たこともない」
「そもそもブラッドベアーが強すぎる……」
ゴブリンだとキンタならマジで瞬殺だもんな。
ゴブリンが振り回すショートソードなんて刺さらないし、毛も落ちないくらいだ。
これで……ボクには手を出すべきじゃないと認識してもらえたらいいけど。
「……まだ奥へと進みますか?」
「エニシ殿が確認済みのところまではできれば頼みたい」
「分かりました」
ボクは1層の奥、2層へのスロープを目指す。
2層は長いからちょっとだけ面倒だけど……。
「……槍も用意しておくべきだったか」
「すみません、報告が中途半端でしたね。2層は道幅がかなりせまいので」
「いや、問題ない。そもそも発見したばかりで完璧な報告など無理というもの。発見の報告だけでも十分にありがたいことだ」
せまい通路でのスケルトンとのタイマン戦闘で、騎士さんたちは剣だけしか用意していなかったことについて反省していた。
騎士さんたちは剣の訓練はもちろん、馬上槍の訓練もよくやるらしい。
馬上で扱うためには地上でも扱えないと話にならないので、槍も訓練はしてるそうだ。
弓矢については衛兵の中の一部にそういう部隊があるらしくて、そこからは今回の調査メンバーが選ばれていなかった。
弓兵は都市防衛の方がいいらしい。外壁の上から狙うためだろう。
万が一、このダンジョンからの暴発が起きた場合に備えて、ということらしい。
今のところ、伯爵家の騎士さんはボクに対してとても好意的に接してくれてる。
これは執事さんから言い含められてるんだろうと思う。
ボクと冒険者ギルドのガルーダとのモメごとは説明したからな。
……丁寧な対処をすれば、それに応じるつもりだから、こうしてくれたのはありがたいとも思う。
「武器がドロップ品だと言うのは……伯爵様もお喜びになるだろう」
「そうだな。今後の騎士団や衛兵隊に必要な予算がずいぶんと浮くはずだ」
「訓練として1層や2層に定期的に挑ませるのがいいかもしれない」
「その手は……使えるな……錆びた武器も錆びさえ落としてしまえば衛兵用にはちょうどいいくらいだ」
それに……今のボクは伯爵家に大きな利益を提供してるところだ。
伯爵家に仕えてる騎士さんなら悪い気はしないだろう。
……まあ、キンタを怖れてるって部分もあるとは思うけど。
そのくらい……色々な魔物を倒して強くなったキンタは、脅威なんだろうと思う。
もう、普通のブラッドベアーじゃないよな、キンタって。
それは他の魔物も同じだけど……。
「……なるほど、3層は草原型か?」
「いや、向こうには森も見えるぞ?」
「どれだけの広さがあるんだ……? これが若いダンジョンだというのか?」
「……今まで見つけられなかっただけで、ずっとここにあった可能性はある。よく暴発しなかったものだ……」
「確かに……」
渦巻き型の2層をひたすら歩いて、ようやく到達した3層はフィールド型ダンジョンにしてある。
もちろん、ドリカに可能な最大サイズの広さになってるので、とんでもなく広い階層だ。
見ただけでその広さには戸惑うのだろう。
「……エニシ殿。4層まで確認したというのは、本当なのだろうか? いや、疑っている訳ではないのだが」
「ええ、そうですね。ボクには……この子たちがいるので」
そう言って、上空のジャイアントビーを指し示す。
「ああ、なるほど……従魔たち、それもジャイアントビーか……」
「空を飛ぶ魔物ならこの広さでも……確かに……」
「ここまで色々な魔物を従魔にしていると、ダンジョンの攻略速度も違うだろうな。驚異的な速さで進められるのだろう」
騎士さんたちが納得してくれてよかった。
4層まで確認したっていう報告をしてしまったけど、この様子なら3層まで確認したって報告の方が自然だったのか。
……確かにこの広さだと、お試しで入った人は3層を調べようとは思わないのかもしれない。
ドリカと一緒に作ったから、ボクは見慣れてるんだよな。どんな階層なのかは全部分かってるし。
そのへんの感覚が甘かったか。
……疑われるのは避けたい。
でも疑われる可能性は低いはず。
ダンジョンを操れるなんて……普通なら想像もできないだろうから。
「……では4層へ進みますか?」
「いや……この広さだ。さすがに4層まで進むと報告が遅くなりすぎるだろう。一度、戻って、まずは伯爵様にダンジョンについて報告したい」
「ああ、そうだな。魔物との接敵数から考えても、暴発の危険はないだろうから……奥地の探索は後回しでも問題ないだろう」
「……騎士団と衛兵で森へ向かったという話は隠しようがない。冒険者ギルドにも漏れているはずだ。冒険者ギルドが動き出す前に伯爵様は行動したいだろう」
伯爵からしてみても、冒険者ギルドは敵なのか?
いや、敵とまでは言わなくても……ダンジョンからの利益をできるだけ独占したいと思うのは普通のことなのかもしれない。
「……もし、ボクだけ、ここに残りたいと思っても……ダメでしょうか?」
「エニシ殿にも報告してもらいたいところではあるが……」
「エニシ殿とその従魔たちならばこのダンジョンでも心配はないのも理解はしている。だが、今回は共に戻ってもらいたい」
あー、やっぱりそうなったか。
イチャイチャできてないミカゲがちょっとすねてるんだよな。もう3日目だし。
まあ、伯爵家の客間だったら……声を我慢する可愛いミカゲと愛し合えるから、それでもいいか。
帰りも含めると……だいたい5日間はミカゲに我慢させることになりそうだ。
……正直なところ、ボクもそろそろ我慢の限界だけど。
これが、若さか!?
はち切れそうだ!?
「……そなたがエニシと申す者か?」
「はい。エニシです。一応、冒険者ではありますが、今は少しそちらでの活動を控えているところです」
「ふむ。その話も聞いている。ダンジョンの発見、大儀であった」
「ありがとうございます」
正面に伯爵、その脇に執事さん、両サイドにずらっと騎士団の人たち。
……ダンジョンから町に戻ったらいきなり伯爵とのご対面だった件。
割とプレッシャーをかけられてる気はする。
でもまあ、オーガの軍団とかより全然迫力はないけど。
意外とこういう威圧には慣れてきたらしい。
どっちかというと……この前、ここの町をキンタに乗って歩いた時の方が緊張した気がする。
どうかこの伯爵は……前のところの子爵みたいな人じゃありませんように。
「褒美は望むままに、とまではいかんが……できるだけそなたの希望を叶えたい。エニシよ、そなたは何を求むか?」
「……希望を叶えて頂けるのなら、あのダンジョンに自由に出入りできるようにして頂ければありがたいと思っています」
「ほう……」
意外だ、という気持ちを伯爵が顔に出した。
「……それは欲のないことだ。その望みは叶えるようにしよう。そなたが冒険者ギルドではなく我が伯爵家に報告したことで、その願いは簡単に叶えられる」
あ、そうなんだ。
冒険者ギルドに報告しなくてよかったな。
「だが、簡単に叶えられる願いを褒美とするのは我が伯爵家が功に報いぬ家だと笑われるやもしれん。そなたへの褒美は別にまた用意するとしようか」
「……ありがとうございます」
たぶん、これを断ったら……伯爵家の面子を潰す的な感じになるんだろうな?
そうだとすると、これはもらうしかないだろう。
でも、偶然だけど……謙虚な冒険者エニシって感じで、騎士さんたちからは温かい視線を向けられてる。
伯爵の方も……ボクの希望が功績にふさわしくなかったら、すぐに追加で報酬を出そうって感じだったし……これなら、この前の毒で死んだ子爵とは全然違うタイプなんじゃないかな。
「今宵は夕食に招待しよう。何、マナーなどは気にせずともよい。我が伯爵家に大きく貢献した冒険者の旅の話を色々と聞かせてもらおう」
また泊めてくれるだろうとは思ってたけど、夕食も招待されちゃったよ!?
マナーは別にいいって話だけど……できるだけ頑張ろう。
よく知らないから無理なものは無理として、最低限、伯爵を不快にはさせないように気をつけたい。
……でも、たぶんこの夕食は情報収集が目的なんだろうと思う。あとでこっそりミカゲに確認しよう。
もしそうだったら……ボクの方から先に爆弾を落とすチャンスだ……。




